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2016年3月の7件の記事

2016年3月30日 (水)

耐久アスリートに必要な「糖質」の絶対量とタイミングについて

昨今「低糖質食」が流行ってるけど、耐久アスリートにとってはどうなのか?

こうゆう絶対解のない話では、まずは 「わかっていること」を確認しておけば、その先を自分なりに考えることができる。そこで当記事では、絶対量とタイミング、2つの視点からまとめておこう。

はじめに基本を確認。

「僕は20~30分ごとに25gの炭水化物を摂るようにしています。炭水化物は筋肉のエネルギー源になりますが、それ以上に重要なのはマインドに対する影響です。 ウルトラマラソンは単に肉体的な競技というよりも、マインドが大きく影響する競技です 。そのために脳が必要とするブドウ糖を炭水化物を通じて摂取し続けることが必須です。同時に体力を回復させなければいけません。そのために必要なのがタンパク質と脂質です。」 (スコット・ジュレク、2015年インタビューより)

2015年夏、41歳にして、総距離3522km&累積標高差150㎞(=富士登山を海岸から20往復)。アメリカ西側の山脈「アパラチアン・トレイル」縦断46日8時間7分という世界最高記録を打ち立てての言葉。そう、耐久アスリートには、炭水化物、タンパク質、脂肪、の三大栄養素のバランスが必要なのだ。

その理由は、体内のエネルルギー産出回路について考えれば明らかだ。筋肉は、何種類かの動力源を同時に動かすハイブリッド駆動。糖質カットとは動力源のカット、プリウスなのにガソリンエンジンを使わないということ、遅くなる以外にない。(※脂肪を使わず糖質だけ、という場合も、長時間になれば同様)

そこで検討すべきは、程度の問題。 どれだけ、いつ、なのか?

追記:英語ではそのテーマまんまの「耐久スポーツのためのパレオ・ダイエット(=低糖食の一種)」なんて本も出てる。Kindle版でGoogle翻訳かけながら、有益そうな箇所だけつまみ読みしてもいいかも。この手の最先端の話題では、中途半端な日本語の本よりも絶対に英語の本がいい。(僕はそこまで余裕も興味もありませ〜ん)

 
<ストックの絶対量>

まずストック=体内貯蔵量から考える。

成人男性が身体に貯蔵できるグリコーゲン量は、通常の状態では肝臓に100g、筋に300g程度と言われています。これはエネルギー量に換算すると約1,600 kcal (鍋倉賢治筑波大教授「ジョグノート」コラムより

仮に、体内グリコーゲンを完全枯渇させる運動をした場合(=やらないほうがいい)、1,600Kcal相当の糖質、炊いたご飯なら1080g分(1膳160gで7杯近く)が、グリコーゲンの回復だけで必要ということだ。実際には、筋肉疲労の回復とか、追加のエネルギー消費もあるだろうから、もっと必要なはず。現実には、「貯蔵グリコーゲンを半分消費したからご飯4杯」とか、そのあたりに落ち着くだろう。

1つ注意すべきは、肝臓のグリコーゲン400Kcal分は万能だが、筋グリコーゲンはよそに移動できないらしい。フクラハギのグリコーゲンを枯渇させると、モモとかから移動できず、フクラハギだけ売り切れて、より低パワーな脂肪やタンパクの糖新生(=筋肉の共食い)で賄わざるをえず、フォームを乱す。

※長時間の練習には、こうしたグリコーゲン枯渇シミュレーションという意味がある。枯渇させずにすむエネルギー消費と補給のバランスを見極めるわけだ。疲労困憊すればいいわけじゃあなく、むしろ逆で、どうすれば困憊せずにいられるか、という実験が、長時間練習だと思う。

「運動量にあわせた炭水化物を」 というハーバード大の論文もある。低炭水化物ドリンク摂取の場合は、筋の中のグリコーゲンが枯渇して、筋肉の消耗が激しい。運動のカロリー量だけの糖質摂取が必要。

 
<フローの絶対量>

これら体内貯蔵(ストック)で足りない糖質は、運動中に食べて吸収することになる(フロー)。そこで「時間あたり」の吸収量を考える。

スコット・ジュレクは1時間あたり50〜75g=200〜300Kcal相当の炭水化物を食べ続ける。身長188cm体重75㎏、アイアンマンのトップアスリート標準の上限ギリギリくらいで、意外と重い。長いレースの後半ではかなり落ちるだろうけど。その頑強な身体を、完全菜食(ヴィーガン)だけで作っている。栄養て不思議だ。(ちなみに彼は、タンパク質を摂り過ぎるな、とも言う)

一般には、胃腸が吸収できる糖質は時間あたり「体重×(0.7〜1.0)g」。それを超えて無理に詰め込むと吐き出すハメになるだろう。(僕は一度も経験がない〜というかその気配すら感じたことがないから、ここは想像で書いておく)

それ以上のエネルギー需要は、主に脂肪で賄うことになる。「総エネルギー消費における糖質と脂質の比率」には個人差があるし、また食事とトレーニングとにより、変化できるものだろう。

ここには個人差があり、胃腸が弱くて糖質供給量が少ないのなら、脂肪活用エネルギー量を増やすトレーニングが必要になるだろう。そのためには、まず食事での「糖質と脂質の比率」から変える=脂質を増やすことが考えられる。(後述)

胃腸の能力が高く、脂肪活用能力が高ければ、あんまり気にする必要がない。(僕は両方、特に胃腸が丈夫過ぎるようで、1週間で3㎏くらい苦もなく増量できて胃腸ノートラブル、という高い栄養吸収能力を持ちます。どすこい)

 

<タイミング>

もう一つ考えるべきは、吸収のタイミング。基本は、血糖値の変動を抑えることだ。この点は低糖質法に学ぶことができる。普通の食事なら、野菜→肉魚類→米、という順序を守ることで、変動を抑えることができる。

減量したい場合、夜の糖質を減らすのは確実な効果がある。ただし、朝練を朝食前にする人なら、夜は(順序を守って血糖値変動を抑えながら)糖質をたっぷり食べていいはず。その分は朝練のエネルギーとして消費されるはずだから。「夕食を控え、さらに朝食前に朝練」というのは、減量のためにはそこまでする必要性は低いと思うし、むしろパフォーマンスを落とすリスクを考えたほうがいい。(とりあえず僕にはできない)

