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2016年12月の7件の記事

2016年12月25日 (日)

バイク「空気抵抗削減」へのシンプルな考え方

サイスポ2017年2月号 の小特集「最新機材のエアロダイナミクス」で、フレーム&ホイールの空力抵抗の実測をしている。これぞ専門メディアの仕事だ。素晴らしいので詳細は実物お読み頂きたい。
 
実験条件は、室内サーキットでの38kmh・42kmhそれぞれ巡航しての平均。衝撃的な結果が幾つか:
  1. ホイールは、リムハイト50mmと90mmで、空力性能がほぼ同じ
  2. BORA50mmは、最新のワイド幅と旧型の細幅とで、同じ
  3. ロードバイク(Madone)をDHポジション化すると50w削減
  4. TTバイク(SpeedConcept)+DHなら、ロード普通ボジション比で100w削減
  5. ベースバーでの普通ポジションなら、ロードバイクの方がTTバイクよりも微妙に優位
あくまでも今回実験条件に限った話ではある。無風の室内実験=つまり横風を受けず、実走行による正面からの空気抵抗だけが影響しての結果だ。この点は留めつつも、はっきりいってしまえば、僕はこう解釈した:
  • 空力向上だけを目的とした器材は、ほぼ意味がない
  • ポジション=人体に影響する仕組みには、劇的な効果がある
 
<器材自体の抵抗>
真正面からの抵抗は、「前投影面積」、つまりこの形状→17viperrfrontで決まる。
加えて、「空気の流れ方」(=CD値)も影響するはずだが、少なくとも時速40km域では、現実のパフォーマンスに影響しない程度であることを、この実験が示している。
横風という条件、つまり斜めにすると→17viperr30通過する空気がより大きな乱流を作り始めるだろう。
すると、ホイールなら高くて広いリム形状の方が、より乱流を抑えるのだろう。究極のリム高さといえるディスクホイールは横風で推進力を感じる、と言われている。
 
上記の実験1-2は、これら横風での性能差を扱ってはいないけど(※コーナリングでは、ある程度は、斜めからの風は発生しているが)、前方からの結果がこれだけ同じということは、そうたいした差ではないようにも思われる。
 
 
<人体の抵抗>
こうした器材要素を圧倒するのが、人体要素が加味された結果3-4だ。3と4の約50W差(!)はロードバイク(マドン)かTTバイク(スピードコンセプト)かの器材の違いによる。しかし、結果5=ベースバーでの普通ポジションなら逆にマドンのが微妙に優位であるということは、「器材自体の形状差はたいしたことがない」という前の結論を裏付ける。
 
そこで、TTバイクとは人体が作る抵抗を削減するための一手段であると解釈できるのではないかな。バイク自体の造形が注目されがちだが、本質はDHポジションの身体と一体化した整流効果を高めるものだ。その目的が達成できるのなら、ロードバイクの調整でも構わない。

また、どんなTTバイクだろうと、DHポジションを取っていない間は効果がない。その時間が多いなら操縦性に優れたロードバイクの方がいい。
また、細部の造形にこだわったハイエンド車と、おおむね同じ形状の普及レベル車とで、それほど大きな差は生まれない、とも考えられる。
 
TTバイクの性能は、ポジション設定によって引き出される、ということだ。性能は購入時ではなく、練習によって上がってゆくもの。それが「器材スポーツ」であるという意味。使いこなしにより差が生まれる。
 
ゆえに、選定時にはジオメトリの精査から必要。現行バイクからどこが何mm変わるのか。僕のケースは、「NEILPRYDEバイヤモ2013 選定の過程と結果」 で書いたとおり。
 
最も重要なのは、最大の抵抗発生源への対応だ。すなわち、お腹に巻き込む空気 & 両脚の回転による乱流、への対応。そこで、DHポジションで付き出した両腕により、F1マシンとかのフロントノーズ(or カウル)のように空気を掻き分ける。
20161013_101005画像はシクロワイアードより 、2016自転車世界選手権TTの上位3名。ヒザの上死点位置と、腕との位置関係をみれば、腕が作る整流効果が見える。
 
頭もぽこっと突き出したパーツなので、エアロヘルメットによって、胴体と一体化させる。これにより、頭から背中へとスムーズに空気が流れる。特にロングテールの場合、背中から離したらダメ=それが面倒なのでショートテールが流行っている。
少なくとも、普通のロード用のヘルメットでトライアスロン出ている方は、真っ先にエアロヘルメットを導入することが、最も費用効果が高いだろう。
 
これら、腕と頭の整流効果をクリアできていれば、高さ自体はそれほど悪影響を与えない。だから無理に低い姿勢を取ったらダメ。
腕を寄せるには肩の柔軟性が必要だが、これは高めるデメリットはないだろう。それで走行安定性が失われるなら、スキル練習をがんばるといい。ただ、そんなにギューっと狭める必要もないようだ。
 
全体として、横幅を抑えた1枚の板を立てたように。板の形状の抵抗が小さいことは、水泳も同じ。なのでリオ五輪では、スタート・ターン時に腕は頭の横につけるのが主流になった。従来は両腕の下に頭を置いて逆三角形を作っていたのだが。
 
なお世界TT上位2名は身長185前後だが、3位ヨナタンは170とか日本人レベル(ホイールが大きく見える)で、抵抗削減ができれば、この身体でも世界で戦えるということでもある。
 
 
<人体と器材との一体化>
この流れから、最近の流行である「フロント・ハイドレーション」の役割も理解できるだろう。
Img_8805
腕の「ノーズ機能」を拡大させ、より大きなエアポケットを作ることで、脚まわりの抵抗を削減している、と考えられる。 (バイク画像はCEEPO2017 VIPER-R より)
 
