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2015年7月の10件の記事

2015年7月30日 (木)

【保存版】トライアスロン用ウェットスーツのメンテナンス法

3つ前に書いた通り、3年を過ぎたウェットスーツは買い替えを検討すると良いが、実際の寿命、すなわち伸縮性や経時劣化は、メンテナンスによって変わる。

ただ、ネット検索で出てくるウェットの手入れ方法は、ほとんどサーフィン用のものだ。かつて江ノ島・片瀬海岸のボディーボーダーであった過去を持つワタシから見ても、サーフィンがトライアスロンと比べてそこまでメジャーだとも思えず、それだけトライアスリートがウェットの扱いに無頓着なんだろうか?

091027154620(2009秋「少女時代」ロケ@江ノ島)

しかし、無頓着で許されるのは明らかにサーファーの方だ。彼らの主目的は春秋のそこそこの低水温の中でサーフィンし続けるための保温性。とはいえ、もっと寒いと密閉した内側に空気が入るドライスーツを使うので、それほどシビアでもない。少々キツくなっても、サーフィン動作にはそれほど影響しないだろうし、浮力を得るのはボードからでいい。またスキマから水が入っても、サーフィンし続けれる程度に暖かさを保てればいいわけで、始めから硬化を見越して緩めに作る手もあるだろう。

実際、「水でじゃぶじゃぶっと洗えばOK!」的なブログも目にしたことがあるような。。

一方、トライアスリートでは、全身を動かし続けるので、ウェットスーツへの要求水準は高く、メンテナンスもよりシビアであるべきだ。しかし、そのための情報が見当たらない。

と思っていたら、最近、ゼロディ社のFacebookが適切な説明をしていた。冒頭に書いた情報不足とは、つまりはメーカー・代理店・ショップの側の発信不足だ。客が無関心だから教えない、てところだろうか。まあ商売として効率的ではあるが。。でもそこをちゃんと教えてくれる相手なら信頼できるよね。同社の許可を得て、ちょっと編集しつつ、掲載しよう。

<レース後のメンテナンス>

  1. 使用後できるだけ早く(できればレース会場で):真水ですすぎ洗い。ウエットスーツは塩、塩素が大敵
  2. 帰宅後: 洗剤(ウエットスーツ専用、もしくは洋服用=できれば液体)を使い、桶や浴槽で手洗い。塩、汚れ、首や足首のワセリンなどを流す (洗濯機など厳禁)
  3. すすいだ後、ウエットスーツソフトナー、もしくは洋服用柔軟剤を使う 
  4. できれば、ウエットスーツ用シリコンスプレーで、トリートメント。ネオプレーン素材の劣化を鈍らせる効果がある。原理は自動車タイヤのつや出しスプレーと同じで、浸透性の高いシリコンがネオプレーン素材のシナリを維持し、着用時の爪による傷を防いだり、柔らかさを維持する
  5. 直射日光の当たらない日影の風通しの良い所で、裏を表にし、ハンガーに掛けて、1日乾かす (脱水機厳禁)
  6. 表を表にし、冷暗所でハンガー保管。人間の肩の厚みをタオルなどで作ったソフトな表面のハンガーを作るとよい (使わないタオル=トライアスリートは何枚もあるに違いないw=をハンガー肩部分に括り付け、輪ゴムや紐で止めるといい)
  7. 陽があたるところなら、出来れば紳士服カバーの様な物で覆う(紫外線を遮断したい)
<注意点>
  • 水洗いだけでは洗浄効果は非常に低く、劣化を進ませてしまう。ネオプレン加工の生地は、洋服と同様、洗剤を使うことで生き返る
  • 洗剤は洋服用の液体で、柔軟剤も200円くらいで売ってる衣料用のでOK
  • とはいえ、ウエットスーツ用洗剤の方が油脂除去能力が高く、柔軟剤も専用品の方が良さを実感できると思う(高いけど)
  • 裏を表にしたまま保管したり、たたんたまま置いてしまうと、表側のネオプレーン素材に「折り皺」ができ、割け、破れの原因になりやすくなる上に、その部分のゴム生地内の気泡が壊れて浮力を失う
  • ハンガーは、ウエットスーツの重みでハンガー肩部分に重さが集中しないように注意

<キズ対応>

  • 洗濯時に、傷や縫い目のほつれなどが無い事も確認
  • ウエット脱着時に出来た傷は、出来るだけウエットスーツ専門業者で修理 (市販のボンドは酸化による硬化が進む為、二次故障が起こりやすくなる。ウエットスーツ工場での修理は、二剤を混ぜ合わせたボンドを使用するため、ほとんど硬化しない)

(元情報はZ3R0D日本代理店7月Facebook投稿 「ウエットスーツのお手入れ方法」 [レース後のウエットスーツのお手入れ] 【 洗ったウエットスーツのその後のお手入れ】など、よろしければご確認を)

・・・・・・・・

トライアスリートがウェットスーツの扱いに無頓着なのはきっと、より高額な自転車にカネとココロを奪われているせいだろう。そして、自転車の練習には熱心だが(この暑いのに長距離錬なんかしちゃったりして)、スイム錬が疎かな面もあるだろう。

でも、これは言っておかねばなるまい。

トライアスロンは、スイムをあきらめたらそこで試合終了・・・かもよ?

