カテゴリー「◆* クロール/OWSの技術」の52件の記事

2018年7月 7日 (土)

「クロールのバタ足、速くなる効果なし」との虚構タイトル記事を解説しよう

事実が「抵抗となる可能性がある」であるものを、「速くなる効果なし」と表現したのなら、虚構と呼んでも虚構ではないだろう。7/4朝日新聞デジタル掲載 「クロールのバタ足、速くなる効果なし むしろ水の抵抗増」 との記事がこの数日、スイマーに限らず、ネット内で話題になった。ただし多くはタイトルに反応しただけ、中身を読んでいない(or 読めていない)。へんな誤解が広まらないよう、解説しておこう。
 
<ネットあるある>
その前に、社会的背景に触れさせていただこう。昨今のネットニュースでは、おおげさなタイトルで注目を集めるために、事実をねじ曲げたタイトルで「釣る」のが多い。僕はこれを「フェイクタイトル」or「虚構タイトル」と呼んでいる。
 
それを読む方はというと、タイトルだけ見て動物的な反応をして、中身はマトモに読んでないことがまた多い。投稿やコメント内容から明らかにそうとわかる。僕はこれを「一行さん」と呼んでいる。ドラゴンアッシュのボーカルのお父さんの名前ではなくて、いちぎょうさん。一行しか日本語を読めないから。わりと有名な学校とか卒業してても見受けられる現象だ。小学1年生の国語の教科書でも何行か書いてあるんだけどなあ。
 
つまりはみんな、「わかった気分」を消費したいんだろう。スマホ画面にあらわれる刺激的なフレーズみて、一瞬、「世の中を理解する賢い自分」を感じ、気分をちょっとだけ上げて、次の瞬間には忘れ、何も残らない。笑
 
この記事も、そこへの反応も、その好例。
 
<クロールの常識>
「下手なキックは抵抗になる」のはクロールの常識の1つ。だから抵抗の少ないキックを練習する。
ということは、
「抵抗になるような下手なキック」で実験すれば、「キックは抵抗になる」という結論が得られるのも当然。
 
実験画像をみると、腰位置よりもかなり深くキックを打ち下ろし、ふくらはぎのアップキックも水を受けて、「抵抗になるキック動作」に見える。
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トップスイマーはというと、たとえばレデッキーはキックが浅い(画像は2016Rio800m)。これには、「腰を高く浮かさない」という技術が効いている。(4月にブログに書いた話→ 「リオ五輪からのクロール姿勢の変化」
R
 
※ついでに解説しとくと、両者の差となりうるのは、「腰を浮かすフラットな姿勢」だ。腰は浮かさない、沈めにいく、のが最新泳法。この研究が説明しているのは、「腰を浮かせてもキックが抵抗になるよ」ということだ。アップキックも1つのカギになる。(もっとしっかり説明したいけどいろいろ忙しいので、知りたい方は、せめて三浦広司コーチのFacebook フォローしておきましょう)
 
これら前提知識がないと、タイトルで盲信してしまいかねない。
そんなとき=メディアが信用できないときには、原典にあたるべきだ。
 
<実際の研究>
このプレスリリースのPDFによると、ポイントは
  1. これまで困難とされてきた自己推進しているスイマーの抵抗測定に関して、独自に開発した測定法
  2. クロール泳におけるキック動作の役割は泳速度に伴って変化し、速い泳速ではかえって抵抗になる可能性
  3. 速く泳ぐためには、いかに抵抗要素にならないキック動作ができるかが鍵
と、朝日のタイトルとは全然違う。
 
筑波&東工大のチームにとって、最大の成果は、1つめのポイントにあるだろう。流体力学という科学は、船、飛行機など、動かないものが対象。せいぜいプロペラやスクリューのようにシンプルな回転運動をするくらい。泳ぐという動作はそれらよりもはるかに複雑だから、これまで全体の抵抗を計測できなかったわけだ。それが「自己推進しているスイマーの抵抗測定」というキーワードの意味。
 
そんな知見をゲットできた学者さんとしては、世界に発表したい。それで海外の権威ある学会誌に英語で論文を出したわけだ。採用されるのはごく一部で、載るのは学者としての大きな成功になる。とくに共同研究で名の上がる筑波の院生さんにとっては、これで将来が大きく変わったりする。(おめでとうございます)
なお当の論文 "Effect of leg kick on active drag in front-crawl swimming: Comparison of whole stroke and arms-only stroke during front-crawl and the streamlined position" 読むには単独$40, 年間登録$584かかる。海外の学会ビジネスなかなかにえげつない。
 
その技術を使ってみたらわかったのが、「速いほどキックが抵抗になる可能性」であり「キック動作の抵抗をいかに低減できるかが大事」ということ。けっして、「速くなる効果なし」ではないのだ。
 
学者さんは、こうした表現を間違えることはまずない。(実験そのものを捏造しない限り)
 
大手メディアさんにはその信用にかけて、日本語の正確な運用をお願いしたいものだ。とはいえ、この虚構タイトルを駆使することで注目を集めたのだから、目的は達せられたともいえるか。
 
そしてスイマーのみなさん、キックは抵抗少なく打ちましょう。(てことも、この虚構タイトルの強烈さによって強く意識付けられるから、やはり目的は達せられているのか、笑笑)

←アウトプット術を今読んでるけど著者の成毛眞さんもよく大手メディア記事にツッコミいれておいでで、結局大事なことほど自分で調べないといけませんな

2018年4月 3日 (火)

リオ五輪からのクロール姿勢の変化 & 三浦広司講座 4-5月の日程

名古屋ミニ講演は19−21時の設定。なお22時頃まで残ってた方々へほんの数分間ほど三浦クロールの要点を説明してみた。使ったのは会議室のイスだけ。「おーーーーっ!!」と超納得いただけた。

2015−16年頃に好評の講座、でも僕は執筆が2016年初夏から始まったのもあり、手を着けられず。

この2年間には、リオ五輪で世界最速の泳ぎが判明するというビッグイベントがあり、その分析も進んでいる。

特徴的な変化を見せるのが、リオ五輪のレデッキー。

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800mの最初50mターン直後にこれだけの差を付ける。単に持久力だけでなく、泳ぎ自体が完成されているから。しかもこの間レデッキーはキックをたいして打っていない。 (たとえばイアン・ソープのかっこいいクロールは、40cm近い足ヒレによる板キックだけで50m20秒台という超絶能力によるもの、一般人には参考にならない)

