川内優輝のグローバル行動力 〜プロアスリートの世界視野について
「川内優輝はなぜ海外連戦ができるのか? お金をかけず、賢く転戦する仕組み」 とスポーツナビ2017年12月7日のインタビュー記事。タイトル通り、彼の海外レースのマネジメントが説明されている。
<スーパー・グローバルな川内選手>
初マラソンの別府大分毎日2009以降、76のフルマラソンを走り、うち海外は33=4割超。初期は市民マラソン入賞ご褒美の海外レース派遣を狙っていたというのがかわいいのだが、日本代表で世界選手権に出た後の2012年デュッセルドルフから、海外大会側から招待されるようになる。
直近3年のベストタイム2時間10分切りで最高位の「ゴールドラベル」を保持。このレベルのアフリカ以外の選手は世界的に希少だ。のみならず圧倒的な完走回数、さらに好記録の数も多い。東アフリカ系選手は賞金をでっかく稼ぐ必要があり、コンディションとレース展開から勝負に絡めなくなると、さっさと棄権することが多い。川内さんは趣味(とトレーニングの一環)なので、毎回それなりにがんばるので、良い記録が出やすい。
おまけにフルタイム公務員。世界のランニングファンに知名度が高く、格の高い大会が欲しがるグローバルなランナーの1人だ。
往復の飛行機代と宿泊代(+たぶん滞在中の食費含む全てのコスト)を出してもらうまでは公務員の副業禁止規定でも問題ないようだ。それでも大会側にとっては出走料を払わずに済むわけで、二度美味しい😁
書かれてないけど、おそらくはエージェントにとっては、この出走ギャラに相当する部分をそのまま手数料として取れて、それでもクライアントKawauchiの利益を一切害さないわけで、商材(?)としても美味しい😁😁
<スーパー・ドメスティックな実業団チーム>
もう一つの注目は、この2ページの後半。
実業団系のランナー&マネジメント陣が、川内優輝選手と、これらの情報交換をしていない(というより、「教えて」と言えてない)ことが推察されるのだ。
なぜそうしないのか?と推測すると(あくまでも一般論ですが)
1.グローバル方面への興味が薄い
2.プロからアマチュアに対して「教えて」といいたくない
2.はブラックジョークなんだけど、1.は大きいんだろう。
実業団はどうしても駅伝を重視せざるをえず、マラソンは出るならTV中継される国内主要大会で露出したいはず。実業団というビジネスモデルにおいてはそれが正しく、一概に視野が狭い等々批判するつもりはない。
しかし、世界で戦うための競技力育成としては、また別だ。
この環境の中では、国内最高峰であるはずのニューイヤー駅伝には短距離1区間だけいう排他的なガイジン枠が存在し、世界と戦う気がさらさらないことを堂々と示している。(高校のような選手獲得競争が心配だというならともかく)
そして選手も大会で「日本人1位」であることを(実質)最高の目標としている。
そんな環境だ。
<スーパー・アスリートを作る環境>
スポーツで世界レベルで戦うためには、世界の最適地で、その空気感のようなものを吸収する、環境要因が重要になっていると思う。競争が激化し、競技レベルが上がるほど、その傾向は加速するだろう。
福岡国際マラソン2017は、ある意味、伝統のケニア高地合宿所(モーエン)vs. 新興NIKEオレゴン(大迫傑)という世界の二大ランナー産地の地域対決だった。
川内選手は、練習環境こそ(かなり)劣るものの、これら海外レース経験を、特徴であるタフな勝負強さにつなげているように思う。それによって練習量では圧倒されるプロランナー達と対等に勝負し、何度も勝ってきた。
いやそれとも、駒沢公園という環境は実は世界トップに迫るほどの最適地なのか?😁
とギャグで書いてみたのだが、あらためて考えてみると、川内さんはそこで常に「見られている」ことで、集中力を自動的に高めることができる、さらに「市民ランナー代表としての意識」を毎度確認もできていそうだ。
そんなメンタル面のメリットは、彼にとっての「世界トップに迫るための環境」になっているのだろう。
一方で、日本のトップ長距離ランナーにとって、実業団というビジネスモデルは国内でプロ活動をするためにとにかく現実的。その枠内で活動する限りは、世界転戦は難しいだろう。
でも個人として資金源を獲得し、エージェントなどふさわしいチームを組めるのなら、世界規模で活動する道が拓けてきた。大迫選手はその最高の例だ。その方面での一手段を紹介しているのが、この川内選手インタビューだ。
あらゆる競技において、プロとして世界レベルで競うのなら、視野をグローバルに拡げ、また活動地も拡げてゆくことは、これからの大きな流れになるだろう。特に2020年の五輪終了後にはなおさらだ。
日本の実業団という環境が恵まれているのは間違いない。ただ世界規模で見た場合に、そのための最適地であったのは、1960年代〜90年代くらいまでの、おおよそ30年間だったかなと思う。まさに1 generation。経営の世界では「会社の寿命は30年」という格言もある。この経験則は極めて強力なもの、関係者が数十万人にもなるような超優良企業すら消滅させてきたほどのものだ。そこから逃れるためには、それなりの変革は必要だ。
ローカル県職員な川内優輝の(意外な)グローバル性と、グローバル企業の多い実業団の(実はの)ドメスティック性。対照的な両者それぞれに合理性はある。TOKYO2020までは日本国内に特殊な風が吹いていて、国内基盤であることの経済的&社会的な合理性もある。
風が去った秋に、景色はどうなっているか。そして競技力を高めるために必要な「世界の中での最適地」は、その時どこだろうか。そこに日本は含まれているだろうか。
<市民アスリートとしての幸福最大化を目指すなら>
ちなみに市民アスリートの場合、マラソン海外レースは、トライアスロンで世界選手権KONA出場を目指す場合と比べて、圧倒的に低コストだ。KONA分の予算(年間50万円でたりないかな)がもしも確保できるのなら、年に何度も海外レースを走ることができてオトク、ともいえる?
写真は2013年10月KONA、レーズ前の国別パレードより。
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