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2016年7月の5件の記事

2016年7月24日 (日)

トライアスロン用ランの「腕振り」とは骨盤起点の「振り子」 〜上田藍&ジョーゲンセン選手フォーム分析

トライアスロン用のランニングでは、「腕振り」が3つの意味で重要。
  1. もともとスイムで鍛えている上に、
  2. レースでは、バイクパートで脚筋を消耗し、
  3. かつスイムでの上体疲労がバイク中に抜ける
から。こうゆう身体感覚は自分なりに掴んでいただくほかないのだが、それ言っちゃあオシマイなんで、今回はITU公式Youtubeサイトの動画「2016 ITU World Triathlon Yokohama - Elite Women's Highlights」より、今春横浜の上田藍&ジョーゲンセン先生にお出ましいただこう。
ランは1:26から。
 
なお上田藍選手が真っ先にランコースに出ているのは、バイクを先頭位置で終えたから。これは集団内でのアイ・ウエダ個人に対する信頼がないと実現しない。ホームゲームなことも影響してるかな。以前、 「NHK「アスリートの魂〜佐藤優香」 Bikeの描き方には大きな問題がある」  で指摘させていただいた話ね。そして、この差を守ることで表彰台に上がった。エリート・ショートでのバイクは、マネジメント要素が強い。
 
その上でランニングフォームを見ると、
  1. 肩の回転量が大きい
  2. 上下動はけっこうある (GarminやJinsのデータを気にし過ぎないようにね)
という印象をうける。これは追撃の巨人ジョーゲンセン選手も同じだ。
 
こちら1:28〜からのキャプチャー、巨人の捕食から逃れる我らが藍選手にMacプレビュー機能で補助線を引いてみた。迫るジョーゲンセン選手も、まったく同じ線で理解することができる(けどハイレグウェアを強調してしまうので、、)
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腕振りの「動作原理」について、僕の理解は、
  • 大目的は、骨盤を回転させること
  • そこで骨盤の中心を起点に「逆の振り子」をイメージし、
  • その中間点が肩で
  • 腕は、一度、まっすぐ上に(逆三角形に)上げたあとで、折りたたむイメージで理解する (ヒジでさらに折り畳むと、腕振りの形になる)
ここで「振り子」とは、背骨中心の「回転型の振り子」運動であり、骨盤を中心とした「ねじれ動作」(のように表面的に見えるもの)を通じて、「モモの振り子」へと受け継がれるものだ。
 
こう理解すれば、腕の動きはどうでもいい。そこじゃない。動画を見れば一目瞭然で、上田選手は、とにかく肩のローリング量=回転移動の距離が大きい。巨人ジョーゲンセンも実は同じで、長身なので目立たないが、肩の移動距離はかなり大きい。
 
つまり、腕振りの目的は、まず「中間目標」として、肩を移動させること、と考えられる。これにより、胸郭(=肩甲骨+鎖骨)が大きく動かされ、骨盤に回転力を与えることが「ほぼ最終目標」だ。ほぼ最終、とは、本当の目標は「足のキック」であり、その手前の「モモの前後運動」であるわけだが、それらは、骨盤回転の結果として自ずと導き出されるものだから。
 
以上を言い換えれば、ランでは脚筋は(ほぼ)使わない、ということ。
 
これにより、バイクで疲労した脚筋でも、回転を落とすことなく、高速ランニングを実現することができる。
 
そして上田選手は、小さな身体のハンデを、この大きな肩移動(=腕振り)によって克服し、高回転かつ身長の割には大きなストライドを実現している。それを支えるのは、この上側の大きな動きを受け止め、制御する腹筋・背筋のパワーと調整能力だ。
 
ジョーゲンセンはといえば、肩の前後の移動距離は、実は同じくらい大きい。身長が高いのでバランス的に「ねじれ」が見えにくいだけ。それから、これは僕の想像だが、背筋系がとても強く、小さな動きでも大きな力を引き出すことができている。
背中全体が、剛性の高いカーボン製の1枚の板バネ的な働きのイメージだ。前半で、骨盤を中心とした「ねじれ動作」(のように表面的に見えるもの)、と書いたのはそうゆうこと。ネジる意識ではなくて、結果的にネジられる。
20160722_131014_2_2拡大コピーか笑
 