注目は、頭を上げ、胸を反らせ、腰を沈めた姿勢だ。

ロンドン五輪2012の「最先端」は逆で、腰を浮かせ、頭を沈める「フラット姿勢」が最速とされていた。僕が「伏し浮き」について説明してたのもそれら影響による。

たとえば実験室で人形を使って計測するのなら、「伏し浮きによるフラット姿勢」の方が抵抗最小になるのかもしれない。しかし水泳とは

  1. 人間が (身体構造)
  2. 動き続ける (流体力学)

もの。人間だから、水に浮いたままで、筋力を自然に出せることがまず必要。これは難しい。さらに、複雑な形の人体が常に動き続けることで、水の抵抗状態も複雑に変わり続ける。実際「伏し浮き」のような単純な姿勢は、どの泳法でも、一瞬でも取ることはない。

このように、自然な泳パワーの最大化 × 実戦環境における泳抵抗の最小化 とのバランスが必要。でもこの分析は複雑過ぎて、現在のスポーツ科学では無理だ。

そこで、一番速いスイマーの泳ぎが最も合理的である、という仮定が必要だろう。つまり「レデッキーが最も合理的であるとするならば、その理由は何か?」と帰納的に考えるわけだ。 

 

<4−5月の公開プール講習>

そんな考察結果を、三浦スイム講座では、複数の外部専門家の情報も踏まえてお伝えしている。僕からみて最も自然法則に沿って論理的に考えられている方法で、トップスイマー特有の技術を前提にしておらず(たとえば男子長距離パルトリニエリのキックほとんど打たないクロールは上半身のパワー強烈に必要だと思われる)、100m2分の大人デビュー組スイマーにも適応可能な、汎用的な技術だと思う。

とにかくライブの実技で教わるのがベストです。ここまで書いといてなんですが笑

4−5月の公開講習では、貸切プールで、泳ぎながら、理解できます。

  • 日時: 4月4日(水)、18日(水)、5月2日(水)、5月23日(水)、全て20:00~22:00
  • 場所: 東京代々木青少年スポーツセンター、 プール、1レーン貸切
  • 料金: 各回¥2,500

お問い合わせ&お申込は、三浦コーチへメールください→ hiros.since2001@gmail.com

・・・

僕はそーゆーのをロジックで説明するの大好きなので、そろそろこっちも進めていきたい。

まず第一歩で明日プールに入る予定だけど、いつ以来だろ? もしかして2016年9月の伊良湖トライアスロン以来??

2016年11月23日 (水)

水の「重さ」を制御する 〜三浦クロール講座あと2プール+1ゼミ

昨日の東北余震で、改めて津波の威力が話題になっている。津波とは、「波」と違って海面全体のせり上がりなので、地球に押されているようなもの、しかも凶器の混ざった乱流であるわけだ。
 
僕も実感したのが、以前に水流プールで撮影した時。100m1:20設定、時速数kmでも、水はとても重かった。これが時速30km以上になればどうしようもない。
 
スイマー目線でいえば、引きずる水はそれだけ重たい、ということ。
巨大タイヤを引いて走るトレーニングがあるけど、ほぼそんなようなものだ。
 
上の動画では、たぶんヘッドアップした瞬間が切り取られている。
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アタマの重みが下半身にかかり、腰が沈み、後方に巨大な泡が発生している。足も深く沈んでいる。横のメモリでみると、モモが30cm、足先では40cmくらいの水深だろうか? これだけの水を押すのはすごいエネルギーが必要。全部ブレーキだ。(今はもっと上手くヘッドアップできている)
 
ストローク面での最大の問題は、脇を早く締めすぎていること。手を「掻く」意識の空回り、もしくは、水の重さに負けて、水を逃がす形をつくることで腕を回している。
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ストロークの水はより重く、ひきずる水はより軽く。
単純な基本原理ほど難しい。
 
・・・
 
大人になって水泳を始めたトライアスリートのクロールでは、
  1. 正しい姿勢が取れない
  2. 呼吸が正しくできていない
  3. 肩が致命的に硬い
といったストローク以前の姿勢レベルの課題が多い。これら技術は相互に関連するもの。
 
このままでは、レースでも、抵抗が増えてタイムを膨らます上に、体力的・精神的な負担も増えて過度なダメージをバイク以降に残してしまう。
 
 
<プール講習会>
以上の考えから、三浦クロール講座では従来、どちらかといえば「ストローク」について説明してきたのですが、年内の最後2回、より基本に立ち返って説明することにしました。
  1. 基本姿勢の徹底
  2. 参加者それぞれが考える自己課題
  3. 強いストロークの作り方
という優先順です。
 
【プール練習会】 年内残り2回
詳細はFacebookイベントページからご確認ください。
11/27(日)プール20-22→ www.facebook.com/events/285161848547833
12/4(日)プール18-20→ www.facebook.com/events/594540980754901
(見れない方は、メールアドレス記載でメッセージください)
次回は年明けです。
 
 
<会議室の動画分析ゼミ>
12/11(日)18:15〜21:00→ www.facebook.com/events/160289534440174
 
クロールの基本は100mで、長距離は緩めていけば対応できます。レデッキーも孫楊も100mでも超速いのです。そこで、
  • 1980年代頃からの世界トップ100m選手の泳ぎを、時代を追って、解説('80-ゲインズ、ビオンディ、'90-ポポフ、等々)
  • 最新の100mの泳ぎ方の解説(マケボイ等)
  • 長距離への応用例(レデッキー、パルトニエリ等々)
  • トップトライアスリート(ジョディ・スワロー、ダニエラ・リフ等々)
と順に動画解説するセミナーを開催します。
時代の進化により、速いクロールとは何か、階段を登るように理解します。
次に階段を降りるように、長距離の競泳トップ→トライアスリート(=ツッコミどころ多)、と説明します。
 
ちなみにリフの泳ぎは「ひどい」(三浦コーチ談)が、現実にレースで戦えるレベルを確保しているわけです。その最低条件も理解していきましょう。  
 
第二部では、各自の泳ぎの動画について個別解説していきます。
 
 
<三浦コーチ個人指導ご希望の方へ>
最新情報は、こちら「三浦コーチの個人指導」専用のグループページにて更新していきます。非公開設定なので参加申請ください→ www.facebook.com/groups/1149370821818723
 

2016年11月 6日 (日)

速さを生む「渦」は丸い

昨日 NHK「超絶凄ワザ」最速自転車  はおもしろくて、卵が細長くなったようなカバーを被せるだけで、自転車で140kmh前後(200m区間平均)が出る。計測地点3kmくらい手前(1分30秒くらい前かな)の助走区間でも100kmh越えてた。人体という複雑な形が作る空気抵抗がなければ、同じパワーでも2倍くらい速くなるのが自転車。