ただしアスリートには逆の状況=意図的に血糖値を高めて「インシュリン」を分泌させるべき場面がある。トレーニング後20〜30分以内というタイミングだ。

インシュリンは身体に栄養素を取り込むための特効薬。現代医学で(特に低糖質食派によって)悪者扱いされるのは、それだけ現代社会が栄養豊富すぎるってことだ。しかし耐久アスリートにとって栄養は栄養であり、善でしかない。疲労した身体はタンパク質と脂肪を求めるのだ。それらを取り込む準備作業として、まず高濃度の糖質を食べて、インシュリンを分泌させる。

その必要量は、糖質=体重×1.5g、タンパク質=体重×0.2g、など。もっとタンパク量を増やす流派もある。よく「糖:タンパク比は4:1」とか書いてあるけど、こうゆうのに正解はないと思う。自分の身体で確かめましょう。

僕は、牛乳+ヨーグルト+バナナ+100%ジュースとか、 豆乳に砂糖のカタマリ投入とか、前夜に半額シールに釣られて買ったケーキとか、普通に米と納豆とか、時々の気分でてきとーに食べてます。プロテイン粉末はボディビルや格闘やラグビーとか競輪選手のための特殊品、耐久スポーツには不要でしょう。

この運動直後を除いては、砂糖系は気をつけたほうがいい。特に運動開始前に甘い物でインシュリン分泌させるのは厳禁。間違って食べてしまったら、15分以内にトレーニング開始すること。それを過ぎると、インシュリンによる低血糖で力が入らなくなるし、それ以降も脂肪活用が阻害される効果がある。(1時間くらい経過したら問題ない)

ここには、かなり深い一般原理がある。 つまり:

<身体は「食べたものをエネルギーにする」>

  • 運動前に糖質を食べれば、糖質が主エネルギーとなり (=脂肪活用が阻害され)
  • 運動前に脂肪を食べれば、脂肪が主エネルギーとなる
脂肪活用能力を高めたければ、脂肪を食べるべきなのだ。

「脂肪なんてお腹にいっぱいあるから食べなくてもいいじゃん」と思うかもしれないけど、そうはいかない。体脂肪を引き剥がしてエネルギー化するより、食べて吸収された血中の脂肪酸の方が、はるかに活用されやすい。そして、脂肪をエネルギー化するトレーニングを積んだ筋肉は、レースでも、脂肪を優先活用できるようになる。このあたり研究は、石橋剛さんが理論と実証あわせて行われております。かつての「マフェトン理論」も大筋で合っている。

この理屈も考えてみれば合理的で、かつての人類の祖先が森で果物が大量にあれば糖質を主に、マンモスを捕獲して高脂肪&タンパクを獲れればそれらで、エネルギー回路を回す仕組みだ。よく「原始人の食事に帰れ」というが、原始人の食事とは本質的に偏ったものだ。僕らはそのいいとこ取りができる。

脂肪=悪、とは、身体を動かすことを忘れた「現代人」(笑)限定の価値観。「美味しいものは身体に悪い」説もそう。おかしな話で、身体に良いからこそ、美味しく感じるはずなのだ。野生を忘れない僕らは、高脂肪食の美味しさを本能のままに感謝し戴けばいい。

 

<まとめ>

  1. 耐久アスリートにとって、炭水化物・タンパク質・脂肪のバランスが大事
  2. その配分は、基本的な仕組みや数字は理解した上で、自分の感覚でテキトーに決めればいい。最も美味しいと感じるものが、耐久アスリートにとってのベストな栄養なはずだ
  3. グリコーゲン貯蔵と、運動直後のインシュリン分泌のための糖質補給が基本
  4. 血糖値の変動は抑制しよう
スコット・ジュレク→ ←鉄分も大事

2016年3月27日 (日)

「エア水泳」は天井に向かって進め! 〜フォームの本質からの考察

「フォーム」 という言葉には、外と内、両面の意味がある。
  • 「形」 〜動きを模範に合わせる外形的アプローチ
  • 「形を作るもの」 〜その形を生んでいる元の動きへの内観的アプローチ
たとえば、髪の形なら前者だが、それを作る(整髪料の)フォームは後者だ。
 
スポーツで「フォーム分析」というとき、多くは前者の外形的な、もっといえば表面的なレベルに留まっている。初級のうちはそれでも有効だけど、上達するほど、効力は落ちてゆく。それが「フォーム分析の罠」だ。あなたはハマっていないか? 
 
動作を作る「元の動き」は、外から観察するだけではわからない。筋肉や骨格の知識があれば多少は助けにはなるが、不十分だ。自分の身体の動きを感じ、考える「内観」が必要なのだ。
 
内観の大前提となるのは「体内センサー」。GarminとかJinsとか「外形的センサー」が流行ってるけど、それで上達できる範囲はごく限られている。体内センサーなら無限だ。
 
では、センサー性能はどう上げればよいのか? 自分一人でもできることは、 いつもの動きを意図して崩し、差異を感じ取ること。その蓄積が、センサー精度も、そこから得た情報の処理能力も、向上させる。
その動作を極めた達人によるアドバイスが得られるなら、なお望ましい。
 
なお僕の場合、バイクとランは、自分一人でも結構いけたのですが、スイムでは明らかな壁を感じてました。1年くらい前に三浦広司コーチに会い、達人の眼力を思い知って、その普及に回っているわけです。
 
 
<エア水泳の場合>
前回 『トライアスロンSwimパートは「初回限定の先発投手」 〜本当の重要度&練習頻度を考えよう』 で書いた通り、水泳は週3−4回は30分でいいので練習したいわけだが、プールに行くのは難しい場合も多い。そこで、陸上で水泳フォームをしてみる「エア水泳」が登場する。
 
これは技術改善を尽くした上級者なら不要で、やるとしてもチューブとかの筋トレで十分だろう。しかし、新しいフォームを学んでいる途中の場合には必須と断言する。なぜなら、技術修得とは脳の運動野における学習だから。そもそも水中では学習内容を再現するのは難しいので、「プールの中でだけしか考えていない」のでは、学習の絶対量が不足する。さらにプールが週2では、3日前の学習内容を忘れてしまうし、覚えていても思い出すのに時間がかかってしまい、つまり忘却量も大きい。成長しようがない。上級者は深層記憶レベルで理解できているから、週に1-2回でもなんとかなるのだ。
 
エア水泳は、天井に向かって進むイメージで。これが本稿の唯一の主張。とっても単純なことだけど、当ブログの多数の記事の中でも最重要レベルに位置づけたいことだ。
 
こちら写真は、先週の練習会の前座説明会。ちょうど三浦広司コーチが早く着いて、前座の説明に入っていただけた。左から3名までの方に注目しよう。(3人目の方を支えているのが三浦さん)。多くの方は、エア水泳を、ここから腰をかがめ、右側に進むイメージで行っているのではないだろうか?それはダメ、絶対!
 