こうして、腕振りの「役割」とは、以下2点に集約される。
  1. 「ピッチを作る」ことが第一だが
  2. 「ストライドを作る」こともできる
「腕振りは、ヒジを引け」とよく言われるようだけど、こうした動きを引き出すための「1つのトリガー」にすぎないと僕は理解している。経験あるコーチがいろいろ指導する中で、引くことで改善した事例が多い、ということ。だから、それはそれで試してみればいい。
 
ここで書いているのは、では、なぜそうなるのか? という根本。
 
ランニング単体の世界では、「青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ」などで、(体幹コアを安定させた上で)肩甲骨を動かすことの重要性は言われている。
ただトライアスロンの場合、より大胆な補助線を引いて、より大きく動かしてみるといいと思う。まずは大き過ぎるくらいの動きで、過去の運動感覚をリセットしてみる。そこから適正動作に戻していくイメージで。
 
その上で、脚の動きは、前後での振り子運動。これは時計の振り子と同じ。引き上げではヒザ曲げるけど蹴りではヒザ伸ばすから、蹴る時だけ地面に接地する。
ここで「蹴る」という表現を便宜上使っているけど、実際には蹴らない。地面に接地するだけ。上体からのパワーが伝わっていれば、それで十分。
 
足の着地は、上田選手がカカト、ジョーゲンセンはフォア気味かな。そんなのは、どっちでもいい。末端は気にしたらダメ。(まあ、そうゆうのをキッカケに中心側の動作を改善できるケースもあり、気になれば、やってみればいいとは思うけど)
 
・・・
 
腕振りについて、過去ブログでは、 
 
〜 遠心力を高め その波動を、肩&肩甲骨を経由し骨盤に伝える
 
〜 その原点はたしか、1-2年目かのどこかのレース中、終盤でギリギリ粘るために編み出した苦肉の策にある。その活用技術は、細かな起伏のあるオフロード中心にラン練習するようになってから、さらに上がった。
 
〜 腕振りがピッチを作り、それにより速度を上げる (長距離トライアスロンでストライド走法は無理)
 
〜 重量を活かした大きめの振り子運動をさせている。僕はお腹も太いので大きな動きに耐えやすいのと、腕振りも多用することで振り子運動をサポートしている。
 
など書いている。お時間あればご参考に。
 
 
<おしらせ:「渥美半島の風」>
僕のランニング技術と、それを支える哲学について、しっかり書いてます。こちら販売サイトから購入いただけます:
 

読者さん感想は、例えばこちらブログなどご参照  
 
八田哲学に触れよ!「渥美半島の風」面白い!!!  「オカン、アスリート始めました」
 
渥美半島の風、宮崎に届く 「完熟マンゴーの、トライアスロン奮闘記」
 

2016年7月23日 (土)

駒澤大駅伝部は「声掛け」が早い 〜トレラン問題を解決するコミュニケーション術

ポケモンGOが国内公開された今夜の砧公園、いつも居ないタイプの若者たちが青いスマホを眺め彷徨っておる。。。トレイルを含めたランニング(ジム内と陸上トラック除く)も、自転車も、「公的な空間を趣味に使う」という点で、ポケモンGOと同じよなもんだ。

<NHK「特報首都圏」トレラン特集>
そのトレインランニング、今夜NHK特報首都圏 「楽しいはずの山道で~“トレラン”ブームに見る公共意識~」 で特集されていた。関東限定と思うけど。番組キャスターさんブログでいう→ 「まるで自分が野生動物になったかのような疾走感」を、舗装路ばかり走っている方々は、是非体験すると良いのだけど、そこには狭い日本&東京圏ならではの問題が出てくるわけだ。
 