仮にバイクがものすごく強いとして、そこで得られる貯金が、スイムの借金を上回ることが最低条件。「バイクとランの両方で取り戻します」という戦術は、バイク終了時点で対等に並ぶ事ができていて、始めて成立するものだ。ランスタートは文字通りの「新たなスタート」であり、ここでハンデを負ったレースなんて負けて当然だ。

ここはエラそうに書かせていただくが、僕は(エイジレースとはいえ)トップレベルの争いを毎年5−6レースくらい続けて、そうゆうレース展開を身体で感じてきたんでね。

「いえいえワタシは完走できれば満足です」 という方も、スイムを上位で終える=バイクを上位でスタートできれば、見える景色が全く変わる。これは保証するよ!

 

大雑把に言って、スイムとバイクを比べた時に、バイクの重要度がより高いのは事実だけど、本質的にはそう違うものではない。3種目揃ってのトライアスロンだ。

バイクには100万以上を費やし(=僕のはそんなにしません)、何十万もするカーボンホイールを練習からジャブジャブ使う(=壊れてもすぐ買い換えるから平気 、て行動ですので念のため)のなら、その数%で買い換えれるウェットスーツにも、もう少しおカネとココロを配ってあげていいと思うよ。

<おしらせ> ゼロディ社のが今なら3万円台から在庫処分か24%オフ→ 前に紹介したウェット水着はあっという間に完売、こちらは各サイズ限定1つくらい。ただ、サイズ合わせは慎重に! サイズチャートはこちらだけど、試着&試泳するのがベストだ。 

クラゲ除けクリームは8月以降必須!顔だけ塗ればなんとかなる。

2015年7月28日 (火)

「暑さの中がんばったバイク錬で平均速度あがった! という勘違い」を説明しよう

「気温が20℃上がると、空気密度が7%減少し、6%のスピード向上効果」という研究成果を発見。

出典) Triathlete Magazineのネット記事Can Heat Acclimation Help Race Performance? から芋づる検索で発見した英語論文→”Effect of Heat and Heat Acclimatization on Cycling Time Trial Performance and Pacing” (Medicine and Science in Sports and Exercise,2015)

「自転車選手が暑さに慣れるのには1-2週間でOKです」という結論を導くことを目的とした論文だが、その過程で指摘されるのが、この「暑さで速くなる現象」だ。これ、真夏の日本でのバイク練習にちょうどいい情報だと思い、少し考えてみた。

実験対象は43kmのTT(=タイムトライアル、つまり独走)で、出力の90%が空気抵抗に費やされる、という条件。これは時速50kmhあたりかな。このスピード域で6%=時速3kmh上がるとすれば凄いこと。ドーピングしても厳しいのでは? もしかして昨今のトップレースの高速化は地球温暖化のせい?というのは悪い冗談ですゴメンナサイ m(_ _)m

多くの方が長距離バイク錬での目標としているっぽい「平均時速30km」域だと、どれくらい影響があるのかな?

<計算の過程 〜は文末参照>

プロの計算屋さんからの情報によると、理論上、東京の1月と8月とを比較すると、速度域がどうであれ、4%の速度向上効果があるらしい。

<考察>

ならば本来は、上記実験も4%アップに留まるはず。ではなぜ実走で6%アップなのか? 

実走なので計測値には誤差が大きめに出るだろうけど、ここでは正しいと仮定しておく。すると考えられるのは、実走では暑いほど薄着になるために、服の空気抵抗が下がる、ということ。同研究の目的は、あくまでも耐暑順化なので、このあたりの厳密性は問われていないだろう。
 
そこで、「他の条件が同じならば気温上昇により4%アップ、さらに薄着になってれば更に2%の速度アップ効果」と考えられるのではないかな。
 
実際、標高と気圧の関係で考えると、空気密度の7%低下とは、標高600mくらいな状態だろうか。僕の実感としても、標高400m前後でも40kmh巡航すれば、空気抵抗の低さを肌で感じることができる。
 