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これ、空気のような存在である空気ですらこうなのだから、粘性が800倍ある水では2倍速どころではない。

自転車では空気抵抗のだいたい8割くらいが人体に由来し、残りが自転車など器材。その2割くらい分の中での、さらに何%分かを削減するために、200万円とかの器材が売れているのがトライアスロンという世界だ。それより遥かに影響の大きな水の抵抗を削減できるのなら2,000万円くらいかけてよさそうなものだ。まあレース時間は2割くらいなので400万円か。と冗談はさておき、それくらい水の抵抗力は大きいわけだ。

<渦を知る>

前回の冒頭に書いた通り、水泳とは「渦を操作するスキル」を競うスポーツであるわけだ。

その「渦感」を知るために、硬質パドルで泳ぐのは1つの手段。サイズを変えれたら理想的で、バイクの歯数を変えるような効果がある。これは2つ前に書いた話。

もう1つ、観察する、という手段もある。渦=水流自体は目に見えにくいもので、動画でわかることはないけど、目の前であれば別。特にパドルで泳ぐと、泡(空気)が混じることで見やすくなる。(動画では泡だけが見えて渦まで見えない) しかもパドルの抵抗によって渦は大きくゆっくり発生するので、ライブでスロー再生してる感じだ。

<渦を見る>

今日午前、横浜国際プールで三浦広司コーチのJr.チームがパドル錬をしてたので観察。あいまに自分もゼロディLパドルで技術錬しながら。インターハイ3位から小さな小学生までバリエーション豊かな泳ぎ。泳法技術は基本共通なのだが、身体の成長度(=年齢)、筋力、習熟度(=チーム移籍前のクセが残ってる場合もあり)、などにより大きな差がある。観察は楽しい。自分もやりながらだとさらに楽しい。

ここで気づいたこと。速い泳ぎでは、「丸い渦」が大きく無駄なくサッと発生する。ストローク動作の始め(入水)から終わり(フィニッシュ)まで、そうして推進力を発生させている。遅い泳ぎでは、ストローク中、推進力を生む渦が発生している時間が短い。無駄な渦も生む。

これを極端に表現すれば、「推進力につながるような渦しか発生させない」のが理想の泳ぎ、というイメージ。

丸い渦、とは、2つ理由が考えられる。

  1. 人体は原理的に円でしか動かせない
  2. 水の渦とは円運動である

1つめは生理学、関節は丸く動くから。複数の円運動の組み合わせにより、直線に近い動きを作ることは可能だが、それは楕円軌道であって、直線にはなりえない(そうある必要もない)

2つめは物理学。水がまっすぐ後ろに動くことはない。

<円が円を作る>

つまり、人体の円運動によって、水の円運動を作る。それがストローク腕やキック脚の働きだ。

この情報、というか今日の僕の観察からの仮説、てゆうか渦が丸いのはアタリマエなんで仮説もなにもなくて!、まあ1つのイメージなんだけど、これだけならどうなるものでもない。この理解に立って、具体的な技術を積み重ねてゆく土台として。

そこから先、具体的にどう速くしてゆくか、というと・・・ ↓

 

<三浦コーチ練習会のお知らせ>

一部の自転車のように200万円かける必要はありませんが、幾らかのお金をかけることで目標達成に近づくことはできるでしょう。

11/13(日)夜 プール練習会

11/20(日)夜 動画分析ゼミ

お申込は、上記Facebookページより「参加」ボタンかメッセージ、もしくは、当ブログにメールアドレス記載の上でコメントください。

※ :ゼロディ水着4割引は本日終了します。販売サイトはこちら→ https://spike.cc/shop/user_3351773961

2016年11月 5日 (土)

「抵抗減」の重要性と「ウェットスーツ泳」への応用 (+三浦広司講座の新展開11/13, 20〜)

泳速=推進力ー抵抗。水泳がヤヤコシイのは、両者とも「水の渦」という全く同じ作用により発生すること。ストローク腕やキック脚が作る渦は身体を前に押し出す。それ以外の部位が作る渦なら身体を留めようとする。
 
先日開催した秘密(?)セミナーで、萩野公介選手の最大の強みは、抵抗の少ない姿勢だと示された。177cm71kgの身体で世界トップのエンジンパワーは出せていないはずで、それをブレーキの少なさで逆転しているわけだ。下の画像から見て取れるように、
  1. 入水した手が水を掻き分け
  2. そのスキマに身体が滑り込んでゆく
  3. その胴体は 「エッジを効かせたスノボ」  の原理で、抵抗を減らす
  4. 頭部は、腕に近く肩に乗った位置で、やはり掻き分けた水に挟まる
  5. 泳速の速さにキックの強さも加わり、身体がよく浮く
  6. (水面近くの手から微妙に沈んだ腰までが、大きな翼のような揚力を得ているようにも見える)
という仕組みで、低抵抗姿勢が実現されているのだろう。1〜4までは、TTバイクのエアロポジションとも共通する原理だ。
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彼は、加えてこの4年間で、キャッチ局面での推進力(= 以前のNHKで言われていた「下向き」  ではなく、「前方向」へのもの)を高めたそう。ただしヒジ骨折によりその真価をリオでは見せることができなかったと。それでも金メダル!

あるいは、ツイッターでたまたま見かけたこの画像

この1年近く、三浦広司コーチのスイム講座では、推進力を最大化するための「ストロークする腕以外」の活用法を中心にお伝えしてきた。改めて、抵抗の少ない姿勢も重視していこうと今回確認。本質的に両立すべきものだし。

僕も、改めて意識してみると、たしかに楽に泳ぐことができる。全身活用のストロークにも慣れてきて、横ブレなどを抑えながら出来るようにもなってきたかな。
 
 
<低抵抗姿勢のコツ>
基本は、(上記のと被るけど)
  1. 入水の腕はまっすぐ
  2. 頭と腕肩は近く(のっける感じ)
  3. 萩野レベルのキックがないなら、頭は沈め気味の姿勢が基本
  4. 呼吸は、アゴは上げるが、頭頂部を維持したい
  5. キックをまっすぐ打つ
さらに、リカバリー腕(フロント・クワドラント)、スノボエッジ切り替え、等々の応用テクニックがある。三浦コーチも新たな練習法を開発中だ。
 
なお1の入水腕は、グライド時間を取るか、そのまま沈めてキャッチに入るか、大きく分けて2つの技法があるけど、どちらの泳法の場合にも共通に必要。
 
 
<ウェットスーツ泳への応用>
ウェットスーツでは、浮力が高まり速くなる、と思われているけど、実はデメリットとなりうる要素がある。腕・胴・脚が直径1cm以上太くなることだ。
 
