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2018年6月30日 (土)

辰巳渚さん事故状況にみる「左コーナリング」の危険

ミリオンセラー「捨てる!」技術(2000)などの著述家、辰巳渚(加藤木綿子)さんが2018.6.26、モーターバイク事故で亡くなった。ミニマリスト=持ちすぎない生活の端緒を作り、そこからコンマリさん(世界で高額講演料を稼がれてます)はじめ世界的な片付けブームが拡がっていった。
 
事故は、東京から軽井沢経由で、故人が大好きだったという北軽井沢へと向かう国道146号。僕も何度かクルマで通った箇所。知人が高校の同級生だったり一緒に仕事してたりもして、なにより二輪〜エンジン有無の違いはあるとはいえ〜での事故、ひとごとではない。
 
今わかる範囲でも事故状況から学ぶものは大きく、その知識により防ぐことのできる事故は確実にあると思うため、ここに記しておきたい。まとめて言えば「左コーナリング特有の危険性」だ。
 
NHKのニュース動画 から、事故現場は軽井沢町長倉の難所「29号カーブ」 (←Google地図)らしい。こちら地図の左上、矢印の先の左ヘアピンカーブを曲がりきれず対向車に衝突、意識を失ったまま5時間後に死亡確認。この時期の平日に交通量は少なく、自損で済まなかったのは不運としかいいようがない。でも事故とは常に不運なものだし、同様な事故はこれからも起き続ける。
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この国道146号は、はじめは狭くて細かいカーブが続くが、事故現場の手前では、右下(中軽井沢方面)から登坂車線の広い路面で緩やかめなカーブが続く。そこにブラインドの右カーブが現れ、直後に左のUターン的急カーブ。
 
自転車なら、ダウンヒルで想像するとわかりやすい。「気持ちの良い緩斜面から、右ブラインドコーナー、抜けた先に10°超の急斜面(=強いエンジンとはそういうこと)、直後に逆ヘアピン」的なのが近いと思う。
 
この連続ヘアピンは、地図上では同規模だけど、実際の危険性は全く違う。
  • 右カーブ: 外側車線だからカーブが緩く、ミスったらコースアウトの自損事故
  • 左カーブ: 内側でカーブ急、ミスると対向車がありうる
自損ならコンクリート壁か鉄柱にヒットしても走行速度分(十分に死ぬけど)、でも対抗車なら衝突速度2倍×轢かれることもある。
 
辰巳さんのマシンは 本人Facebook から、DUCATI 959 Panigale , サーキット仕様の150馬力、斜度数%の上りくらい一瞬でスピード出るはず。
 
大型モーターバイクは走行安定性が高く、通常はむしろ安全性は高い。DUCATIは扱いづらいイメージもあるようだけど、インプレ https://news.webike.net/2016/06/24/61112/ 読むと、ストリートでの扱いやすさも考慮された機敏なバイクであるよう。最新トラクション・コントロールは、コーナリング中、転倒しないギリギリの速度管理をしてくれる。
ただそれは熟練ライダー目線の話。
 
辰巳さんは1年前にバイク免許をとり、4月に大型免許に上がり、事故直前に大型車が納品され、今回が実質初のロングライドであったようだ。ルート状況を考えても、このマシンでの最大の難所がこのカーブだったようにも思われる。小中型マシンより簡単にスピードが出て、かつクイックな操作が重なると仮定すれば、最新機能でも制御しきれるものでもない。あくまでも一般論だけど。
 
直前はこんな景色。
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見通しは一見よさげで、カーブ抜けた、と強力エンジンを吹かしたくなってしまいそうでもある。この景色が人生最後に見た数秒間となってしまった。
 
NHK動画から推測すると、曲がりかけたが曲がりきれずに衝突、路面の荒れ方からはセンターライン手前くらいかでスリップしてるかもしれない。軽自動車の右前輪あたりの急ブレーキ跡がセンターラインに沿っている。点状なのはABSの挙動かな。
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事実解明は警察調査に委ねるとはいえ、この状況は、今後も十分にありうること。自転車のダウンヒルふくめて。

自転車の下りであらわれる左ヘアピンの恐怖は、僕もはじめて理解した瞬間の絵をいまだに覚えている。2009年春のロードバイク初心者時の(無謀な)伊豆一周のことだ。斜度10%くらいかの急な下り、目の前にコンクリート壁、左側から現れる巨大トラック。
二輪車は注意を向けた先に向かうもの。「もしもこのまま直進してこの壁にぶつかるとどうなるだろう?」と想像すると、その思考は現実化し、バイクは直進を始める。そのことは知識としてあったけど、実地で理解することになったのがその伊豆のカーブ。

もちろん、その場ではブレーキで20km/hくらいに減速し、安全性100%で回ったわけだ。この間せいぜい数秒間。ただ、その後何度か通った時に、いつもその瞬間を思い出して、記憶に焼き付くことになった。
 
確実にできることは、サーキット的な状況でない限り、コーナーは十分に減速してから入り、安全過ぎるくらいに抜けること。そんな区間の平均速度は見ない方がいい。コーナリングで速度を稼ぐ誘惑にかられないように。集団練習でコーナーで遅れたって何も問題ないはずだ。速さを見せるのはレース場だけでいいのだから。
 
ブラインドの左コーナリングはその最たる状況。
その意識1つで防ぐことのできる重大事故は多いはず。
 
・・・
 
辰巳さん、今月には「日常生活を通して課題を見いだす「生活哲学」に基づき、「生活する力」を育成する教育事業などを展開していく」という会社設立のニュースなどもあり、最近のインタビュー記事などみても、人生これから、という時だったのだろう。北軽井沢は僕も大好きだし、僕が自転車を始めたのも、この地を僕なりに楽しむためだった。トライアスロンもその先にあったもの。辰巳さんにとってそれがモーターバイクだったのだろう。
 
その美しく軽やかな人生を完成させるために必要だったのは、あとほんの少しだけの、マシンへの慣れ、慎重さ、だったのだろうか。残念です。

合掌
 

2017年1月26日 (木)

小林大哲選手事故現場のネット検証、そして競技自転車の「下り練習」について

1/22に書いた追悼: プロトライアスリート小林大哲さん(享年24)が遺したもの 〜 mourning triathlete Hiroaki Kobayahiは、その最も伝えたかったエピソード部をITU(国際トライアスロン連合)から世界のトライアスリートへ紹介いただき、また哀しみの底にあるであろう関係の方々からもご丁寧なお礼などもいただいた。彼の生きた証の一端を少しでも知っていただくことに、幾らかは貢献できたようだ。

でも、もうあと3年もすれば、彼のことを、もっともっと多くの人達が知っていったことだろうに、とも思う。こんな小さなブログで説明しなくてもね。その将来が生命とともに消滅したという重すぎる事実を前に、それだけで済ませることは許されない。悲劇ほど冷静に分析されねばならない。

※お断わり、以下あくまでもネット情報等による簡易検証に留まるものです。その目的は、自転車の安全性を高めるための一般的な参考にしていただく点にあり、今回の特殊事情についての検証とは別のものです。
 
- 事故現場 -
 
端的に言って、難易度×危険度、それぞれに最悪な箇所だ。悪いことに、その凶悪さは素人目には見えづらいのだ。この2要素を掛け算すれば、こうした結果も、不思議なものではないようにすら思えてしまう。
 
まず場所について。こちら NHKニュース動画 に地元の方からの情報も加味して、事故現場はほぼ確定できた。Google地図ではここから 下りながら左カーブした先。そこまでの走行情報をルートラボ地図 「照葉大吊橋からの下り」 に再設定。標高も微調整した。下のピンク部分が直前100mほどの下り部分だ。
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峠の吊橋あたりから250m下り、右カーブすると、下の写真の通り、ほぼ直線が数百m続く。上の地図では赤線より上側(傾斜図では青いフラット部)。この突き当りに問題の複合カーブ。
見るからに走りやすそうで、脚のある選手なら時速5−60kmくらいには何の不安感もなく簡単に上がるだろう。低いワイヤーのガードのおかげで眺望は最高。4輪車での観光名所となることを目指して設計されていることがわかる。同時に、2輪車を一切想定していないことも。
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この直線の最後に下り。「斜度10%」表示の看板があるようだ(※上のネット地図では斜度14%と表示される区間)。NHKニュースの動画を見ると、実際かなりな急坂に見える。ただ下の写真では見通しの良さのせいもあって、よくわからないと思う。それは危険要素の1つとなる。
この坂が危険なのは、危険な複合コーナーに加速させながら突入させる点にある。
(なお、左カーブ部の谷側は白い垂直のコンクリート壁。木がかかって競り上がっているようにみえるが)
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緩い左カーブへ。しかも後半で傾斜がキツくなる。この下の赤ライン箇所までは、本能に任せ走ってれば70km/hくらいは不安を感じることなく入れてしまうだろう。
 
(※念のため追記: 自転車も速度制限を守るべきだが、しかし現実問題として、自転車は軽いので坂で急加速するし、その時にスピードメーター表示を見るのは危険。またブレーキし続けるのも過熱などリスクがある。下りでの速度調整は難しい。この問題への対応は予め徐行しすぎなくらい徐行しておくことだ。なので僕は40km/h制限のマイルールを設けてます)
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- 走行ルートの考察 -
 
あなたは、この状況で、この先に起きること、そこへの対応を、どこまで予測できるだろうか?
 
