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2017年12月31日 (日)

【図解】 「腕振り」とは「慣性力」の制御 〜新刊『ランニング・サイエンス』をふまえて

最近出た『ランニングサイエンス』、普通のランナーにとっては、(人によっては)決定版ともなりうる良書だと思う。

長所を挙げると:

  • 「普通のランナーにとっての基本」がまとまっている
  • それらの多くが、良質なイラストで説明されており、インパクト強い
  • 値段は高いが、その分、所有欲が充たさる (←ここに魅力感じないなら向きません)
  • その高級感が、壁に飾る系インテリアにGood! (←そこかよ)

逆に向かないのは:

  • 情報へのコスパにシビアな方
  • 知識豊富で最先端を求める方

<ランナー・コーチ・研究者、視点の違い>

Amazonレビューは1つだけ最低点がついてるけど、その方の他のレビューを読むと理由がよくわかる。このレビュアーさんは、おそらく大学など高等研究機関のスポーツ科学の専門家のような立場にあるのだろう。いいかえれば、「自分が速くなりたい&速くなれさえすれば満足するランナー」ではない。

プレイヤー(とくに凡才ランナー)、コーチ(元エリートアスリートが多い)、研究者(学界の内部で評価されたい学者の先生がた)、それぞれの立場、目的、視点、は必ずしも一致しないものだ。

今回このブログ記事は、「ランナー」の視点から、「腕振り」について解説するものだ。

 

<腕振りの物理学>

腕振りとは、ニュートン第3法則=作用・反作用の法則に従ったもの。
 
以前書いた

の画像より、マラソン転向するジョーゲンセン女王で説明しよう。

Uedaj_y20163_5

 
出発点の「作用」は、両脚が作る角運動量(回転運動)。
後方への、一見、直線的な動きだが、背骨という回転軸が存在するので、時計回りの回転運動力ともいえる。(みやすのんき「大転子ランニング」もこの発想)
 
さらに振り脚(左)も、前への直線的動きであると同時に、やはり時計回りの回転力の発生源だ。
 
このままでは、ニュートン第1法則=慣性の法則により、 ジョーゲンセンの身体はコマの如くスピンし続けることになる。フィギュアスケートなら、それで構わない。
 
でもジョーゲンセンは回らず前に進んでいる。それは、逆回転の「反作用」が存在することを示している。
 
その力は上半身側で働いており、その発生源が腕振りだ。
 
こうして、上半身+下半身トータルでの「総角運動量」はゼロリセットされている。
 
この仕組みの理解が基本。
その上で、それぞれの脚と腕の働きを、 もう少し細かくみてみよう。
Uedaj_y20163_7
 
右脚の最大パワーに対抗するのが、対角線の反対側(左腕)の腕引きだ。
 
上下左右なXの軸(点線)をイメージするとわかりやすい。
これにより、上下左右での物理的パワーをバランスさせることができる。
 
運動生理学的にも、腕引きは背筋側を使うので、未活用の筋力となる。
腕を押す側(右)だと腹筋側を使い、これは脚を振り戻すための動きと重なるので、そのために温存しておきたい。
 
(おそらくこれが、コーチの多くが「腕を引け」と指導する理由だ)
 
さらに下の画像。
振り戻し脚(左)の膝を曲げることで、重心を回転軸=股関節に近づけ、回転力を弱める。
この左ふりあげ脚に対抗する右腕も、やはりヒジを曲げて腕の重心を回転軸=「鎖骨&肩甲骨」の中央に近づけて、回転力を弱める。
Uedaj_y20163_8
 
ランニングとは、ようするに、体重の操作スキルを競うもの。だから「基本」としてまず理解すべきは、 ニュートン物理学の基本概念だと思っている。
 
ランニングのコーチ達は、それぞれの指導経験に即して、理想の腕振り方法をそれぞれに説明する。それは多数のランナーを指導する彼らの立場から得られた知識であって、プレイヤーの立場だけなら、もっとシンプルでいいとも思う。
その上で、個々人の走りに合うコーチの方法論を幸運にも見つけることができたのなら、それを参考にすればいい。この順序が大事。
 
 
<メンタル>
心理学も、ごくごくシンプルに説明されている。
不安を含めた「感情」とは、状況への反応として必ず生じるものだ、と説明される。
東洋系、禅的思想がいうような「無」ではありえない。
 
ある状況があり、そこに不安を感じる(「認知的不安」という)までは良い。
問題は、その不安に対する解釈。それをプラスに転じるか、マイナスに転じるかに、アスリートの力が現れる。
 
このレベルの大原則を知っておくことで、さらに詳しく知りたいなら、それ用の具体的な方法論を探ればいい。
 
・・・
 
このように、辞書的に、また第一歩めの道案内に、使えるのがこの本だ。
 
独特の高級っぽい質感は、書店で手にとってもらえればわかるだろう。こうゆうのはデジタル書籍にないもの。ゆえに、情報に対するコスパを求めてゆくと、いくらか落ちるであろう要素ともえいる。(欠品の多い『覚醒〜』のデジタル化も、そこは微妙に難がある)
 
昨今、スポーツに限らず情報過多な時代なんだけど、そんな時こそ、軸となるシンプルな知識体系の価値は逆に高いはずだ。
 
←ついでの読んだのが室伏広治さん『ゾーンの入り方』。すごい人だ。。

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『覚醒せよ、わが身体。〜トライアスリートのエスノグラフィー』

  • 初著作 2017年9月発売

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