 
<僕の場合>
狭いDHバーの間にタイラップでボトルケージを固定し、ノーズを大型化させている。20160914_818
パンク対策は、マルニのクイックショットをステム直後にマジックテープで留める。なおこの位置も、ステムとの一体化による整流効果を狙っている。(この位置のストレージでも同じ効果だ)
 
ボトルは、フレーム側では、エアロボトル(スペシャ)を以前使ってたけど、練習中に発射して消滅し、以後は丸ボトルに戻している。
普通の丸ボトルでも、前輪フォークの作る気流に、ほぼ収まっていると思われ、それほど問題ではないと考えている。そして、2つの丸ボトルを装着することで、前ボトルが作った気流が後ろボトルに引き継がれて、トータルでの整流効果が生まれる。
特にロングでは、丸ボトルでないと補給が不便という理由もある。
 
KONA2013では、後部マウントによって横面積を減らした。横風対策だ。その下にスペアタイヤをテープ留め。これも「一体化」の効果を狙っている。
20161016_104001
 
なお画像左は、KONA2016女子でバイク前半で唯一Ryfについてバイク2位5:00:42のAnja Beranek。165cm54kg。僕のが8kg重いが体形はわりと似ていて、タイムも似ている(僕は5:05)。
ホイール大きさをだいたい揃えて並べてみた。僕のが身体前&サドル高の前乗りだ。ヒジ高さ=背中=頭の高さもほぼ同じ。
 
これらの効果か、長い下り緩斜面の60kmhとか巡航で、欧米のP5とかを上回る空力性能を実感できた。
 
 
<結論>
バイク「空気抵抗削減」へのシンプルな考え方とは、
  1. 前投影面積の削減
  2. とくに、幅を狭く
  3. 身体を流れる空気の整流化
ということだと思う。これだけで、メーカー発表の風洞実験(=あくまでも実験室での数字)に惑わされることなく、現実的な対策が取れるのではないかな?
 
なお僕は全体的に、器材差をあんまり信用していない人間なのだけど、それでも速い人ほど高額器材を使う傾向はあるかと思う。て僕も十分に高いの使ってるし。
それは「コミットメント」の差だと解釈している。お金以外のリソース投入量が総じて高いということ。
 
・・・
記事のサイスポはこちら→Kindle Unlimitedの読み放題対象なので、初回30日間無料体験に入ればタダで読めるかな。
 
ちなみに大特集の「ペダリング」、前半の筋肉の分解のような説明は僕は興味ない、というか、それで速くなれる気がしない。ただ後半のキネティックチェーンの考え方は大事。
 
 
<水泳>
この仕組みは水泳でも同じで、最近の三浦スイム講習で説明し始めている「クロールは実は腰を上げないほうが速い」という説明にもなる。この話は、また改めて。
20161217_200231
画像はリオ五輪でのレデッキー800m、世界記録更新の泳ぎ。頭を上げ、胸を反らし、腰を沈めにいっているフォームだ。従来は逆で、頭を沈め、胸をすぼめ、腰を上げる「伏し浮き」の姿勢が速いとされていたのだが。思われているほど単純には決まらないのが水泳。
 
 
ちなみに脚筋の疲労回復にはパナソニック「エアマッサージャー」が最強だと思う。新型でモモまで拡大

2016年12月23日 (金)

『一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート』 〜表現・動作技術とも注目すべき傑作スポーツノンフィクション

大宅賞受賞のノンフィクション作家、上原善広 18年間かけてインタビューを続け、ついに今年出版された一冊。その対象は、1989年、世界記録にあと6センチまで迫り、ワールド・グランプリシリーズを日本人で初めて転戦し、総合2位となった槍投げの溝口和洋。今ではいえば為末大さん(=世界記録に迫れていない)以上の超大物にもかかわらず、引退後、陸上界の(少なくとも)表舞台から消え、伝説だけが残った、文字通りのレジェンドだ。
 
しかもその記録は、本当は世界記録であった可能性が高い。1989年のアメリカは日米貿易摩擦を引きずり、反日感情が残っていてもおかしくない。当時40代のドナルド・トランプさんもジャパン・バッシングなインタビューを残していたりして。それで、再計測で記録が8cm短縮され(計測地点をズラしたことが疑われている)、幻の記録とされてしまった。
 
また当時の投擲競技はドーピング全盛期。(まあそれは今でもだが、検査技術と仕組み化により、きちんと摘発されるようになった) その中で、ゼレズニーと並んでクリーンにたたかっての結果だろう。もちろんヤッてて奴がヤッてたとは普通いわないけど、彼は実際クリーンなんだろうと思う。
 
そんな中で、身長180cmしかない小柄なアジア人が、そこまで戦うことができたのは、日本スポーツにおける歴史的な偉業なのだ。この本で描かれるのは、それを実現させた彼の徹底した合理思考と、凄まじい練習内容。あいまに、世界を股にかけたロケンロールな武勇伝(笑)
20161224_122051_2
 
<文章表現>
「常識とみなされるもの」を疑い、「結果」のためだけに必要なことを自分の頭で考え抜き、徹底実行する彼は、それがゆえに(マジメな常識人が多そうな)陸連主流派とは超仲悪い異端者だ。そんな彼を一人称=自伝の表現形式で描く著者は、もともと被差別部落に生きる、ある種の異端とされがちな経験を持つ人たち(たとえば橋下徹氏など)を書いてきたノンフィクションライター。
 