しかも高速走行での瞬間にだ。たとえば72km/hでは1秒間に20m、54km/hでも15m進む。100mを5−6秒で過ぎるわけだ。この文章で長々と書いていることは、ほんの数秒間に起きたことだ。
 
言い換えれば、彼の命はその数秒間に、失われた。
 
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念のため、以下全てクルマを邪魔しない場合限定、いたらサイド徐行一択です

「低いワイヤーの向こうが致死的な崖」という当コース特有の危険性から、こうゆうとこはゆっくり走るに限ります。ここでは一般的な状況での基本説明です

おそらくは、知識がないか、あってもその瞬間での状況判断ができなかった場合、上の黒ラインになるのではないだろうか。直線的にスピードに乗ってアウトを通り、少しインに切れ込んでゆく。もしこれが平坦でそれほど高速ではなく、カーブも緩め、コース幅も十分にあるのであれば構わない。しかし今回それでは速過ぎる。「速過ぎる」とは、ブレーキ操作が間に合わないリスクがあるという意味だ。
 
自転車ロードのJoaquim Rodríguez=ホアキン・ロドリゲス選手ツイッターでのこの動画は、同じ状況かもしれない。18〜20秒あたり注目。
こちらは落ちた先が80mの崖ではなくてクッション性能の高い低い藪で、笑い話として投稿されている。「大丈夫だ、バイクは無事か?」と走り出し、あれハンドル曲がっとるな!と走りながら叩いて直すというワイルドな。
 
注目は18秒あたりから、ガードレール激突直前に、一度曲がろうとしているのにハンドルが戻る、という奇妙な挙動が見られる。これは後輪ロックによるグリップ喪失と考えられる。ブレーキ過剰で車輪をロックさせると、どんな高性能タイヤでも、本来のグリップが失われる。こうなったら(低速ならともかく)できるのは、直進かスリップくらいだ。
 
また、モーター付バイクの「ハイサイド」に似た現象もありうる。順に:
  1. 後輪ブレーキ過剰&後輪ロック(=自転車の場合)(エンジン付きなら、アクセル過剰&グリップ限界超え)
  2. 後輪が横滑り
  3. あわててブレーキ解除(エンジン付きならアクセル緩める)
  4. 後輪グリップ回復→ 車体が立ち上がる&直進力UP
なお前輪ロックだと、いわゆる「ジャックナイフ転倒」で、バイクごと前に投げ出されることになる。本来は絶対に避けるべき事態だが、今回では、ガード手前数mまでなら、それでも助かったかとも思う。ただこれは狙ってやるべきことではない。
 
- 検証結果 -
 
つまり今回の事故現場で考えられる事態とは、高速で進入したカーブが予測した以上に急なことに気付き、しかも目の前が崖で、慌ててブレーキングに入り(いわゆるパニックブレーキ)、車輪をロックさせてしまうということ。その状態で曲がることはできない。あ、と思ったときにはガードを越えている。ほんの1-2秒間に起きることだ。
理想を言えば、スリップしてしまったほうがよかったのだが、重傷確実な行為、普通できることではない。
 
ここで安全バッファを確保するための正解は、「※Out-In-Out」のライン取り。
※2018.01.17追記: 下記コメントでも議論がありますが、「公道一般でのアウト・イン・アウトを推奨」する意図ではありません。この事後現場が、左端だけを走っていては制限速度内でも危険なのです。もちろん全てクルマや歩行者など他者のリスクが無い場合限定、いたらサイド徐行一択です。徹底的な減速に勝る対応はありません。
それでも書くのは、知識として持っておくことは有益だと思うから。理解と実行は別の問題で、理解だけして実行はするな、とシンプルに読んでいただきたく。(追記以上)
 
なんてヤヤココシイ但書を踏まえつつ、その場合が上の赤ラインだ。基本的な教科書には書いてあることだけど、解説しておこう:
  1. 次の右カーブに必要な減速を写真の手前あたりまでに完了させておく。これがとにかく超重要!
  2. 右カーブの一番手前で、インからアウト側に出る。右カーブを少し早く始めるわけだ (※なお当コースでは低いワイヤーの向こうは崖なので、そもそもそうゆう攻め方はしたらダメ)
  3. 右コーナーの最も曲がりのキツい部分のイン側に向けて曲がる。ここでブレーキをかけては基本ダメだが、速度コントロール目的で軽くこするのはあり(※上級者は前ブレーキで前輪荷重させたりしてるみたい=僕できません)(※もちろん対向車が来てる時は徐行)
  4. コーナー終わりでアウトに出る
なお上記2.の動きは、急カーブを本来の道よりも手前で開始することが目的で、結果としてInやOutに位置するのであって、横移動が目的ではない(=くれぐれもクルマの邪魔しないように)。それによって安全マージンを確保できる。より緩いカーブとできるし、より長い時間をかけて安定して曲がれるわけだ。その分、1つめ緩カーブをより急にしてもいる。
 
※追記:現地の方からの情報では、やはり本当に急傾斜し、しかも逆バンクだそう(雨・土を谷に流すように傾けている)。事前に予測して十分な減速をするか、さもなくば、曲がりながら減速用のブレーキをあてる高度な技術を要する場面だ。上記はあくまでも一般論としてご理解を。
 
- 知識と判断 -
 
繰り返すが、こうゆうことは、知識と、その瞬間での状況判断、両方が必要。もう一度、3つ上の画像(赤ライン一本の)を見てほしい。本能に任せて走っていると、スピードに乗ったまま、ストレート気味に入ってしまうのではないだろうか。そして速過ぎることに気付き、過剰ブレーキでグリップを失ったタイヤが直進し始める。無理にでもバイクを傾けて曲がりにいくしかない。それは高確率でグリップ不足による落車を起こすだろうが、それなら酷い骨折程度で済んだ可能性も高い。
 
もう1つの可能性は、重心を極限まで後ろ&低くすること。この技術(というか意識)なら汎用性が高い。今回ならガード衝突時に下側に倒れ込むことだが、そもそも下りでは後ろ重心は難しい上に、この現場のガードはなにしろ低い。なので、身体を横に倒すことでしか実現されない。すると上記のようにスリップダウンすることになる。これならセオリーに沿って、被害を最小化するものといえる。
 
これらは地球上で逃れることができない物理法則だ。実走練習とは、それら知識を理解した後に、身体でも理解するための確認作業であるべきだ。やみくもな努力で身につくものではないし、そうすべきでもない。
 
アクシデントは起きた後は運にも左右され、対応に絶対解はない。ただ、原理原則の理解と事例蓄積により、リスクを減らすことならできるはずだ。
 
 
- 下り練習について -
 
ここまで書くと、1つのシンプルな結論に辿り着かざるを得ない。
 
絶対に攻めてはいけない下りがある。
 
僕自身は、そもそも下りは練習すべきではない、という(シルベスト山崎店長などの) 考え方を支持している。十分な知識は備えつつ、その操作技術は基本は平坦で磨くべきだと思う。日本の山は危険過ぎると思うから(〜少なくとも僕のスキルからすれば〜テクニカルな群馬CSCのJCRCレースでCクラスですが表彰台に上がる程度の力は一応あります)。
だから僕は山での練習では、下り区間は平均速度の計測対象から外している。下りの速度は、ちょっと攻めるだけで、簡単に上げることができてしまうから。そんなヌルい練習で強くなれるはずがない。
 
ただし目的が速さではなく、安全性を高めることにあるのならば、下りスキルは重要だ。そのために、十分に事故リスクを考慮した環境で、交通に迷惑もかけずに行うことは、意味のあることだと思う。あくまでも安全のためであって、速さであるべきではない。ただ、安全走行を本当に身に付けることができれば、結果的に速くもなるだろう。
 
そのためにも、安全な環境でのブレーキング練習は大前提だ。下りコーナリングは、
  1. 横への重心移動(バイクを傾け、身体も内に寄せる)
  2. タイヤの横グリップの確保(グリップ力の限界内に留める)
  3. 加速し続けるので、必要なら緩いブレーキで速度制御
といった要素を同時に実行する必要がある。2と3は矛盾するもので、ブレーキングは縦方向のグリップなので、やりすぎると横グリップ力まで消費してしまう。また強すぎてロックさせる危険は上述の通りだ。よって、各要素を個別にできるうようにした上で、さらにコース予測能力を身に付けて、初めて、山に入るべきものだと思う。
 
なお自転車ロードレースのプロなら、下りで勝負をかける場面もある。サガンやフルームの下りアタックは見てるだけでハラハラして、さすが軽く年収数億円を稼ぐであろう世界トッププロは違うなと思わせる。ただし彼らは、事前に走り込んで熟知したコースでなければ、攻めることはないと聞く。フルームは下りのためにフォークを4mmだか前に出した特製バイクをPINARELLOに作らせてる!
それでも、リオ五輪のニーバリのように世界トップレベルの下り技術で、入念に調べたはずのコースでも、転んでしまうものだ。そんなリスクは、プロでも取りにいかないほうがいい、ともいう。(たとえば栗村修氏コラム「「下りのコツってなんなんでしょうか」→ http://cyclist.sanspo.com/158916
 