「こんなことが?おおげさな」とお思いだろうか?
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その理由は、冒頭に書いた「形を作るもの」 と「体内センサー」の重要性にある。
そして、水泳における「姿勢の重要性」にもある。ちょっとした姿勢の違いによって、体幹からのパワー発生の仕方と産出量にも、水の抵抗にも、大きな違いがうまれるのが水泳。
 
腰の角度が3度違えば全く別の泳ぎになる。もちろんこれはバイクもランも同じこと。フレーム角度が3度違えば全く別の自転車になるし、ランもそうだ。
 
なぜ、水泳だけ、腰を90度もかがめてフォーム練習ができるのか? いいわけない。具体的に体幹の使い方が変わってしまい、脳への学習効果が激しく低下してしまう。
 
だとすれば、なぜ、そんな重要なことに気づかずに、今までエア水泳をしてしまっていたのか? 考えてみるといい。「体内センサーを無視して、表面だけをなぞるフォームの理解」をしてきたからではないだろうか? 
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(写真:先週の練習会。参加者さんから「3歳から泳いでいるのに45歳の今日気付かされた事山盛り!」緩いドリルだけなのに筋肉痛多数、と嬉しいコメントいただきましたー)
 
<おしらせ>
  1. 血中の鉄分は体内で酸素と栄養を運ぶ鉄道。最も効果的なのは料理に鉄片をまぜること
  2. シーズン開幕間近、クラゲ除けを忘れずに!
  3. 「ウォークブレイク」も忘れずに! また書きます

2016年3月20日 (日)

トライアスロンSwimパートは「初回限定の先発投手」 〜本当の重要度&練習頻度を考えよう

「トライアスロン3種目はどう時間配分すべきか?」「スイムはどれくらい練習すべきか?」という議論がある。僕の考えを書いておこう。
 
3種目の時間配分を野球の投手起用に喩えると、アイアンマンの場合、「初回は中継ぎ格のスイム投手、2-6回はエースのバイク投手、7−9回はクローザー専門ラン投手」てとこだ。51.5kmならSwim投手が2回、エリートレースならRunと共にさらに伸び、その分Bikeが減る。
 
スイムは初回限定なので、一番弱い中継ぎ級をあてとけばいいんだけど、問題は、初回だということ。エースにはリードを保ったまま登板させ、プレッシャー無く攻めの投球をさせたい。しかも、クローザーは各球団とも粒揃いであることを考慮する必要がある(特に日本国内と、海外の強豪エイジ相手の場合)。7回からの逆転は容易でないため、6回(=Bike)終了時点で点差を拡げられたらほぼ負ける。
 
だから勝負は、6回までに同点に追いつけるか。初回に5点差つけられても2回から1点づつ取り戻す強力エースがいればいいのだが。(ただしエースが同格のチームには苦戦する)
 
さらにトライアスロン特有の事情として、スイム集団は一般に速いほど楽で、遅いほどバトルが酷くなる。水中ボディコントロールの差が明白に出るためで、速い集団はぶつかりながらもお互い減速せず進むことができるが、遅いと文字通りの脚の引っ張り合いに陥りがちで、タイム以上に消耗する。またバイクパートでは、国内レースに多い車間7mでは(順守していても)ドラフティング効果が発揮される場面が出てくる(だから海外では12mに延長されている=これはこれでコース設定とマーシャル配置の負担が大きい)。結果、初回の点差は掛け算される。この傾向は近年より加速している。
 
つまり、スイム投手は投球回数こそ1イニングだが、先発投手としての責任が大きいので、自責点が悪くとも諦めずに育てるしかない。
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<日本人の場合>

日本の市民トライアスリートに多いのは、国際基準で見た場合、 「スイム苦手(これは欧米エイジも同じく)、バイク苦手(ただし自分では普通なつもり=海外では歯がたたない)、ランは得意」。

ならば、オフシーズンである冬はランを抑え、バイクとスイムに集中することで、夏のパフォーマンスを最大化できる。得意種目は40日間でピーク水準に戻せばOKだから。

冬のマラソンとの両立を僕が勧めないのは、これもある。スイム・バイクまでが得意な方なら、どんどん5−10㎞レースを中心に出場し、たまにマラソンも走るといい。ただ、ランを得意とする場合、苦手の助長となりかねない。この判断基準は、目指す自分は「トライアスリート」なのか、「トライアスロンもするランナー」か。

<スイム投手は「頻度」で育成する>

ではどうするか。スイムは技術。向上のカギは2つ。

  1. 大前提は、正しい方法論を、正しく理解すること
  2. その上での指標は、「距離」ではなく「頻度」

自己流の泳ぎ、もしくは方法論の誤解があるなら(方法自体が不適切な場合もある)、まず正すこと。

その上で「頻度」が重要であるのは、「身体記憶の忘却」のせいだ。どんな良い練習ができても 、次まで3−4日もあけると、前回の泳ぎを思い出すのに時間がかかり、実質の練習ができない。90分プールにいても、はじめ60分でようやく前の技術を思い出し、そこまでに体力を消費して、結局中身のある練習ができなかったり。

ただし、高度な技術が身体に染みこんでいる上級者に限ってはこの例外。かなりの上級者に限られるかもしれない。僕の身近な例では、競泳でオリンピック二度出たとか、アンディ・ポッツに競泳の国際大会で勝ってるとかね・・・