異分野ゆえの強みもあってか、スポーツ文にありがちな情熱的で物語チックな要素を排して、淡々と事実を連ねてゆく、ただし、18年かけて探り当てた圧倒的な素材を、どこにもない深さで。
 
主要メディアの書評も総ナメにしているわけだが、そんな特徴を捉えているのが作家、堂場瞬一の書評 だ。
 
日本のノンフィクション、特にスポーツノンフィクションは、記録と同時に「人柄」を紹介することを重視する。記録と人間性が一体になって迫ってくるような内容になればベスト、ということだ。
 
だがこの本で、著者は敢えて溝口の「人間性」の部分を抑えて描いているのではないだろうか。もちろん、独白として挿入される「毒舌」は、溝口というアスリートの独自性を浮かび上がらせてはいるのだが、それでも彼がどういう人間なのか、今一つ想像しにくい。
 
もしかしたら著者は、溝口に接近し過ぎたのかもしれない。本人になり切っていればこそ、感情の説明ができない――自分の感情をきちんと説明するのは難しいものだから。だがこういう状況で、がぜん溝口というアスリートに対する興味が湧いてきた。もしかしたらこれも、著者の企みなのか? この本は「導入部」に過ぎないのではないか?
 
スポーツをこうした人間ドラマとして描くのは、雑誌「Number」のように、あるいはNHKスペシャルのように(=スポーツを客観的に描いているかのような気分にさせるある種のドラマである場合がほとんど)、見るスポーツを表現するのには向いている。世間の多数派を相手にする以上、それは当然ではある。
 
ただ、僕はそうゆうのが好きではない。スポーツにはスポーツだけの世界があるし、そこには余計なドラマは要らない。純粋なノンフィクションとして描いてほしいと思う。この本は、まさにそうゆう表現を極めている。
 
この「一冊に賭ける」書き手の18年間の重みも伝わってくる。
 
「忘れられたと思っているのは、実はあなただけなのだ。〜 あの、鮮烈なフォーム。誰よりも遠くへ飛んだやり。私もまた、「溝口のやり」を忘れられない一人だった。」 (著者あとがき 上原善広)
 
絶対にインタビューできないと確信されていた相手に聞き取りをし、言語化し、最終的に一人称の自分語りスタイルができあがった。それが他にない迫力を作っている。当初は、トレーニングと技術論だけを書くつもりだったのが、それらはそのままで「彼自身の存在意義と哲学」になっていることに気付いて、テーマをより挑戦的なものへと拡大させた。おそらくは、その表現のために、日本のスポーツジャーナリズムの定番「人柄の紹介」を控えた表現を選択してもいる。
 
最終の232ページ目は、まちがいなく文字数調整して、その8行だけが、見開き2ページに表れるようにしている。この8行のために、18年間があった、というくらいに。
 
 
<トライアスリートの視点>
僕がアスリートの目線から注目するのは、例えば以下の箇所。
 
「実際は力を入れた状態だが、力が入っていないように感じる」
これが本当のリラックスだ。よほど強力な筋力がないとできない。
外国人のリラックスとは、まさにこのことなのだ。それを末端が弱い日本人が真似するからおかしなことになる。 (p56)
 
投擲競技は全て、骨で投げる。これは「関節で投げる」と捉えがちだが、それとも違う。
例えばシーソーの片方に物体を載せると、もう一方を強く押すだけで物体は飛んでゆく。この「シーソーの板」が骨であり、シーソーの中心にある支点が関節である。つまりテコの原理を応用しようと思えば、「骨で投げる」ことになるのだ。(p57)
 
肩関節をカチッとはめると、投げのときにその反発を利用できる。(p99)

身体的な不利を克服するために、当時主流だった「欧米選手の表面的な模倣」を排除して、ゼロベースで組み上げた技術。これらは、トライアスロン3種目にも共通する要素を含む。

僕の考えとして、筋パワーは全てのスポーツの基本だと思う。関節をロックし、身体全体を大きな1つのユニットとして動作させるのも有効。またそのロックのためには筋力が必要。

例えば日本柔道も、今になってようやく筋力アップの必要性に気づき、リオで結果を出している。(ついでにいえば、イチローは筋力否定論のようにも見えるけど初動負荷トレーニングの徹底した実践者だし、そもそも100年に1度の天才レベルだ)

長距離トライアスロンも結局は「1ストローク、ペダル1回転、1歩」の積み上げ。その1要素が大きければ、掛け算して差が拡大するのは当然だ。

<故障>

彼が残念なのは、なんといっても絶頂期での故障。痛みを堪えながら感覚が麻痺するまで投げ続けるとか、24時間連続練習とか、「やり過ぎてみる」のが彼の成功の一因ではあったのだろうけど、やはり、そのスタイルでは30代を戦えない。

ケアについて殆ど書かれていないのは、書かなかっただけかもしれないけど、当時の情報不足、意識不足だろう。酒も、筋肉系の故障を誘発するだろう。(サッカーの長谷部選手も、夜遊びで酒飲んでたJリーガーたちは筋肉まわりの故障で引退が早いと言っている)

ただ、競技文化とは、そうゆう失敗経験を積み上げることで、少しづつ育ってゆくもの。彼の経験も、室伏広治選手に引き継がれていったんだろう。

・・・

陸上界から消えた後も、強烈に個性的。

20161223_111740(JA紀南2010より)

トルコギキョウの栽培で成功しているらしい。と調べると、サカタのタネ社が栽培しやすくしてしまった (笑)ようで、競争も激しいのだろうけど、この本をきっかけに「溝口のトルコギキョウ」とブランド化するとさらに儲かりそうだ。