そこで、横ブレや腰落ちの大きなフォームだと、「浮きはするが、ブレーキも増える」わけで、ウェットの利点を活かせない。バタバタと泳いではいけないのだ。
 
同時に、ウェットの浮力と水面環境とにより、パワー要素も重要にはなる。
 
この両立のために、体軸を締めて抵抗を減らしてから、身体全体を活かしたパワーをゆっくり確実にかけてゆく順序がいいと思う。これ書くにあたり、ウェット着て、それぞれのイメージ重視で泳いでみて確認した。バタバタし始めると、がんばってもタイム伸びないし、落ち着いて抵抗減らすと、力のわりに進んでくれる。
前回に書いた「硬質パドル」は、こうした力の伝え方の練習にいい。
 
特にプールのような静水面ほど、 きれいな泳ぎが有効。ウェットの浮力を活かし、壁を蹴ってからのストリームライン姿勢で十分に伸びてみよう。そのまま、全長2m(=手を伸ばした長さ)のボートのつもりで、パドルとしての腕に力をかけてみる。これが基本。
波、集団、乱水では、そこから応用してゆく。
 
今、東京圏なら東京体育館や世田谷砧の総合プールで、プール専用のウェットスーツであれば使うことができる。古いものを徹底洗浄してプール専用化するといいかな。
 
ウェットの洗浄&メンテナンスはこちら過去記事ご参照→ 「【保存版】トライアスロン用ウェットスーツのメンテナンス法」
 
ウェットスーツでも、あくまでも重要なのは基本の泳ぎ。ウェットでは、身体を浮かす重要性は落ちるが、それ以外はむしろ徹底する必要がある。ポストシーズンの秋冬は、こうした基本を徹底習得するべき時だ。
 
 
<三浦広司コーチの集団練習会>
今秋の三浦スクールでは、プール内での説明は控えめに、従来より泳ぐ量を増やして、基本スキル習得から実戦スピード向上へと引き上げていきます。
  • 日時: 11/13(日)19:10〜21:50
  • 会場: 国立オリンピック記念青少年総合センター(代々木/参宮橋)スポーツ棟温水プール
  • 25m温水プール2レーン貸切(参加人数による調整あり)
  • 講師: 三浦広司 (八田益之サブ&水中講師)
  • 料金&定員: 4,000円(定員20) 
  • 構成)19:10-19:55 基本理論の説明(特に初回者むけ) 20:00-21:50 水泳練習
詳細&お申込)
facebookイベントページ→ https://www.facebook.com/events/196640034077155
もしくは、メールアドレス記載の上でコメントください。
 
 
<初開催:三浦広司コーチの動画分析ゼミ
  • 日時: 11/20(日)18:15〜22:00
  • 会場: 国立オリンピック記念青少年総合センター(代々木/参宮橋)センター棟 会議室
  • 講師: 三浦広司 (八田益之サブ講師)
  • 料金&定員: A)自分の動画分析ゼミ 4,500円(定員12) B)聴講 2,500円(定員20)
「自分の動画分析」は、どこで撮影したものでもOKです。
  1. 事前に1~3本程度の動画を送付
  2. 事前に「泳ぎのタイプ(課題)」ごとに動画を整理
  3. 当日の三浦コーチ解説は、一人10分前後、プロジェクターで写しながら、ご本人に前に出て頂きながら。
  4. タイプごとに順に解説することで、参加者の「共通の課題」として理解できる仕組みとします。
「聴講」は、三浦広司コーチの泳法理論の「事例解説セミナー」と位置づけています。大人スイマーが陥りがりな泳ぎと、その対応とを、タイプ別に理解できます。
 
facebookイベントページ→ https://www.facebook.com/events/877883828979787
 
 
<お知らせ:ゼロディ水着4割引〜11/6まで
日曜に終了します。販売サイトはこちら→ https://spike.cc/shop/user_3351773961
 
※ 地域誌「渥美半島の風」の販売サイトはこちら公式サイトに集約します

2016年11月 3日 (木)

「水を逃がした速過ぎるストローク」には「パドル」練習を

<速過ぎるストロークとは>
三浦広司コーチの水泳セミナーはもうすぐ1年、受講者実数200名を越え、動画分析も60名を越えている。トライアスリートたちの泳ぎ=体力レベルは世代最高レベル、ただし大人になって水泳始めたのでスイム技術低い泳ぎを観察してきて、多く見られるのが、ストロークする手の移動速度が速過ぎること。特にストローク初期のキャッチ時点でやりがち。
 
「正しく速い」のであれば、泳ぎ自体が速いはず。「速過ぎる」とは 「後半勝負」 ができていないわけで、典型的なステップはこう:
  1. 手が水を逃しているから、空回りして速く動いている
  2. 同時に、水を逃しているから、速く動かさないと沈んでしまう
  3. 速い動作ほど雑になるので、さらに水を逃がす
  4. これら推進力の不足は、呼吸への不安を生む or 実際に沈んで呼吸が苦しくなる
  5. 焦って、早過ぎるタイミングで呼吸する。これは呼吸のためだけの、推進力につながらない動作によってなされる
  6. これが、ストロークパワー低下と、姿勢ブレを生む
これは腕肩の筋力を使うので、「力感」は十分にあり、心拍も上がって、練習した感は高いはず。ガーミンとかでスイム計測してると、質の高い練習扱いされるだろう。こうゆうのは、バイク・ランの全身心拍系能力を高めるクロストレーニングと割り切れば、あるいは直前1ヵ月の追い込み練習としてなら、意味もある。ただ 「先発投手の課題」 (2016.03記事) は根本的には解決されない。
 
 
<対応>
対応には、丁寧なストロークが第一歩。
 
ただ、身についたクセというのは厄介なもんで、いくら脳内で「ゆっくり丁寧に」と念じてみても、どうゆっくりすればいいのか??? この動作方法を的確に表現した本は僕の調査範囲では存在せず、近いところでは、高橋雄介監督が方向性レベルで示されている。三浦スイムでは、独自の言語表現と幾つかのドリルで説明しているけど、結局のところ、身体でつかむほかない。
 
そこで、ゆったり大きく水をつかめる「硬質パドル」を、技術練習として活用できるとよい。欧米トップアスリート達の動画にもよくでてくる。
 
硬質素材が望ましい最大の理由は技術&感覚面で、 素手での場合同様な、自然なストローク感を得られるから。二番目の理由はパワートレーニングで、「技術と一致したパワー」を鍛えることができ、水泳用の筋トレとして最優先される。

