耐久アスリートに必要な「糖質」の絶対量とタイミングについて
昨今「低糖質食」が流行ってるけど、耐久アスリートにとってはどうなのか?
こうゆう絶対解のない話では、まずは 「わかっていること」を確認しておけば、その先を自分なりに考えることができる。そこで当記事では、絶対量とタイミング、2つの視点からまとめておこう。
はじめに基本を確認。
「僕は20~30分ごとに25gの炭水化物を摂るようにしています。炭水化物は筋肉のエネルギー源になりますが、それ以上に重要なのはマインドに対する影響です。 ウルトラマラソンは単に肉体的な競技というよりも、マインドが大きく影響する競技です 。そのために脳が必要とするブドウ糖を炭水化物を通じて摂取し続けることが必須です。同時に体力を回復させなければいけません。そのために必要なのがタンパク質と脂質です。」 (スコット・ジュレク、2015年インタビューより)
2015年夏、41歳にして、総距離3522km&累積標高差150㎞(=富士登山を海岸から20往復)。アメリカ西側の山脈「アパラチアン・トレイル」縦断46日8時間7分という世界最高記録を打ち立てての言葉。そう、耐久アスリートには、炭水化物、タンパク質、脂肪、の三大栄養素のバランスが必要なのだ。
その理由は、体内のエネルルギー産出回路について考えれば明らかだ。筋肉は、何種類かの動力源を同時に動かすハイブリッド駆動。糖質カットとは動力源のカット、プリウスなのにガソリンエンジンを使わないということ、遅くなる以外にない。(※脂肪を使わず糖質だけ、という場合も、長時間になれば同様)
そこで検討すべきは、程度の問題。 どれだけ、いつ、なのか?
追記:英語ではそのテーマまんまの「耐久スポーツのためのパレオ・ダイエット(=低糖食の一種)」なんて本も出てる。Kindle版でGoogle翻訳かけながら、有益そうな箇所だけつまみ読みしてもいいかも。この手の最先端の話題では、中途半端な日本語の本よりも絶対に英語の本がいい。(僕はそこまで余裕も興味もありませ〜ん)
まずストック=体内貯蔵量から考える。
成人男性が身体に貯蔵できるグリコーゲン量は、通常の状態では肝臓に100g、筋に300g程度と言われています。これはエネルギー量に換算すると約1,600 kcal (鍋倉賢治筑波大教授「ジョグノート」コラムより)
仮に、体内グリコーゲンを完全枯渇させる運動をした場合(=やらないほうがいい)、1,600Kcal相当の糖質、炊いたご飯なら1080g分(1膳160gで7杯近く)が、グリコーゲンの回復だけで必要ということだ。実際には、筋肉疲労の回復とか、追加のエネルギー消費もあるだろうから、もっと必要なはず。現実には、「貯蔵グリコーゲンを半分消費したからご飯4杯」とか、そのあたりに落ち着くだろう。
1つ注意すべきは、肝臓のグリコーゲン400Kcal分は万能だが、筋グリコーゲンはよそに移動できないらしい。フクラハギのグリコーゲンを枯渇させると、モモとかから移動できず、フクラハギだけ売り切れて、より低パワーな脂肪やタンパクの糖新生(=筋肉の共食い)で賄わざるをえず、フォームを乱す。
※長時間の練習には、こうしたグリコーゲン枯渇シミュレーションという意味がある。枯渇させずにすむエネルギー消費と補給のバランスを見極めるわけだ。疲労困憊すればいいわけじゃあなく、むしろ逆で、どうすれば困憊せずにいられるか、という実験が、長時間練習だと思う。
「運動量にあわせた炭水化物を」 というハーバード大の論文もある。低炭水化物ドリンク摂取の場合は、筋の中のグリコーゲンが枯渇して、筋肉の消耗が激しい。運動のカロリー量だけの糖質摂取が必要。
これら体内貯蔵(ストック)で足りない糖質は、運動中に食べて吸収することになる(フロー)。そこで「時間あたり」の吸収量を考える。
スコット・ジュレクは1時間あたり50〜75g=200〜300Kcal相当の炭水化物を食べ続ける。身長188cm体重75㎏、アイアンマンのトップアスリート標準の上限ギリギリくらいで、意外と重い。長いレースの後半ではかなり落ちるだろうけど。その頑強な身体を、完全菜食(ヴィーガン)だけで作っている。栄養て不思議だ。(ちなみに彼は、タンパク質を摂り過ぎるな、とも言う)
一般には、胃腸が吸収できる糖質は時間あたり「体重×(0.7〜1.0)g」。それを超えて無理に詰め込むと吐き出すハメになるだろう。(僕は一度も経験がない〜というかその気配すら感じたことがないから、ここは想像で書いておく)
それ以上のエネルギー需要は、主に脂肪で賄うことになる。「総エネルギー消費における糖質と脂質の比率」には個人差があるし、また食事とトレーニングとにより、変化できるものだろう。
