五輪トライアスロンは既にスプリント勝負 〜リオ男子バイク勝負の「140秒」を徹底分析
前2回からの続き。五輪トライアスロン距離半減化案は、やはり既にIOCの根回しも済み、あとはミックスリレーをどうすれば正式導入できるか? くらいの進捗感 (英文記事より)のようだ。ITU総会での決定待ちではあるが。
ただ、リオ男子を映像と記録からみてゆくと、既に「スプリント種目」になっている、と思った。この作業は単なるエクセルいじりではなくて、レースのスリリングさが伝わってきて、興奮した。
映像はこちらダイジェストのYoutubeが見やすい。「NHK見逃し」でフル中継 も見れる。
<記録の見方>
記録を順を追ってみていこう。順とは、ゴールから逆算するということだ。
まず注目するのは右端のゴール地点。メダル、入賞、と分類して色分け。
バイク終了時点での第一集団10名に残ることがメダルの絶対条件。Joao Pereira/POR, Richard Murray/RSAが第二から猛追したが、それぞれ7〜9秒だけ届かなかった。
そこでバイク終了時点で並べ替える。(画像は入賞圏内のモーラまで切り取ってみた〜バイク第二集団は19名、ここまでで29位)
バイク開始(=Swim+T1)15位=18:18の銅スクーマンまでが、バイク終了時の第一に残れた最終ライン、同タイムのDodds/NZL以下は、まるごと第二に落ちている。この数字の雄弁さ&冷徹さ、ヤヴァすぎ。
<五輪バイクはスプリント勝負>
動画で見ていこう。まず、バイクスタートは18:07ヴァルガから18:23まで16秒間の26名がひとかたまり。金さん銀さんご兄弟が仲良く18:14(6-7位)、銅スクーマン18:18(15-16位)、田山選手は23位に入っていてさすがだ。なおスイム第一集団は27名といえるが、その27位はバイクスタートで5秒という致命的な差を付けられ脱落している。
1分後(右下のタイム参照)のコーナーでは、第一集団は縦一列20名。この最後尾から3秒遅れでスタートしたモーラは後ろの集団にいると推測される。
つまり、バイク最初の60秒間で6名がトーナメント敗退したということだ。
そして20秒の直線の後のコーナーを、20人目が1秒ほど遅れ始めており、彼はこの直線での1秒差によりトーナメント敗退したと思われる。スクーマンは16位通過。順位的には、彼がいわゆる「最終列車」ラインとなる。
ヤヴァいのはここから。急坂に入り、待ってましたとブラウンリー兄弟が猛ダッシュ。50秒後の20:33-37にかけて15位までの集団が通過。金銀ご兄弟のバイクスタートから140秒ほど、ここまでに勝負のかなりな部分が決している。
スクーマンはこの8〜12位集団の後ろに付けている。坂で順位を上げたわけだ。さらに2秒差で13-15位の3人集団が追うが、彼らはこの2秒差により、既に敗退している。(少なくともウェアからわかる二人、カナダとオーストラリア2人目は第二に落ちている)
以上はYoutubeダイジェストでも確認できる。フル動画みると、22分時点=スタートから3分半=では既に10名に絞られ、そのまま最後まで後続に差を広げていった。
バイクは40km、55分(平均時速44kmくらい?)だが、現実に勝負を決めたのは、スタートからの3分ほどだ。メダル争いの大きな部分もね。
(じゃバイク残りの50分以上は意味ないじゃん、半分に削ってOK、と思う一般TV視聴者がたくさんいても不思議ではない…)
<スクーマン危機一髪!>
スクーマンはスイムアップは17:25、金銀兄弟に次いで7位。ただトランジションに53秒=最速より8秒も余分にかけてしまったため、バイクスタートが15-16位に落ちてしまった。おそらくバイクスタート順を概ね崩さずに最初の急坂に入っていると思われる。
差がつきやすい急坂だが、前を塞がれることもありえるし、入った時の位置取りは無関係ではない。やはり前にいたほうが残りやすい。
16位から10位までジャンプアップできたのはかなりなグレートジョブで、これによりトランジットの失敗を取り戻すことができた。
この程度の「敗者復活」ならありえる。
逆にいえば、敗者復活は、この程度以上には、起こらない。
同様に、モーラは46秒の超速トランジションで猛追を狙うも、バイクスタートでの3秒差を追いつくことができなかった。ここに成功していたら、金銀兄弟は「銀胴兄弟」に降格した可能性もあるだろう。
<スイムの要件>
ふたたびタイムに戻ると、結局、スイムアップで先頭11秒差の15位(Kanute/USA)までしか、バイク第一に残ることはできなかった。
上のタイムで、1つの注目はバイク20位スタートのRyan Bailie/AUS。急坂前の第一にはいたと思われるが、第二に落ち、バイク終了前に小アタックして9秒リードした3名の一人。つまりバイク力は本来は高いはず。それでも落ちてしまうのが、集団最後尾のデメリットなのかもしれない。
つまり、スイムは先頭集団ならOKなのでもなくて、その中での位置取りも大事になる。こちら5分30秒頃、第一ブイ手前の先頭集団。
仮にこのままゴールしたと仮定してだが(実際、そんなに大きな変動は無いような気がする)
- 上位3名のスイム・スペシャリストは、このまま最後まで固定して引き続け
- その後ろにメダル組=バイク第一に残れた10名ほどのグループ
- 直後に、あと一歩で逃したグループ(ほぼ全滅かと思われる)
- ついてるけど、まったくかからなかったグループ(左上)
と分かれるわけだ。
<まとめ>
五輪トライアスロン、特に男子は、既に「スプリント動作」の勝負。急坂というリオ特有要因もあるけど、この戦法の有効性が明らかになった以上、この展開は何度と見ることになるだろう。
もはや、「耐久スポーツ」として見ると、間違うことが多いのではないだろうか?
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