ソフトパドル・アクアミット系(←980円で超オトク)について、2014春頃にブログ 「【水泳理論4】 体幹で泳ぐための「ソフトパドル」練習」  で推奨している。ソフト素材ならたいていのプールで使えるのだけど、注意すべきは、特にストローク前半の感覚がまったく別になってしまう。そこを割り切って、ストローク後半の感覚だけに集中する道具としては、使えると思う。偏ってはしまうのだが。

 

<パドルで「ケイデンス」を変化させる>
自転車であれば、ギアを変えることで、ピッチ=ケイデンスを変化させる練習をする。毎分40回転とかのビッグギア坂道上り(競輪とかスプリンターもポストシーズンに重視してるそうだ)、120回転以上の軽ギアくるくるを1時間連続、とか。その効果は、固定ペダル特有の動作感覚を磨き、そのために必要な筋力を作ることだ。
 
ならば、ストローク感をつかめないスイムこそ「ギア使い分け練習」が有効だと思う。
  • ビッグギア=硬質パドル。特に初心者ほど、ゆっくり確実に水を掴むドリル練習の効果
  • 高回転=ゲンコツ泳。今すぐ出来る。手首を無駄に曲げた、前腕を使えてない掌だよりのクロールは、スイム苦手なトライアスリートに多く見られるけど、その矯正にも効果
特に海でのウェットスーツ泳では、こうしたパワー系技術が活きる。
 
 
<おすすめ:ゼロディ/ZERODパドル>
「自然なストローク感」という点で、ゼロディのパドルはトップ競泳スイマーの評判がいい。
こちら動画の(削除により変更)、てまえ黄緑キャップは三浦広司チームで急成長したスプリンター。今年インターハイ50m3位。1-2位の選手は見るからに高い筋力による泳ぎだが、こちらは水に乗った感覚の良さがわかるだろう。体格差だけ見てもね。彼もゼロディのパドルMサイズを絶賛している。
特徴は、1左右非対称の形状、2細かく配置された穴、3掌の凹み、とのバランスが、自然なストローク感を実現していること。さらに耐久性も高く、パワースイマーのぶん回しにも壊れないそう。
 
またゼロディのラインアップでは、ギア比の選択のような使い分けが可能。
  • Lサイズ21cm×25cm 総面積386cm² 〜きわめて大きく、ゆっくり水をつかむことができ、水を確実に押すフォームを磨く効果が高い。バイクでいえばケイデンス30〜50rpmのSFR
  • Mサイズ17,5cm×21,5cm 総面積288cm² 〜万能型。L同様に、全身連動で水を押す、パワー系の技術を磨くことができる。バイクなら60rpmのヒルクライム練習が可能
  • フィンガー15cm×10,5 cm 119cm² 〜てのひら感覚磨き用。指先にひっかけるので、キャッチの繊細な感覚を磨くことができ、かつ、てのひらへの水流が強くなるので、微妙な水感の差がわかりやすい
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ただいま僕のショップ→ https://spike.cc/shop/user_3351773961 で販売中。
 
どれか1つ、ならMサイズが一押し。(なんだけど完売してしまった)
 
もしくは、フィンガーとLの組み合わせができるなら、ベストかと思う。(一緒に買いたいという方は、個別に連絡ください、少々いいことあるかも)
 
※硬質パドルの問題は、使えるプールが少ないこと。首都圏では、横浜国際、辰巳で使用可能レーンが公開される場合があり、東京体育館は貸切レーンのみ使用可能。
日本のスポーツ施設、特に運営委託してることろ(=最近多い)は、利用者からのクレームに弱い。少なくともレーン数の多く、競技志向が集まる東京や世田谷総合などでは、専用レーンを用意して欲しいのだけど。あとは、朝スイムなど全館貸切環境の場合に限られてくる。もしくは田舎とか運営の緩いところで、状況的に周りと相談して使える場合か。そして海練習。

※ご使用の際には、リカバリー腕を広げないように。ぶつけると流血させます。隣のコースが盲点になりがち。

 
 
<宣伝: ゼロディ水着4割引❗〜終了>
先日、Facebookで告知したビート板が完売し、感謝セールをZ3R0D Japanさんからご提供いただきました。男性用Vパン限定ですが水着40%オフ、さらに統一デザインのスイムキャップを13-20%オフにて、ネット販売します。しかも送料100円&5,000円以上で無料。重版&2,000部達成の 「渥美半島の風」 と一緒に買っても送料割引対象!
11/6(日)まで(延長しました)、在庫限りです。
 
<特徴>
ゼロディ製の水着は、柔らかな肌合いの白色生地を裏全面に貼り合わせた、丁寧なニ層構造。普通、練習用の水着では耐久性の高い硬めの1枚生地を使う場合が多いかと思いますが、こちらは柔らか、しかも2枚重ねなので丈夫、もちろん透けません。
ヒモがとても長いので「穴から入ったヒモでてこない問題」の不安もありません。こうゆう細かなコダワリもZERODらしい。
 
私は2015年7月からこの「ブラジル」2枚だけを交互に使ってます。週2-3で泳いで1年以上経っても、実用上問題になるような劣化を全く感じさせません。
 
今回対象はブリーフ型=Vパン。「丈が短い=Brief」わけで、水を感じる皮膚面積が増えるため、水感を高める効果を期待できます。特に、泳ぎの横ブレの感知、腰を入れたキックの感覚向上などに向きます。(あと長いのより少し安い)
 
<キャップ>
トライアスリートの多くは「2●●」とか「T●●」とか、一目でトライアスリートとわかる色鮮やかな大会支給品を使われてますが、それゆえ個性アピール可能な領域ともいえます。トータルコーディネートできるよう、ふだん値引き対象にならないキャップも対象となりました。
→ 終了!
(ガッキーのの原作なら0円→

2016年10月27日 (木)

Tri&OWSスイムの要素分解と、「エッジを立てるクロール」の実戦活用術について

あらゆるスポーツにおいて、練習の基本は「試合のシミュエーション」であるべきだ。幾らかの変化を付けた上でのね。トライアスロン(とOWS)のスイムにおいて、実戦シミュレーションには、3つの「要素」がある。
  1. スタート直後、密集の中で位置取りをする、スプリント&パワー
  2. 落ち着いた集団内でのリラックスした巡航
  3. 状況確認
だが、これらはアタリマエのようで、あまり実行されていない。多くの練習は、
  • レース距離を一定ペースで単独泳すること
に割かれているのではないかな? でもそれを必要とするのは、集団をぶっちぎって単独泳するトップスイマーにほぼ限られるといえる。(彼らも3状況確認は行う)
 
多くの場合、 1と2がどっちつかずな、「中途半端に速過ぎる」練習になっていないだろうか?
 