特にトライアスロンでは、下りのコーナリングでタイムを稼ぐ場面は無いといっていいだろう。これはエリートでも同様だ。それだけに、この事故がナショナルチーム活動の中で 起きてしまったことが残念。
 
下りの速さを求めることのわずかなメリットに対して、そのリスクは大きすぎ、そしてその結末は哀しすぎる。

2016年12月25日 (日)

バイク「空気抵抗削減」へのシンプルな考え方

サイスポ2017年2月号 の小特集「最新機材のエアロダイナミクス」で、フレーム&ホイールの空力抵抗の実測をしている。これぞ専門メディアの仕事だ。素晴らしいので詳細は実物お読み頂きたい。
 
実験条件は、室内サーキットでの38kmh・42kmhそれぞれ巡航しての平均。衝撃的な結果が幾つか:
  1. ホイールは、リムハイト50mmと90mmで、空力性能がほぼ同じ
  2. BORA50mmは、最新のワイド幅と旧型の細幅とで、同じ
  3. ロードバイク(Madone)をDHポジション化すると50w削減
  4. TTバイク(SpeedConcept)+DHなら、ロード普通ボジション比で100w削減
  5. ベースバーでの普通ポジションなら、ロードバイクの方がTTバイクよりも微妙に優位
あくまでも今回実験条件に限った話ではある。無風の室内実験=つまり横風を受けず、実走行による正面からの空気抵抗だけが影響しての結果だ。この点は留めつつも、はっきりいってしまえば、僕はこう解釈した:
  • 空力向上だけを目的とした器材は、ほぼ意味がない
  • ポジション=人体に影響する仕組みには、劇的な効果がある
 
<器材自体の抵抗>
真正面からの抵抗は、「前投影面積」、つまりこの形状→17viperrfrontで決まる。
加えて、「空気の流れ方」(=CD値)も影響するはずだが、少なくとも時速40km域では、現実のパフォーマンスに影響しない程度であることを、この実験が示している。
横風という条件、つまり斜めにすると→17viperr30通過する空気がより大きな乱流を作り始めるだろう。
すると、ホイールなら高くて広いリム形状の方が、より乱流を抑えるのだろう。究極のリム高さといえるディスクホイールは横風で推進力を感じる、と言われている。
 
上記の実験1-2は、これら横風での性能差を扱ってはいないけど(※コーナリングでは、ある程度は、斜めからの風は発生しているが)、前方からの結果がこれだけ同じということは、そうたいした差ではないようにも思われる。
 
 
<人体の抵抗>
こうした器材要素を圧倒するのが、人体要素が加味された結果3-4だ。3と4の約50W差(!)はロードバイク(マドン)かTTバイク(スピードコンセプト)かの器材の違いによる。しかし、結果5=ベースバーでの普通ポジションなら逆にマドンのが微妙に優位であるということは、「器材自体の形状差はたいしたことがない」という前の結論を裏付ける。
 
そこで、TTバイクとは人体が作る抵抗を削減するための一手段であると解釈できるのではないかな。バイク自体の造形が注目されがちだが、本質はDHポジションの身体と一体化した整流効果を高めるものだ。その目的が達成できるのなら、ロードバイクの調整でも構わない。

また、どんなTTバイクだろうと、DHポジションを取っていない間は効果がない。その時間が多いなら操縦性に優れたロードバイクの方がいい。
また、細部の造形にこだわったハイエンド車と、おおむね同じ形状の普及レベル車とで、それほど大きな差は生まれない、とも考えられる。
 
TTバイクの性能は、ポジション設定によって引き出される、ということだ。性能は購入時ではなく、練習によって上がってゆくもの。それが「器材スポーツ」であるという意味。使いこなしにより差が生まれる。
 
ゆえに、選定時にはジオメトリの精査から必要。現行バイクからどこが何mm変わるのか。僕のケースは、「NEILPRYDEバイヤモ2013 選定の過程と結果」 で書いたとおり。
 
最も重要なのは、最大の抵抗発生源への対応だ。すなわち、お腹に巻き込む空気 & 両脚の回転による乱流、への対応。そこで、DHポジションで付き出した両腕により、F1マシンとかのフロントノーズ(or カウル)のように空気を掻き分ける。
20161013_101005画像はシクロワイアードより 、2016自転車世界選手権TTの上位3名。ヒザの上死点位置と、腕との位置関係をみれば、腕が作る整流効果が見える。
 
頭もぽこっと突き出したパーツなので、エアロヘルメットによって、胴体と一体化させる。これにより、頭から背中へとスムーズに空気が流れる。特にロングテールの場合、背中から離したらダメ=それが面倒なのでショートテールが流行っている。
少なくとも、普通のロード用のヘルメットでトライアスロン出ている方は、真っ先にエアロヘルメットを導入することが、最も費用効果が高いだろう。
 
これら、腕と頭の整流効果をクリアできていれば、高さ自体はそれほど悪影響を与えない。だから無理に低い姿勢を取ったらダメ。
腕を寄せるには肩の柔軟性が必要だが、これは高めるデメリットはないだろう。それで走行安定性が失われるなら、スキル練習をがんばるといい。ただ、そんなにギューっと狭める必要もないようだ。
 
全体として、横幅を抑えた1枚の板を立てたように。板の形状の抵抗が小さいことは、水泳も同じ。なのでリオ五輪では、スタート・ターン時に腕は頭の横につけるのが主流になった。従来は両腕の下に頭を置いて逆三角形を作っていたのだが。
 
なお世界TT上位2名は身長185前後だが、3位ヨナタンは170とか日本人レベル(ホイールが大きく見える)で、抵抗削減ができれば、この身体でも世界で戦えるということでもある。
 
 
<人体と器材との一体化>
この流れから、最近の流行である「フロント・ハイドレーション」の役割も理解できるだろう。
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腕の「ノーズ機能」を拡大させ、より大きなエアポケットを作ることで、脚まわりの抵抗を削減している、と考えられる。 (バイク画像はCEEPO2017 VIPER-R より)
 
 
<僕の場合>
狭いDHバーの間にタイラップでボトルケージを固定し、ノーズを大型化させている。20160914_818
パンク対策は、マルニのクイックショットをステム直後にマジックテープで留める。なおこの位置も、ステムとの一体化による整流効果を狙っている。(この位置のストレージでも同じ効果だ)
 
ボトルは、フレーム側では、エアロボトル(スペシャ)を以前使ってたけど、練習中に発射して消滅し、以後は丸ボトルに戻している。
普通の丸ボトルでも、前輪フォークの作る気流に、ほぼ収まっていると思われ、それほど問題ではないと考えている。そして、2つの丸ボトルを装着することで、前ボトルが作った気流が後ろボトルに引き継がれて、トータルでの整流効果が生まれる。
特にロングでは、丸ボトルでないと補給が不便という理由もある。
 
KONA2013では、後部マウントによって横面積を減らした。横風対策だ。その下にスペアタイヤをテープ留め。これも「一体化」の効果を狙っている。
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なお画像左は、KONA2016女子でバイク前半で唯一Ryfについてバイク2位5:00:42のAnja Beranek。165cm54kg。僕のが8kg重いが体形はわりと似ていて、タイムも似ている(僕は5:05)。
ホイール大きさをだいたい揃えて並べてみた。僕のが身体前&サドル高の前乗りだ。ヒジ高さ=背中=頭の高さもほぼ同じ。
 
これらの効果か、長い下り緩斜面の60kmhとか巡航で、欧米のP5とかを上回る空力性能を実感できた。
 
 
<結論>
バイク「空気抵抗削減」へのシンプルな考え方とは、
  1. 前投影面積の削減
  2. とくに、幅を狭く
  3. 身体を流れる空気の整流化
ということだと思う。これだけで、メーカー発表の風洞実験(=あくまでも実験室での数字)に惑わされることなく、現実的な対策が取れるのではないかな?
 