<ケーススタディ>

  • 練習データ: 気温18℃での平均時速29kmのコースで、38℃で頑張って30.5km!
  • 本人感想: 「暑い中でがんばって練習してキツかった、意外と速かった、よくがんばったジブン!」  
  • 真実: 暑さの中を無理して、練習の質を落としただけ (解説: 気温効果で4%、さらに薄着効果で2%以上、計6%=1.8kmh以上、速くなってるべき計算なので)

ということが、起こりうる。というか実際、暑さが本格化した2週ほど前あたりから、そんなようなFacebook投稿をちらちら目にしてるような気がする。

この知識 〜練習用ウェアの空力差も考慮して、1割くらい速度を上げて始めて対等なトレーニング効果となるであろうこと〜 が無いと、「やったつもりの練習」を暑さの中、それとは気付かずに、してしまうおそれがある。心当たりがないと良いのだが。

<練習したらダメ。>

前も書いた通り、(また上記の英語論文でも説明される通り)、暑さ対応には、長時間の練習は必要ない。暑さに耐えた長時間練習で達成感が得られたとしても、それはレースでの成功に向けられた努力ではない。その達成感(のような気がするもの)と引き換えに、内蔵ダメージなどのマイナスのトレーニング効果を蓄積しているかもしれない。

参考:「練習したらダメ。」2013年8月10日 小笠原さん

実際、8月下旬のアイアンマン洞爺に出ると、10月中旬のKONAでは実力を発揮できないことが多いと思う。(その例外を僕は知らない)

レース結果を決めるのは、練習の「濃さ」だ。暑さは薄める要素であり、それを避けられない日本の夏では、薄めないための工夫がレース結果に大きく影響する。

このあたりの基本は、まずは山崎敏正さんに学ぶといい→僕はロードバイクのりはじめた頃から彼のコラムは熟読して、正しく初期設定することができた。

それから僕は過去、9-10月の勝負レースは軒並み大成功させている。

 

<付録>
回答A: プロの理系さんに計算いただきました
東京の平均値(2014年)は
1月  1013.4hPa  6.3℃  空気密度:1.2618
8月  1005.7hPa  27.7℃  空気密度:1.1648
FA(空気抵抗)=CA(空気抵抗係数)×A(前面投射面積)×ρ(空気密度)×Vb*2×1/2  (*2は2乗)
空気密度と速度以外が一定とし無視すると
Vb(8)*2=ρ(1)×Vb(1)*2/ρ(8)=1.08327×Vb(1)*2
Vb(8)=1.0408×Vb(1)
結論: 理論上は速度域に限らず4%の速度向上

ハッタリくんの答案・・・ 文系人間の限界デアル

時速30kmhで空気抵抗は全出力の79% というデータをIT技術者氏が出してるが、トラックレーサーで、タイヤも最高圧にあげれて路面抵抗が最低になる状況なので、空気抵抗比率が高過ぎる。「必要動力計算器」というサイトでてきとーな数字を入れてみると、68%と出た。ま7割てとこか。
「温度による流体の抵抗変化」の速度に対する影響は、競技ボート(手漕ぎ)の水との関係 では、直線的だ→ 11694080_10204593742299193_75537443

そこで、「空気抵抗の寄与度」は30kmhでは7割、上記研究の状況では9割、つまり23%分だけ影響が落ちる。よって同研究での「6%のスピード向上効果」は23%差し引かれ、30kmhの4.7%=1.4kmh相当、と計算できる。 

2015年7月25日 (土)

日本女子体育大学キャリアセンターで講演してきました

去る5月、日本女子体育大学キャリアセンター「キャリアカフェ 〜人生の先輩に、ホンネの話をきいてみる〜」にてお話しする機会をいただいた。テーマは、いわゆるグローバル人材。それを体育系学生に向けて、 「スポーツ × キャリア × 英語」の合わせ技、という切り口から、現実にメリットの高そうな方法を伝えようと試みた。題して、『「スポーツぢから」に「英語力」をたしてみる!』 

講演録→ http://www.cc.jwcpe.ac.jp/cafe/specialist/01.html 

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体育系学生には、「チームで目標を達成するために4年間 "真剣に" 追求し続けた経験」という、多くの(殆どの?)文系学部生が得られない経験がある。それもあってか、エネルギー感=人前に出た時のプレゼンスが普通に高い人たちだと感じた。NHK「まれ」ヒロイン土屋太鳳さんはこちら舞踊学専攻科に在学中。こちら大学案内の表紙も飾っている→  http://www.jwcpe.ac.jp/dot-will/news/150428_1.html  (今もっとも贅沢な表紙?) 共通するものがあるかな。
 