現実のレースの進行を考えてみよう。200名くらいのウェーブスタートならスタートから50〜100mくらいで、1000〜2000人規模の一斉スタートでも200〜400mくらいで、だいたいの位置が決まり、以降は概ねその中で進行してゆくのではないだろうか。
 
そこで、自分が今どこにいるかを「状況把握」し、留まるか脱出かを「判断」する。留まるなら「脱力して浮かぶ技術」で省エネ泳法。脱出するなら、何処へかを判断して、後は「短‐中距離」だ。
 
この状況で必要なのは、絶対スピードと集団内リラックスとの「振り幅」だ。プール1.5kmのタイムを上げに行く練習は、レース直前期の(たとえば1-2週前の)最終シミュレーションくらいでも構わないと思う。
 
 
<10/22練習会報告>
そこで、2,の集団泳をテーマにした練習会を10/22、29と開催してみた。(29は募集中)
 
最近Facebookで紹介している「上側の体重を推進力に活かす」というラン&スイムに共通する技法について陸上で説明した上で、プールでは前半はその実技を重点に、後半で集団泳、だんだんカオス状況を濃くしてゆく。
参加者さん感想も:
 
「50mプールで〜うまく集団に収まった時の水流に引っ張られる感覚は、まさに「これか!」と思いました。この集団に入るために必要なのがダッシュ力、集団に入ったら脱力して水に乗る、というのを身をもって学びました。」 
 
「以前三浦コーチの講習の時にはつかめなかったのですが、昨日はエッジを立てるイメージで泳げた感じがしました。集団泳で身体を傾けて追い越すのも何度か体験出来て今後使えると思いました!」
 
と、この特殊状況をつくりだす効果を確認できた。
 
普通プールの練習では、5秒感覚などで単独泳をし、抜かすときも一気に抜かすのだが、実際には、直後にスタートして、抜かす前にヘッドアップでの状況確認=前泳者の向こう側が見えるか?とか、試したほうがよい。それくらいなら、一人でもできる。それでも、集団が作り出す乱流と水塊移動は、集団状況を実際に作ってみないとわからないものだ。
 
 
<斜めクロール or 反フラットスイム
感想もいただいた技法とは、下の写真だと、右呼吸で右手入水時に、また右エッジが水面に浮かんで、左エッジを沈めている。後ろからみると " / " な形だ。
 
1500Fr王者パルトリニエリは最後までこのフォームを通し切る。ただしトライアスロン&OWSでは左右呼吸で出来る必要がある。

「エッジ」については、6月の記事 『「2軸クロール」の終わりと、新たな「スノボ」泳法について』  をご参照。

 

ただしこれは速い泳ぎというわけでもなくて、プールでタイムを測っても最速というわけでもない。1つのカードとして切れるとおもしろいかもよ、という程度。プールで最速の泳ぎが、実戦で最後まで通せるわけでもないのがトライアスロンのスイムだから。

明確な問題は、下側の左キックが横にはみ出すぎ。
20161023_230728
 
集団泳での活用
そして、この「斜め度合いのコントロール」は、集団内で使える武器となりうる。
これは高橋雄介コーチの「フラットスイム」無い考え方だ。ビート板を浮かせて滑らせるイメージなのがフラットスイム。これ自体は見事な理論で、基本として習得する価値が絶大なものではあるが、彼の主戦場は水深3mを波消し極太ロープで区切った静水プールだ。さらに、50m30秒を切る強力キックで身体を浮かせる、という前提もある。
 
かたや斜めクロールは、ビート板を斜めに水面に突き立てるイメージの反フラットスイム。キックが弱くて身体が沈む場合、あるいは水面が荒れてフラット姿勢では逆に抵抗になる場合など、むしろ前投影面積と造波抵抗を減らすとも考えられるし、実際、僕の感覚では、その通りだ。
 
僕がこれまで撮ってきた動画では、ズバリを撮ったものはなくて、下記、3月のリハビリスイムで説明する。画面右に進む前半では、左呼吸で、右エッジ(肩〜腰)を水底に押し付けたクロールを試みている。
ここでの要修正点は、
  1. 左ストローク時のローリング過剰=呼吸側である左エッジを沈め過ぎ(推進力につながらない回転は無駄&抵抗増)
  2. 入水腕(特に右腕)と頭とのスキマが作る抵抗増
そこで、左ストローク時に左エッジを水面近くに保てば、常時右エッジ(=呼吸しない側) を沈めることで、「常時斜めクロール」になる。さらに、頭と腕のスキマを埋めたい。
 
この傾け方を大きくすれば、かなりな密集でも抜け出しやすいことを、僕自身も、前回確認することができた。

2016年7月 8日 (金)

雑でも速い「後半勝負ストローク」、その「フィニッシュの型と力」について 〜Ryf事例分析編

「綺麗に泳いで速い」人はいるけど、だからって、「綺麗に泳げば速くなる」わけじゃない。これが2つ前の 「トップトライアスリートの泳ぎは意外と雑」  での大きなメッセージだ。

一流の動作は美しい。それは正しくパワーを発揮した結果であって、結果からマネすると「なんでも鑑定団の100万円の名品によく似た1,000円のガラクタ」化しかねない。カタチの裏にある本質を探れ。

ここをしつこく書くのは、日本人には「型」の意識からか、綺麗に動こうとしすぎる傾向を感じるから。

実体験からの国際比較もあって、電通のロシア人社員キリーロバ・ナージャさんコラム 「日本の水泳教室は、タイムよりカタチだった。」 などご参照
 
型には一定の効果はあるんだけど、忘れちゃいけない、スポーツとは筋肉でパワーを発揮することで始まるものだ。同じことをゴルファーから聞いたこともある。石川遼のマネするより、子供の頃の草野球の乱暴なスイングを思い出したほうが、往々にして遠くに正確に飛ぶものだそうだ。
 
 
<ストロークは後半勝負>
一方で、物理法則は型に表れる、のも真実。内と外は相互作用する両輪だ。
 
4月に書いた超重要記事→ 「ストロークは後半勝負 〜驚くほどできてない水泳の超基本を解説しよう」  も、つまりは「物理法則と身体の型」について説明している。今一度読みなおしていただくとよいのだけど、一つだけ引用しておこう:
  • 初期=キャッチは(肩を軸とした)円運動で構わない
  • 終期=フィニッシュは後ろに向けた「壁」のように垂直に水を押す
これ別の視点から言うと、前半は雑で脱力し、後半は丁寧かつパワフルに、ということ。(逆になってる例はとても多い)
ここで、フィニッシュ動作とは、直線ではなく、緩やかな円運動の中で、全体として後ろ方向ならばOK。丁寧さよりもパワーを重視していい。
 
