要旨 〜 夏のスポーツの3ヵ条:
- まず水を身体にかけろ
- 水分を飲むのは、喉が渇いた後でいい
- 塩のバランスを保て
- 〜塩バランスの3ヵ条:
- 真夏の長時間なら、スポーツドリンクに塩を足せ
- 塩分比率の低い水を飲み過ぎるな、「低ナトリウム血症」になるぞ?
- 低ナトリウムになったら、水を断ち安静にして、水と塩のバランスを戻せ
<僕は暑さに強い>
今年の6月は湿気も低めで過ごしやすかったけど、月末の館山トライアスロン2015は最高30℃に近づき、総合上位レベルにも熱中症らしきトラブルなどあったようだ。急に気温の上がるタイミングでは、暑さ耐性ができていないためのトラブルが多い。30℃を超える高温でなくてもだ。
一般人には運動自体が危険な暑さの中、僕らは半日がかりでレースまでする。それは脱水や熱中症、そして「低ナトリウム血症」を予防するマネジメントでもある。その最新の対応法は、少し前に「常識」とされたものとは逆なものすら含んでいる。今回はこの問題を取り上げよう。
僕は暑さに強い。館山も僕にとっては涼しいレースだった。それは、即効性の高い対策を徹底しているから。即効性とは、暑さを我慢して耐性を高めることではなく、暑さによる悪影響を最小化するものだ。それは練習も同様。
(撮影:Shimonoさんご夫妻@愛南2015)
<新常識>
「この低ナトリウム症は、水やスポーツドリンクの飲み過ぎによって引きおこされているようだという。この低ナトリウム症を予防するために、新しいガイドラインによれば、のどが渇くまで水分補給を控えるべきである」 (上記より引用)
ここから、暑さ対策の2つの結論が導かれる:
ルール1.喉が渇いた時にだけ飲め
ルール2.塩のバランスを保て
その根拠:
- まず「脱水」については、健康状態の良いアスリートであれば、体重の約3%までであれば、水分量を失ってもパーフォーマンス低下なく、安全に競技可能
- よって、喉が渇いた時にだけ飲むようにすれば、「脱水」を起こすことはない
- 水は飲み過ぎると、EAH=「運動関連性低ナトリウム症」になってしまう
あまり知られていないのは、塩分比率の低い水分を飲み過ぎると「低ナトリウム血症」になるということ。そこまで行かなくとも、飲み過ぎは胃腸に負担をかけ、ブレーキかかったり、吐いたり、下ったり、、と問題が起きやすい。
そして、自動販売機で買えるような「スポーツドリンク」は、塩分比率の低い水分、に含まれる、少なくとも夏の耐久スポーツという環境下では。
これが最新の研究成果。ただし、より原始的な方法がその前にあり:
ルール0.水を身体にかけろ
- 「熱中症」の原因は、まずもって「熱の過剰」であり、水分摂取量ではない
- 汗による気化熱の冷却効果は有限かつ微力だが、外からの掛け水による気化熱の効果はほぼ無限
- 水を最大限にかけて体温を下げれば、発汗量が減って脱水予防になり、水分摂取量も減って胃腸に優しい
これが大前提だ。特に、蒸し暑い日本の真夏では。
つまり「水かけ」によって汗を減らし、飲むべき水分量も減らす。その上で、合理的な水分補給法が登場する。
<常識が覆される理由>
これは従来、喉が乾いていなくても早めに水を飲め、と言われていた常識の逆だ。
なぜこうなるのか? には、3つの理由をあげておく。
1.「運動習慣のない一般人」と「鍛えている耐久アスリート」とでは、症状も対応も大きく違う。しかし医学研究の主対象は圧倒的多数派である前者であり、またマスメディアにも前者向けの情報しか載らないのだ。そして僕らは後者であるのに、どうしても情報量の多い前者の影響を受ける。
2.そして、後者のスポーツに特化した研究であっても、研究体制の薄さ(市場規模は圧倒的に小さいから研究資金も同様に少ない)、研究サンプル数の少なさ、特殊過ぎる条件設定(=学者さんは尖った結論を出して認められないと仕事にもありつけない)、などなどの問題がある。
だから僕はスポーツ科学の知見は、「知っておくが、信じるのは自分の感覚」という態度を取る。知っておくことは大事だけど、その先は自分の感覚を信じるしかない。過去何度も書いている通りだ。
3.業者さんの立場はまた別。「スポーツドリンクと称する商品」 をいっぱい買ってほしい。以下省略。
<低ナトリウム症について>
ここで大事なのは水と塩の比率だ。体内のNa濃度は0.9%で一定に保たれている。汗のNa濃度は0.3%。(より正確には、0.05-0.5%の範囲で発汗と共に上昇し、大塚製薬「OS-1」の0.3%は、脱水手前レベルの汗濃度に合わせていると思われる。ただしこの文脈において重要なのは数字ではなく、体液より低いという比較だ)よって、
- 発汗が続くと、1.血液中の水が先に抜けて、2.Na濃度が高まり、3.発汗が減り、4.熱中症へと近づいてゆく
- だからといって水や塩分の薄いものばかり飲んでいると、1.こんどは逆に血中Na濃度が低くなって、2.痙攣や眠気などの神経系トラブルを招く。それが低ナトリウム血症。 3.さらにNa濃度を一定に保つために、過剰な水を汗として排出してしまい、脱水にも向かう
そこで、低ナトリウム血症が起きた場合には、基本の回復方法は水を断ち安静にして、水と塩のバランスを戻すことだ。塩が吸収されれば良いのだが、摂ってもすぐには、水と塩の体内バランスが回復しない。水を断てば排出は続くので、確実にバランス回復できる。(※脱水がない場合に限る=あれば、OS1のような適切な浸透圧での水分補給が必要)