「マナー」とは、いろいろな文化やら事情やら背負った人達が同じ場で会する場面のためのもの。そこで生まれがちなトラブルを回避する知恵を整理したものだ。トレイルランニング問題とは、まさにそんな状況だ。
 
特に、人の多い鎌倉と高尾山はマナーの重要度が高い。鎌倉は、地元コミュニティが活発な地域で、自治活動が盛んのようだ。番組で紹介されていた鎌倉トレイル協議会が提唱するマナーは、こちら動画『鎌倉はこう走ろう。』の通り → https://youtu.be/SLqLNJKJojY
高尾山のほうが無法度が高いのかな? → 「噂の現場」2014年の動画
 
やはり大事なのは、追い越しのマナーだ。人間の心理は、後ろから追い越されることが本能的に嫌いだ。暴走族系の輩ならそれがために人さえ殺して自分の人生まで終わらせるのは昔も今も同じ。(そこを終わらせまいと逆転を図った流れから派生したのが今騒がれてるAV出演強要問題かな)
 
そこでのマナーのポイントは2つに絞られる
  1. 歩く
  2. 声を掛ける
迷ったら、とにかく歩くに限る。前書いて反響大きい→  「ウォークブレイク」  を実行するだけだ。鎌倉トレイルのように狭くて密集していれば、減速以外の選択はない。実際、同協議会の推奨もこれ一本で、先の動画では、場面別の歩き方を紹介しているだけ。
 
自転車も同じくで、安全の基本はとにかくブレーキ。かけたがらない人は多そうだけど、加減速も重要な勝つための技術。
 
減速すべき箇所を減速しないことによって、練習の平均スピードは簡単に上げることができるけど、そんな練習は、レースでは全く無意味だからね。バイクの下りもその1つだ。
 
 
<コミュニケーションが基本>
声掛けは基本。ただし、十分なスペースがある場合に限られる。狭いところを声だけかけて走り抜けるのはダメ。
 
ただ、番組で紹介していた「咳払いで存在を知らせる」のは、よくないと思う。しないよりマシだけど。
 
砧公園の僕の練習パートナー(※自称)である駒澤大学駅伝部員さんは、当然、追い抜き続けながら練習してゆくわけだけど、必ず、その10mくらい前までには「追い越します」的なことを明瞭な発音で声がけしている。僕は最初、こんな遠くから?とびっくりしたくらいだ。
 
でも離れていれば相手を驚かせることもない。そして速度差も考慮して、相手が振り返った時にも十分な安全距離を保てるようなタイミングを計算しているわけだ。このきめ細かさが大八木親分!ああみえて?繊細なマネジメントを徹底しているのは、著書を読めばよおおくわかる。
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(春の砧公園〜ランナーはどっかの高校生、フォームが駒大と全く違う)
 
コミュニケーションは全ての基本。やり過ぎくらいで丁度いいんだろう。
 
このことは、公道を使う自転車トレーニングでも本質的に同じだ。たまに、クルマも歩行者も自転車に合わせろ!的な雰囲気を感じることはあるけど、そんなの、ありえない。僕らは「公共空間を使わせて頂いてる」に過ぎず、そこには感謝と謙虚さしかない、でも、周りが見えない自己陶酔、さらには 「スポーツしてるオレ様が偉い」的な心理にハマってるケース多いような気もする。バイク事故なども、幾らかは、そうゆう態度が影響してるのもあるんではないだろうか。
 
公的空間を走る以上は、早めの声を出す。自転車であれ、ランであれ。なおポケモンGOで「捕獲します」と声に出すかどうかは自己責任でご判断を。
 
これはプールでも同じ。少しでも混んでたら、出る前に一言「いきます」と片手上げてつぶやくくらいは、したほうがいいと思う。全く無言の人間よりも、少しでも言語なりジェスチャーなりを発する人間の方が、安心できるというもの。それは、接触や波などのトラブル化も防げるとお思う。声を出した側も優しくなるものだろうし。
 