 
<フィニッシュ事例の研究> 
Daniela Ryf 選手に再度おでましいただこう。
この3:08あたりから静止画を撮った。
フィニッシュの左手に注目しよう。

20160706_10513520160706_105230
ヒジを起点に、前腕〜掌による「1枚のパドル」を上にかき出すように使われている。
この時のストローク速さが最高速となるべきことは、上記「後半勝負」で書いた通りだ。
 
こちらは、上と同じタイミングを、やや後ろから見たもの。(※注目は脚ではアリマセン)
20160706_10552420160706_105607
上腕部のストロークが終わった後でも、
  1. ヒジ先のパドルは後方を向けて、
  2. はじめは水を後方に直線的に押し、
  3. 最後はオールのかき出しのように、円運動で水を後ろに送っている。
 
<よくあるパターン> 
でも、たとえば大人男性なら100m1分30〜40秒以上かかるレベルでは、この箇所で水を押す動作が存在しない例が多い。1分45秒以上かかるレベルでは、過去見てきた範囲では100%存在しない。一番美味しい水をみすみす逃すミスです。
 
これは、「型」だけの問題ではなく、内側からの力の出し方がそうさせない、ということでもある。結果としてそうなっている、ということ。内のパワー源と、外のカタチ、両面からの意識改革から必要。
 
だから、この文を読んで、いきなりできるようにはならない。カタチが似てても水を逃がすか壊すかしてるだろうし、数ストロークだけできても、筋力が追いつかずに続かないはず。
でもそのうち、もともと持ってる力の引き出し方がわかってきて、さらに筋力増強効果もでてきて、内と外とが相互作用を起こしてジャンプアップできるようになる。
 
こうゆうのは、映像を撮らないと見えないし、知識として知らないと気づくことができないよね。
 

<おしらせ>

浮力と剛性の高いビート板沈めたキックは実戦直結の体幹トレーニング。無料備品を使うときは厚くて新しいのを選ぼう

2016年7月 6日 (水)

ウェットスーツ泳でもキックはパワーの起点 (+ビート板練習の注意点)

2016.07.16追記:リオOWS代表、平井康翔選手Facebookでの情報:
 
 
ちなみに三浦広司コーチは現役時代「400mキック」をやらされて5分3秒だったそう。トライアスロンでは(エリートのトップクラスを除き)こうゆう「キックの速さ」は必ずしも必要ではないけど(庭田清美選手もキックが50m50〜60秒くらいだそうで)、速いに越したことがない。
 
ただ、普通のトライアスリートにとって「キックの姿勢」の重要度は高いと思う。泳ぎ全体の姿勢制御を苦手とする方はとても多く、その一部として。
 
ウェットスーツで下半身を浮かせる場合でも、キックはパワーの起点になるから、やっぱり重要。ムチの柄のようなもの(て、ムチ打ったことも打たれたこともないんだけど、そこは想像たくましく)で、足の動きは小さくとも、上体を正しく使い切るための源となる。
 
昨夏の密かな注目記事→ 世界水泳'15の注目、パルトリニエリの「1キック・クロール」はトライアスリートに向く 〜TV中継より詳しい泳法解説  で書いた「1キック泳法」のパルトリニエリも、ムチっぽくキックを使っており、これに「側転」的な動作につなげてゆくわけだ。
 
孫楊のループ動画(おもしろい!)の例。特に両サイドからの。
彼の巡航時は6キックのうちの2つを強く打つ、2キックもどき泳法だ。ラスト100mからスプリンター並のフル6キックに切り替える。たぶん世界トップレベルのキック力で、緩そうに打ってるけど、かなりなパワーがあるんだろう。
 
 
<やじろべえキック>
注目は、彼のアクセントのキックが「やじろべいを前後に倒す」起点になっていること。
 
※ ぱっと見では、わかりやすくもないかも。
正しい動作は、身体の内側からパワーを発するわけだが、これは「外から見れば、小さな動きとしてしか認識されない」とういことでもある。特に水泳は、大きな動きは抵抗要因になるのでなおさら。そこで、ある「視点」を持って観察する必要がある。その「視点の1つ」について書いてます。
 
つまり下半身には浮く力が、上半身には沈む力がかかる、大きな前回転運動だ。(=これにローリングもしくは「エッジの切り替え」が加われば、そのまま前転になる)
そしてそのパワーは、そのままストロークに活かされる。これが体重を活かしたストロークだ。(簡単に書いてますが、笑)
 
腹圧はそのツナギ。腹筋とかは、こうゆう連動動作のために必要な筋肉だ。
 
(ちなみに、孫楊のストロークには「グライド」の印象があるけど、実はほとんどグライド時間がないことが知られている。動画でも、フィニッシュ直後にキャッチ開始してることがわかる)(また時間があればこのストローク分析でも書いてみる=たぶん時間ない泣)
 
そのためのキック練習法は、三浦コーチのこちら→ ブログ記事の、2枚の図 がわかりやすい。
 
リンク先の上図が、20130724151032ef1 広く行われているけれど、実は実戦的でないという例。特に、「ウェットスーツを着た場合に、下半身が浮きすぎて、キックが空打ちしてしまう」という場合、このキックをしてしまっていることが考えられる。
 
普通の水着でなら問題なく泳げる場合でも、ウェットスーツは(同じ生地の厚さで作った場合)下半身側の浮力がより効くので、フラット姿勢を取れてキックが得意な上級者ほど、キックが浮きすぎて空打ちしやすいわけだ。
※ただしビート板キック単体のスピードは出やすいので、スピード錬としての意味はある。プール競泳では、「ストローク速度を活かしてキックを通常以上に高回転させる」という泳ぎができる。そのための練習としてはいいと思う。
 
下図が、より実戦的な方法。タイムは落ちるが、実戦的だ。この図:ビート板を沈め、その浮力を全身で押さえつけている。そのパワーの起点がキックだ。
20130724151121ff3 特にウェットスーツの場合に、下半身の強い浮力を、前方回転の力=ストロークパワーへと変換することができる。 これが、「やじろべいを前後に倒す」イメージでもある。
 
先月ブログ→ 「【スポーツ動作の原理】 筋力発揮は一瞬、もしくはリレー」  で説明した通り、スポーツの技術とは、ようするに、複数の筋肉群の連動性。だから、悪い例のやりかたでキック練習のタイムだけ速くしても、実戦に活きない。
 
