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2017年12月 3日 (日)

マラソン欧州記録更新、ソンドレ・モーエン選手(とカノーバ コーチ)トレーニング説明は金言の宝庫!

福岡国際マラソン2017、リオ五輪から1年経ち、TOKYO2020に向けた世界レベルでの変化の兆しが現れたかもしれない。

    1. 欧州選手によるケニア流への適応
    2. 市販シューズでのカーボン素材の使用本格化

の2点、とくに1つめは大注目だ。

優勝タイムは2:05:48、ノルウェーの26歳ソンドレ・モーエン (Sondre Nordstad Moen ←wikiノルウェー版のGoogle英訳)。欧州記録のみならず、アフリカ生まれ以外で史上初の2時間5分台の公認記録。歴史を刻む偉業だ。

wikiによれば178cm62kg、ノルウェーでは低いほうかもだけど日本人比では長身。胴体をロックさせて長い脚&腕を機能させる走法は、ジョーゲンセンやフロデノ(←トライアスロン選手です)とも通じる。上体の前傾も大きめかな。腹筋&背筋をかなり鍛えているのかなと思った。ただし器具を使うタイプの筋トレは行っていない。(後述)

 

<欧州選手によるケニア流への適応>
リオ五輪マラソンで19位になった後で担当コーチが廃業し、2016年10月以降ケニア在住イタリア人コーチ、レナート・カノーバの指導を受け急成長、2017/10/22バレンシアハーフで欧州歴代2位の59:48を出し、6週後に福岡でこの記録だ。

 

ケニアの高地で安宿で自炊しながら長期合宿を繰り返しているようだ。 インスタ https://www.instagram.com/sondrenmoen/ に赤茶けた大地を走る動画など載ってる。

 

 

練習内容について、アメリカ "LetsRun.com" 掲示板にカノーバコーチが10月末から幾つか書いている。http://www.letsrun.com/forum/flat_read.php?thread=8495930&page=4 から3ページくらい。その要約が日本版の "LETSRUN.COM JAPAN" ブログに掲載。
 

ソンドレ・モーエンのトレーニングその②【練習メニュー詳細】 2017年11月25日

ソンドレ・モーエンのトレーニングその③【補足の説明について】 2017年11月27日

これが金言の宝庫なのだ。
以下、八田なりに少々整理して紹介しよう。

 

<カノーバコーチの基本思想>

 

    1. アフリカ選手の優位性は遺伝ではなく、練習の雰囲気やトレーニング条件の違い。高地、大きなトレーニング集団、精神的限界を作らない、身体の感覚を重視する
    2. トレーニングとは、刺激に対する身体の反応
    3. 刺激とは、量と強度の2方向だけ
    4. 選手のキャリアを通して、高い質で量を増やす=つまり両方必要
    5. こうして徐々に段階を踏めば、これまで不可能だった事を当たり前にすることができる
    6. マラソン選手にウエイトトレーニング(器具〜おそらくバーベル・ダンベル含めて〜を使って収縮性繊維を鍛えるもの)はしない。コアと反応性を鍛えるためのバウンディングなど弾性繊維を鍛えるトレーニングはしてる模様
    7. フラットな場所だけで練習するなら、それ以上のトレーニングが別に必要 (ケニアは起伏豊富なので他人事として言っているっぽい)
    8. 可動域を拡げる動的ストレッチはするが、静的ストレッチは反応性を低下させるので時間を使わない
    9. サプリメント使わない、例外はエネルギー補給用のマルトデキストリン
 
<モーエン選手への指導方針>
    1. 基本目標は中距離のスピード改善。トップレベルのマラソン選手として育成することを視野には入れつつも
    2. この1年間で高地トレーニングが累計217日間。血液値がケニア人ランナーに近づいてきた (※たぶんヘモグロビンなど増加している)
    3. 80~100m×10の上り坂のスプリントトレーニングは週1〜2回
    4. 食生活: 主にパスタや米、野菜や果物をたくさん。肉や卵の動物性たんぱく質はあまり摂らず、牛乳だけはよく飲んでいる
    5. 睡眠: 毎日8~9時間の睡眠をとり、昼食後、午後練前に1時間の休憩も 
八田の私見として、基本思想4.は「選手のキャリアを通して」という点が重要。トップレベルでは質と量は両方必要だが、それはキャリアを通じて=年単位で実現すればよいこと。同時に両方を追求するわけではないということ。

 

指導方針1.について、上記「②練習メニュー詳細」をみると、数百m〜3kmくらいでのインターバル、変化走、ファルトレクなどが多い。これらは、「月間走行距離」やらいわゆるTSS=Total Stress Scoreやらの数値には表れないタイプの負荷を重視するものだ。
(ちなみに八田もファルトレク的な起伏走は結構やってきて、かつ月間走行距離を信用してません)

 

それでも、フルマラソンで成功できた、という事実に注目する。
 
※追記※

コーチ・カノーバ:福岡国際マラソンのソンドレ・モーエンに関するコメントについて

2017年12月4日
上記ブログの続報、レース後にカノーバが早速語っている。(相手がブロガーというのがおもしろい) 僕の注目は最後の、

 