それは価値と希少性ある資源なので、そこを土台に色々な能力を乗っけてけばいい。キャリア的にも良いポジションに居ると思う。
タイトルの「スポーツぢから」とは、そうゆう能力(社会人基礎力のような)をニチジョさんなりに表したものだ。
 
ただ当の本人たちはその価値に気付いていないことが多いようだ。そこで、それは強いんだよと確認した上で、そこに英語を活かした経験(=勉強した経験ではない)を加えるといいよ、その方法は、、、という流れ。
Specialist01_013_2 (カメハメ波をつくって → 軽く放出)
 
体育会系学生のメリットを説明した本や学術論文にも幾つか目を通したけど、基本は、当事者が内側から自画自賛するものが多い。学術論文は、体育の先生が仕事しながら教育系大学院に通って書いた風のものがけっこうあったり。つまり、「スポーツの視点だけ」に立っているものが多い。一方で、昭和以来の紋切り型の体育会系批判(or軽蔑)もいまだ見かける。
それら議論は理解した上で、これまで語られていない切り口から構成したのだけど、それゆえ熟してない内容で、どこを、どこまで話そうかなー、と手探りな感じで進める。意欲が高くて協力的な聴衆に助けられた面も。(こうゆう点もすばらしい!)
 
<英語なしで逃げ切り可能な世代と。そうでもない世代と>
英語を使う使わないは本人の自由であり自己判断だ。その投資効果(=メリット÷勉強時間コスト)は、個々の状況で変わる。だからみんなが英語できるようになる必要はない。
 
ただ「年齢」は大きな要因で、若い世代ほど、国内の少子化と世界の人口増加の影響を受けるだろう。世界における日本語シェアは減少し、英語シェアは伸びてゆくから。
その手の脅迫系アオリは昔から続いてる話かもしれないけど、 インターネットは地球全体を情報面ではほぼ1つに繋げた。これにより英語の影響力はさらに大きくなってゆくだろう。情報発信したければ、英語でするのがベスト。僕は低レベルなので日本語だけで書いてるがw
 
学生にとって、今後の50年間(その頃にはもっと長いかも?)ものキャリアを日本語の世界に限定することは、悪い方向のリスクが大きい。
 
<英語もランニングも同じ>
スポーツ分野で、「英語が少し出来ること」のメリットは実際多いし、そのための労力も少なめだと思う。身体レベルで理解できることも多いので、読みやすいし、話しても通じやすいと思う。なにより、情報流通量も日本語の比ではない。
 
ここで、「自分、英語苦手なんで」 とか言うのは、「走るなんて無理」 「駅の階段なんて急で上がれない」  というロコモ・サルコペニア予備軍(=歩けなくなってゆく)の中高年と同じ理屈だ。
 
1日15分を3週間続ければ、身体が慣れてくる。必要なのは単純な行動だけだ。アメリカにいけば5歳の子供でも英語をペラペラ話す。多くの日本人は、英語をお勉強の得意な人たちのものだと思い込んでいるようだけど。(て東大生にも苦手意識があったりするのだが)
 
一度慣れたら、問題は、「いかに活用して成果につなげるか」。
それを、冒頭に書いた「独自の強み」と組み合わせて、実現する。
やみくもに英語を読めばいいってもんでもない。
詳しくは講演にでもお呼びください(笑
 
<英語で広がる世界>
3要素のうち、 「スポーツ × キャリア」の組み合わせについては、以前ディープな反応のあった過去記事2つ、
 
 
でも取り上げた。今回は全く別の話をしたけど。これら記事で書いたことも、実際にこれから行動に移そうとすると、英語は避けられないだろう。
 
たとえばジョー・フリール氏「トライアスリート・トレーニングバイブル」は2版までで累計20万部、一冊20ドルで印税10%なら約5,000万円。現行の3版も相当売れているはずで、他の著書とも合わせれば億円レベルだろう。そりゃあ真剣に書く。
(英語版だと半額以下!)
 
つまりスポーツ界では、ターゲット市場が日本だけか英語圏かで、世界はまったく変わる。ドイツやフランスやスペインの選手も普通、英語ページは作る。(日本人のトップ選手はちゃんと作ってる?) これらはあくまでもトップレベルの話だけど、1つの例として挙げてるだけ。いろいろなレベルで、英語は世界を広げることが出来るだろう。
 
もちろんスポーツ界に限らない話だ。
 
<Google翻訳>
テスト勉強ではないので、使えるものは何でも使えばよく、Google翻訳も使えばいい。日本語の訳文は変だけど、ないよりマシだろう。僕もたまに使う。使うたびに進化している感もある。
 