ここには個人差があり、胃腸が弱くて糖質供給量が少ないのなら、脂肪活用エネルギー量を増やすトレーニングが必要になるだろう。そのためには、まず食事での「糖質と脂質の比率」から変える=脂質を増やすことが考えられる。(後述)
胃腸の能力が高く、脂肪活用能力が高ければ、あんまり気にする必要がない。(僕は両方、特に胃腸が丈夫過ぎるようで、1週間で3㎏くらい苦もなく増量できて胃腸ノートラブル、という高い栄養吸収能力を持ちます。どすこい)
<タイミング>
もう一つ考えるべきは、吸収のタイミング。基本は、血糖値の変動を抑えることだ。この点は低糖質法に学ぶことができる。普通の食事なら、野菜→肉魚類→米、という順序を守ることで、変動を抑えることができる。
減量したい場合、夜の糖質を減らすのは確実な効果がある。ただし、朝練を朝食前にする人なら、夜は(順序を守って血糖値変動を抑えながら)糖質をたっぷり食べていいはず。その分は朝練のエネルギーとして消費されるはずだから。「夕食を控え、さらに朝食前に朝練」というのは、減量のためにはそこまでする必要性は低いと思うし、むしろパフォーマンスを落とすリスクを考えたほうがいい。(とりあえず僕にはできない)
ただしアスリートには逆の状況=意図的に血糖値を高めて「インシュリン」を分泌させるべき場面がある。トレーニング後20〜30分以内というタイミングだ。
インシュリンは身体に栄養素を取り込むための特効薬。現代医学で(特に低糖質食派によって)悪者扱いされるのは、それだけ現代社会が栄養豊富すぎるってことだ。しかし耐久アスリートにとって栄養は栄養であり、善でしかない。疲労した身体はタンパク質と脂肪を求めるのだ。それらを取り込む準備作業として、まず高濃度の糖質を食べて、インシュリンを分泌させる。
その必要量は、糖質=体重×1.5g、タンパク質=体重×0.2g、など。もっとタンパク量を増やす流派もある。よく「糖:タンパク比は4:1」とか書いてあるけど、こうゆうのに正解はないと思う。自分の身体で確かめましょう。
僕は、牛乳+ヨーグルト+バナナ+100%ジュースとか、 豆乳に砂糖のカタマリ投入とか、前夜に半額シールに釣られて買ったケーキとか、普通に米と納豆とか、時々の気分でてきとーに食べてます。プロテイン粉末はボディビルや格闘やラグビーとか競輪選手のための特殊品、耐久スポーツには不要でしょう。
この運動直後を除いては、砂糖系は気をつけたほうがいい。特に運動開始前に甘い物でインシュリン分泌させるのは厳禁。間違って食べてしまったら、15分以内にトレーニング開始すること。それを過ぎると、インシュリンによる低血糖で力が入らなくなるし、それ以降も脂肪活用が阻害される効果がある。(1時間くらい経過したら問題ない)
ここには、かなり深い一般原理がある。 つまり:
<身体は「食べたものをエネルギーにする」>
- 運動前に糖質を食べれば、糖質が主エネルギーとなり (=脂肪活用が阻害され)
- 運動前に脂肪を食べれば、脂肪が主エネルギーとなる
「脂肪なんてお腹にいっぱいあるから食べなくてもいいじゃん」と思うかもしれないけど、そうはいかない。体脂肪を引き剥がしてエネルギー化するより、食べて吸収された血中の脂肪酸の方が、はるかに活用されやすい。そして、脂肪をエネルギー化するトレーニングを積んだ筋肉は、レースでも、脂肪を優先活用できるようになる。このあたり研究は、石橋剛さんが理論と実証あわせて行われております。かつての「マフェトン理論」も大筋で合っている。
この理屈も考えてみれば合理的で、かつての人類の祖先が森で果物が大量にあれば糖質を主に、マンモスを捕獲して高脂肪&タンパクを獲れればそれらで、エネルギー回路を回す仕組みだ。よく「原始人の食事に帰れ」というが、原始人の食事とは本質的に偏ったものだ。僕らはそのいいとこ取りができる。
脂肪=悪、とは、身体を動かすことを忘れた「現代人」(笑)限定の価値観。「美味しいものは身体に悪い」説もそう。おかしな話で、身体に良いからこそ、美味しく感じるはずなのだ。野生を忘れない僕らは、高脂肪食の美味しさを本能のままに感謝し戴けばいい。
<まとめ>
- 耐久アスリートにとって、炭水化物・タンパク質・脂肪のバランスが大事
- その配分は、基本的な仕組みや数字は理解した上で、自分の感覚でテキトーに決めればいい。最も美味しいと感じるものが、耐久アスリートにとってのベストな栄養なはずだ
- グリコーゲン貯蔵と、運動直後のインシュリン分泌のための糖質補給が基本
- 血糖値の変動は抑制しよう
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