『覚醒せよ。』社会学書としての5つの意味 〜9/29法政セッションちょっと報告
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<エスノグラフィーという手法>
9/29は法政大学にて出版記念セッション。
" こうして得られた市民トライアスロン独自の現場感覚に、学術理論とを対話させるエスノグラフィーの手法により、その内的世界を浮かび上がらせていく。本書がテーマとする身体、精神、その現代社会との関係性とは、文字や数値の分析によるシンプルな因果関係として表現しきれるものではないためだ。それは、自らの身体を賭けて入り込み、その身体感覚を通じた全体的な考察により、はじめて迫ることができる。 " (「はじめに」より)
なにかを調査するとき、その対象が、細分化した課題設定とロジカルな検証により明確な再現性を確保できるものならば、そうすればいい。デカルトの合理主義哲学に基づいたサイエンスの世界だ。ただ、世の中そうは割り切れないものも多い。サイエンスの世界では非合理だからと切り捨てるのだろうが、こうして見失うものも多い。そんな反省から、20世紀以降のフッサール、メルロ=ポンティなど現象学系の哲学が生まれているのだと僕は(浅く)理解している。
たとえば、昨日から始まった NHKスペシャル「シリーズ 人体 神秘の巨大ネットワーク」 で、山中教授が30年前に教わった医学の世界観は、頭脳が身体を支配する17世紀のデカルト哲学に沿っていると思う。でも、最新のネットワーク性に基づいた人体とは、現象学が描こうとした世界により近い。こらら最新医学での人体観の変化とは、科学的合理性の限界orテキトーさを示してもいるだろう。
これら伝統的デカルト哲学はよのなかに浸透しきっていて、空気のように、そうとは気づかない。時にそれが暴走し、アスリートの成長のブレーキになってるケースも多い気もする。本の2章に書いた話だ。
こうした検証は、マッキンゼー流ロジカルシンキングとか無理で、エスノグラフィーという泥臭く感覚的な手法が必要だ。それにより、なぜ(日本を含む)世界の先進諸国の大人たちはトライアスロンするのか? という謎へと踏み込むことができる。
<この本の "旨み" 5つ>
こうして生まれた 『覚醒せよ、わが身体。〜トライアスリートのエスノグラフィー』、師でありプロデューサーであり共著者である法政大学の田中研之輔准教授によれば、社会学書としての意義は
- ノンフィクションやルポルタージュより、<肉薄した身体の記述>
- 社会科学の弱点である「プロセス」の記述の克服ー「時間感覚」が埋め込まれている
- 国内年齢別チャンピオン自身による「身体の解剖」ー究めた身体の分析
- 「個人的体験」の記述のみならず、丹念な聞き取りによる「トライアスリートの世界」の再現性
- 沢木耕太郎と三島由紀夫の<間>の「サラウェット>な文体による「臨場感」
1〜4は、僕自身が、「自らの身体を賭けて入り込み、その身体感覚を通じた全体的な考察により、はじめて迫ることができ」たものだと思っている。
その結果として、沢木耕太郎のようなサラサラに爽やか過ぎるのでもなく、かといって三島由紀夫のようなウェットべとべとな汗臭さもそんなにない、リアルな臨場感を表現することができた。
さらに僕がひそやかにライバル視していたのは、村上春樹の(畏れ多い文字列だ) ランニング論だ。もちろん彼の文章力は圧倒的に突き抜けているけれど、走ることについて語る限り、僕には僕の独自で新しい世界観がある。
結果として、スポーツしない読者層にも、このおもしろさが伝わっていることを感じる。
法政大学の出版助成制度、エスノグラフィー出版の名門ハーベスト社の小林社長など、その分野のプロのみなさまにも高く評価いただいて、丁寧な製本をしつつも、(学術書としては)低価格での提供が実現した。
こうした成果を、ライブなセッションでお伝えし、反応を得ることで、本を出すということが、身体感覚を以て、僕自身に伝わってくる。執筆は文字の世界であり、出版されると成果が数字で評価されて、これらはバーチャルな世界だ。でも、ライブは身体感覚ある地に足のついた世界。これでよかったんだ、と実感できた。
贅沢な時間でした。同じ場を共有できた参加のみなさんに感謝。
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