Google翻訳というのは、従来の文法解析ではなく、文章のデータベースから直接訳文を引っ張ってくる仕組みなので、ネットの情報量が増えるほど精度が上がる。
ただ、英語と他の欧州系言語(=中国語も含むかな?)の質の向上に比べて、日本語は取り残されてる感もあり、機械がいくら進歩しても限界もあるし、「慣れるまでの手段」くらいがいいかな。

2015年7月22日 (水)

【実態少し解明】レース水難事故の主犯「血行障害」、そして「体幹に寄せるウェットスーツの着方」について

トライアスロン大会での相次ぐ水難事故につき、昨日あたりからFacebook界隈で一気に主犯格として浮上した、「きついウェットスーツ」。

いただいた体験談から推察するに、どうやらウェットスーツの単独犯ではないようで、低水温、緊張など複数の共犯が絡むことで、血行障害」と「筋肉内部の低酸素が発生するケースは多いようだ。当ブログではその仕組みを説明した上で、現実的な対応として「キツさを和らげるウェットスーツの着方」を提唱したい。

・・・

まずは、西内洋行コーチによるFacabook7/22投稿「《トライアスロン死亡事故をなくすために 個人的検証》 」より引用させていただこう。

きついウエットスーツは腕周りの血流が悪くなり、呼吸がしずらく、パフォーマンスを下げてしまう
 
胸がきついと腕や脚の静脈を圧迫する以外に、物理的に心臓、そして肺を圧迫します。・・・肺が圧迫されると、呼吸が浅くなり、低酸素状態になる場合があります。また、圧迫感で焦りも出てくる事でしょう。
 
最近の事故は初心者ではなく、ある程度の経験者・・・中には医者であったり、持病がなかったりでの事故が出てきています。・・・トレーニングではそれまで死亡しなかったのが、ウエットスーツを着たレースで死亡したという点は・・・ ウエットスーツの締め付けがあったと考えると、つじつまが合ってきます
 
こうした問題認識を受けての、西内さんの提案は、まったく正しい:
 
(私は)布地メーカーとタイアップして製品づくりもしていますが、ウエットスーツの布地は、ゴムの中に気泡が入っていて、それが3年くらいかけて抜けていくそうです。それと同時に硬化も始まり伸びにくくなっていきます。最低3年目安にしたいところです
 
サイズ売りの既製品を購入する場合は、胸部、肩周りはゆるめを選ぶようにしましょう。ただ、それに合わせると首や手首がゆるくなり、そこから水が入ってくる場合がありますので、難しい所です。
 
レース中、苦しく感じたり、違和感があれば、浮く事が可能であればファスナーを緩める、ファスナー無しの場合は胸の所を引っ張ってみるなど効果があるかもしれません。
 
それから、万が一の場合は、仰向けになって休んでください。そこで気を失っても、呼吸ができる状態にあります。下向きで気を失うと水を飲み、呼吸ができなくなります。また、仰向けだとライフセーバーが変化に気づいて注目してくれます。
 
さすがは、トライアスロンのウェットスーツについて、開発段階からレースまで熟知した上での提言。西内さんの思考はいつも信頼できる。ただしここまでは、トライアスリートなら当然知っておくべき基礎知識にすぎない。本稿はここから本題に入る。
 
・・・
 
「チームぼくたち」 (笑)の調査によれば、この問題はたしかに多発している印象を受ける。そしてその発生メカニズムは、もう少し複雑のようだ。
 
<「低酸素と血行障害」の発生メカニズム>
 
1) スタート前の筋肉血管の収縮
  • ウェットスーツによる締め付け
  • 水温の低さ(たとえば22℃以下の海水温など)
  • レース特有の心理的緊張
といった要因が絡み合って、血管が縮まり、血行障害が起きる。みなさんの過去のレースで、筋肉が縮こまった感じってなかっただろうか? 特に少し冷えた海では。(僕はないけど。ちなみに中学では水温17℃から水着で泳いでいた)
 
2) スタート直後の低酸素化
スタートし、筋肉が急に活動し始め、体内の酸素を消費する。
しかし上記1.による血行障害のために酸素が行き渡らず、筋肉が低酸素状態になる。
 
さらに、他者との接触(=バトル)、うねりなどの物理的ショックによる心理的緊張が加わる。しかもウェットスーツが締め付け続け、さらに低水温まであれば、筋肉血管は縮みっぱなしだ。
 
3) 「代謝性アシドーシス」?
これは仮説だが、2.の結果として血液が酸性化し(アシドーシス)、呼吸が深く速くなる。これは一見、前回書いた「過呼吸」と似た症状だが、しかし原因は全く別だ。「過呼吸モドキ」であって、前回の話は当てはまらない。
 