実際、ある元トップスイマーのエリート選手も、「練習量が激減しても頻度は指導などで保てていれば、タイムはそう落ちない」と言っていた。僕の経験でも、週3-4で50分間(区営プールの1時間券しか買わない)泳げてる間は急速に上がる。それを6週間続ければ、3ヶ月くらい全く泳いでいなくても、近いところまでは一気に戻せる。

また実戦の成績は、プールとは必ずしも一致しないけど、海でウェット着て泳ぐ機会が多い時は確実だ。(なのでレースの連戦は有効)

だから、1日20分でも、泳げるなら泳いだほうがいい。行けなければ、鏡の前のエアスイムでも古チューブでも公園の鉄棒でもいいから、水泳イメージでの動作をするといい。

ジムなら、高くてもすぐ行ける場所を選ぶべき。その投資は高額なバイクパーツなどよりはるかに報われる。設備のいいところなら上質なお風呂がわりにもなる。風呂無しアパート+深夜営業高級ジムはコスパ超高そう!(僕やりませんが笑

<3種目の配分>

3種目全体の練習回数は、「スイムの頻度向上」を基準に考えていいと思う。

最も重要なのは、バイク+ランのレースペース前後でのポイント錬で、週2-3ほしい。ここは不動の大前提。

問題はその間のつなぎ。リカバリーのジョグやバイクをやる時間があれば、プールでのリカバリースイムに切り替えてしまっていい。身体が最もほぐれるのがプールだし、ゆったり泳ぎながら技術を上げることに集中できる。もちろんハードに泳げば、バイクランへのクロストレーニング効果も高い。

リカバリースイム重視の実例として、ある日本選手権上位選手は、平日は追い越し禁止プールで50m1分とかで泳ぎながら、水泳のベストを更新しているそうだ。

特に「リカバリー・ジョグ」は、少なくとも時間の限られた市民トライアスリートには、ほぼ不要だし、場合によっては有害ですらあると思っている。ランニング専門者の方法をまんまマネすべきではない。これは「LSDラン」も同様。もちろん、それで身体が実際にほぐれたり、技術向上の実感があるのなら別。あと、プールに行く途中に走ってみたとか。

「バイク+ラン」の配分は、バイク重視であるべきだ。前述の量の差もあるし、身体負担差からの故障防止の目的もある。またラン単独が幾ら速くても、バイクが弱いと、トライアスロンのランではダメ。トライアスロンのランはあくまでもクローザー専門であり、先発ではないのだ。(だからランの得意なトライアスリートは冬のマラソンを、、て話です)

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<ちなみに「鉄分」の豆知識>

「鉄分」は、体内でまさに鉄道のようなもので、これなくしてはいろんな物資が行き渡らない。即エネルギーになるべきココナッツオイルも、働かなくなってしまう。その補給に必要なのは、鉄製の調理器具を使うことだ。

2015年12月、文部科学省が『食品標準成分表』を改訂し、鉄分量は干しひじきがなんと9分の1, 切り干し大根が3分の1に減少。33年前の測定時、干しひじき、切り干しなどは鉄釜で製造しており、溶け出した鉄分が付着して測定されていたそう。

参考記事: ひじき「鉄分の王様」の座、返上へ by Japan In-depth 一色ふみ(ジュニア・アスリートフードマイスター)

僕は鉄の鍋やフライパン使ってるけど、手軽なのは、鉄片をヤカンや煮込み鍋に投げ込んどくこと。まあ鉄釘でもいいんだろうけど怖いし笑。「鉄玉子」なんてもんがあるのを知った。南部鉄器のはかっこよさそうだけど、キティちゃんを釜茹での刑に処すのはどうなんだ!!

  

2016年3月14日 (月)

クロールの「ハイエルボー」を自然に実現する方法

オリンピアン三浦広司コーチによる「体幹パワーのクロール」で、「体幹パワー」とは、流行りの筋トレのような「パワーアップ」を意味しない。むしろ逆といってもよく、人が自然に持っている姿勢保持のための筋肉をそのまま活かすものだ。ムキムキなのは、少なくともトライアスロンのスイムでは要らない。(つけてる人は多いけど... もちろん活用できていれば問題ありません)

体幹とは意識の中央への集中。手先などの末端は、中央で発生させたパワーを水に伝達させるだけの無機質な部品のようなものとして意識する。

一方で、人体は全てつながったもの、末端の動作が体幹側にも影響を及ぼす。そして末端の動作=渦を操る技術は「パワーの水への伝達効率」を決める。式で書けば、「速さ=パワー×伝達効率ー抵抗」だ。
 
ここまでは一般論。「ハイエルボー」にあてはめるとどうなるのか?
原則は2つ。
  1. ハイエルボー動作は、やろうと思ってしないほうがいい(たいてい、それで失敗しているから)
  2. かわりに、「体幹のパワーを最も引き出す動作」からの「逆算」により、「結果的に」理想的なハイエルボーが実現するといい
1つめは、水泳に限らず、あらゆるスポーツで(さらには「成功術」とかあらゆる人間の活動でも)いえる。上級者の表面だけマネしてもダメ。秘密は目には見えない裏側にこそあるものだ。
 
下の写真左はメドレー世界王者の瀬戸大也選手の見事なハイエルボー動作。ヒジが水面スレスレ(=高い位置)にさえ見える。しかしそこには目には見えにくい高度な前提がいっぱいあり、その1つが異常なまでの肩の柔軟性だ。右は星奈津美選手。
1 デキマスカ?
 