「この1年間 ・・・ これまでのマラソンより1kmあたり10〜15秒ほど余裕を持てるようになった」 

 

との点。これが「マラソンを視野に入れた中距離重視トレーニング」の狙いであり成果だろう。短い距離が速くなれば、長距離の余裕になるのだ。
 
<ドーピングについて>

 

残念ながら1年で急に強くなる系の選手に付き纏うドーピング疑惑、カノーバ氏ははっきり書いていて興味深い。
    • ケニアでは、国内無名選手ならドーピング検査がマトモに実行されていなかった(だから摘発事例が最近多い)
    • ケニア選手でも、世界トップ選手では、IOCが入念にチェックする
    • 欧州では国内機関がちゃんとテストしており、特にノルウェーは反ドーピング機関が最も進歩している国の一つ
八田から注記しておくと、禁止リストにないグレーゾーンなクスリは当然存在し、その使用実態、そしてその効果は、謎だ。だが少なくとも、禁止リストの薬を使える立場にはないことを主張しており、それは実際その通りだと思う。

 

//// 以上カノーバ解説。ここから福岡国際マラソン2017について //// 

 

<大迫傑選手>
大迫選手も、今後の可能性も感じさせる良い結果。
(※あくまでも3位、なんらかの記録も更新しておらず、脇役レベルでの好活躍ではあるが)
そのフォームは、尻・骨盤・背中が柔らかく連動して大きく動いていると思う。体幹部は部位サイズが大きいから、一見して小さな動きでも、現実のパワーとしては「大きい」のだ。
このためのトレーニングとは、世間でよくあるタイプの「体幹を固める筋トレ」とは違う

 

<川内優輝選手
川内は、途中で遅れて上げてくの定番の展開で、遅れるとTVに映り、上がるとまた映って二度美味しい。普通は先頭から遅れたらそれまでだけど川内はどこまであがれるか?と新たな興味を発生させる。

 

<中継が残念

ついでに書いとくと、テレ朝の中継、モーエンの5分台という記録の意味を全く解説できていない。単に大会記録との比較のみだ。レース後インタビューも日本人1位の2時間7分台の選手。モーエンはケニアで合宿までするノルウェー人、英語も話せんてことはないだろう。世界レベルでの偉業に対して、残念なことだ。

 

<NIKE Vaporfly 4%

もう1つの主役が、上位3名独占のシューズ、NIKEヴェイパーフライ。
カーボン素材は世のスポーツ用品にことごとく使われていながら、ランニングシューズ分野は、トラック短距離の超エリート向け特殊一発兵器を除いて、遅れてきた。ただ逆にいえば、採用は時間の問題でもあっただろう。その実現性は、カーボン繊維の性質・積載法・形状の調整の問題で、厚底化したのもその結果かもしれない。これらは微調整の連続的なことで、おそらくは特許とか取りにくいと思われ、今後主要メーカーが追従してゆく可能性は高い。

 

すると、Vaporflyでフルマラソン2-3回分の耐久性という一発価格が問題になりそうだけど、トライアスロン&自転車の決戦レースタイヤのような器材スポーツでの予算感を考えれば、実は、とんでもない価格感ではないともいえる。

 

耐久性の強いズームフライ含めて、しばらく品薄に拍車がかかりそうだ。
<フォアフット走法

Vapor & Zoom-flyでは、大迫のような「フォアフット着地」がとりわけ目立つ。大迫も他のアフリカ選手も、土踏まずよりは前&指より後ろの、外側サイドが先に接地している。だから「つま先着地」ではありえない。

 

こちら朝日新聞公式フォトがよくわかる→ http://www.asahi.com/articles/photo/AS20171203001105.html

 

先に接地、というだけで、最も重要な荷重ポイントでは、どのフォームでも基本は同じだ。

 

ただ、荷重ポイントの直前にアキレス腱あたりを縮めることで、その後の腱の反発を引き出す効果があるとの最新論文がある。腱をより使うわけで、大人が鍛えることは(ほぼ)できない部位なので、イキナリ真似をするのはリスクある。もちろん適応出来る人もいる。

 

モーエンは(ソール形状によるけど)基本ミッドフット着地。
20171203_220444(インスタより)

 

普通の大人ランナーにとって、基本は体重を使うこと、全身を使うこと。末端の動きは、試してみるのはよいことだが、こだわるものではない。このあたり考え方は、
に書いてるので、ご一読どうぞ。リアル書店では、丸善&ジュンク堂グループのサイト→ https://honto.jp/netstore/pd-store_0628702228.html から在庫検索が便利。11月末時点で、丸の内丸善本店、池袋ジュンク堂本店、新宿紀伊国屋本店、と主要グループ本店にて平台に積んで販売していただいております。 

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『覚醒せよ、わが身体。〜トライアスリートのエスノグラフィー』

  • 初著作 2017年9月発売

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