4) 発生後の対応
西内さんが書くように仰向けに浮いたり、ブイやライフガードさんのボートにつかまって、筋肉活動を止めれば、低酸素状態が解消される。そして呼吸が整えば、再スタート可能だ。
 
5) 予防法
陸上ウォーミングアップで十分に筋肉を温めるのも有効だろうが、なによりも、スイム・ウォーミングアップで冷水刺激に慣れること。その際に、ウェットスーツの中に海水を少し入れて、全身を冷水に慣らすことで、そもそもの原因環境である1)を防ぐ。
 
以上、Facebookで寄せられたみなさんの報告を纏めたものだ。個々の情報の多くは、既に知られていることだけど、実際のレース現場で組み合わさることで、発生率が急増しているような印象を受けた。
 
 
<提案:ウェットスーツは「体幹寄り」に着よう!>
つまり、適切なウェットスーツに買い換えるのがベスト。かといって予算がないとか、ショップできちんとサイズ合わせて問題ないはずなのに、という場合もあるだろう。そこで提案したい最も現実的な方法が、フランスZ3R0D-ゼロディ社のFacebookに載っている。その要点は、 『出来るだけ体幹側でウエットを着る』ことだ。
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つまり、腕も脚も、出来るだけ裾を手繰る。
これだけで、肩周りと、腰回りに、余裕を持たせることができる。
肩と腰の余裕により、胸部への前後方向の圧迫を減らす。
肩の余裕は、首周りと、胸部の横方向への圧迫を減らす。
 
この着方では、脚や腕は今までよりも多く露出する。僕は館山で実験し、10cm近くまで余分に露出させることになった。その分、末端の浮力、つまり脚腕のストロークとキックの動作に、余計な筋力を要しなくなると思う。
 
注意点として、腕と脚のスソ部分は以前より締め付けられる。それが新たな血行障害を起こすようなら、カットするのも1つの手。フクラハギ部分まるごと、ヒジから先、など。ただし浮力の総量は減るので、「脚が沈みキックも弱い」方だと、脚部カットで遅くなる可能性はある。「フラット姿勢を保ちながらキックで進める」のなら問題ないけど。
 
週末のレースから早速使える手っ取り早い方法なので、試してみるといい。
 
<だけではない!>
もちろん、前書いたとおり、個々の原因はよくわかってないのが実情だ。リスク要因を最小化する意味で、前日に酒飲まないとかはアタリマエなんで、わざわざ僕から書くまでもない話だ。(2日かける大会なら、愛南大会のように、土曜午後レース、夜パーティー、日曜フリー、という日程がベストだと思う)
 
他にも、落ち着いて安全に、そして速く、泳ぎ切るための実戦的なテクニックはいろいろあるので、もう少し続けよう。
 
 
<お知らせ>
プールの練習では、ウェット素材水着で浮く感覚を近づける事が出来る。 ←フランス・ゼロディ社の水着もかっこいい! 
 
なお次回の代々木プール練習会は7/26(日)午前、初の日曜都心開催。
  •  

2015年7月21日 (火)

死の危険も招く「過呼吸」の誤解と対策、そしてトレーニング意識について

トライアスロンは、国内30年ちょっとの歴史の中で、毎年平均1名の大会中の死亡事故が起きてきた。大多数はスイム中だ。今年は既に5名が水死、ちょっと多過ぎる。さらに僕が目にしたニュースだけで2件の危険な救出事案があり、うち1つは館山で僕の目の前をタンカで心臓圧迫マッサージをされながら運ばれていった。翌日には無事に回復したようでよかったけれど。

なおアメリカでは2011年に12件のトライアスロン中の死亡事故、とのブログ記事がある→ 「〜トライアスロン中の死亡事故に関して、アメリカでの話〜」 また国内マラソン大会では年間37名もの心肺停止が報告されている。

オトコが4-50代にもなれば、ゴルフでも心臓発作死し始めるわけで、加齢とともに自然に高まる健康リスクを、トライアスロン、とりわけスイムパートは「大きく増幅する」のは間違いない。

JTU医科学担当チームでも、情報収集と分析はしているが、個々の原因はわからないケースが多いとのこと。つまり犠牲者の方が、「練習不足、睡眠不足、前日飲酒、当日の無理」等々の落ち度があったかも、わからない。軽々しく自己責任論を語れるものではないのだ(一部で目につくけど)。確かに言えることは、一人ひとりが、正しい医学知識を持ち、リスク要因を徹底回避すること、に尽きる。リスクはゼロにはならないが、極小化を目指すことなら出来る。