なお僕は全体的に、器材差をあんまり信用していない人間なのだけど、それでも速い人ほど高額器材を使う傾向はあるかと思う。て僕も十分に高いの使ってるし。
それは「コミットメント」の差だと解釈している。お金以外のリソース投入量が総じて高いということ。
 
・・・
記事のサイスポはこちら→Kindle Unlimitedの読み放題対象なので、初回30日間無料体験に入ればタダで読めるかな。
 
ちなみに大特集の「ペダリング」、前半の筋肉の分解のような説明は僕は興味ない、というか、それで速くなれる気がしない。ただ後半のキネティックチェーンの考え方は大事。
 
 
<水泳>
この仕組みは水泳でも同じで、最近の三浦スイム講習で説明し始めている「クロールは実は腰を上げないほうが速い」という説明にもなる。この話は、また改めて。
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画像はリオ五輪でのレデッキー800m、世界記録更新の泳ぎ。頭を上げ、胸を反らし、腰を沈めにいっているフォームだ。従来は逆で、頭を沈め、胸をすぼめ、腰を上げる「伏し浮き」の姿勢が速いとされていたのだが。思われているほど単純には決まらないのが水泳。
 
 
ちなみに脚筋の疲労回復にはパナソニック「エアマッサージャー」が最強だと思う。新型でモモまで拡大

2016年10月20日 (木)

トライアスリートのバイク練習環境の作り方 〜固定ローラー最強説

アイアンマンKONA'16、直前にサーベロP5Xが発表され、計4種の異型バイクが投入されて注目されていたけど、主役は人間、という(当然の)結論が今年の結果だったといえる。(来年はまた別だが)。空力的にも重要なのは、まずもってライダーの姿勢。そしてレース結果は、その姿勢を作りながらパワー出力を上げてゆく、ライダー自身のものだ。

最新マシン、パーツに心躍るのは良いことだけど、もしも目的が「速くなること」なら、まっさきに見直すべきは練習環境であるべきだ。どんな最新器材でも時間が経てば陳腐化・劣化するが、練習環境とそこで磨いた技術の価値なら高め続けることができる。

例えば、東京近辺なら、湘南の134号線(箱根3-4&7-8区)の海岸線、相模原あたりの丘陵エリアなら、家を出てすぐに良質なトレーニングに入ることができる。愛知県幸田町の実家も、家を出て5分で三河湾スカイラインや幡豆農道(群馬のサーキットに似ててクルマのほとんど走らない〜じゃ何故つくった?てツッコミはおいといて〜良質なテクニカルコース)のアップダウンを出ることができる。そうゆうとこなら、ただただ走っていればいい。

僕が藤沢にいたのは2009.05-2011.05の2年間、引地川沿いに10分で134号線に(そしてライフガード常駐の海に)出ることができる最高の環境に育てられたのは間違いない。

家を出て20分以内(=アップ&ダウン時間)にそうゆう環境に入れないのなら、ローラーの室内練習を検討したほうがいい。練習場への往復に1時間以上かかるならその時間はジャンク・トレーニングで、プールかブリックランに回した方が速くなる。

<僕は固定ローラー派です>

ローラーは、三本か固定か、という議論があるのだが、僕の結論を先にいえば、固定ローラーが良い。2009年末に3万円くらいで買ったELITEのを使っている。パワー値もシミュレーターもないローテクな固定だけど、質実剛健、だから良い。それがゆえに、自分の身体との対話ができるから。

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(図書館が放棄した大型本を積んでフォーク置いてます。水平器で位置確認)

<固定ローラーの優位性>

人気ブログ「ITU技術者ロードバイク日記」2015/03記事 「固定や三本ローラーを使った人達の体験談から見えた「違い」とは」  に両者が体験的に比較されている。文中、「トライアスリートと固定ローラー」の項のH・M氏とは我らがハッタリマスユキ氏であります。ここから引用:

長時間同じ姿勢で一定出力でいかにエコノミーに走るかが問われる。

これが第一の理由。レース想定錬として、レース時間の1/3以上、僕ならショートなら最低20分間、ロングなら100分間は、脚を止めずに回し続ける練習が必須。日本でそうゆう練習ができる場所は限られる。

固定なら、そうゆう長時間の練習がしやすい。 三本で2時間回し続けようとすると、バランス確保に意識を回さざるをえないのではないだろうか?(やったことないので知らないけど)

そして最大のメリットは:

固定ローラーは「安定」したトレーニングマシン 〜 「筋肉」を注意深く観察するには持ってこいの装置

実走中に感じられない細かな点を固定ローラーならば安心して確認することが出来る。後輪が「固定」されている 〜 「安定」を作り出すことにより身体と対話することが容易になる。

BGフィットに代表されるポジションの最適化の際も固定ローラーを用い(当たり前だが)細かなミリ単位での調整を施していく。固定ローラーは 〜 非常に細かな身体の情報をキャッチできる道具といえるだろう。

そう、車体を安定させることにより「身体との対話」が可能になることが固定ローラーの本質的な役割。よくいわれる「負荷を上げられる」のは二番目だと思う。

速度(=パワー値と同じ役割)、回転、心拍(さいきん使ってないけど)の数字をみながら、さらにチェーン音を聞き、何をするとどうなるか、という関係を考える。これは日本の公道ではまず無理。

チェーン音は、ペダリング効率を示す最高のサインだと思う。パイオニアの分析値よりも実戦的ではないだろうか。音楽でかき消すなんてもったいない。

※物理の大基本として加減速は無駄(スイムも同様)、ゆえにチェーン音は安定しているべき 

音楽きかない、何か映像見ないと飽きるのは、意識の向け方の問題ではないだろうか。本当の固定ローラー練習には、2時間走り続けても飽きることのない豊富な情報が溢れている。なぜ気づけていないのか?を問い直してみるといい。

逆にそれができないのなら、負荷付き三本ローラーのほうがまだましだろう。あくまでも「それよりは悪くない」という意味で。

※以上、レベルを1ランク以上上げるために、なにか、を必要とする方に向けて書いてます。既に技術があり、目標達成のためにあとは練習するだけ、というレベルの方なら、なんでも良いです。 

<三本ローラーのデメリット>

三本には特有のデメリットもあると思う。実走では考える必要がない「バランスをとる」という点に気を使うことだ。これは「練習のための技術」であって、レースでのパフォーマンスにつながらない。

三本でバランスを取る過程で磨かれる技術もあるだろうけど、その程度のことは固定ローラーでも、意識次第で、十分にカバーできる。「三本でないと練習できません」という場合、固定の乗り方を見直したほうがいい。

使用実績でいえば、日本では三本ローラーを奨める声が強い気がするけど、日本人が全く勝負させてもらってない欧米の強豪は、プロアマ問わず、固定ローラーが基本だと思う。にもかかわらず日本で三本が人気な理由は、プロショップ経営者に競輪出身者が多いからでは?という気もする。シングルギア&フリーなしの競輪では回転技術が勝負で、それを鍛えるのには三本しかない。

逆にいえば、競輪orトラック競技でなければ、三本である必然性はないと考える。

GROWTACの優位性>

こうゆうのは結局、自分の感覚に合うかどうかなので、どんな製品であれ、体験して、これだ!と思ったものを選ぶのがベスト。Zwiftのようなギミックがあったほうが速くなれる人も、余計な情報は要らない人も(=僕)、いる。

今なら僕は、「グロータック(GROWTAC)GT-Roller」を買う。理由はただ1つ、試乗した感触が完璧だったから。 他より高いけど、費用対効果でいえば、自転車競技においてこれほどお買い得な買い物はないと思う。フレームなりホイールのグレードを1つ落とせば、あるいはロング大会の遠征を1つ飛ばせば、買える。

詳しく知りたい方には、「ITU技術者ロードバイク日記」2016/10記事 「GT-Roller Flex 3 インプレッション 優れた設計思想を備えた本格ローラー」 も一読を。文中引用される設計思想:

GROWTACが考える「自転車との一体感」とは、トレーナー上で”全身の筋肉と自転車”を調和させ、効率的な推進力を得ることが出来ること (結果として、実走でそのトレーニング効果を発揮できること)

この点、その思想どおりに実装されていることが、乗ってみればわかるのではないだろうか。アレコレ読むよりも、会社サイトに 試乗可能店舗の一覧 があるので、自分のバイクを持ち込んでみるといい。僕は成城のBEX-ISOYAさんでお店のバイクをスニーカーでベタ踏みしただけだが、十分にバランス感覚の良さがわかった。

(ちなみに同ブログ、英文記事も用意してるところがおもしろい。たしかにグローバル展開するべき製品。そしてブロガーもグローバル展開すべき時代?) 

<固定の注意点

普通の固定ローラーは、固定するエンド付近のカーボンフレームを痛めるリスクがある。僕は基本は退役したロードバイクを使い、レース直前期だけレース車も使う。

このリスクが、GROWTACでは低いのも大きなメリット。フォークを固定するのだが、動きを吸収する構造なので、TTポジションで動かす限り、フォークを痛めるリスクは少ないと思われる。

 

<僕の練習法>

成功例は2013KONA前のFacebook記事:
https://www.facebook.com/Masuyuki.HATTA/posts/10200601659619621 
本番2週前くらいに、ローラー130分の後でラン20km走を平均3:57/km。今読み返すと誰の数字なんだか感が。。30℃超の室内で、家庭用小型扇風機2台で冷却しながら。

スピードはレース想定域(この数字は自分なりに把握する必要がある)に維持したまま、ケイデンス60から10分ごとにシフトを軽くしている。重たいギアは筋肉との対話に向く。こうすれば最適ケイデンスも探り当てやすい。僕は遅筋比率が高いせいか、72以上、せいぜい80まで、という低ケイデンス派だ。この問題に絶対解はない。

その日の心拍は145からなかなか上がらず、110分過ぎてようやく150超え。そうゆう状況もレース実戦に近い。2015宮古前は(冬なのに)こうゆう練習をサボった結果がアレだった。

ローラーの役割がレースシミュレーション走であるということは、そこでできないことを実走では補完すればいい。家から15分で出れる直線3kmコースを往復して、平均40kmhオーバー目標のインターバル〜レペティション的な走りで、現実に必要な感覚と筋力を作る。2013年9月にこの平均値(一往復分)はアルミの練習ホイールで44kmhまで上がった。

なお、ポジション変更は、ローラーでも実走でも同様にほぼ毎回行う。ローラーでは感覚を上げるため、実走では実戦仕様へのフィッティングのため、目的が違うけど。

Img_2888_2

<ローラーは飽きる、という方へ>

134号線沿いにでも引っ越してはいかがでしょうか。はい次の質問?