だが、普通の大人スイマー(大人になってから水泳を本格的に始めた or 経験あるけど遅かった組)は、ハイエルボー意識によって「カマキリの構え」に陥って水を逃したり、「胸の開きすぎ」で肩を壊したりしている。以下のような失敗パターンがそこかしこに見られる。
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そこで、「体幹のパワーを引き出す末端動作」が登場する。
  1. 入水〜グライド時、てのひらは外側に向け、腕を伸ばす。ただし、ヒジから回すこと
  2. これにより、「ヒジが上を向く」ことを確認
  3. 手首だけ回して、てのひらだけ内側に向ける
  4. これにより、「手首の内側」と、「ヒジの内側」が同じ向きになる=胴体側に向こうとする
  5. ここから「水を抱え込む」と、結果的に、ハイエルボー姿勢ができる
なお、ここまでは「体幹パワーのクロール」における単なる準備段階に過ぎないが、正しくできれば、体幹を活用して抵抗を減らしながら、そのパワーを活用しやすくなるだろう。
 
実際には、本領発揮はここから。人が自然に持っている姿勢保持のための筋肉を使い、脱力した高速巡航に入ってゆく。
 
ここまででイメージ掴めた方は、ぜひプールで試してみよう。
教わりたい方は、以下の1レーン貸切限定での練習会へどうぞ。
 
16日水曜の三浦コーチの会では、初公開となる「ギャロップクロール」も取り上げる予定。海でのヘッドアップの基礎になる。
 

2016年3月10日 (木)

トライアスリート目線から見たシャラポワのドーピング問題

この問題は、今のドーピングの「微妙なイヤらしさ」が象徴的に表れていると思う。「3ヶ月前には "クリーン" であると "定義" された選手が、ルールにより "再定義" されて150億円を失う」というジェットコースター感だ。
 
世界の耐久スポーツ界、特に1990年代からの自転車や馬軍団(長距離走)など増血剤「EPO」まみれの分野では、「使ったもの勝ち、ただしバレない限り」(※たまに競技団体が隠蔽に協力してくれる場合あり)、なんて状況があった。他種目、例えばトライアスロンではどうかというと、情報=摘発事例がないからわからない、というほかない。
 
ドーピング薬は巨大市場である医療用に先に進化する。スポーツ界では極悪扱いの「EPO」なんて医学的には超普通で、そこらじゅうの病院にゴロゴロしてる。医者が一人で世界中の新薬情報をチェックし、効果ありそうなのをスポーツ目的でアドバイスする程度ならネットで簡単に始められるし、そこで顧客を捕まえてこっそり送るのも簡単。そもそもは合法なごく普通のクスリなのだから。それを取締側は、限られた予算内で後追いせざるをえない。今後もゼロになることはないだろう。
 
それでも包囲網は確実に狭まっており、その件数も影響度も小さくなっているとも思う。そのせめぎあいの中、オフサイドラインのように境界は明確に引かざるをえないが、その実態は曖昧なものだ。それにより巨額マネーの行き先が変わってしまう。シャラポワはまさにそう。
 
 
< メルドニウムの仕組み >
メルドニウム/meldoniumは、心臓病治療薬として1970年代(?)の旧ソ連(現ラトビア)で開発され、80年代アフガン戦争で兵士のストレス対策と疲労回復に広く使われた という。(この順は逆かもしれない=戦争薬として開発され心臓に効くぞと転用された的な)
アスリートが使えば耐久力とメンタルを向上できるという「副作用」があり、「ドーピング効果があるのに(まだ)禁止されていない美味しい薬」として、地元ロシア中心にいろんな種目で使われていた。
 
医学的には、脂肪活用を抑制し糖質をより多く活用する仕組みらしい。糖質は数十秒〜数十分間くらいで大きなエネルギーを出せるので、エンジンにターボチャージャーを付ける感じかな。以下は製薬会社による説明動画(英語)。
なお心筋について説明されており、骨格筋にどの程度あてはまるのか不明(というか私の英語力と医学知識の限界orz)、ただミトコンドリア代謝レベルなので共通性はある気がする。
糖質を大量消費するわけで、総カロリー消費の大きいトライアスロンやマラソン以上のランには、糖の供給(体内ストック+消化吸収フロー)が間に合わず不向きかと推測する。90分を超える耐久的な動作では、脂肪活用能力の方が重要だから、逆効果とも思える。(摘発されたアフリカのマラソンランナーは知ったのだろうか?)
 
だが、テニスや自転車集団走のように回復時間が多く挟まれる形態なら、その間に糖の再供給ができ、アクセルを踏んでいる間のパワーが上がるだろう。本来は脂肪エネルギー主体になるであろう数時間のゲーム終盤で、糖エネルギーを使えれば強い。
だとすれば、アイスダンスで摘発されたのも理解できる。長時間の練習で「数分間の集中力」を繰り返し維持出来るのなら、メリットが大きい。長時間練習の大きな副作用とは集中力の低下だから。これはテニスも同じ。
筋肉増強剤や増血剤では、能力の絶対値を増やすことができた。こっちは同じ能力レベルのままで、偏らせるだけの選択的なもの、という印象。効果はあるとしても、限られてもいるのではないだろうか。
Youtubeのコメントによると、1年のうち1ヶ月程度の連続服用を4回し=2/3の期間は服用しない仕組み。なにかしらの残留効果があるとも思われる。シャラポワはそれで検出された可能性もあるかな? 

ちなみにここのYoutubeコメントは少数ながら強烈で、 

" I know a couple of MTB guys who take it --- they say it really helps with their stamina. "
 
"I am a pro cyclist and I use Meldonium/Mildronate. Our whole team does. It has very calm side effects and we all notice improvements when out on the road."
 
そしてリンク先のFbページから「120錠149ドル送料無料」で世界中から買える。(この手の詐欺は多いけどね) 真偽はともかく、日本語だけ読んでると限界あるよね。
 
 
< クリーンな選手、という曖昧さ >
確認しておくと、マリア・シャラポワ選手は2015年12月31日までは「クリーン」だった。世界のエリート・スポーツ界では「禁止リストに入っていないクスリ」は普通に使っていることを、欧州プロレーサー経験をふまえ土井雪広選手が「敗北のない競技」(2014)で証言している。それにどんな効果があろうともね。クリーンて一体なんだ?て話なんだけど、それが世界の現実であることは知っておかねばならない。
 
アスリートの使用率が異常に高いことをWADA(世界アンチドーピング機構)も掴んでおり、昨年9月に禁止薬物リストへ入れた。WADAによる最近の対ロシア包囲網の一環としての意味もあるかもしれない。その発効は今年1月1日。元旦の朝めざめたシャラポワは突如としてDoperへと変身したわけだ。カフカ的不条理。
 
彼女の「合法ドーピング」の目的は明らかだとは思う。心臓の治療「も」必要だったとしても、純粋にそれだけなら生活してるアメリカ西海岸には世界最高レベルの専門医が何人もいるはずだし、彼らがロシア近辺でしか認可されていないこのクスリを使うことはないだろう。そして、普通は数週間で止めるクスリを、彼女は10年間だ。
 
念のため、シャラポワは17歳でウィンブルドン制覇。服用は20歳頃の故障が出始めてからと言ってて、さすがにトラブルのない17歳でクスリに手を出さないと思うのでこれは真実だろう。テニスという競技の性質からも、こんなもん使わなくても十分に勝てるはずの選手だ。ただ、長時間のゲーム終盤に体と心を少しでも上げられるのなら有利なのも間違いない。不安の中から手を出したら効果を感じて、て経緯かな? 
 