それはそうと・・・

これは客観的事実だが、私のように180cmの身長で、80mオーバーを投げた選手は、世界でもほとんどいない。つまり私は限界まで到達し、そこを超えることができたのだ。この事実以外に、どんなトロフィーがあるというのだろう。

多くの人が私の存在を忘れているようだ。私はそれで良いと思っている。一投に全てを賭けて、それにおおむね勝つことができたのだから。

私には自分に堂々と誇れる過程と結果がある。だから人々から忘れられても、私は何とも思わない。

これほど爽快な、語りがあるだろうか。

僕は、これだけのスポーツノンフィクションを、読んだ記憶がない。もしあれば教えてほしい。

冬休みの読書に一押し。 今年読んだノンフィクションでは「エスケープ」(佐藤 喬)もおもしろかったけど、こっちのが圧倒的におもしろい。(両方読むといいと思う)

(宣伝: 読み終えてヒマできたら僕のも読んで〜〜笑→ https://spike.cc/shop/user_3986276548/products/LUaWObSx

2016年12月18日 (日)

日本の夏は「 朝 練 」ほぼ一択! 〜連載最終回「ハイブリッド期分け」法の提案

ここまで5回にわたり紹介してきた「リバース・ピリオダイゼーション」によるトレーニング法は、練習時間の限られた市民アスリートにこそ魅力ある方法論だ。しかし日本では、酷暑期に長時間トレーニングが重なるという問題がある。最後にこの対応案を示して締めるとする。
 
・・・
 
「朝練習のトレーニング効果」 というまとめ論文がランニング学会の『ランニング学研究』(2015)に掲載されている。一読をおすすめ。過去の関連論文などを整理した "Review  Article" というやつで、新たな発見はないが重要情報だけ濃縮されていて、学者ではない一般アスリートに有益だ。詳細は各自読んでいただくとして(僕のブログは内容紹介だけの文は書かないので)、ここでは、その「日本の真夏のトライアスリート」を中心とした応用法を書こう。
 
(ちなみに論文のようなタイプの長文を読みこなすコツは、一字一句読み込もうとしないこと、ざーーーとページをめくりながら、おもしろそうなことが書いてあるのか最初にスキャンすること。次にその箇所を読み込み、さらに時間が余ってたら頭から読む。て、長文読解が苦手な方はそもそも僕のブログ読んでないと思うのだけど笑)
 
<低体温の効果>
最初にp5に飛ぼう。朝は身体が動きにくいので、一般には、トレーニングには向かない。僕も午後3〜5時くらいが一番好きで、質で勝負する練習なら、そこゴールデンタイム設定でいい。ただ、長距離トライアスロンのランパートでは、どうせ身体が動かない中での動作となるわけで、そこは気にしなくていい。
 
すると、低体温から始める、という(多くのスポーツにとっての)デメリットが、逆にメリットに転じるわけだ。深層体温が限界域まで上昇するまでの時間が長くなるから。しかも朝は外気温が低く、日射のパワーも弱い。
 
週末のロングライドなども、朝5時スタートなら9時までに4時間ライドを終えることもできる。酷暑日だと朝9時でも十分に暑かったりするけど、帰宅寸前のラストスパートなら耐えられるだろう。
 
<低血糖の効果>
さらにp6へ。起床後&朝食前は、「低血糖」だ。 これも質の高い動きには向かない状態だが、長距離レースの後半の状況が、最初から用意されている形だ。ここで、脂肪を活用したエネルギー回路をトレーニングすることができる。このメリットは世界の全ての耐久アスリートに有効。
 
<結論>
しかも時間活用術として、朝は安定して活用可能。必要なのは、夜9−10時とかまでに、早く寝ることだけ。(僕は苦手)
 
結論:夏は朝練。
20161218_135335
例の図はこれにて完成!
 
朝錬だけだと普通はできることが限られると思われ、週末など、まとまった練習枠は別に必要にはなると思う。そこは
  1. 短時間高強度トレーニング
  2. スイムの長時間化による体力向上  
という2つの方向性を組み合わせる。
 
1.は一般的な「Periodization」の流れなので、
  • 夏手前までは、「リバース・ピリオダイゼーション」
  • 真夏は「標準型ピリオダイゼーション」
と組み合わせる。朝練の脂肪活用トレーニングは、リバース型の「長時間低強度」へのベクトルの延長なので、並立もしている。これを「ハイブリッド型ピリオダイゼーション」として、日本の真夏の耐久アスリートに向けて提案しよう。
 
<勝負レースの時期別>
この方法で、8月までの勝負レースには対応できるだろう。たぶん、7週間くらいなら、身体の記憶は継続できるから。
 
9月以降なら、お盆ごろなどに、冷涼地で思いっきり走りまくることを一度入れて、身体記憶を呼び起こすといいと思う。佐渡とかはこのパターン。
 
9月に入れば少しづつ涼しくなるし、暑さ耐性も十分にできているから、普通にロング錬を復活させれればいい。これで10月のKONAにも対応できる。
 
なお、勝負レースが6月までに終わる場合には、トレーニングでの暑さを考慮せずに済むのだが、逆に、身体側のレース時の耐暑耐性が不十分。なので、暑さに慣らすための耐暑トレーニングを意図して行う必要があるだろう。(7月以降なら、耐暑トレーニングは無駄だと思う。いつも書いてる通り)
 

2016年12月 6日 (火)

