五輪トライアスロンとは、既に敗者復活のないトーナメント戦だ。スイムバイクで2連勝すれば決勝のランに進出できる。この傾向は、一発勝負のオリンピックではより鮮明になる。それがリオ2016男女の展開だ。
3種目全てに「勝てる力」が要求される、とさえ言える。シドニーの五輪初開催から16年、水泳とランを兼ね備えた当時のキッズ達が、3種目を意識しながら育ってきたんだろう。バイクは欧米には競技文化が根付いているし。
では、半分のスプリント化したら、どうなるか?
幾つか列追加して並べ替え、集団ごとに色をつけてみた。
<スイム終了時>
スイムは、大舞台で存在アピールしたいスイマー選手がここぞと先頭を引きまくることが多く、その背後の集団に表彰台レベルが入る。
リオ女子では、大西洋からの、低いが大きめなウネリの海面のため、体重が軽く身長(+腕リーチ)の短い選手ほど悪影響を受けただろう。上田藍選手が決定的な差を付けられてしまった。
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先頭ではクサビ型に展開した大集団ができた。第一集団は19:01〜19:21までの34名。19:13=25位まで水色、19:16からの26−34位を黄緑に変えた。後半9名中、バイク第一集団18名に残れたのが2名だけだから。「真の第一集団」と「敗者復活組」に分かれたわけで、この差なんと3秒だ。
<T1終了時>
だから、T1=トランジットが致命的に重要だった選手も何人か。T1終了後のタイムで並べ替えてみた。
その敗者復活組の一人、Jolanda Annen SUI はT1最速の51秒、もう一人は8番目に速い53秒。54〜56秒かかった全員が第二集団に落ちている。
T1終了時、20:10までの28名がバイク第一集団に残る権利を得て、20:12以降はみな第二集団へ落ち、メダル&入賞(&18位以内に入ること)の可能性が消えた。この差2秒。
スイムで34名に選抜され、T1で6名をふるい落とした、ということだ。もちろんT1ラインを通過した後の、シューズを踏んづけながらのスタートダッシュを含めてのことだが、その時点で2秒差が開くと、もう追いつけない、ということ。
もう1つの注目は最後、加藤友里恵選手。黄色のバイク第二集団まで12秒差だ。
第二集団は人数が多くて最後までついていきやすく、ここに追いついていれば、バイク終了時点で3分30秒以上早く上がれた可能性が高い。第三集団は8名ほどでふるい落とされてしまい、単独走で脚を削ることになった。追いつけていれば、4分以上のゴール短縮ができたかな。T1で5秒、バイク序盤で7秒削ることができていれば。
T1は、こうしたボーダー域では、本当に重要。
<バイク終了時>
T1で残った28名から、10名がふるい落とされた形。うち一人は急坂でモモを攣ったSarah True USA。
録画を見ると、急坂でふるい落とされた場合も多そうだけど、海沿いの直線往復も効いていそうだ。横風が強いと思われ、集団のメリットはあまりない。距離も短いからエシュロン隊列とか作ってる暇もない。だからバイク強者のSpirigらが展開を主導できたんだろう。先頭を引いたときのダメージが皆に平等に行き渡る。お台場ではこうはいかない。(と思っていたら、距離半分という…)
なお見たのはゴルフ中継のため前半のみ。まあどうせ後半やっててもこんなもんだろう感は否めず、だったら半分でいいじゃん派が多数を占めるであろうことも想像されるのであった。
<ラン>
トライアスロンのランは、バイク終了時点である程度は決まっている。「トライアスロンのランの実力」=「(バイク+ラン)の実力」という面がある。
リオでは、残った18名の中でも、ランの脚を残せたかどうかで明確に差がついていた。もちろんそこに本来の走力も加わってのこと。そして、最初の数百mで、1-2位争い組、3位争い組、入賞狙い組と、あらかた分かれてスタートした印象。
この3位組との格差が明白だったから、グウェンちゃんとニコラちゃんが仲良く並んでお喋りジョグ(笑)する余裕もあったわけだ。
「ジョーゲンセンがバイク第一集団にいると100%優勝できない」というのは、それだけ、彼女のバイクが安定して強いということでもある。
ゴールでは、バイク第一集団の18名が、そのまま上位18位に。まさにバイクは敗者復活のない準決勝。
先にだした加藤選手の例では、バイク開始12秒差次第では、この黄色グループの中で戦うこともできた。最高19位ってことだ。こうみれば、十分な健闘を果たしたといえる。少なくとも、リオに向けて十分に戦える状態を作ってきたといえるだろう。
同時に、この12秒だけで、ここまでレース展開が変わるのも(エリート&ショートの)トライアスロンだ。
<日本のメダル獲得シミュレーション>
ついでに、日本女子のメダル獲得を思考実験してみた。
- 選考: 佐藤&高橋と、W長身スイマーを上田アシスト専門に
- スイム: 上田を両サイドから引っ張る形で、少しでもスイム位置を引き上げ
- バイク: 三人ローテーションでのロングスプリントで第一集団に追いつく(でWアシストはお役目終了)
- 終盤までアシストが残っていれば、ゴール前にスパートをかけて集団前側に位置どり
- 上田が単独でラン勝負
ここでの実現性は、上記2に尽きるだろう。あくまでも、リオのコース限定での、メダル獲得を至上目標とした場合の思考実験。東京2020では海面フラットだし、前提が全く変わる。
<日本の長期戦略>
もう少し長い目線から、日本のトライアスロンの課題を考えてみる。
まずは、水泳もランも、それぞれには世界で戦える競技力を持ちながら、個々の競技内に囲い込まれていて、出てこないことかな、と思う。それでJTUの施策につながっている。
萩野公介なら400Frに集中すべきだが、日本で3位でもオリンピックには行けない。中には走力も高いアスリートは多いはず。(三浦広司コーチは水泳しかしていない高校の体力測定で1500m走4分20秒くらいだったそう。「ビート板キックのつもりでバタバタしてみた」とのこと\@@/)
ランニングはメダル級こそ今は居ないが、男子マラソン2:10前後の層の厚さは、ケニア系(=細すぎてトライアスロンに不適そう)を除けば世界トップレベルだ。これは駅伝人気のために大学・実業団とキャリアパス的に有利なせいだが、そこに囲い込まれがちだ。そこからのチャレンジャーの層がほしい。
そして、バイクね。
・・・
では、 「五輪トライアスロン距離半減」後の戦術はどうなるのか? を考えるのだが、長くなったので続きは次回。その前に、男子のデータはもっとすごい!
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