似た仕組みなのがミノウラの540らしい(実物を知らないので紹介のみ)

疲労回復には、たぶんこれが最強

2015年9月29日 (火)

【技術解説】サガンそこ振り向くとこじゃナーイ\(@@)/ UCIロード世界選手権に表れた妖怪2匹を解剖しよう

今回は脱線し、世界選手権でも UCIロード世界選手権2015 。2匹の異常生物を発見したので解剖を試みる。
 
<妖怪「ふりむき」、別名サガン>
ロードレース エリート男子動画。注目は最終アタックのかかる4:30からの4分間。
石畳の急坂アタックで付けた差は、ゆるい下りに入った5:10時点で数m。そこから30秒間で50mほどに広がり、このリード分で逃げ切っている。下りの得意なピーター・サガンとはいえ、ほんの数百m、しかも直線で、これほどの差を付けるとは。ここまで高い下りスキルには、集団の追走力も通用しない。
途中でみせた妖怪技。そこ振り向くとこじゃない! レース局面的にも、乗車技術的にも、、
20150928_234009
まず基本から説明していくと、下りの傾斜がきつくなった時、サドルからトップチューブ(=競輪みたいな自転車の上の水平なパイプです)へ、座り直している。
 
これは下りで空気抵抗を激減できる技術。ここでは時速6−70kmでてそうなので、かなり速くなる。試しに時速70kmのクルマから上半身を乗り出してみると、幸運なら警察に逮捕され、不運なら死神さんに逮捕されると思うけど、まあ、どれくらいの空気の重さがあるのかわかるだろう。まあ良い子は掌くらいでお試しを。
 
もちろん不安定極まりない。自転車を自在に操れるプロだからこその技術だ。たまに衛星のTV中継で目にすることもある。ただし、まっすぐにペダル回すだけならば。
 
問題点を3つあげよう。
  1. ただでさえ下りで前荷重する場面で、さらに前荷重させる乗り方。ハンドルと前輪に体重が乗った状態で、上体を揺さぶるのは、危険な力を伝え、コロンとイキかねない。ほぼ刑罰レベルだ
  2. 空気抵抗を減らすためにやってるわけで、頭を横に突き出す分がブレーキになり、もったいない。試しに時速70kmhのクルマから頭をつきだしてみようか。ギロチン注意で
  3. レース局面的には、世界王者の座をかけた一番大事なところ、差を少しでも開くことに集中すべきで、後ろ確認なんていう自己満足なことをするべきじゃない
1.の前荷重の危険性については、人気の過去記事、【図解】TTバイクの重心特性を理解すれば、IM北海道もTTで乗りきれる! (カモ? にて説明した通りだ。
 
・・・そんな常識が通用しないのが、妖怪の妖怪たる所以である。。
 
後を追う集団では危険過ぎて出来ない技なので(サガンが先頭ならやりかねないが)、想定外の差を付けることができる。急坂を上り終え、さあこれから追撃、と気合を入れた瞬間に見せつけられた坂の下の小さなサガンに、集団は世界王者の夢を諦めたのではないだろうか?
その後の高速直角コーナーも、集団ほどスピードを上げられないため、差はさらに拡がる。ここでのサガンのコーナリングは実に美しい。時速どっかに出てないかな?
 
Facebookで紹介したら、上記記事でもコメントいただいている安藤隼人コーチから早速解説を頂いた。(こうゆうのも、トライアスリートにFacebbook必須という理由です)(そこのコメントの流れ、福山ショックに揺れる世間からそーとー浮いている気もするが、、)
  • 一見、トップチューブに座っているようだが、内股で軽く挟む程度
  • 実際は、左右のペダルにバランスよく荷重してるはず
  • これにより、BB付近に重心を保ってる
  • ハンドルに荷重したらダメ (振り返るときにバランスを崩すはず)
つまり超絶技とはいえども基本には忠実らしい。とはいえ、どうしても前輪に荷重するわけで、実際、後輪が振られている、怖い! それでも平然と走り切る妖怪。
 
1つの注目は、5:18、サドルからチューブ位置へドスンと降りる感じで、この瞬間に重力落下エネルギーを利用して加速度を得ているように見える。その直後、3回転くらいペダルをまわして、さらに加速している。傾斜が急になることで得られる加速度と、タイミングを合わせて。
20150929_194332_2
肘を外に張り出し、腕と胸で、腿を引き付けて、押し出す。窮屈なようだけど、「腿と体幹との角度」は、Castroviejo選手のDHポジションと同じ程度かと思う。そしてチューブは身体を合わせてるだけで、ダンシング同様に体重はペダルに架けている。こうして、幾つもの「加速度」を積み重ねてゆく。こうゆう物理法則を身体で感じ、自在に操っている。
 
それら動作の1つ1つが、いちいちキマっている。かっこいい!
 
<妖怪「まえのり」、別名Castroviejo
こちらは、UCIロード世界選手権2015タイムトライアル エリート男子、Jonathan Castroviejo=ヨナタン・カストロビエホ選手。よなタンとは有名フィギュアスケート選手のことではない。
20150925_142603_420150925_25217_3
西薗良太選手が
 
世界戦TT、前々から着目しているモビスターのJonathan Castroviejo選手は4位。なにがすごいかというと、あの重戦車が活躍する1時間TTの間で、172cm、64kg(Wiki)しかないのにトップレベルで戦っているところ
ちなみにフォームが異次元

とツイートする映像は2:58-3:13あたり。


アゴがサドルより低いのでは。ヒザは上腕の中ほどにぶつかりそうなくらいに、上体が低く、かつ、腕と脚が近い。
 
時速50kmh近くで走り続ける個人タイムトライアルでは、最大のマイナス要素は、「脚の回転動作が生む乱流」だ。
 
このスタイルでは、前方から衝突してくる空気の圧力を、前腕で切り裂き、上腕で拡げてエアポケットを作って、その後ろにヒザから上の回転部分を収めることができる。
さらに、低い頭が、胴体下から腰へと巻き込む風を押し退ける。
どちらも、FIマシーンなどの先端の「ノーズ」のような働きをする。
 
最新の超高額な自転車は、ハンドルやブレーキなど、「ノーズの後ろ側」の空気抵抗を極限まで下げることをウリにしてるけど、こうゆう身体レベルでの抵抗削減効果は、それらを圧倒的に上回る。パーツのサイズも、動きも、比較にならないほど大きいよね。しかも、最初に空気を切り裂くノーズ部分で作用する。
20150929_31105_2
ただし身体がついてこれるかどうかは別問題。腿がほぼ胸に付いてるし、腹筋と同時に攣ったりして。このあとラン走れる気もしない。。
 
ただ、サガンの下りのフォームと共通する動作もあり、ここにも普遍的な学びを得る可能性はあるのかもしれない。
 
結論1:よいこはマネをしてはいけません
結論2:バイクは器材じゃない、技術だ
 
あれ微妙に矛盾?
そうゆう僕はCastroviejoスタイルを秋冬に少し試してみようかな?
 
・・・

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2015年8月 8日 (土)

【図解】 TTバイクの重心特性を理解しよう

前回記事(←左側)も好評で、幾つか新たな知恵もいただけた。今回はそれらを踏まえ、安全にレースするための「基本」を確認しておこう。
 
先に結論を書くと、コーナリング一般には「後ろ荷重」が必要、TTバイクは「前荷重」、この相反が最も鮮明に表れるのが「下りのコーナリング」だよ、注意しようね、という話を書く。
 
 
<ロードバイクとTTバイク、荷重位置の図解>
人力バイクの重心は、車体中央、すなわちBB=ペダル回転軸上に位置させるべきだ。(ニュートラル荷重)
 
「坂」という要素が入ると、上り斜面ではそのままでは後ろ荷重してしまう。こんな感じ@斜度10%→ Dsc_2259_3_2身体を前に移動させれば、BB上に重心を戻すことができる。下りでは逆だ。状況によってはその修正はなくても問題ない。各自状況判断してください。
 
※ただしそれは「意識」の話。客観的には、BB真上に重心を置いていても、上りの場合、より下側に位置する後輪への荷重が増えるように思われる。つまり主観と客観は逆。(物理くわしい方あってます? ワタシ理科の苦手な文系人間です)
 
図解すると、この青いボックス「直線」部だ。
1_2
(ニュートラル感を出すために改訂してます、初稿ではもっと傾けてた)
 
コーナリングの場合には、「後ろ荷重」が基本。これはエンジン付きバイクにも共通する普遍原理。
この目的は、「減速局面に入った瞬間に投げ出されない」こと。そこで、「ブレーキング直前に」、後ろに荷重を移す=つまりサドルの後ろ側に座り直す。
斜度も考慮すれば(直線同様にニュートラル荷重するため)、オレンジのボックスのようになるだろうか。
 
ロードバイクはそもそも、あらゆる状況に対応できるよう設計されている(道が舗装されている限り)。後ろ荷重も前荷重も(ダンシングも)等しくやりやすい。下りのコーナーでも、自然な後ろ荷重から、さらに少し後ろ移動させれば、そのまま対応しやすい。
 
※コーナリングでも「主観と客観が逆」だろう。客観的には、コーナー突入前にブレーキをかけると、「慣性力」が前方向に発生し、それを前輪が受け止める=前荷重となる。それを打ち消し、BB=ペダル回転軸上に重心を戻すために、「後ろ荷重の意識」が必要となる。つまり、「後ろ荷重を意識することで、客観的な前荷重状態を幾らか和らげることができる」というのが実態かな? 
 