6月の決戦レースへの長期計画案 〜リバース・ピリオダイゼーション4

前回→ 「トライアスリートの冬マラソン〜 30kmの壁への新対応」  とは、「主トライアスロン+ついでにマラソン」な層を対象とした話だ。「主マラソン+ついでにトライアスロン」 なら、ランのパフォーマンス最優先なので、後半スタミナ強化のための走り込みも有効なのは当然。とくに日本はトライアスロン大会出場コストが総じてかさむ一方で、ランニング系の大会なら気軽に出ることができ、ランに比重を置くのは合理的だし。
 
ただ、ワタシはあくまでもトライアスリートですよ、という場合に、優先順位リストの上にはもっと大きなのがあることが多いので。
 
日本では、ランニング分野の指導者や指導本が豊富。かれらはトライアスロンを知らずに、ランニング至上主義なアドバイスをすることも多く、それは口コミなどにも影響している。でも、トライアスロンには、トライアスロン独自の視点が必要。
 
先の要点である「ペースを低く抑えて我慢すること」は、長距離トライアスロンでは最重要項目の1つ、この実行度の差は、より大きなゴール・タイム差として表れるだろう。ならば、トライアスリートがマラソンに出る場合に、頑張らずにユルいままで=ぶっとばす誘惑に負けずに=抑え続ける能力は、なおさら大事ってことだ。
 
 
<冬春→夏前への3種目トレーニング戦略>
また「Reverse Periodization」は欧米発の考え方なので、殺人的に暑い日本の夏への対応も、日本人が独自に考え出さねばならない。これまで当ブログでは→ カテゴリー 「耐久スポーツの暑さ対策」 の8件の記事で、辛抱我慢に頼らない方法論を示してきたわけだが、まとまった年間計画としては未だ書いていない。 僕がトレーニング計画を持たないことによるのだが、その中で得た経験の断片はたくさんあり、それらをロジックで組み上げて、策を弄してみるとしよう。
 
唯一解のないのがトライアスロン、幾つもある妥当解をあれこれ考え出すのも、楽しみ方だ。
 
てわけで、2つ前に書いた→ 「リバース・ピリオダイゼーション」2. 冬は高強度バイクトレーニング」  の図に「夏前」を赤色部分で足した図がこちら:
20161206_190422
つまり、Bike&Runともに、夏前にロングレースに向けた距離対応を済ませておく。これに尽きる。夏前とは、殺人的酷暑がやってくる前、6月くらいまでのイメージだ。欧米の多くの真夏はこんな感じかな?(ただし雨&湿気は抜きで)
 
よく言われるように、日本の暑さは、努力によって対応できる限界を超えており、トレーニングによって耐暑能力を上げることは、現実的だとは思わない。普通に生活していれば、人体に適応可能な上限レベルまで鍛え上げることができるだろう。
 
僕は暑さに強く、そこには幾らかの体質や育った環境が影響しているかとも思うのだけど(蒸し暑い愛知県で、8月生まれ、高校まで学校にクーラーなし、家でもあんまり使わせてもらえない笑)、ともかく殺人的暑さのレースでの成績は良くて、そのためにしたことは、我慢せずに済ませる「逃げ方」の工夫に尽きる、という事実がある。
まして、「暑さが苦手」という方が、努力によって対応できるようになるとは、どうにも思えない。
 
 
<スケジュール>
ここで想定する各フェーズ時期は:
  • 冬: スピード 1−2月
  • 春: 移行期  3−4月
  • 夏前:距離対応 5−6月 (レースシミュレーション期)
各フェーズは2ヵ月とってみた。これは、人体の環境適応に必要十分な時間だと思うから。人体に適応可能な最高峰であろう「ヒマラヤ8,000m無酸素登頂」では、事前に4-5,000m前後に6週間くらい滞在する高所適応フェーズを取るが、それ以上の期間は不要、という例から考えている。
 
※練習が薄い(=質×量の総量が低い)場合には、各フェーズの仕上げにもっと時間を要する。ただ、薄いと、その間に退化も進んでしまうので、ある時期に集中して練習できたほうが効率は良い。
まあそれは理想であって、薄くしかトレーニングできない場合には、年間コンスタントに、できるときにできる限りやっておくのが良いだろう。
 
このスケジュールの場合、勝負レースが6月後半なら対応可能。6月前半なら、各フェーズを1-2週づつ短縮する、スピード期か移行期かをその分だけ削る、などで対応すればいい。
 
では、決戦が8〜10月の場合、どう考えればよいのか?
 
これは当記事の応用問題となる。また次回書こう。
 
 
以上のように考えると、6月決戦だとして、2月くらいまでは自由にトレーニング内容で「遊ぶ」 or 冒険することができる。 やたら理屈っぽいどっかのブログとか超無視してランニング徹底強化の限界チャレンジしてみるのも良いアイデアだ。それで故障したって治療時間はたっぷりあるのだから。
 
僕のオススメは、動作の探求そのものを楽しむこと。オフロード・ランを薦めているのもその一部。
 
確実にいえるのは、フォーム改造にチャレンジするなら今。そこで・・・
 
<おしらせ:三浦広司スイム講習会>
年内ラスト、動画分析ゼミ: 12/11(日)参宮橋青少年会議室18:15〜21:00→ www.facebook.com/events/160289534440174
 
 
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2016年12月 4日 (日)

トライアスリートの冬マラソン練習法 & 30kmの壁への新対応 〜Reverse Periodization3

前回続き。標準的な「期分け」の逆をゆく手法は、冬春のマラソン出場と噛み合わないようだが、まあ幾らかの修正で対応できるかなとも思う。以下、策を弄してみるとしよう。
 
もう1つ図を作った。下側の現状ペースのラインから、上の目標ペースを目指すトレーニング戦略には、あえて大別すれば「距離型」=右下 と、「スピード型」=左上の2種類ある。
 
