駒大・工藤も"ぬけぬけ病"? 「反復性のトレーニング原則」に潜むリスク
箱根駅伝2018、最も応援するのは大学院の法政でも東大近藤(一区予定がインフルエンザで流れた〜ま来年またチャレンジの方が注目されて美味しいとおもう)でもなく練習パートナー(自称)である駒澤大さんだったのだが、7区でエース工藤選手が「脚が抜ける」という症状に襲われてしまった。この差でシード落ち。残念。
この症状を、箱根駅伝OB俳優さんがツイートしている。
駒沢大7区工藤選手の異変。20年くらい前から、突如として長距離界に蔓延し始めた、片脚の力が抜ける例のヤツかもしれない。未だ原因も治療法も不明。有名選手だと早稲田大学出身の竹澤選手が、これを原因に引退している。実は私も大学2年で発症。未だ抜けるような違和感がある。#箱根駅伝
— 和田正人 (@daaaaaawaaaaaa) 2018年1月3日
まだ断片的な報道しか出ておらず、工藤選手の本当のところはわからないのだが、ランナーに多い症例であることはわかった。以下、一般論として話を進めよう。
そのツイートで紹介されて突如注目されているのが、福岡の治療院の西山理学療法士による「足が抜ける陸上長距離選手の為のからだドック公式ブログ」の記事
さっそく翌朝の「めざましテレビ」に電話出演されていた。速!
それによると、長距離ランナーの足が抜ける症状とは、
カックン病、ローリング病、ランナーズジストニア、足に力が入らない、ふわふわする、棒になる、足を前に持ってこれない、踏ん張れない、ぬけぬけ病…
といった表現をされているようで、過去多くのトップランナー達をひきずりおろしてきたらしい。
この症状の特徴とは、モモを前に出そうとする(=股関節を前側に曲げる)と、土台である骨盤が後ろに下がってしまうこと。それが上記ブログの動画。筋肉の部位でいえば、本来使われるべき腸腰筋に指令が渡らずに、モモ(ハムストリングス)だけで動かそうとしてしまう。無意識に。
腸腰筋にダメージを受けているわけではないので、間違った動作意識が脳に刷り込まれてしまった、ということだ。
西山療法士の見立てによれば、
- 原因: 繰り返しのトレーニング刺激
- 対策: 動きのリズムを変える
- 理想: 症状が出る前に走るのをやめる
とのこと。
やめる、とは、間違った動き(の指令)を脳と神経回路に刷り込まないためだろう。この間もスイムやバイクでクロストレーニングは可能だ。
迷いがあるならサボる、はトレーニングの基本、だと僕は思っている。「迷いがある」とは、つまりなにかが引っかかっていて集中しきれない、という心身の状態をいう。
こんな話、室伏広治さんも新著『ゾーンの入り方』で書いていた。繰り返し練習から脱却しろと。
この本は、体力的にかなわない若いライバル達(=その幾らかはケミカル製)に対して中年がオーガニックに対応するための考え方についてのもの。体力勝負をかければ過労故障は必至。そこで室伏さん、反復的トレーニングをしない、という選択をした。意識を変え、様々な身体部位を活用しながら、潜在能力を引き出すのだ。
その中で、トレーニングの大原則である
- 反復性の原則=同じ動作を繰り返せ
- 斬新性の原則=負荷を上げ続けろ
にツッコミを入れる。
これら伸び盛りの若者ならまだよいのだが、あるところから生理的限界にぶちあたる。とくに30過ぎてこの勝負にこだわると、過労故障は必至なのだ。
そこで彼は、単純反復の動作から離れて、不規則な動きに即興的対応をする、という動作感覚を磨いてゆく。「感覚が常に内在する動き」という表現をしている。感じ続けなければ成立しないようなヤヤコシイ動きにより、体を慣れさせる、ということをしない。
筋力のない赤ちゃんが、生まれてから立ち上がれるようになる1年間の動きをマネして、そこに人間本来の動作がある、なんてこともしている。筋肉ムキムキの大男がハイハイの実践研究。
「安定した人工的状態でしかトレーニングしてないから、体性感覚を失い、怪我をする」という室伏さんの仮説は、長距離ランナーにもあてはまるのかもしれない。
自分を成長させるために、あるレベルを超えた先に必要なのは、変化し続けること。 地道な繰り返しは、成功体験を得やすいし、努力という社会全体の価値観にかなうものでもあるけど、どこかで手放してみるべきなのだろう。
・・・
<おしらせ:愛知・三河な方へ>
本屋さん少人数トークショーやります。
日時: 2018/1/7 (日) 14:00-15:30ごろ
会場: 幸田駅前書店(愛知県JR幸田駅前)
料金: 900円、ワンドリンク付き(ビール、コーヒーなどなど)
定員: 10名程度(先着順)
詳しくはこちら: https://www.facebook.com/events/1495205834114131/
(フェイスブック見れない方は http://morrisseyhonwatomo.wixsite.com/kotabooks からお問い合わせを)
<ついでのおねがい>
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