 
<オフロードを走ろう!>
いつも書いているように、僕のラン錬は基本、オフロードだ。量的に、軽く過半数がそうだと思う。起伏のあるオフロードで、緩急をつけながら、その重力変化を感じることが、ランを磨く最高の方法だと僕は思っている。一時的な外傷をすることはあるとしても(したことないけど)、少なくとも、長引くタチの悪い故障は、これでかなり避けられると思う。
 
人体は2足走行できるように進化してきたけど、「舗装路を一定ペースで走り続ける」ようには進化していない。これは、「ギャロウェイのランニングブック」で「ウォークブレイク」理論の前提として強調されているのは、以前書いた通り。他の洋書でも書かれている。
←それぞれ、おもしろいです。

2016年7月 8日 (金)

雑でも速い「後半勝負ストローク」、その「フィニッシュの型と力」について 〜Ryf事例分析編

「綺麗に泳いで速い」人はいるけど、だからって、「綺麗に泳げば速くなる」わけじゃない。これが2つ前の 「トップトライアスリートの泳ぎは意外と雑」  での大きなメッセージだ。

一流の動作は美しい。それは正しくパワーを発揮した結果であって、結果からマネすると「なんでも鑑定団の100万円の名品によく似た1,000円のガラクタ」化しかねない。カタチの裏にある本質を探れ。

ここをしつこく書くのは、日本人には「型」の意識からか、綺麗に動こうとしすぎる傾向を感じるから。

実体験からの国際比較もあって、電通のロシア人社員キリーロバ・ナージャさんコラム 「日本の水泳教室は、タイムよりカタチだった。」 などご参照
 
型には一定の効果はあるんだけど、忘れちゃいけない、スポーツとは筋肉でパワーを発揮することで始まるものだ。同じことをゴルファーから聞いたこともある。石川遼のマネするより、子供の頃の草野球の乱暴なスイングを思い出したほうが、往々にして遠くに正確に飛ぶものだそうだ。
 
 
<ストロークは後半勝負>
一方で、物理法則は型に表れる、のも真実。内と外は相互作用する両輪だ。
 
4月に書いた超重要記事→ 「ストロークは後半勝負 〜驚くほどできてない水泳の超基本を解説しよう」  も、つまりは「物理法則と身体の型」について説明している。今一度読みなおしていただくとよいのだけど、一つだけ引用しておこう:
  • 初期=キャッチは(肩を軸とした)円運動で構わない
  • 終期=フィニッシュは後ろに向けた「壁」のように垂直に水を押す
これ別の視点から言うと、前半は雑で脱力し、後半は丁寧かつパワフルに、ということ。(逆になってる例はとても多い)
ここで、フィニッシュ動作とは、直線ではなく、緩やかな円運動の中で、全体として後ろ方向ならばOK。丁寧さよりもパワーを重視していい。
 
 
<フィニッシュ事例の研究> 
Daniela Ryf 選手に再度おでましいただこう。
この3:08あたりから静止画を撮った。
フィニッシュの左手に注目しよう。

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ヒジを起点に、前腕〜掌による「1枚のパドル」を上にかき出すように使われている。
この時のストローク速さが最高速となるべきことは、上記「後半勝負」で書いた通りだ。
 
こちらは、上と同じタイミングを、やや後ろから見たもの。(※注目は脚ではアリマセン)
20160706_10552420160706_105607
上腕部のストロークが終わった後でも、
  1. ヒジ先のパドルは後方を向けて、
  2. はじめは水を後方に直線的に押し、
  3. 最後はオールのかき出しのように、円運動で水を後ろに送っている。
 
<よくあるパターン> 
でも、たとえば大人男性なら100m1分30〜40秒以上かかるレベルでは、この箇所で水を押す動作が存在しない例が多い。1分45秒以上かかるレベルでは、過去見てきた範囲では100%存在しない。一番美味しい水をみすみす逃すミスです。
 