奥井識仁医師のコラム「水泳中の突然死」 (2012年か?)は、原因となりうるものを整理される。昨日Facebookで紹介して過去最高いいね500超の反響。JTUサイトには2002年頃から同様の内容が載っており、標準的な見解だろう。このレベルの知識は、参加者全員が持つべきだ。

 

<「過換気」がもたらす「過呼吸」>

特に、5.の「過換気」=スタート前の深呼吸禁止は、知らない人が多い。もちろんスイムに限らない話だ。

ただ、説明が医学的で難しいので、まずはNHK「ためしてガッテン」サイトを読むといい。

過呼吸は激しい呼吸を繰り返すうちに血液中の二酸化炭素が不足してしまう状態。二酸化炭素は体にとって必要不可欠な物質で、不足すると頭痛、めまい、手のしびれ、筋肉の硬直などの症状が現われ、最悪の場合は心肺停止することもあるのです。
この二酸化炭素不足を解消するために、脳の延髄は呼吸そのものを止める命令を出し、二酸化炭素の放出を食い止めようとします。しかし、私たちの意識を司る大脳皮質は逆に息苦しさを感じて呼吸を続けようとする・・・これが過呼吸の状態です。
 
つまり、レース前に深呼吸を早いペースで繰り返すと、Co2濃度を下げ過ぎ、「過呼吸」のリスクを高める。
 
Co2濃度が下がると、苦しいと感じるまでの時間が延び、「息を止められる時間」なら延びる。ただし運動能力は上がらない。ここが勘違いのもとだ。蓄積酸素は6秒間しか運動効果がもたないので、耐久レースで行う意味は全くないのだ。呼吸で無理がきくと、突然の意識消失を起こしやすい。
 
これ私中学3年の時にプールで経験あり。水泳部を引退して2週くらいあとに、潜水75mにチャレンジして、50mのターンをしてそろそろ息が苦しくなってきたなあと思って、その次に気付いたら顧問教師が捕まえて水面に引き上げられていた。水中でバタバタし始めたらしいが、その記憶はない!
 
これ本当に直前までは苦しくなく、突然に意識消失が来た。「気がついたら意識消失」、と書きたい感じだけどそれは言葉の矛盾というものでw。水面に引き上げられたことで意識がふっともっどた感じ。
 
そもそも引退後に無謀であることはおいといて、、このイベントはみんな注目してて、即救助体制がある中でのこと。逆に言えば、この状況で、自分から助けを求めることは不可能だ。
 
これは極端な例だとしても、スイム初期に頑張りすぎて、脳が低酸素のまま、酔ったような気分で泳ぎ続けるケースは十分起こりうる。

またスタート後でも、後発の速い集団に抜かれたり、うねりがでてきたり、またそれが岸から離れて水深も深くなってるのに気付いて、後から呼吸過剰を起こすケースもあるだろう。

 
<過呼吸への対応>
過呼吸の原因は「二酸化炭素=Co2不足」であり、「酸素の過剰」ではないから、もし起きたら、袋を口に当てて呼吸制限するようなことは無意味で、窒息死の危険すらあるのは、ガッテンに書かれてるとおりだ。でも、こんな致命的に重要なことは知られておらず、僕が今年本人から聞いた例だけで、2名が間違った対応をしていた。しかもふたりともかなりの実力者だ。
一般的には、ゆっくり落ち着いて呼吸していれば、自然と戻る。なので、水中でもそうすればいい。トライアスリートに向けた奥井医師の推奨も、「スイムでの呼吸技術の向上」だ。
 
「クロールなら、左右両方で呼吸できるようにすることや、首をあげて呼吸ができる技術をみにつけてください。」

落ち着いて、ゆっくり呼吸をすること。それがレース中に出来るような「呼吸技術」を持つこと。

これは、「がんばることでタイムを上げる」というトライアスリートに多い練習法では、身につきにくい。「がんばらなくても楽に速く(=ほどほどに)進む」という技術重視のスイム練習が必要なのだ。

そしてそれは、他のリスク要因の対策にも効果があるだろう。原因が過呼吸ではないトラブルでも、落ち着いて息ができるだけで、和らぐものは多いだろうから。そして、速さ自体の追求にも。

 

<「錐体内出血」による「平衡失調」>

もう1つ注意すべき原因がこれ。呼吸の際に誤って鼻から水を吸い込み、吸い込んだ水が耳管の中で行き来して、圧変化により内耳の中にある錐体内に出血を起こし、平衡失調を起こすもの。これ自体で死ぬわけではないが、水中では泳げなくなってしまう。これは泳力に関係がない。(実際には、泳力のある人は、呼吸で鼻から水を吸い込むことはまず無いが)