これは三浦コーチが2003年には雑誌で発表している理論。13年前の古典的真理で、知らない人に向けて(主にトライアスロン界に向けて)発掘&紹介しておく。
 
加えて、「サイドキック」(ビート板なし)を技術練習としてやって、身体のバランスや抵抗減すると良い。孫楊のキックもサイドキックが中心。アップや、練習の合間の息抜きにちょうどいい。
 
2016.07.16追記:
高速キックのためには、骨盤の速い回転が必要になる。腹筋をベースに、腸腰筋を活用することになる。これはバイク&ランと同じだ。3種目を底上げする力になるだろう。
僕は最近、芝生上での「後ろ走り」という陸トレを始めてる。
 
 
<マイ練習具>
こうゆうキックを練習するには、固くて浮力の高いビート板が必要。
プール無料備品の薄くてヘナヘナしたのは、悪い例のキックになりがちなので、注意しよう。
本気で練習するなら専用品がいい。ゼロディのこの板は、大きくて厚く、浮力も剛性も十分。
←しかも型落ち前で6超オトク
 
僕も持ってるけど、競泳エリート選手があまりにも絶賛するので、あげてしまった。競泳のように長時間練習すると、肌触りが大事で、雑だとスレて痛いらしい。そのキメこまかな手触り感、質感も魅力だ。ほんの1,400円で充たされる所有欲

 

海ではクラゲ除けましょう

2016年7月 5日 (火)

【OWSクロール】 トップトライアスリートの泳ぎは意外と雑 〜Daniela Ryf編

綺麗なフォームの動画で勉強するのは良いことだけど、「前提条件を欠いた根拠なき憧れ」に陥っていないか、気をつけた方がいい。
 
「前提の違い」とは:
  • 幼少期からの競技経験
  • 技能レベル 〜たとえば50mプール板キックが20秒台(トップスイマーではよくある)か、30秒台(上級スイマーではよくある)か、55秒か(ワタシとか)、の違いは、姿勢やストローク動作にも影響する
  • 体格差 〜身長180cmの男性と155cmの女性では、腕のリーチ長は肩幅も含めて2割くらい違うわけで、同じ技術で泳げばストローク長も2割の差がでる
環境差もある。
  • プール×単独の競泳か
  • 海×集団のトライアスロンSwimやOWSか
プールで超速い人は、まちがいなく海でも超速い。ただ、プールでは超速でなくとも海だと結構泳げる人もいる。後者の典型が、海外の一部のトップトライアスリートかと思う(といって、プールでの記録を知らないので、フォーム見た印象として)
 
<事例研究:雑な入水>
こちらプロ女子でトップレベルの泳力を誇る(らしい)Daniela Ryf 選手、競泳エリートと比べて、フォームが雑だ。 (以前紹介したジョディ・スワロー選手よりは綺麗だが)
0:46-, 2:59-あたりがお勧め。
 
雑、という表現は、入水〜キャッチを競泳エリートと比べてみるとわかるかな。泡を手に絡めたまま、どぼーーんと沈めている。上の動画サムネイルは泡切れがよいけど、呼吸しながらの下のではしっかり泡つきだ。これでも、世界トップレベルの泳ぎなのだ。
20160704_195129
この「雑に沈めるストローク」のメリットは、
  1. 海×集団の環境において、表層の乱流に影響されない
  2. 重力に任せて水をつかめるので効率的
  3. 回転を上げやすく、やはり乱流環境に向く
  4. 常時パワーを掛けられる 
など。
 
特に1は重要。海では入水した腕が、波や前泳者の乱流を受けるからね。
(流されないパワーとバランスを持つ上級者は別)
(なんだけど、競泳オリンピアンですら、グライドは海では乱されるので控えめにしてるそう)
 
なお、3−4は必須ではない。体力も使うので、僕もこうゆう泳ぎは基本しない。ただオプションとして使えるのなら、いいと思う。
3. の回転スイムは、女性のトライアスロン&OWSのトップスイマーに目立つ。腕の長さもパワーも男子に劣る分、ピッチでカバーするタイプ。ただし高い有酸素能力が必要。もっとはっきり言えば、練習量と若さが必要。 
4. は、この画像でも、左手フィニッシュと右手キャッチとが連続していることが見える。競泳では、50mのスプリンターとかはこうゆう泳ぎをし、距離が長いほどグライド時間が増える傾向があるのだけど、海では長距離でもこうゆう泳ぎはけっこう多い。
 
一方で、世の水泳の解説では、「綺麗なフォーム」だけが使われる。それはあくまでも「見世物」であって、そのままマネるべき「お手本」ではない。
そんな「見世物」では、リカバリー腕を早く入水してグライド姿勢を保つのが普通だ。でもこれは、プールの静水環境に最適化した動作だと思う。もちろん、それを極めた方ならば、海でも使える技術となっている。これも冒頭の「前提の違い」の1つだ。
 
<体幹>
もう1つ、Ryfを前からみると、身体は真っすぐではないよね。昨今の体幹ブームでは、こうゆうのは悪い例とするんだろうか。でもこれは、三浦クロール理論での胴体の使い方と同じ。
20160705_114355 100分の1秒を削る競泳選手は、抵抗増大要因は徹底排除するので、こんなフォームは見せない。でも海では、パワー増大を重視したほうがいい、という違いだと思う。
 
ただ僕の最近の考えは、両者の動作は、実は同じだと思っている。競泳選手も、こうゆうパワーの出し方をしていて、ただ同時に、抵抗を極小化する形=フォームも徹底している。そしてトライアスリートならそこはあまり気にしないだけ。いわば着ている服が違うだけ。
 
 
<水上の動画>
同じくDaniela Ryf、先週末 アイアンマン・フランクフルト2016レース動画もツイッター より紹介。(スイムはトップ通過したが、寒過ぎてバイクでリタイアしたっぽい)
これが彼女の3.9kmでのレースペースだ。ストロークは程よく伸び、かつピッチも速い。この水上からの映像でも、三浦クロール受講者さんにお伝えしているポイントが見て取れる:
  1. リカバリーのパワー起点
  2. リカバリーの軌跡
  3. ストローク中の体幹位置
ここで、2. のリカバリー腕の入水が遅いことが、前半で書いたキャッチのしかたに直結しているわけだ。
 
 
<おまけ:海練習ではクラゲ除けましょう>
←このパドルはソフトタイプ、普通のプールで使えるならすばらしいのだが、どうなんだろう?

より以前の記事一覧

フォト

『覚醒せよ、わが身体。〜トライアスリートのエスノグラフィー』

  • 初著作 2017年9月発売

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