「2軸クロール」の終わりと、新たな「スノボ」泳法について
<2軸クロールという表現の問題>
(いやもちろんそれで速くなり続けてる方ならそのまま続けてくださいね。当記事はそうでない方に向けて書いてるのは言うまでもなく)
日本の水泳界で最も売れてる本は、クロールは「2軸」だと表現する。ただ、2軸とは、もともとは陸の上での運動を解説する用語(小田伸午先生など著書参照)だ。20世紀型の1軸S字クロールを、高速水着向けに転換するために、2軸という対照性の強い表現を選んだんだろう。「当時は」その必然性があったわけだ。でも僕は泳ぎながら軸なんてないよなーと思ってた。三浦さんもそんな説明しない。じゃあなんだ?と表現を探し続けて、当記事に至る。
実際、今春から始めた 「三浦広司クロール撮影会」 で、これまで50名ほどの受講者さんの泳ぎを分析すると、かなりの高確率で、遅くて当然、というマイナスの型がある。
①肩を起点に、
②等速運動させるストローク
だ。前に書いた 「ストロークは後半勝負」 の真逆だ。
原因はたぶん、①間違ったローリング意識と、②呼吸しようとし過ぎること。
<ローリングの本質>
まずは、正しい動作から説明しよう。クロールのローリングとは、体重を片側づつ載せ替えたことの「結果」であり、スノーボードのエッジへの載り替えのようなものだ。「回す」のではない。回転軸とは行為ではなく存在にすぎない。
そして、エッジ=つまり胴体の両側面=に乗せた体重を、ストロークにまで載せる。エッジの切替により、ストロークに体重が載って、最後まで加速できる。逆に、ストロークだけ加速しようと思っても加速することは出来ない。水の重さに負けるからだ。つまり本質は、「ストロークへの体重の乗せ方」にある。
なお速いスイマーは、このスノボのエッジ位置が高い=水面に近いので、抵抗が少なくてさらに差がつくことになる。ただ、この位置は「結果」であり、意識できるものではない。
<ストロークに体重を載せる>
模範例1:疋田浩気さん
ヘッドアップ説明用の、低速の特殊な泳ぎだが、それでも基礎が全く崩れないのは、まさに超一流だ。
- 右ストロークは右エッジに荷重
- 右ストローク終了により、反対側に荷重きりかえ。グライド=左腕のまっすぐなのは、まさにスノボの板
- リカバリーと共に、エッジに体重を載せている(キャッチアップのストロークではダメ)
この体重活用により、低速でも、安定したヘッドアップも実現できている。
なお、2つめで注目すべきは、右ストロークの上腕と下腕の位置関係だ。最後まで水を押し続けている。ここが一般スイマーとの完全な違いだ。
ご本人コメント:
「わかりやすいようにゆっくり泳いでる=グライドしてしまう、のであって、実際のレースでのスピードでは、だいたい1ストロークを1.6秒くらいで回しているため、ほとんどグライドしてないのです。そのストロークテンポを崩さずにヘッドアップをするので、少しでも前を見る時間を増やしたい❗そういう中から産み出した技なんです。」
模範例2: エイジのトップスイマー、ハルさんブログ: 「軸ではない。エッジだ!」
「2軸と言う言葉しか知らなかったのでその表現を使ってましたが、エッジに乗るという表現の方がしっくりきます・・・この画像でかいている赤線なんて、軸じゃなくてまさしくエッジです(笑)」
この手の動画は、手先の軌道に注目される方が多いのだけど、それダメです。何度も言ってますが。Youtubeを0.25倍再生すると、
- 腰に貯めた力
- キック
- 腰
- 肩甲骨
つまり「ローリング」は、推進力を産みだした結果の副産物であり、焼き鳥みたいな軸回転をしているわけではない。これは体重の載った重く強い動作なので、肩甲骨も前後に大きく動いているし、ストロークも加速できている。腕力だけでは無理です。
講習で説明している「肩起点ではないストローク」、腰を支点とする「前後やじろべい」、なども実現されている。
ちなみに、僕の下手な泳法よりも肩の上昇タイミングが早いのもこのせい。身体全体が上昇するから肩も上がる。ただし、トライアスリートに多い「肩を回して肩から上がった」のではない。だから肩甲骨発のパワーは肩・腕に十分に載っている。
これと同じように泳ごうとする場合の条件は、
- 強くて抵抗の低いキックの技術
- それでも全身をブラさない姿勢保持力
<失敗の原因>
「真似しやすいところを真似してしまう失敗」には水泳が苦手な人ほど気を付けたほうがいい。往々にしてそうゆう箇所は、本質ではない。
いくら泳ぎを撮影しても、トップスイマー(しかもプール競泳の)の形と比較して、目についたところを表面的に治そうとするのでは、まず速くならない。ただ、その違いを生む本質が理解できれば、100mあたり5−10秒くらいは練習抜きにポンと上がったりもする。
(なので、撮影会は、好評ではあるのだけど、そろそろ教材を完成させることを優先せせたいところ・・・でも別の大きな案件が複数あって動けず)
重要なのは動作の過程にあるのだが、表面に表れる結果、つまり「胴体のローリング」という型が中途半端に注目されすぎているのではないだろうか。
従来の「1軸」「2軸」という言葉には、回転軸が存在する、という無言の前提がある。それで、回そう、という意識が入るのではないだろうか。だとすれば無駄だし、有害ですらある。「速くなるために意味のある動作」しか意識すべきではない。
具体的には、肩を起点に胴体をねじれば、胴体は焼き鳥をあぶるように回転できる。
しかしそれでは、ストロークのパワーは逆方向に分散してしまう。
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