※※ ダンシングの場合には、身体は前に出るだろう。ただ、そこでも重心はBB上に置くべきなので(初心者は前輪にかけてしまう)、意識としては後ろ方向ともいえる。まあ例外なので、これくらいで。
 

※※※ 高等テクニックでは、敢えて前ブレーキで前輪荷重をかけることで鋭いターンを狙うこともあるようだが(トライアスロンに多いUターンでは使えそう)、初級者だとジャックナイフ転倒に終わるのでやめましょう。

 
さて、ここでの本題はTTバイク。こうなるかな?
2_3
(ちょと大げさに書いてますスイマセン)
 
TTとは「ハワイ島コナのバイク180km」なり「宮古島155km」なりに特化した変態バイクであるということを忘れないほうがいい。日本発の人気TTメーカーceepo社も、もとは宮古スペシャルのカスタムバイクだ。(クロモリ溶接では簡単にできた)宮古のバイクコース特性がKONAと共通するためにKONAでも人気になったことから世界進出を果たした歴史がある。
 
前乗り姿勢による空気抵抗削減と、前重心化による加速感(=物理的には説明困難、生理学的かつ心理学的な話かな)とが、TTバイクの存在意義。少々の下りだろうが、前重心で突き進む。
(※実際には、前述の「斜度に合わせた重心移動」はしてくださいね)
 
これでも、直線なりDH維持可能な緩いカーブである限りは、レース中は、問題ない。
(※公道練習中はアクシデント対応が必要なので別、だなんてアタリマエなので書きません)
Dsc_2259
しかし、コーナリングの基本は、二輪車である以上、変わらない。そこで、コーナリング時に必要となる重心の移動幅が、極めて大きくなる。これが問題の核心。
その状況で、ベースバー位置を低くすると、そのままでは、重心位置が前側に寄る。上の写真で想像してみよう (KONA2013、ちなみにバイクパート日本人3位デシタ)。
前に5%傾けるとこうなる→Dsc_2259_2_2 アイアンマン北海道のニセコの下りでは、これが延々15km続くわけだ。ベースバーだけ下げた状態とは、車体が水平のまま、身体だけこうなる感じ。いずれも前輪に重心が乗る。
 
僕個人にとっては、幾つかのレース経験を踏まえて、それで良いと判断するわけだ。
ただしその裏には、今回書いた「後ろ荷重」という基本テクニックがある。またこの方法は、腕を突っ張る動作も入り、ある程度の上体筋力を必要とするだろう。
 
こうした基本レベルの、また個別のスキル体力に応じた話は、ブログではいちいち書かないことが多いので、各自補ってくださいね、という話だ。
 
またこの問題は、サドルとセットで対応する必要がある。2つの図でのボックスの距離差とは、実際には、サドルに座る位置の前後差だ。ISMでは、通常は股割れの先にちょんと臀部を載せておき(写真)、下りでの後ろ重心は、後ろの幅広の部分にひっかける感じになる(上の写真ではサドル位置が高過ぎてこれに対応できない)。
 
なお、前回書いたベースバーのハネ上げの意味も、傾けた写真を見ればわかるだろう。(KONAは平坦コースなので水平にしている)
 
 
<安藤コーチからの指摘>
以上、「スマートコーチング」安藤隼人代表コーチからいただいた、「前乗り化する危険」を踏まえて、しっかり説明しておいた。
 
安藤さんからは、つまりは「フロント荷重しすぎない位置で漕げているかどうかの問題」だとして、以下の具体的な情報をいただけた。
  • 多くのトライアスリート(バイクスキルの乏しい)は低くする事でフロント加重が強くなり結果的にコーナーでより危険な状態になり易くなる
  • 特に昨今のTTバイクはトップ長が長く、ベースバーのブレーキやシフト(Di2)の位置が遠い傾向が強い
  • 私(=安藤さん)は、できる限り下りの際はベースバーの手前を持つことを指導
  • 可能であればベースバーの先端をカットしてブレーキとシフト自体が近くなるように改造する
  • ドロップバーであっても同様で、ブレーキバーを握ろうとして下ハンドルの奥を持てば必然的にハンドル荷重が強くなる
  • ブレーキバーに指が届くギリギリの状態で手前に手を置くと腰も後に引き易くなりハンドルへ荷重しにくいニュートラルなポジションになり易い
  • もしそれができないようであれば、ハンドル位置が遠いという事
練習方法の動画も紹介いただく。細かく&大きくバイクを振る動作で、重心ブレが明確になりそうだ。大学ロードレース界最強の鹿屋チームも、こうゆう基本を大事にしてるんだろう。僕もこうゆう低速での細かい動きは、練習のスキマ時間のあいだじゅうやってるけど、ここまで徹底してやったことはなかった。
 
<ボトル落下対策>
ちなみに僕は、ジェルも塩もココナッツオイル も、ボトルに濃縮して溶かしておく。これだけは落としたら致命的で、できれば拾いに戻るかも。
そこで落下対策として、「ボトルケージのボトル接触部に、ゴムテープを巻きつける」
Img_3347
効果バツグン、これ始めてから落としたことがない。
当然ハメにくくもなるので、十分に練習して、ベストな巻きの厚さを調整しておこう。   
 
 
<必読コラム>
シルベストサイクル山崎敏正さんがブログで注意点を纏めておられる。一部引用:
 
「下りは練習してはいけません!!」
自然に上手くなってくるのを待ちましょう
まちがっても限界速度を試すようなことしてはいけません
無限大のリスクのわりに得られるものはわずかですョ
下りの「コツ」だけ真似をしてみてください
まったくその通りだ。本できちんと読むのがベストだけどその前にブログも読んでおこう!
 
流行りのアクションカム気になる。 レース中の撮影が許可される場合、記念映像を撮れるほか、ドラフティグ証拠映像も撮影可能! 練習中では事故時の責任明確化効果も。5,000円のでもいいのか?

2015年8月 5日 (水)

TTバイクでの曲がり方 〜IMジャパン@ニセコをTTで走らざるをえないアナタへ!?

アイアンマンJAPANのコースがついに正式発表。レース20日前に告知するにしては、ずいぶんなコースだ。。もっとも気になるバイク、特に坂の斜度やコーナーは、ルートラボで詳細に確認できる。土地勘ありそうな「あきらくん」作成のを紹介↓
100kmあたりからニセコの山岳区間に突入。15kmで620mを斜度4%で上り、12kmで650mを斜度4.6%で下る。北海道らしくカーブが少なめかな。4km5%ほぼ直線なんて区間もある。
Bike_pitch
僕が経験した下りコースと比較してみよう。
伊豆CSC(競輪学校の自転車専用サーキット)では1.2km斜度6%の直線の下りで、最高70kmhを記録。デビュー戦で! 怖かったが、この体験が僕をトライアスロンへ繋げた、唯一無二な体験だった。なお過去、この下り終わりのカーブで、複数の死者が出ていると思う。自転車を使う競技とはそうゆうものだ。
会津うつくしま大会では、8km、3%のほぼ直線区間を、DHポジション固定で50kmh台後半で巡航した。
 
ニセコの斜度は両者の中間だが、距離が長いし、DHポジションで攻めれば70kmhを普通に超えるのではないだろうか。しかも、バイク115km過ぎの疲労の中で!
 
<バイク選択の考え方>
バイク選択について、竹谷賢二さんがFacebookで発表されているので、引用する。
 
目安とするのは、獲得標高、長いヒルクライムの有無、下りワインディングの難易度、といった地形的な要素と、何キロで走っている時間が長いのか
 
エアロ効果の活きない低速の時間が大部分を占めればTTバイクを選ぶメリットはほとんどありません
 
ドロップハンドルでの下りの安定性、持続性、コントロール性、それらからくる平均速度向上は、直線をTTで下るという瞬間のメリットよりもはるかに大きい

と考察した上で、具体的な提案は3つ。

  1. ロード+エアロバー+軽く上れる40~60mmハイトのホイール
  2. TT+軽く上れる40~60mmハイトのホイール
  3. TT+高速巡航性高いホイール
平地仕様の3の選択は6時間を切る目処が立つアスリートのみで、そうでなければ手持ちの機材の組み合わせで実現できる1または2の選択が良い
 
たぶん9割を超える参加者にとって(=KONA出場権狙い含め)、1.丸ハンドルのロードバイクが最適だろう。それでも、TTバイクで出たい or ざるを得ない、という方は、多数居るだろう。僕も今TTバイクしか持ってないし。そんなアナタのための、TTバイクでの曲がり方、下り方を確認しておこう。
 
