KONA'16、稲田弘さん225km地点動画にみるランニング技術
稲田弘さん、去年6秒差で逃したアイアンマン世界選手権での最高齢完走 を、今年ついに果たされた。レース当時83歳10ヵ月。(大会では年末カウントのため84歳扱い=だから去年記事は83歳と表記しているが、最高齢記録では誕生日基準なので。1932年11月19日大阪生まれ、和歌山の熊野古道沿いの田辺市育ちの、元NHK記者さん。
ライフヒストリーはこちら日経系の記事 「「人生に限界はない」 御年84歳のトライアスリート、世界の歓声を浴びてゴール」 参照)
アイアンマン226kmを完走するだけでも凄いことで、それを今年の予選で実現されたから出場されたわけだ。
70歳でトライアスロンを始めた稲田さん、所属チームは「稲毛インター」で、オリンピック女子代表にして2016世界ランキング年間3位の上田藍選手、リオ出場を果たした加藤友里恵選手などいるのだが、彼らと同じ量のトレーニングをこなすことが、たしか、週1くらいであると聞いたような。(正確には山本淳一コーチにお聞きください)
その時点で、既にすごい。
だから、予選突破した(=完走した)とか、あるいは藍選手と同量の練習を終えたとか、それだけで大騒ぎされてもよいようなものだが笑、それくらい当然、みたいな雰囲気もあり。やはりトライアスロン界において、ハワイ島KONA世界選手権での達成には、 特別な意味がある。
こちらネット動画でゴールの瞬間を画面キャプチャーに成功した。僕は通過速報からペース計算して、現地応援からのリアルタイムコメントももとに、完走できるかFacebook実況をしていて、ゴールに入ってくる数秒間のタイミングも逃すことはなかった。ただ、予想した範囲中で最も速いペースで入ってきたので焦った!
現地情報源のおひとり、淳一コーチがゴール1.6km手前で撮影したのが、この動画。ここまでの225kmを16時間半にわたり、自らの力のみで移動してきた83歳の走りだ。
ペースは、1km10分、健康な現役世代なら速歩きペースではある。しかし、実質4kmの海を泳ぎ、180kmの暴風&獲得標高1000mくらいの自転車を走った後の、フルマラソンだ。それを、83歳の身体で。
ランニングフォームとして見ると、そこかしこでみかける脚筋と体力に依存した走りとは全く技術レベルが違う。
肩甲骨の柔らかで大きな動きに、僕は注目した。これにより骨盤も大きく動き、この年齢にありえない脚の耐久的な動きを生んでいる。見事な全身の連動性。それにより、上体の重さを「振り子」として推進力に転換させている。あるいは、「きちんと歩く」という平凡な技術を、超非凡なレベルにまで完成させている。単なる「とても元気な83歳」ではない。
そして最後、花道からゴールゲートまでがこちら動画。加速しているのが凄い。世のほとんどの83歳は、100mだけでも、これだけ走れないだろう。
この盛り上がりが、アイアンマン世界選手権KONAだ。この9時間ほど前にその年の世界王者が決定した同じ場が、この近さで誰にでも開かれている。その日の終り、人は何歳までこの道を走りきることができるのかを決めて終わる。応援者に加えて、自ら走りきった選手もシャワー浴びて着替えた後で見に来たりして、狭い場所にすごい人が集まる。
ついでにすごいのが、この人垣の中をかきわけながら最後まで撮りきる淳一コーチの運動能力! しかも普通のi-Phoneなのに手ブレ少ない! さすが元全日本チャンピオン!
<いつかは稲田さん、という希望について>
こうした活躍は、戦前生まれ世代ならではの芯から強靭な心身と、健全な生活習慣ならでは、という気がする。
市民トライアスリートには、「私も80歳まで続けて稲田さんのように・・・」といった希望があったりする。それは「80歳でもアイアンマンを『完走』できるような健康を維持したい」という目標なら現実的だし、素晴らしいことだ。ただ、「予選を通ってKONAに出場し、あわよくば優勝」という願望であるなら、それはファンタジーのまま終わるだろう。
今年の男子50−54歳カテゴリの優勝記録は9時間18分。デンマークのBENT ANDERSENだ。30年後、彼が出場したとして、どれだけの速さで完走することだろうか。あるいは、彼を目標にレベルを上げてゆく同レベルの選手なら、どうだろうか。
稲田さんが世界一なのは、1932年生まれ、という世代でのこと。自分の世代での「競争的な達成」〜たとえばKONA出場や表彰台〜を目指すのなら、何十年と待たず、今できることをがんばったほうがいいだろう。
それとも、自分のしたいことは「自分自身に対する達成」〜たとえば83歳になってどこかの長距離大会での完走を目指すこと〜なのかを考えてみてもいいかもしれない。
<社会的認知>
ちなみに、ここまでの報じられ方を時系列で並べてみた:
- 10/08深夜(日本時間10/09夕方): 稲田弘さんアイアンマン世界選手権KONA完走(私Facebookで実況してました)
- 数時間後、同行者がYahoo!ニュース寄稿
- 10/21 白戸太郎さんが 二宮清純ウェブサイトで「超老人の挑戦!」と題した記事 を掲載
- 10/29 「現代ビジネス」に同記事が 「アイアンマンレースに挑む、「超老人」の挑戦! なんと83歳と11カ月!」 と改題され転載
- 同日13:01、Yahoo!ニュース に転載
- 同日15時台のどこかで、僕のブログアクセスが毎時600までハネる(このタイミングでランク入りしていると思われる)
- 同日夜確認したら、Yahooトピックス「ビジネス>経済」カテゴリで雑誌アクセス数1位になっている
とはいえ、それでも僕の記事アクセス数とそう変わらないレベルでもあり、まだまだかな、という気もする。
難易度からすれば、80歳で(酸素ボンベとかいろいろ使っての)エベレスト登頂、とかよりもよっぽど凄いような気もするのだけど、まだまだ、という印象。ただこうゆうのは継続による知名度の蓄積が効くと思うので、さらに、全国のメジャーなメディアさんはとりあげていただきたい。(まあそうなったら人気が出ちゃって、大会不足とかになっても大変だけど、笑)
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