それでも普通、去年までで服用は止めるはず。それに成功してれば相変わらず「クリーン」でいられたわけだ。
 
 
< なぜ発覚した? >
シャラポワの検査は今年1月26日。自転車カチューシャの選手は同14日のレース外での検査で摘発されている。このタイミングでロシア選手に検査するのは、ロシアの組織的問題もあったし、WADAが温めていた計画に違いない。狙い通りに速攻勝利。
 
2015以前のも再検査し公表してほしいものだけど、それは法的に難しいんだろうな。過去に遡っての実名での情報公開があれば抑止力になるはずなんっだけどね。
 
ここで謎なのは、使ってる側の無策ぶりだ。禁止直後は最も警戒するはずなのに、スピードスケート、アイスダンス、自転車、マラソン、と同時多発に摘発されている。
 
シャラポワは「服用前に禁止リストを確認しなかった」と弁明してるけど、「4年間の資格停止処分を受けた場合、1億ポンドもの広告契約収入を失う」 という中での発言だ。日本では年初にベッキーさんも同様に大企業スポンサー収入を失わない目的での会見でハマってたけど、こっちは軽く数十倍だ。お金に変えられない「世界女王」としての名誉もある。「チーム・シャラポワ」は粗利だけで年間20億円以上を安定して稼ぎだす超優良企業なわけで、某国の自転車競技連盟のようなポカ をするとは思えない。
 
仮に、年が明けても飲んでたとすれば、担当者は無能過ぎる。(医療系チームはアメリカだが、薬物調達の「ロシア・ルート」が別に存在し、その担当者がウォッカのみながらWADAの告知メールを削除してた的な)
 
この点、WADAの元会長は「言葉にできないほど無思慮だ」 と語っている。このインタビュー内容はいちいち的確。原文は “reckless beyond description” かな。「説明不能なほどアホ」とは、「現実にはアホじゃない=故意犯だよね」ということを欧州セレブらしくお上品に表現してる感。受験英語の「Too〜To構文」とか古文の「二重否定は強めの肯定」的な。
 
そこで「昨年内に服用を止めていた」と仮定すると、それでも検出されたのは、先に書いた残留効果である可能性があるかも。骨髄や内臓などに残ったり。ちなみに血液は入れ替わりに120日かかるそうだ(※メルドニウムは血液そのものを変えるわけではないが)。
 
使用者が多過ぎるから、中にうっかりしてたのもこれだけいた、という理由もありうるが。
 

< 社会の変化 >

もう1つ言えるのは、1990年代から比べて、取締が圧倒的に厳しくなっているということ。この主因は、検査技術や住所管理など手法(=馬軍団はこれで逃れた)の進化だろうけど、背景にスポンサーの変化もあると思う。

ないものとして見ないふりする態度から、リスク管理としての積極的排除へ。過去の大きな事件で結構なブランド毀損してそうな大企業も思い浮かぶ。ネットであっという間にプラス数字にマイナス符号が付いてしまう時代、最近のスポンサー社の対応はとにかく早い(下記ロイター記事参照)。予想されるリスクとしてシミュレーション済なんだろう。WADAへの資金提供も、できれば削りたい単なるコストから、広告活動に伴う「戦略的な保険料」のようなものに変わっているのではないだろうか。

凄い選手が表れると「やってるのか?」と疑ってしまうようでは、明らかに競技の魅力を、そして広告価値を損なう。

スポーツとシャラポワの広告価値について、ロイター記事では

  • スポーツのスポンサー・ビジネスは世界全体で投資額600億ドル(約6兆7500億円)
  • シャラポワのコート外収入は通算2億ドル以上

FT記事では

  • シャラポワ選手は、米誌フォーブスの世界で最も稼ぐ女性アスリートとして過去11年にわたって毎年1位を獲得
  • スポンサー契約料などで年間2000万ドル以上の収入を得ており、その数字は15年のテニス獲得賞金を上回る
  • フェイスブックに1500万人以上、ツイッターにはさらに200万人のフォロワー

と、ビッグビジネスぶりがよくわかる。これ以上カネあっても使い切れん気もするのは凡人の想像力の限界で、有名人さんたちは平気で100億円くらいを溶かして破産なされる。。マトモな人なら引退後に投資などで影響力を維持・拡大できるだろうし。

 

< シャラポワ選手について >

とここまで書いてもう一度確認しておくと、こうした状態は「3ヶ月前まではクリーンとされるもの」であったということ。そのクスリにどれだけの効果があるにせよ、シャラポワは服用前の17歳にウィンブルドンを優勝してる正真正銘の世界トップ選手。何らか復帰し、再び活躍してほしいと思う。

そして深刻な副作用が残らないことも祈る(どうやら、副作用の低いクスリであるようだが)。一般に、効果の強いドーピング薬物はかなりの高確率で深刻な健康被害を残している。たとえばEPO服用の自転車選手には性ホルモン系統のガンが多発している。

たぶん効果と健康被害は比例し、たいしたことないクスリならダメージもそうは大きくはないだろう。そしてドーピング対策が進むことで、強いクスリほど使いにくく、問題になるのは効果も弱いものになってゆく、その途中ではないかと思う。

 

< 僕らにとっての結論 >

だから僕らは、「観客として」は、そう悲観的に見ることもなく、幾らかの距離感を持って見ていればいいと思う。

そして「競技者として」の立場からは、結局効果の高いものとは、リカバリーには「睡眠」が最高だし、サプリメントなら野菜果物。競技中にパフォーマンスを上げられるとすれば、クエン酸、ココナッツオイル、最後にコーラ、等々、ごくアタリマエなもの。なにより練習!