これは、「型」だけの問題ではなく、内側からの力の出し方がそうさせない、ということでもある。結果としてそうなっている、ということ。内のパワー源と、外のカタチ、両面からの意識改革から必要。
 
だから、この文を読んで、いきなりできるようにはならない。カタチが似てても水を逃がすか壊すかしてるだろうし、数ストロークだけできても、筋力が追いつかずに続かないはず。
でもそのうち、もともと持ってる力の引き出し方がわかってきて、さらに筋力増強効果もでてきて、内と外とが相互作用を起こしてジャンプアップできるようになる。
 
こうゆうのは、映像を撮らないと見えないし、知識として知らないと気づくことができないよね。
 

<おしらせ>

浮力と剛性の高いビート板沈めたキックは実戦直結の体幹トレーニング。無料備品を使うときは厚くて新しいのを選ぼう

2016年7月 6日 (水)

ウェットスーツ泳でもキックはパワーの起点 (+ビート板練習の注意点)

2016.07.16追記:リオOWS代表、平井康翔選手Facebookでの情報:
 
 
ちなみに三浦広司コーチは現役時代「400mキック」をやらされて5分3秒だったそう。トライアスロンでは(エリートのトップクラスを除き)こうゆう「キックの速さ」は必ずしも必要ではないけど(庭田清美選手もキックが50m50〜60秒くらいだそうで)、速いに越したことがない。
 
ただ、普通のトライアスリートにとって「キックの姿勢」の重要度は高いと思う。泳ぎ全体の姿勢制御を苦手とする方はとても多く、その一部として。
 
ウェットスーツで下半身を浮かせる場合でも、キックはパワーの起点になるから、やっぱり重要。ムチの柄のようなもの(て、ムチ打ったことも打たれたこともないんだけど、そこは想像たくましく)で、足の動きは小さくとも、上体を正しく使い切るための源となる。
 
昨夏の密かな注目記事→ 世界水泳'15の注目、パルトリニエリの「1キック・クロール」はトライアスリートに向く 〜TV中継より詳しい泳法解説  で書いた「1キック泳法」のパルトリニエリも、ムチっぽくキックを使っており、これに「側転」的な動作につなげてゆくわけだ。
 
孫楊のループ動画(おもしろい!)の例。特に両サイドからの。
彼の巡航時は6キックのうちの2つを強く打つ、2キックもどき泳法だ。ラスト100mからスプリンター並のフル6キックに切り替える。たぶん世界トップレベルのキック力で、緩そうに打ってるけど、かなりなパワーがあるんだろう。
 
 
<やじろべえキック>
注目は、彼のアクセントのキックが「やじろべいを前後に倒す」起点になっていること。
 
※ ぱっと見では、わかりやすくもないかも。
正しい動作は、身体の内側からパワーを発するわけだが、これは「外から見れば、小さな動きとしてしか認識されない」とういことでもある。特に水泳は、大きな動きは抵抗要因になるのでなおさら。そこで、ある「視点」を持って観察する必要がある。その「視点の1つ」について書いてます。
 
つまり下半身には浮く力が、上半身には沈む力がかかる、大きな前回転運動だ。(=これにローリングもしくは「エッジの切り替え」が加われば、そのまま前転になる)
そしてそのパワーは、そのままストロークに活かされる。これが体重を活かしたストロークだ。(簡単に書いてますが、笑)
 
腹圧はそのツナギ。腹筋とかは、こうゆう連動動作のために必要な筋肉だ。
 
(ちなみに、孫楊のストロークには「グライド」の印象があるけど、実はほとんどグライド時間がないことが知られている。動画でも、フィニッシュ直後にキャッチ開始してることがわかる)(また時間があればこのストローク分析でも書いてみる=たぶん時間ない泣)
 
そのためのキック練習法は、三浦コーチのこちら→ ブログ記事の、2枚の図 がわかりやすい。
 
リンク先の上図が、20130724151032ef1 広く行われているけれど、実は実戦的でないという例。特に、「ウェットスーツを着た場合に、下半身が浮きすぎて、キックが空打ちしてしまう」という場合、このキックをしてしまっていることが考えられる。
 