20161204_112553
 
この図では、マラソン単体(距離軸の3つめ)では現状が1km4:30(Total3:10)、目標が1km4:00(2:48)、ロング・トライアスロンのラン(右のT42km )は現状1km5:00(Total3:31)から目標1km4:30へ、という感じ。まあ数字はなんでもいい。
 
<「距離型」アプローチ>
マラソンを頑張る方の多くは、なにかしら失敗経験=反省材料をもって取り組んでいると思われ、その大きなものが「後半のスタミナ不足」だろう。その対応として、30km走を繰り返し、42km走などもやってみる。ランニング界での伝統的な実績ある手法であり、これ自体に問題はない。
 
同様の練習をロングトライアスロン対策で行う場合、基本はバイクのロングライドだろう。その後にラン錬をつなげる「ブリック」錬によって補完する。これも、アタリマエの手法だ。
 
ただ、制約の多い市民トライアスリートにとって、それらは必ずしもベストであるとは限らない。注意したいのは、
  1. 時間がかかる (誰にとっても共通)
  2. 非効率な動作を(どちらかといえば)修正しずらい
  3. この12が組み合わさると、故障しやすい
このうち、1.の要素はどこかで必要なものではある。2.は集中できていれば対応でき、ビルドアップ走はそれに向いた方法だ。最も怖いのは3.だ。
 
「スピード型」アプローチ>
もう1つがスピード向上からのアプローチだ。これは「Reverse Periodization」とも整合的で、バイクに練習ボリュームを割いており、ランの時間枠はは控えめ、という場合に、練習効果を最大化すると、スピード系に寄っていくと思う。
 
図のオレンジの流れで、
  1. スピード向上: 4〜500mが、巡航スピードの最小単位かと思う。時間にして1〜2分
  2. スピード巡航: 20分以内、数km
  3. 少し遅く&少し多く: 100分前後だと思う(過去記事に書いている)
  4. レース本番は緩める: 上記123までと、基本は同じだと思う
という順序。
 
僕の2013年の初アイアンマン(と同時に初マラソン=公認されないが笑)チャレンジにあわせてみると、
  1. 2013年、リハビリから基礎ができた後の4月〜8月までのショートレース期間
  2. 僕の場合は1.に含まれる。1km×6本、2km×3−4本、とかのインターバル系メニュー
  3. 9月から、15km走(それまでガチ錬でやったことがなかった長距離)から始めて、30km走まで増やす。上記12の走りのまま、少し緩めることで対応
  4. (レース本番は最初からぶっ飛ばして失敗した泣)
となる。
 
2015年3月に書いたブログも、これを踏まえたものだ→ 30km走しなくても、ロングレースで勝てると思う
 
それによる成果報告は幾つか頂いている。その1つ、この1年後、同ブログも参考に、読者のトライアスリートさんが実際にフルマラソン3.5hから一気にサブスリーを達成した記録がこちらだ→ サブ3.5ランナーが、1年でサブ3を達成するためにやった3つの事
このブログ主さんは、9割インターバル、400mや1kmを重視し、30km走は(風邪のせいだが)一度もやらずに、大幅更新サブスリーを実現させている。
 
「30kmの壁」への新たな対応
このスピード型の4つめ、「レース本番は緩める」のが、後半のスタミナ不足に対する最も現実的な方法だ。後半落ちるのは前半飛ばしすぎたから。小学1年生でもわかるアタリマエ過ぎる理屈なのに、なぜ大人になると「走り込み不足だ」とか、余計なことを考え始めるのかな?
まずは基本書を読もう→
 
前半は抑え過ぎなくらいに抑えまくり、エイドでは歩いて、後半から勝負開始。
前半抑えまくっても、最大スピード(=500m維持できる巡航動作のもの)が上がっていれば、「最大スピード×抑え度」である「レーススピード」を上げることができる。
 
<まとめ
  • ラン錬は、短時間高強度でスピードを上げ、
  • 長距離対応は最大でも100分前後ランに留めておき(※距離ではなく時間基準=世界の主流)
  • レース本番では、前半を超サボって入る
  • こうして、バイク強化(ローラーによる高強度など)のための時間を確保する
という方向性で、冬マラソンと、春夏ロングトライアスロンとを、スムーズに両立できると考えられる。これまで書いてきたことと重なるけど、今回改めてまとめてみた。
 
 
<おしらせ:三浦広司スイム講習会>
会議室の動画分析ゼミ、一回限り:
同ゼミでは「クロールの基本は100m、長距離は緩めていけば対応できる」との考えから
  • 1980年代頃からの世界トップ100m選手の泳ぎを、時代を追って、解説('80-ゲインズ、ビオンディ、'90-ポポフ、等々)
  • 最新の100mの泳ぎ方の解説(マケボイ等)
  • 長距離への応用例(レデッキー、パルトニエリ等々)
  • トップトライアスリート(ジョディ・スワロー、ダニエラ・リフ等々)
と順に動画解説するセミナーを開催します。時代の進化により、速いクロールとは何か、階段を登るように理解します。次に階段を降りるように、長距離の競泳トップ→トライアスリート(=ツッコミどころ多)、と説明します。  
第二部では、各自の泳ぎの動画について個別解説していきます。動画ない方は12/5に撮影を。
 
<おしらせ2:「渥美半島の風」>
僕が寄稿した「潮騒のなかの祝祭」も好評いただく愛知県・渥美半島の情報誌「渥美半島の風」創刊号、月2回での発送です。
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2016年12月 2日 (金)

最先端理論「リバース・ピリオダイゼーション」2. 冬は高強度バイクトレーニング (&マラソンやっぱり非推奨?)