<TTバイクに限らない基本>
「重心を下げること」が、コーナリングのとにかく基本。
 
一番簡単かつ重要なのは、最も低い位置=つまりペダルに体重を乗せること。曲がる外側のペダルに「立つ」感じで、サドルから腰を軽く浮かす感じ。本当に浮かすと逆に全身が不安定化するので、荷重が移動したのを感じれたらOK。(男性は座り直す際に「挟まれない」ように)
これだけで、重心が地面スレスレの高さに位置することになり、劇的に安定するはず。
 
ただし、「立ち上がる」という意識だと、頭や上体も上がってしまいがち。とくに頭部は数kgの重さがあり、体幹よりも自由に位置を決めれるので、不安定化要因となりやすい。
 
そこで、頭は出来る限り下側に保つことも大事。
これには、視線が地面に近くなる、という大きな効果もある。
ドロップハンドルなら、下ハン部分を持てば、自ずと頭は下に下る。しかしTTハンドルでは無理。これが、TTバイク特有の問題だ。
 
<TTバイクでのコーナリング法>
そこでポジション設定では、1.ベースバー位置を低めにできると良いと思う。つまり、ステムを下げ、可能ならばハンドル握り部が下がったハンドルを選択する。ただし、DHバーの高さは維持した方が良いので、スペーサーで上げることになるだろう。
なおこの方法は、「直線はDHポジション、ベースバーはほぼコーナーでだけ使う」という方に向く。直線でもベースバーを多用するなら、直線でも走りやすいベースバー設定が必要(だったら最初からロードバイクにすべきだが)。
 
※※※ 追記 ※※※
「スマートコーチング」安藤隼人代表コーチよりメッセージいただきました(感謝です)

とり急ぎ結論だけ書くと、ベースバー位置を低くした場合、フロント加重が強い、いわゆる「前乗り」の状態になる。ことに下り斜面では、さらに前荷重になる。この状態でのコーナリングは、特にバイク初級者では危険なので、避けた方がいい。 
詳しくは、ほかにもいろいろいただいた情報も併せて、次号で書こう。
 
自転車のポジション変更は、ある意味、外科手術なので、できれば信頼できる主治医の先生に見てもらうのが一番。
 
そしてコーナリングの際には、2.頭を下げることにより、重心位置を下げる。
 
ただ、この方法は、腕筋への負担が大きい。そこで、3.ベースバーを上向きに傾けて、前側に滑り落ちようとする体重を支えやすくすることが有効だろう。
10687175_10202635373341193_248369_2(僕はDHまで上向き設定)
 
ベースバー部分に手を乗っけてるだけなら問題ないが、頭を下げるコーナリングでは腕が疲れる。そこでDHポジションを長く保てるかどうかは大きな要素かな。DH主体でたまにベースバーを持つのなら良いが、ベースバーを持ち過ぎていると、肝心の下りの途中で腕を支えきれなくなるかもしれない。こわいこわい!
 
もう1つ注意は、TTバイクでは、BB位置が低めのジオメトリが多いと思う。
つまり、コーナリング時にペダリングを続けていると、ペダルが路面にぶつかる可能性が高まる。普通それくらいで落車はしないけど、さすがに高速では危険だ。その意味でも、コーナーでは外足荷重して静止、を徹底したほうがいい。
 
<栄養補給など>
低Na症に陥ると集中力が落ちるので、しっかり塩とってから下ろう。とくに、長い上りでNaが流出してるはずなので! 塩タブレットでもよいが、含有量が少ないので、小さなボトルに濃厚塩水を用意するのも手だ。
  
 
あと、ここの下りでは、本当に冷えるかもしれない。特にお腹。たしか9月の箱根が寒くてびっくりして、観光パンフレットをお腹にはさんで降りた記憶がある。雨になれば凍えるかもしれないので準備を。
 
以上、下りを安全に、安定して走るための方法です。1秒を刻むような攻め方はしないほうがいい。てゆうか禁止。

2014年10月12日 (日)

2014振り返り2「技」  〜武器だったバイクの不発

アイアンマン世界選手権のライブ中継、2,000を超えるトライアスリートが延々ゴールし続けている。無限ループのような単調な映像だけど、朝7時前のスタートからも、そして此処にくるまでも、みんなそれぞれの長い旅のゴールだ。
夕方6時(=日本午後1時)を過ぎると暗くなり、深夜24時の完走リミットと戦う方々はこれから勝負。最高齢は84歳のアメリカ人が二人。ともに職業欄には「退職者」ではなく「科学者」「エンジニア」なと明記しているのが元気だ。そして82歳の稲田さん。街灯も少ない延々と続くハイウェーを今も走り続けていることだろう。すごいなあ。
 
よくもまあこんなの走ったよなって我ながら感心する、笑。しかもカテゴリ上位13%の順位でね! そのときKONAのハイウェーで痛感したのは、バイクのパワー不足だった。もっと強く、速く、とその時は思った。。
 
あれから1年。村上トライアスロンのバイクパート動画、10〜11秒、右から私が表れる。あかん走りだ。
撮影はブログとレース両面での友達ハルさんの自転車に搭載したアクションカム:http://ameblo.jp/halchuma/entry-11932431302.html
 
一見はやくて空気抵抗も低くて、よい走りに見えるかもしれない。でもポジション(=主にサドルの前後上下位置)が適正ではなく、スムーズに回転できてないのを、筋力任せでスピードを上げている。そのせいか後輪の軌道がブレてるようにも見える。カメラ側のブレかもしれないが。
動画1分頃には失速してみんなに追いつかれている。無駄なペース変動なわけで、実際、残り5kmあたりから体感パワーが落ちた。そしてランでは1km10秒くらいスピードが落ちたのは、レースレポートで書いた通り。2年前の村上のロードバイクでの走りの方が理想に近かった気がする。
 
この動画をFacebookに上げたら、「フランキーたけ」こと長谷川毅彦コーチhttp://ameblo.jp/ftakeh/  よりコメントを頂く。プロコーチから直々に有り難いことです。
 
上死点付近で踵がかなり上がっているので、その後どうしても踵が下がって、入力し始めが遅いと感じているのではないかな、だから重いギヤを無理やり踏んでいる感じなのでしょうか?
 
僕はペダリングの入力は線ではなく点だと思っていいて、それ以外はその力(重力、惰性含む)を殺さないで、接線方向への回す動作かなと思うのですが、、。
 
確か以前見た動画の方が良かったんじゃないかな?後ろからなのでアバウトですが、、、。
 
その以前の動画が、こちら緩斜面上りのもの。なるほど、こっちのが回せてる。
 
問題は、これを撮った8月中旬以降、この動作での走り込みは殆ど出来なかったこと。この頃バイクにやたらとトラブルが多発してて、対策に追われていたという事情もあるのだけど、たぶん、去年の僕ならその間にもなんとか走ってたことだろうと思う。それが、前回書いた「勢いの不足」だ。
そんな状態でレースに挑み、スイムで遅れてバイクでの大逆転を迫られて、平均40kmhを維持すべく、手っ取り早くスピードを出せる安易なペダリング技術に逃げた、といったところ。
 
村上に限らず、今季のバイクは、技術要素の高かった館山を除いて、前年までより軒並み落としている。
 
ではどうすればいいか? というと、まずポジションに関しては、理論派ベテラン市民トライアスリートなトモダチhttp://triathlon-nagoya.seesaa.net  がズバリなアドバイス:
 
やや後ろ乗りになっているので、大腿直筋が使いにくそうです。
オフの間にもうちょっと前乗りを試してみては
 
そう、動画撮った夏はじめから、サドルをもう少し上&前にする前乗りポジションを実験していて、感触は良かったのだが、ハンドリングの難しさなどを恐れて元に戻していた。前乗りは公道トレーニングが怖いんだけど、、
 
村上から送り返したバイクは、段ボールは資源ごみに出したけど、中身は梱包したまま。でも11月くらいからバイクを再開して、ポジションを再調整し、年内には固めてみようかと思う。これまではシーズン中も探り続けていたけど、そろそろ固めてみたい。
 
ポジションさえ固まれば、全体的な技術は上がっているので、後は「身体能力」を勢いを高めながら上げてゆく。そして、もう少しだけ回転数を上げて、一定ペースでぶっちぎれるように。
 
バイクは技術・経験・トレーニングの蓄積がストレートに結果に反映してくれる。身体的な故障もしにくい(少なくとも室内を走っている限りは)。そしてトータルタイムに占める比率がもっとも高い。トライアスロンはまずもってバイクが大事。
 
失敗を積み重ねながら、経験値は確実に蓄積されている。
 

・・・おしらせ・・・

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  • そう、バイクが一番タイムを伸ばしやすい

2014年9月21日 (日)

43歳フォイクト選手、引退試合で世界記録! →ハッタリ選手も挑戦する! か、な、、

43歳のドイツ人、イェンス・フォイクト選手の引退試合は、アワーレコード=自転車1時間走の記録への挑戦。そして51.1kmという世界記録を樹立する。狭い250mサーキットをじつに205周。技術も大事だ。

こちら動画はその1時間の完全版。1周ごとに歓声あがって、緊張感もあって、て、おもしろがれるのは自転車乗り限定にちがいないが、、 2分30秒あたりスタートです

40歳を過ぎると体力が落ちる「らしい」。らしい、とは僕だとここまで毎年速くなってるし、個体差は大きいようだが。トライアスロン3種目の中では、自転車が最も衰えが遅いそうだ。