普通の水着でなら問題なく泳げる場合でも、ウェットスーツは(同じ生地の厚さで作った場合)下半身側の浮力がより効くので、フラット姿勢を取れてキックが得意な上級者ほど、キックが浮きすぎて空打ちしやすいわけだ。
※ただしビート板キック単体のスピードは出やすいので、スピード錬としての意味はある。プール競泳では、「ストローク速度を活かしてキックを通常以上に高回転させる」という泳ぎができる。そのための練習としてはいいと思う。
 
下図が、より実戦的な方法。タイムは落ちるが、実戦的だ。この図:ビート板を沈め、その浮力を全身で押さえつけている。そのパワーの起点がキックだ。
20130724151121ff3 特にウェットスーツの場合に、下半身の強い浮力を、前方回転の力=ストロークパワーへと変換することができる。 これが、「やじろべいを前後に倒す」イメージでもある。
 
先月ブログ→ 「【スポーツ動作の原理】 筋力発揮は一瞬、もしくはリレー」  で説明した通り、スポーツの技術とは、ようするに、複数の筋肉群の連動性。だから、悪い例のやりかたでキック練習のタイムだけ速くしても、実戦に活きない。
 
これは三浦コーチが2003年には雑誌で発表している理論。13年前の古典的真理で、知らない人に向けて(主にトライアスロン界に向けて)発掘&紹介しておく。
 
加えて、「サイドキック」(ビート板なし)を技術練習としてやって、身体のバランスや抵抗減すると良い。孫楊のキックもサイドキックが中心。アップや、練習の合間の息抜きにちょうどいい。
 
2016.07.16追記:
高速キックのためには、骨盤の速い回転が必要になる。腹筋をベースに、腸腰筋を活用することになる。これはバイク&ランと同じだ。3種目を底上げする力になるだろう。
僕は最近、芝生上での「後ろ走り」という陸トレを始めてる。
 
 
<マイ練習具>
こうゆうキックを練習するには、固くて浮力の高いビート板が必要。
プール無料備品の薄くてヘナヘナしたのは、悪い例のキックになりがちなので、注意しよう。
本気で練習するなら専用品がいい。ゼロディのこの板は、大きくて厚く、浮力も剛性も十分。
←しかも型落ち前で6超オトク
 
僕も持ってるけど、競泳エリート選手があまりにも絶賛するので、あげてしまった。競泳のように長時間練習すると、肌触りが大事で、雑だとスレて痛いらしい。そのキメこまかな手触り感、質感も魅力だ。ほんの1,400円で充たされる所有欲

 

海ではクラゲ除けましょう

2016年7月 5日 (火)

【OWSクロール】 トップトライアスリートの泳ぎは意外と雑 〜Daniela Ryf編

綺麗なフォームの動画で勉強するのは良いことだけど、「前提条件を欠いた根拠なき憧れ」に陥っていないか、気をつけた方がいい。
 
「前提の違い」とは:
  • 幼少期からの競技経験
  • 技能レベル 〜たとえば50mプール板キックが20秒台(トップスイマーではよくある)か、30秒台(上級スイマーではよくある)か、55秒か(ワタシとか)、の違いは、姿勢やストローク動作にも影響する
  • 体格差 〜身長180cmの男性と155cmの女性では、腕のリーチ長は肩幅も含めて2割くらい違うわけで、同じ技術で泳げばストローク長も2割の差がでる
環境差もある。
  • プール×単独の競泳か
  • 海×集団のトライアスロンSwimやOWSか
プールで超速い人は、まちがいなく海でも超速い。ただ、プールでは超速でなくとも海だと結構泳げる人もいる。後者の典型が、海外の一部のトップトライアスリートかと思う(といって、プールでの記録を知らないので、フォーム見た印象として)
 