<最新トレーニング理論>

前回紹介した"Reverse Periodization" はトライアスロンのみならず、マラソン・ウルトラマラソン・自転車ロードレース(沖縄210km級のもの)などなど、4時間を超えるような耐久スポーツ全般に有効なもの。Google検索結果数は "reverse-periodization training" 104,000 件, "reverse-periodization Triathlon"10,200 件。論文も幾つか発表されている。

日本語では、耐久系分野では当ブログが一番乗りっぽいので、最新トレーニング理論といって構わないだろう(少なくとも日本語で書く限りでは・・・最新といっても3年のタイムラグがあるのが日本語の壁) なおFacebookでは少し前から少し話題になっていて、情報鮮度はFacebook=つまりは人的ネットワークがGoogle大王さまを凌駕する。

ボディビル分野では既に日本語の情報が。彼らのトレーニング理論への情熱には驚嘆あるのみ。(ちなみに競技雑誌の名前が「IRONMAN」笑)

英語の情報源を再掲すると、フリール先生は2013年に基本的な考え方をブログに書いている。(僕のKONAレース直後で、僕のは自己流)

2つめの「TrainingPeaks」は、彼が指導し、最近日本でも利用者が増えている。そのブログに、より具体的な方法が説明される。(英語苦手な方へ→  Google翻訳かけたリンク 作ったのでご参照。僕も長い英文の速読でよく翻訳かけてます)
 
まとめれば、こんな図になるだろう。
20161202_152850
説明しよう。
 
冬こそ高強度バイク
シーズンインまでの期間、3種目トータルでの最優先はバイクのFTP向上に置くのが、ほぼ全ての日本人トライアスリートにとって最も有効となるだろう。1時間一定ペースで出せるパワーを上げろってことだ。バイク重視なのは当然で、トライアスロン、特に長距離のは、そうゆう競技だから。
 
そのために、
  • 冬は室内ローラーで高強度トレーニング
  • 春になったら、長時間実走に切り替え
と、リバース理論に沿って組み立てる。 
 
冬〜春のラン
バイク最優先なのだから、ランは減らす。いっぱいトレーニング時間を取れるプロ選手ならまだしも、市民トライアスリートにとって、最優先しないものを捨てるのも戦略のうちだ。
 
具体的に、バイクで「心肺能力」という「汎用要素」を向上できているのだから、ラン練習では「ラン技術」と「ラン用の筋力」という「個別要素」に集中すればいい。それは年間計画の中で、緩めでも構わない。
そして春になり、バイクを短時間高強度から長時間低め強度にシフトすると、強度の点から、ランで短時間高強度を行う余裕が出てくる。時間制約の中で、バイクに長時間を取るから、ランは短時間しかできない、ということでもある。ランの本格的な強化はここからでいい。
 
まとめると、
  • 冬はオフロードとかを楽しく走っとけばOK!
  • 春に、強度を上げてゆく
これによりランニングによる身体負荷を軽減できる。トライアスリートの故障の多くはランニング練習過多によるもの。怪我はバイク実走が多く、寒いとリスクが少し上がるかと思う。寒い冬に、室内バイクと緩いランを組み合わせることは、怪我も故障もリスク低下できる。
 
・・・
 
ここまで読んで、賢明なる当ブログ読者の諸氏におかれましては1つの記事を思い起こすことでありましょう。そう、
 
 
もちろんこれは方向性とか優先順位付けについてのものであって、「八田が出るなと言ってるが・・・」的な反応をされても困るわけだが、少なくとも方向性レベルに限っていえば、僕のこの考えは一貫している。
 
結局は目的次第。もしもあなたの目的が:
  • 「マラソンもトライアスロンも楽しむこと」ならば、ランナーへの変身を楽しめばよいのだし、
  • 「トライアスロンだけを強くなること」 ならば、冬はバイク集中して、まあ大会では仮装ランナーへの変身を楽しんでもよいのだし、
と、シンプルに分岐する。みんなちがって、みんないい(微笑)
 
ただ、トライアスロンで高い目標を目指す場合には、時期、大会内容、プライベート・ベスト更新を目指す度合い、などなどによっては、往々にしてトライアスロン側の目標達成を妨げるリスク要因ともなる。中には、ランニング過多による故障事例すらも。せっかく努力しながら、残念なことだ。
 
ついでに書いておくと、僕が(いくらか嫌がれながらも笑)書き続けている大きな動機はこれ。こうした回り道や落とし穴を避けるための「考え方」の一例を示したいから。一人でもそんな人が増えればOK!
 
以上、リバース手法に従う場合に、このあたり整合的でないので、各自工夫してくださいな。
どんな手法も、自分なりの工夫が大事だ。
 
※追記:それでもマラソン出る、という方に向けて、次回、そのための一案を書いてみよう。
どんな手法も、自分なりの工夫は可能だ。  
 
・・・
 
なお、欧米発の情報は日本の真夏の殺人的環境を考慮していないため、ローカライズ作業も必要となる。この点、次回以降に改めて書こう。
 
<スイム
同記事では、冬のスイムは週1でOKと。これ一見、スイム軽視論のようにも見えなくもないが、「いったん記録向上を忘れて、ドリルなど技術向上に集中していい」ということ。これもやはり優先順位の話なので、バイクFTP向上が十分にできていて、空いた時間でスイム記録更新を目指せるのなら、素晴らしいことだ。タイム向上の中で磨かれる技術はあるから。
 