2リットル分の汗が出た時、Na不足量は112mEq=食塩6.6g相当。酷暑では1時間に最高1リットルを失う場合があり、だとすれば8時間で26gの食塩が必要だ。実際の発汗量は何割が抑えられるとしても、レース時間が12hや15hなら、結局同じ。
そして、ナトリウムは体内の貯蔵量が少ないので、レース(or練習)中の補給が必要だ。ある医師アスリートさんは、その8割=20gの塩をレース中に補給しているそうだ。当然、スポーツドリンクだけでは無理。
一方で、トレーニングを積んだアスリートは、発汗に強くなる。おそらく、汗から排出されるミネラル分が減る、少ない発汗量でも体温調節できる(脂肪の薄さもあるかも)、といった変化が起きるのだろう。さらに、水を掛ければ発汗量自体も抑えることができる。
だから、自分のセンサーを一番に信じることが大事。ただ、科学を知っていれば、身体で何が起きているかを理解し、この先どうなるのかを予測することができる。
<塩&マグネシウムと、痙攣について>
市販のスポーツドリンクは、「真夏の耐久レース」という用途を想定していない。しているはずがない、1億人に向けて広告宣伝費だけでたぶん1ブランド年間数十億円規模(たぶん)を費やすような国民的商品が、我々のような奇行種に目を向けるなどということが。だから、その商品の効能をそのまんま信じるわけにはいかない。
かといって、耐久レース専門のものくらいなら、自分でカスタマイズできると思っている。売上規模から商品開発費を推測すればそんな気がする。まあここは各自のお好みでどうぞ。笑
足などの攣りは、過度な負荷、過剰な熱産生、そして低ナトリウムが大きな原因だろう。脚筋に無駄なパルスを送るような使い方を避けること(=これがグルコーゲン節約にもつながる)、過熱したら水をかけて冷やすこと、そして、塩。
最近流行っているマグネシウムについては、基本としての塩が十分に足りていることが大前提。その上で摂れば、さらに痙攣防止効果などを上乗せできるだろうが、万能視するのは、違う。
その役割を理解した上でなら、天然の「にがり」(=つまりマグネシウム)でも、錠剤(=カルシウムと一緒に売られてる)でも、また専門サプリで摂ってもいいだろう。まあトータルで、美味しい天然塩でいいんじゃないのかな? 毎日使えるのが一番、クエン酸と同じく。
<僕の補給法>
僕は酷暑のレースが得意で、8月長良のように、裸足でコース上を歩けなくくらい暑い中でも、結構平気だ。
ショートレースでは、バイクにボトルは2〜3本積み、1時間で飲むのは最大1L、それ以上は吸収されないので無駄だ。残りは掛け水専門。最低一摘みの塩をポカリスエットに混ぜる。750mlボトルに1L分のポカリ粉末と塩、もう1本のボトルに水だけ、交互に飲んだりする。
上記の「体重3%」ルールによれば、1.8kgちょっとまでは水分を失ってもパフォーマンスは落ちないと計算できる。
実際、レース後に2L 近く飲んで、ようやく水分回復した感じになることは、夏には結構ある。たぶんこの時体重を測ると、スタート時より2kg落ちていると思う。つまり上限ギリギリまで「貯金の取り崩し」をしている(てゆうか貯水)。どこまで取り崩していいか、そのギリギリ感を見極めるのが、「体感」だ。
これだけ減るのには、ランの最後30分間は基本水を飲まないのも作用していいる。飲んでから吸収されるのに最低20分かかり(微量の吸収は除き=それでは効果ないので)、糖分などの濃度次第でさらに時間がかかる。だから飲んでも無駄。その分、ゴール後には、少し脱水方向に振れるので、しっかり補給する。
ここでの判断基準は、「胃に残ってる水分が30分もつか」、だ。バイクパートで飲んだものがランパート途中で枯渇しそうだと感じたら、ランのはじめのうちに飲んでおく。
また同様に、「1時間1Lルール」を拡大して、ラン中に吸収させる目的で、バイクの最後に数百ml分を余計に胃に入れておくこともある。この場合にはラン中にほぼ水は飲まない。
このように吸収時間を考慮した補給は、基本常識だけど、けっこう無視している方を見かける気がする。さらに、熱中症や低血糖への不安から飲み過ぎ食べ過ぎで失敗する例は結構おおい気もする。
むしろ大事なのは、水を身体に最大限かけ続けて気化熱を最大利用すること。発汗量が減れば、飲むべき量も減る。アタリマエの理屈だ。
さらに、腕や脚を覆うことで、保水できるので、さらに効果が上がる。僕がふくらはぎをCEPで覆い、アームカバーもすることが多いのも、その目的が大きい。
もちろんこれらは、練習でも同様。いつでも水を確保できる場所を選ぶ。僕はランでは日陰の多い公園の周回路が基本で、暑い日は頭に水を流しながら。アスファルトは基本走らない。
これらの話は、Facebookでは先週あげて、複数のアスリート医師の皆様からの知見も頂いた上で書いている。後日、 実際、トラブルの原因がわかった! という声も頂いた。同年代の2名での暑中長距離ランで、一方だけが熱中症でやられたのは、途中で自販機でジュース飲み過ぎたから、、という身を削った比較実験によって検証いただいたのであった。。
最近のコメント