はじめに断っておくと、この投稿で「糖質制限が良いか悪いか」という話はしない。そんな単純な問いに価値はない。
今から書くのは、30−40歳から、耐久スポーツで速くなりたい人に向けての、トレーニングの中身と栄養補給との複雑なバランスの話だ。いいかえれば、どのようなエネルギー状態の身体でトレーニングに臨むのかという話。
きっかけは、先週デイブ・スコットのセミナー。
< "The Man" Dave Scott >
Dave ScottはもともとUC Davis(カリフォルニア大デイビス校)で運動生理学を学ぶインテリな海スイムのエリート選手で、ワイキキ大会(初期アイアンマンのスイムパートと同じもの)でも優勝している。
26歳の1980年、最後のオアフ島開催となった第3回IRONMANに初出場し、前年まで11時間台の優勝タイムを9時間24分へと引き上げ、アイアンマンを完走目的イベントから速さを競うレースへと変質させた。ちょうどABCテレビにより全米TV中継された回で、注目が高まるタイミングでのことだ。で全米が「アイアンマンすげー!」てなり、人気が高まってゆく。以後、通算優勝6回、2位3回、最後の完走は42歳で8h28m(5位)。とWikiに書いてあった→ https://en.wikipedia.org/wiki/Dave_Scott_(triathlete)
彼の生きた歴史がそのままアイアンマン&トライアスロンの歴史になる、正真正銘のLiving-Legend。最近は日本語でレジェント言われる人は多いけど、ここまでの人はほぼいないだろう。日本国内での知名度が(トライアスリート以外では)ほとんど無いと思われ、日本のスポーツ界のシマグニ的状況は残念なことだ。
運動生理学を知るインテリが自ら競技の限界を引き上げていった過程に大きな意味があると思う。だから科学的な=つまりは再現可能な手法によって、トライアスロンという競技を発展させることができた。
そんな彼が、ライブで伝えてくるものは、他では得られない。
まず、64歳と思えない身体が、実に若々しい。過酷な耐久競技で世界トップを40代まで戦い続けるということが、むしろ健康に良いということを体現していると思った。もちろん、それで健康を害する人は現実にいるわけで、そこがDaveの凄さの1つとも言えるわけだが。
< 菜食&高脂肪食 >
特徴的なのは、ベジタリアンであること。
(この思想からも、実際の取り組みからも、変なクスリとか使ってないのが強く推測される、と余計なことも書いとこうか)
32歳の1986年、当時驚異的な新記録8h28mを出した頃の著書 『デイブ・スコットのトライアスロン』 を読むと、当時は7割超を糖質(穀物など複合糖類)、タンパク1割、脂質1割、くらいの割合。タンパク質は体重1kgあたり1g要らないと少量だ。
現在では、LCHF=糖質抑制&高脂肪食(※良質な油脂に限る)をトレーニング期に試すことを推奨している。推奨しているのは食事法そのものではなく、試すことの方ね。方法論とは何でもそういうもの。
レース中は吸収できる範囲内で(※超えて失敗する人が多い)エネルギー摂取するのだが、その補給食も最近は高脂質化させていて、あるケースでは補給ドリンクの7割が脂質であるという! 油に糖類とか混ぜてる感じ。
ここで重要なのは目的。耐久スポーツのための高脂肪食であるということ。
この目的が無い場合に、、低糖質食が常に良いものだとは、僕は思っていない。実際、2014年発表の海外大規模調査では「糖質制限食による体重抑制」の効果が否定されている。体重は結局のところ総カロリー量で決まるとシンプルに理解しておくのがいい。
このテーマは、 鈴木功医師 が僕の情報網内での最先端で、興味あればFacebookフォローおすすめ。著書『ボーンフロスでやせる間ファスダイエット』も参考になる。(ちょうど今読んでる途中)(ちなみに推奨の地鶏の骨の煮込みスープは昔から僕よく作ってる)
鈴木先生の方法論とは、脂質を極限まで制限して、病的な状態を脱すること。そして糖質を積極的に摂る。
Daveとの違いは、身体性能偏差値70以上の世代最速を目指す耐久アスリートか、偏差値30-40の病的状態か、といったところだろう。
背景や目的が違えば、方法論が変わるのは当然。ただし、なぜそうなるのか? という理由を理解することは、どちらにも有効だ。だから、「糖質制限が良いか悪いか」という単純な問いには、なんの価値もない。
< 高脂肪食で速くなる理由 >
「若いフルタイムのプロ選手」であれば、長時間の練習により、長距離レースへの対応ができる。古いトレーニング理論はこのことを当然としているものが多い。なぜなら対象が若いエリートアスリートばかりだったからだろう。
だが少なくとも「35歳以降の市民アスリート」では、それは無理。一瞬できたとしても続けられないだろう。限られた時間での成果を最大化せねばならない。
このテーマは最近現れたもので、最新情報をチェックするメリットが大きい。これは日本語だけを追っていると遅れてしまうのは、英語情報と比べてればわかるだろう。
そんな中で注目されているのが、低糖質食により、トレーニングの初期から血糖値が低めな状態=つまりレース後半の状況をはじめから作ること。
これと、HIIT=高負荷インターバル系トレーニングとを組み合わせる。
すると、短時間でも長距離用のトレーニング効果を出せる、というわけだ。
これら、若いプロ選手も活用している方法ではあるのだけど、市民層がもっともその効果を享受できるだろう。
こうした背景から理解することが重要。低糖質食にはパフォーマンスが落ちるデメリットもあるからね。どちらをどれくらい重視するか、が大事。それは結局、自分で考え、感じて、決めていくしかない。
< アイアンマン向けの高負荷トレーニング >
トレーニング内容としてDaveが強調していたのは、高強度トレーニングにより、25秒〜5分間ほど有効な2a型速筋を鍛えること。つまり20秒のタバタ式とは違う。この手法も、僕が2013年に多用していたものと共通する。
長くなったので、この話は次回にでも。
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以上まとめて、「長距離だから長距離そのまんまの練習」なのではなくて、「必要な要素を分解して、それぞれに対策する」という要素分解の発想といえるだろう。
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