つまり、週1で、技術重視の講習会に出て、泳ぎを改造するのは、この手法からも推奨される。そこで・・・
 
 
<おしらせ:三浦広司スイム講習会>
詳細はFacebookイベントページ(見れない方は、メールアドレス記載でメッセージください)
撮影会;
会議室の動画分析ゼミ、一回限り:
同ゼミでは「クロールの基本は100m、長距離は緩めていけば対応できる」との考えから
  • 1980年代頃からの世界トップ100m選手の泳ぎを、時代を追って、解説('80-ゲインズ、ビオンディ、'90-ポポフ、等々)
  • 最新の100mの泳ぎ方の解説(マケボイ等)
  • 長距離への応用例(レデッキー、パルトニエリ等々)
  • トップトライアスリート(ジョディ・スワロー、ダニエラ・リフ等々)
と順に動画解説するセミナーを開催します。時代の進化により、速いクロールとは何か、階段を登るように理解します。次に階段を降りるように、長距離の競泳トップ→トライアスリート(=ツッコミどころ多)、と説明します。ちなみにリフ選手の泳ぎは「ひどい」(三浦コーチ談)が、現実にレースで戦えるレベルを確保しているわけです。その最低条件も理解していきましょう。  
 
第二部では、各自の泳ぎの動画について個別解説していきます。動画ない方は12/5に撮影を。
 
<おしらせ2:「渥美半島の風」>
僕が寄稿した「潮騒のなかの祝祭」も好評いただく愛知県・渥美半島の情報誌「渥美半島の風」創刊号、毎月5日+20日の月2回での発送とさせていただいております。今週末(12/4)までにご注文・入金いただければ、週明けに発送。
書評はブログ「オカンアスリートの研究室」記事などご覧ください→ 「書評:「渥美半島の風(創刊号)」(著:トライアスリート八田益之氏)」
 

2016年12月 1日 (木)

最新トレーニング理論 「Reverse Periodization」 序説

2013秋のアイアンマン世界選手権KONA226kmは、僕にとってロング初挑戦の一発勝負。
しかしロング用の練習は直前の6週間だけ。その年の目標は51.5kmでのランキング三連覇にあったし、前年秋の救急車事件もあって年末にゼロから身体を作り直し、ショート専用のトレーニングで手一杯という事情もあった。8月末にランキング確定させてようやくロング対策を開始したのだった。
その際の方法が "Reverse Periodization" だ。(といって明確に意図したのでもなく、結果的にそうせざるをえなかったのだが)
 
 
<Periodization=標準的な「期分け」について>
Periodization=期分けとは、月単位くらいの期間で、トレーニング目標を分ける方法で、世の練習計画と名の付くものはほぼ全てそうなっている。
 
長距離でよくあるのは、オフが明けたポストシーズン(orオフシーズン)から
  • 長時間×低負荷のLSD=ロング・スロー・ディスタンスから始め
  • 次第に負荷を上げ、それに伴って練習時間を減らしてゆく
これは耐久系プロ・アスリート達の伝統的な手法。古くは自転車ロードレースがそうだし、最近でも長距離トライアスロンのプロはそうしているケースが多い。
 
ただ最近では例外も目立つことは、僕のブログとFacebookでも紹介してきた通り。
 
端的に言えば、多くの市民アスリートには向かないと思っている。
例外は、基本的な耐久能力が未発達の、つまりは初心者。僕もこの過程を2009年11月頃〜2010年2月頃まで実行している。僕は基本 LSD否定論者 だけど、完全なLSD否定論でもないのです。「それ、状況が違うよね?」という話をしているだけ。
 
プロ選手が僕ら市民と違うのは、冬の時期から、毎日、一日中、トレーニングし続けられること。彼らの多くは、寒い時期に暖かな地方に長期合宿したりもする。全く前提条件が違う。自転車ロードの選手なら、3週間ほぼ休みなしに4,000kmを移動するようなレースにも出るわけで、その状況へのシミュレーションも必要だ。
 
 
Reverse Periodization=最新手法について>
そんなピリオダイゼーションをリバースするので、つまりは、
  • 「短時間×高負荷」から始めて
  • 「長時間×低め負荷」へと移行させる 
その大きな目的は、レース直前に、レース同様の練習を増やすこと。実に合理的だ。長距離レースとは、「長時間×低め負荷」で進行するのだから。
僕の個人的感覚では、51.5kmのスピードでは押しきれない4時間以上のミドルレースから、こうした対応が有効になる。
 
 
<僕の2013年の経験
10月に書いたブログ→ 量と質の関係:序論 〜「ポストシーズンの魔法」に向けて の図に加筆すれば、こちら上側、青いラインの流れだ。
 
20161201_223808  
 
 
<参考文献 

その方法論をブログで何度か説明しているのが、大御所ジョー・フリール先生。こちら公式ブログなどに情報あります(英語)

彼の「トライアスリート・トレーニングバイブル」第4版が紙の英語版ながらも国内でも売れているようだ。詳細は人気ブロガーによる解説シリーズ→ http://rumiokan.com/?cat=14 ご参照。ただしトレーニングの基本に徹しているため、「Reverse Periodization」など応用的な最新理論は深く書かれていないらしい。

 
(つづく) 
 
 
<おしらせ>
僕が寄稿した「潮騒のなかの祝祭」も好評な愛知県・渥美半島の情報誌「渥美半島の風」販売中です→ https://spike.cc/shop/user_3986276548

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『覚醒せよ、わが身体。〜トライアスリートのエスノグラフィー』

  • 初著作 2017年9月発売

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