<事例研究:雑な入水>
こちらプロ女子でトップレベルの泳力を誇る(らしい)Daniela Ryf 選手、競泳エリートと比べて、フォームが雑だ。 (以前紹介したジョディ・スワロー選手よりは綺麗だが)
0:46-, 2:59-あたりがお勧め。
 
雑、という表現は、入水〜キャッチを競泳エリートと比べてみるとわかるかな。泡を手に絡めたまま、どぼーーんと沈めている。上の動画サムネイルは泡切れがよいけど、呼吸しながらの下のではしっかり泡つきだ。これでも、世界トップレベルの泳ぎなのだ。
20160704_195129
この「雑に沈めるストローク」のメリットは、
  1. 海×集団の環境において、表層の乱流に影響されない
  2. 重力に任せて水をつかめるので効率的
  3. 回転を上げやすく、やはり乱流環境に向く
  4. 常時パワーを掛けられる 
など。
 
特に1は重要。海では入水した腕が、波や前泳者の乱流を受けるからね。
(流されないパワーとバランスを持つ上級者は別)
(なんだけど、競泳オリンピアンですら、グライドは海では乱されるので控えめにしてるそう)
 
なお、3−4は必須ではない。体力も使うので、僕もこうゆう泳ぎは基本しない。ただオプションとして使えるのなら、いいと思う。
3. の回転スイムは、女性のトライアスロン&OWSのトップスイマーに目立つ。腕の長さもパワーも男子に劣る分、ピッチでカバーするタイプ。ただし高い有酸素能力が必要。もっとはっきり言えば、練習量と若さが必要。 
4. は、この画像でも、左手フィニッシュと右手キャッチとが連続していることが見える。競泳では、50mのスプリンターとかはこうゆう泳ぎをし、距離が長いほどグライド時間が増える傾向があるのだけど、海では長距離でもこうゆう泳ぎはけっこう多い。
 
一方で、世の水泳の解説では、「綺麗なフォーム」だけが使われる。それはあくまでも「見世物」であって、そのままマネるべき「お手本」ではない。
そんな「見世物」では、リカバリー腕を早く入水してグライド姿勢を保つのが普通だ。でもこれは、プールの静水環境に最適化した動作だと思う。もちろん、それを極めた方ならば、海でも使える技術となっている。これも冒頭の「前提の違い」の1つだ。
 
<体幹>
もう1つ、Ryfを前からみると、身体は真っすぐではないよね。昨今の体幹ブームでは、こうゆうのは悪い例とするんだろうか。でもこれは、三浦クロール理論での胴体の使い方と同じ。
20160705_114355 100分の1秒を削る競泳選手は、抵抗増大要因は徹底排除するので、こんなフォームは見せない。でも海では、パワー増大を重視したほうがいい、という違いだと思う。
 
ただ僕の最近の考えは、両者の動作は、実は同じだと思っている。競泳選手も、こうゆうパワーの出し方をしていて、ただ同時に、抵抗を極小化する形=フォームも徹底している。そしてトライアスリートならそこはあまり気にしないだけ。いわば着ている服が違うだけ。
 
 
<水上の動画>
同じくDaniela Ryf、先週末 アイアンマン・フランクフルト2016レース動画もツイッター より紹介。(スイムはトップ通過したが、寒過ぎてバイクでリタイアしたっぽい)
これが彼女の3.9kmでのレースペースだ。ストロークは程よく伸び、かつピッチも速い。この水上からの映像でも、三浦クロール受講者さんにお伝えしているポイントが見て取れる:
  1. リカバリーのパワー起点
  2. リカバリーの軌跡
  3. ストローク中の体幹位置
ここで、2. のリカバリー腕の入水が遅いことが、前半で書いたキャッチのしかたに直結しているわけだ。
 
 
<おまけ:海練習ではクラゲ除けましょう>
←このパドルはソフトタイプ、普通のプールで使えるならすばらしいのだが、どうなんだろう?

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『覚醒せよ、わが身体。〜トライアスリートのエスノグラフィー』

  • 初著作 2017年9月発売

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