なぜか? と僕なりに考えると、自転車の動作は、力をじわりと入れてゆくからだと思う。
他のスポーツだと、野球のピッチャーの選手寿命が長いのは、バッターのような反射神経と瞬発力が不要だから、と考えられる。サッカー選手が短命なのは逆の理由で、反射神経と瞬発力が大事だから。格闘技の要素もあるからケガも多いのもあるけど。
水泳が短めなのは、反射神経と瞬発力の要素が強いのかな。ランニングだと、ゲブレシラシエ選手などは40手前まで世界最強を保ってたし、力の使い方次第なんだとは思う。
ちなみに僕もキャリア5年目でランニングは毎年速くなってるけど、それは前が酷かったからだw
 
今回の世界記録には、背景もあるだろう。
今年、競技団体のUCIがルールを改訂し、トラックレーサー=つまりはTTバイクの使用を認めた。これ、最初に新ルールで記録にチャレンジすれば世界記録を高確率で出せる(出せなかったらかなり恥ずかしい)、ということだ。
そして、自転車競技界では紳士協定が支配するので、初モノを手にするのはそれなりの大物となる。長年トップレベルで活躍した最年長選手の引退試合ともなれば、マルティンやウィギンズのような、より強いけど若い選手たちの出る幕ではない。(たぶん)
 
だとすると、UCIが今になってルール改訂したことが大きいわけだ。従来UCIは器材を縛る方向でルール改訂を繰り返し、「オブリーいじめ」ではないかと批判されてもいた。今回は逆にTTバイクに門戸を開いている。
 
その最大の動機は、トライアスロン市場の急拡大によるTTバイクの開発競争だろう。最新TTバイクで記録を大幅更新しまくれば、完成車150万円とかザラなレース車が、さらにガンガン売れることだろう。
ここ数年かの風洞実験での出力削減競争には、いーかげん客も飽きてきて、実戦で一番速いTTバイクはなんだ? て気分になってると思うし。
もはや、アワーレコードを一気に進化させたオブリー選手が自転車を自分で溶接して、一部の部品は洗濯機から流用してた頃とは、まったく違うビッグビジネスの世界に突入しているわけだ。
 
今後、マルティンのようなTTスペシャリストの年俸は、主要メーカー間での争奪戦でハネ上がるのではないだろうか? そして、フォイクト選手への仁義を保ったタイミングで、アワーレコードに続々参入してくると予想する。
 
もう一つ、ありうる理由は、「何らかの抹消したい事情のある記録」の上書き消去。これは一般論ですけども。。
 
たとえば水泳背泳ぎのフリップターン導入は、鈴木大地選手のバサロ記録のリセット狙いなわけだ。ちなみにバサロは生命の危険がある危険な泳法なので、禁止されたのは当然であり、けしてニホンジンイジメではありません。むしろ、禁止間違いなしのヤバい技術を本番一発でぶつけた鈴木大地側の戦略と度胸が素晴らしい。
 
まあ、器材は進化し続けてるので、例えばインデュライン選手と同列に比較しようとすれば、日本の競輪くらいに厳格なルールで縛る必要がある。そっちに走ると、やはり競輪のように衰退してしまうだろう。器材にかぎらず競技形式その他なんであれ、ルールでガチガチに縛り続けて発展するものなんて存在しない。
 
・・・
で本題、今の僕は、トライアスロンのバイクパート40kmを、せいぜいAvg.39kmhちょいでしか走れない。一方、フォイクトさん(=既に引退したから選手でなく、さん付け)はAvg.51kmh。後半の最高速ラップでは1周53kmhに届いている。
いろいろな条件差をさしひいても、この12kmh差は大き過ぎる。幾らか詰める余地があるはずだ。
 
毎日90分の練習時間を(3種目合計で)確保し、週に2-3回のローラー中心の高負荷トレーニングを続ければ、その12kmh差は詰められるはず。
 
それが、フォイクト選手に対する、僕なりの挑戦。
 

・・・おしらせ4つ・・・

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2014年5月15日 (木)

キミの高級自転車を狙うプロ泥棒の手口を知っておくべきだ

「高価な自転車盗まれました、許せない! 拡散希望!」
みたいな投稿がFacebookで時々回ってくる。同情はする。けれども、走ってる途中にナイフで脅されて奪われたとか、ピッキングで自宅に侵入した窃盗犯が乗ってったとかのケースは(日本国内では)聞いたことがなく、多くは、以下に記す事実を理解さえしていれば防ぐことのできたものであるよう思われる。
大原則: 相手はプロ泥棒である。
黒ガラスのワンボックスカーを横付けして「仕事」してるのだ。
考えるべきは プ ロ 相 手 の 盗 難 対 策 。
プロに開けられない鍵は存在しない。
制約は、解錠or破壊ツールの性能、所要時間、作業環境だけ。

 

<主な自転車盗難器材と所要時間> 
    • ボルトカッター: チェーンや小さいU字ロックは一瞬
    • 自動車ジャッキ: U字ロックを広げて壊す。2分以内
    • カーボン製の金ノコ: U字ロックを切る。10分
    • 液体窒素: 数秒

出典:「自転車泥棒が語る「自転車の盗み方」と「盗難を防ぐ方法」」WIRED http://wired.jp/2012/11/13/bycicle-thief/
 
たとえば、人目につき、防犯カメラのあるコンビニの店先なら、大型ワイヤーカッターは使いにくい。ナンバープレートを隠したままワンボックスカーにひょいとのっけるのもやりずらい。(※不可能ではない)ただし、ダボダボの服に隠せるサイズのカッターなら使える。留めかたによってはネジを回すだけで外せる高額パーツもある。ホイールなどレバー1つだ。
<対策> 
「作業完了」までに、より大きな器材と作業時間とを必要とすることは、プロ窃盗者にとって発見のリスクを高める。モノが数万円程度であれば、リスクに見合わないケースが増える。
たとえば数万円程度のスポーツ車であれば、短いU字ロックを丈夫な柱につなぎ、車輪とサドルにワイヤーロックを通すといい。「盗難可能だが、面倒」な状況を作ることができる。上記記事インタビュー相手の泥棒氏が嫌がる「Kryptonite」のは、U字ロックとワイヤーが一体で便利そう。(そして重そう&お値段最高)

街乗り専門ライダーには太さ数cmの巨大ロックをたすき掛けしてる人が多い。多くはカバーとの二層構造なので液体窒素でも一瞬では「作業完了」できなそうだ。

すくなくとも、値段に0が増えるレース用高額自転車からは目を離してはダメ。ゼッタイ。
目を離した瞬間に盗難へのカウントダウンが始まるくらい思っておいた方がいい。鍵は、少しカウントを遅らせる程度のもので、でもそれは数秒間だけかもしれない。
みなさん平気で止めてるコンビニとかも十分危険なのだが、被害が少ない気がするのは、数分以内に戻るし、本人以外も注目してることが多いし、防犯カメラもある、という複合要因だろう。
通勤などでレース車を移動に使う場合、前輪外して輪行袋に入れて室内に持ち込むのが基本。警備員や監視カメラ程度で安心してはいけないのは、彼らの手口を知れば、説明するまでもないだろう。
※たまにいらっしゃる、100万円程度のおカネなら使いみちに困っていてしかたなく毎年最高級バイク買い換えてるような方を除きます。

 

<SNS拡散について>

プロだから、盗難後そこらへんフラフラ乗り回したりしない。稀にそうゆうことはあるだろうから、探して−というSNS拡散を否定するものではないけれど、殆どの場合それは「ご焼香」のようなお別れの儀式となるだろう。それはそれで心の整理をつけるために効果はあるだろう。

 

現実的に自転車を取り戻したいのなら、ヤフオクメルカリその他のオークションサイトを見張り続けるほうが可能性はよっぽど高いだろう。警察もそこまでは捜査してくれない。ただし完成車のまま出す愚かなプロ泥棒はいないので、先に探知不能なパーツをバラ売りされ、わかりやすいフレームは忘れたころか、もしくは別ルートを探るだろう。自分で乗りたいというマニアもいるだろうし。それでも可能性はいくらか上がる。
SNSで共有されて価値をうむ情報とは、「どんな施錠で、どこでいつ何分間放置したのか」ではないだろうか?

 

<販売店さんへ>
これらの話は、所有者が知らないはずがない「常識」であるべきでしょう?
だとすれば、販売店が購入希望者にまず伝えるべき基本の1つとなる。
本当に伝えられ理解されていならば防ぐことのできた盗難、がこれだけ多いのは、「売る方はきちんと伝えたが、買う方が、まさか自分は、と受け止めていなかった」というケースかとは思う。しかし、販売店サイドでのコミュニケーションの改善余地だってあるのではないだろうか?
 
・・・
スポーツ自転車の楽しさは、ぜひみなさんに体験してもらいたい。僕もそこからのめり込んだ人間だから。だから泥棒なんかに負けないで、きちんと対策してほしいと思う。

 

より以前の記事一覧

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『覚醒せよ、わが身体。〜トライアスリートのエスノグラフィー』

  • 初著作 2017年9月発売

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