2016年3月 3日 (木)

トライアスロンSwimに「伏し浮き」はいらない 〜「フラットなスイム」の終焉と、「側転」イメージの新泳法

当ブログの人気カテゴリ「クロール/OWSの技術」だが、昨夏ごろを境に、以前のを全削除したいくらいに、考えを変えている。その1つが「付し浮き&けのび」の位置づけだ。「伏し浮き」=前後左右のフラット姿勢を保って、両手両足のばして浮くことは、こちら2年前の記事で書いた ように、かつて推奨していたけれど、今は「トライアスリートなら出来なくてもOK」という不要論だ。

念のため、 出来るに越したことはない。姿勢制御技術は高いほど良いにきまっている。なおプールの競泳なら、スタートとターンで「蹴伸び」技術により簡単に数十cm以上の差は付くため、必須技術だ。

しかし、トライアスロンのOWSクロールで、伏し浮きのようなフラット姿勢は、ほぼ使わない。(背泳ぎだって速いに越したことはないけど、実戦で使わない=いらないよね) そこで当記事では、出来ない人でも、出来ないなりに上達余地は大きいことを説明しよう。

<「フラットなスイム」の時代ではない>

まず前提として打ち消しておきたいのは、左右のローリングを抑える「フラット姿勢のイメージ」だ。(下図右参照)

20160303_191942_2

「フラット姿勢によるクロール」とは、僕の理解では、10年以上前にイアン・ソープなどの泳ぎをヒントに提唱された泳法。その成立条件とは、「波が立たない水深3mのプールで、50m20秒台の強力6キックで、秒速2m前後の泳速により、高速モーターボートのように水面に高く身体を浮かせること」だと思う。つまり超エリート限定。

(※なお「フラットスイム」と書くと、高橋コーチによる具体的な泳法理論を言うことになってしまいそうだけど、ここではその意味ではありません。「ローリングを抑えたフラットな姿勢によるクロール」を対象として、説明するものです)

実際のところ、高橋雄介先生などが指導しているのは、図の左側のように、十分に胴体を傾けた泳ぎだ。「肩甲骨を上に上げる」という言い方をしており、結果として傾くはず。そして現在のトップスイマーは、左のような傾きを十分に取った泳ぎが主流。といって、昔でも十分に傾けていたのだが。ただ、20世紀の泳ぎとの違いを明確化するために、「フラットという表現」を選んだだけだろう。2016年にもなってストレートに受け取ってはいけない。

ローリングという言葉の意味するものが、1980年代と2016年とでは別物になっている、と言ってもいい。

この「非フラット」クロールの合理性は、以下2点から説明できる。

  1. 造波抵抗の削減
  2. パワーの最大化

<ローリングは抵抗を激減させる>

1,まず上の図で、水面と身体が接する幅は、右の「左右フラット姿勢」は 左の「ローリング姿勢」のほぼ2倍ある。この接水面は水面に波を作る。つまり「造波抵抗」の発生源であり、大きいほどブレーキになる。(2008年のフェルプスのNスペでも説明されていた話)

図左の抵抗の低さは、実際、古典的名著「スイミング・ファースターor ファスティスト」でEW マグリシオ先生が実験して確かめている。

かつてフラット泳法でも造波抵抗が少なくて済んだのは、それだけ身体が浮いていたからだろう。トップ選手は胴体がまるごと見えるようなとんでもない浮き方をする。高速水着はそれを後押しする道具でもあった。さらに、「フラットと言いながら、実は傾けていた」というオチもあるだろう。

なおストロークの軌道が浅く見えるのも、身体が浮いているからだ。イアン・ソープも僕らと同じくらいの遅い泳速度なら、身体が沈み、手もかなり深い位置をかくことになる。

<ローリングとはパワー増大手段>

1月に「体幹活用」のありがちな誤解 〜Swimローリング編 では、ローリングは体幹パワー最大化の重要な手段となることに、少し触れた。その具体的なイメージを1つ示すと「側転」だ。これにより、伏し浮き不要な実戦クロールが実現できる。

下の図は、右手を着き右回転する=右ストロークするイメージだ。絵は腕を拡げた人形を回転させただけ。

20160303_203029

右手の「キャッチ」で支点を作ってから、体全体をそこに乗っけて、体重をパワーに変えてゆく。この時、自ずと腰は上に上がり、「引きずり抵抗」の少ない姿勢が実現する。静止状態での「伏し浮き」ができなくとも、この動作なら簡単にできるはず。

後は、腰が下がる前に、「側転」を向きを変えて連続していけば、腰は自ずと浮き続ける。そして、その方法を練習しているうちに、伏し浮きもできるようになるかもしれない。(出来るに越したことはない)

<ウェットスーツの浮力に頼るべきではない>

この方法は、単なる「姿勢づくり」ではなく、「パワー発揮」と一体になったもの。つまり、

  1. 造波抵抗の削減 (左右ローリングにより「左右幅」が減少するから)
  2. パワーの最大化 (側転による体重活用 ※ここでは詳細は省略)
  3. 引きずり抵抗の削減 (側転による高い腰位置で「上下幅」が減少するから)

という効果を並立させたもの。3者が相乗効果を及ぼしてのものだ。(その実現方法まではここには書きません笑)

腰を浮かすだけのウェットスーツでは、効果は上記3.のみに留まる。一見、似たような姿勢を作るかもしれないが、それは似て非なるものだ。

ここまでの説明でイメージをつかめた方は、ぜひプールで試してみよう。

    2016年3月 1日 (火)

    「ウォークブレイク」Vol.2 〜東京マラソン成果と、ラン技術向上について

    ゆっくり歩きをランにはさむ「ウォークブレイク」を紹介したのは、先週末の東京マラソン2016の前日。もう少し前に紹介できればよかったけど、まあ、選択肢は多いに越したことはないよね。

    <報告いただいた成果>

    自信を持って臨めたのなら練習どおりに走るべきで、実際やってみた友人&読者さんは皆、練習不足などそうせざるをえない事情がある方。それでも一定の成果を報告いただいた:

    • エイドでは早くからゆっくり歩いて補給し、大崩れなく無事に完走できた
    • レース直後も、翌日も、ダメージが激減した
    • 3度、10秒歩くだけ大幅タイム向上し、いつもの痙攣も起きなかった(※42kmペース走の事例)

      東京が勝負レースならなんてこともないだろうけど、トライアスリートにとっては、ダメージの残らないフルマラソン完走法を獲得できるだけでも十分な成果だ。その走法は、そのままロングレースでのRun技術となるだろうから。マラソンとトライアスロンを両立させるためにも使えそうだ。

      ただ、いつも一定ペースでの距離走だけしてる方には「練習でやっていない動作」となり、リズムに乗りにくかったようだ。分かれ目となったのは、 「レースは練習のように」という基本中の基本のように思う。この手法で得られる技術向上効果は大きいと思うから、練習からの活用を強く推奨したい。

      <ラン技術は「変化」で上がる>

      この、「歩いて脚を緩め、もう一度再加速」という過程は、「動作の変化」を含んでいる。

      変化を感じ、考える繰り返しが、技術を向上させる。

      ペース走的な「◯◯km1本」という練習が中心の市民ランナー&トライアスリートは多い。ただ、これを「動作の変動幅」という視点から見れば、「変動幅ゼロ」の練習だ。上げてゆくビルドアップ走なら「変動はさせるが、抑える」練習といえる。これらは「十分に上がった技術を定着させる局面」で最も有効だと思う。基本動作の改善余地は改善し尽くして、あとはレースペースでの動作をわずかでも磨き上げ、そしてフィジカルを極限まで上げるための練習。つまり上級者向けだ。

      だが「これから技術を上げる局面」なら、大きな動作変化を繰り返した方が、体内センサーの性能を高められるだろう。ペース走偏重によって技術向上チャンスを逃していないか、考えた方がいい。

      初心者の場合、始めの1年くらい(=期間は人による)は何をどうやっても速くなるだろう。周りがペース走ぽいことををしてるのを真似しても速くなるだろう。でも、初心者ほど、途中で歩きを混ぜるべきだと思う。(詳しくは 「ギャロウェイのランニングブック」 読もう)

      そこで起きうる問題は、そこでの動作に安住しはじめてしまう「ペース走の罠」だ。ここからの脱皮には、スピードが必要だと思う。これはSwim、Bikeも同じく。

      僕は練習ではいつもゆっくり歩きを入れてきたので、その効果はよくわかる。インターバル的な練習では、僕はつなぎをゆっくり歩くことが多い。川内優輝選手などのメニューでは、つなぎはkm5分台で200mなど、早め短めで行う。でも僕のレベルでそれをやると、身体を追い込み過ぎ、技術向上にエネルギーを向けられなくなってしまう。(同じことを、ショート主体の強豪エイジ選手も言っていた)

      Img_0598(IM Kona'13 Run41km)

      <速度と距離を変える効果>

      「動作変化」とは、「技術向上の出発点」なのだ。そこでまず行うべきは「ペースを変える」こと。耐久系の場合、「スピードを上げる」ことになるだろう。すると距離は当然に短縮=小分けすることになる。

      先日、Facebookで紹介したアメリカの強豪エイジ女性の1時間未満メニュー→ https://www.facebook.com/Masuyuki.HATTA/posts/10205636665891631 は好例。短距離インターバルっぽい構成だが、個々のスピードは必ずしも限界域ではなく、レースペースに合わせて抑制されている(インターバル=無酸素領域ハアハア、的な思い込みがもしあれば今ここで捨てましょう)。具体的には、10km-1kmでの最高速ペースを、10-12分の1に分割した距離で、各6−3本、合計距離が7.5km=75%になる量。レースペースでも1割弱の距離でなら、十分に身体をコントロールできる。

      欧米にかぎらず、国内でも強豪エイジはこうしたレースペースを上回るスピード練習を、週1くらいはやっていることが多い印象。ロング専門でも、やってる人はやっている。

      こうした「細切れメニュー」を採り入れたら、感覚が変わった!という実践事例を「おかん」氏が書いている: その初回 → 2回め 成績急上昇中の彼女も、先の「ペース走の罠」からの脱却にまずSwimで成功し、同様のブレイクをRunで狙い始めた。

      まずはやってみて、違いを感じることから始まる。

      <短時間高負荷

      ここからは、個々人の諸々の「スタイルの選択」の問題。

      このように細切れ化してゆくと、「短時間高負荷」型にシフトしてゆく場合が多いと思う。

      東京マラソンでは、30分以上短縮してサブスリー達成、というトライアスリートからの報告もあった。1kmあたり50秒近い大ジャンプ、聞くだけで嬉しい。この1年間、短時間に集中し、「5kmインターバルと10㎞ペース走中心、 20km以上は練習せず、直前月100km未満」という練習だそう。

      高負荷走に慣れていると、長距離化は、アクセルを少し緩めるだけで、あるところまで高速巡航しやすい(今回事例では30kmあたりまで)。距離走を増やせば、その先が少し楽になるだろうけど、するとバイク・スイム錬との兼ね合いが出てくる。長い練習時間を確保できるなら、バイクを優先させた方がいいと思う。

      もちろんこれらは、本人の集中力と自己管理の成果。方法論とは、せいぜい助走路の一部に過ぎない。

      ただ、高負荷錬ほど集中力を要するもの。迷いが混ざらない方がいい。その際に、 「これでいい」と確信できる材料を提供できたのなら、その範囲内では貢献できているかな。モチベーションも時間も、有限な資源だ。

      こうゆう練習が成果をだしてゆく過程では、技術を向上させやすいと思っている。というか、僕はそうゆう経験をしてきた。そしてこれらスピード系の負荷は、加齢と共に重要度を増すはずだ。

      ・・・

      詳しくは「ギャロウェイのランニングブック」2002年改訂版、それを受けた(と思われる)英語のJoe Friel “Going Long”(2009)あたりをどうぞ。基本、ロング走の手法なので、51.5レースでの10㎞ランでは不要だと思うけど(40分未満の場合)、急坂、エイド、Uターンで使う手もある。その生理学的な仕組みは次回にでも。

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      フォト

      『覚醒せよ、わが身体。〜トライアスリートのエスノグラフィー』

      • 初著作 2017年9月発売

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