また、冷水を気管内に吸引してしまうと、迷走神経反射で心拍数が低下し、意識消失につながる。これは過呼吸による「ノーパニック症候群」でも同様。
 
これも、呼吸技術の徹底によって防ぐものだ。
 
 
<アルコールと睡眠> 
酒を飲める体質の場合、ビール1-2本なら翌日に残らない、という人は少なからずいるだろう。僕もそうだ。でもこの場合に考えるべきは、睡眠の質を落とすこと。
 
眠れないからと酒を飲むのは、少量ならともかく、神経を麻痺させて意識を失わせるようなもので、寝たつもりになっていても、脳が休まっていない。
逆に、眠れないつもりでも、目を閉じて暗いところでじっと横になっていれば、レースに必要な休息は十分に取れる。これは瀬古利彦さんはじめ、ランニング系の情報源に幾つもでていると思う。
 
ただ、レース前夜に、睡眠不足の蓄積を持ち込んでしまうと、そうもいかない。そこで直前週からアルコールを控えることで、睡眠の質を維持し、コンディションを保つことも有効だろう。特に忙しい人の場合には。
 
 
<実戦的な対応: スタートで無理をしない>
レース中の対応としては、落ち着いてスタートすれば、たとえバトルになったとしても、より安全になるだろう。
 
本来バトルとは、ぶつりかりはするが、それでスピードを落とすことなく(ドラフティング効果でひっぱってもらえているはずだし)、自分の泳ぎができるべきだ。スイム上位でのバトルはそうゆうもの(僕が体験した限りでは)。それが出来るのは、それぞれが姿勢制御技術が高いから。
 
それが出来る技術がないのに、スイムバトルの中にいるのは、本来は極めて不合理なはず。当たり前で仕方ないものという認識があれば、改めたほうがいい。バトル自体が問題なのではない。その中での各人の認識と行動が問題なのだ。
 
そして、みんながそうゆう行動を取れば、バトル自体も沈静化される。
 
<対応2: 練習を変える>

  • 脱力してきちんと浮ける
  • 弱い力でも水を確実に捕まえれる
  • 姿勢を制御できる
等々が大事なわけだ。これらの基礎技術にたって、いろいろな状況下で落ち着いて呼吸できるようになる。

つまり、トライアスリートはまず「フォーミング」=ゆっくりと綺麗な姿勢で泳ぐ技術を、まっさきに身につけるべきだ。バイクやランのように、心拍数を上げて距離を稼ぐような練習は、レース直前2ヶ月で十分。でも、そればかりしている人も多いのではないだろうか?
これは、少なからぬトライアスリートにとって、大きな意識展開になるだろう。たぶん「自分が思うほど出来ていない」ものになる。
 
そして、スタート時を想定したダッシュ錬も必要。上記と矛盾するようだけど、練習では最悪のハードさを想定し、本番は最良のリラックスで。
 
 
<ちなみに奥井医師>
趣味が嵩じて健康ウォーキング、ランニング等々の本まで出す、スポーツ医学に通じた婦人科医さん。「15分間の速歩き」は、運動習慣のない人は本当にやるべきだ。また、糖質制限で痩せたい人は、原始人=パレオ式ダイエットがいいと思う。
 
<スイム技術>
今後しばらく、スイム中心に書いていこうと思う。OWS実戦テクなど次あたり。
20150715_143229
ところで、この撮影時に履いてたのはたしか20年前(笑)からのellesse(さらに笑?)。もさっとしてる(失笑)
ただいま最新のフランスZ3R0D-ゼロディ社のものに切り替えた。かっこいい!
 やはり2016五輪のブラジル!
 
なお次回の代々木プール練習会は7/26(日)午前、初の日曜都心開催。

2015年7月19日 (日)

真夏の耐久スポーツ4 〜「熱中症ビジネス」に騙されない? 補給製品の選び方

*** おしらせ ***

最高1日訪問者4,000&ページ閲覧6,000超えを記録した人気シリーズを、独自カテゴリ「耐久スポーツの暑さ対策」として https://masujiro.cocolog-nifty.com/blog/cat23897989/index.html へ整理してます。昔の記事2つオマケつき。先日NHK「ためしてガッテン」でも暑さ対策やってたけど、メディアでに出てくるのはマジョリティー=はっきり言えば「運動不足の高齢者」=向けばかりなのが日本のマスコミだ。アスリート向けの知識なら、アスリート同士で補いあうべきだ。このブログもその1つだ。

いよいよ真夏到来。
 
「暑さ対策の新常識」といっても、当ブログで書いている1つ1つは、知ってる人にとっては当然のことの寄せ集めに過ぎない。その程度でも過去最高の反響があるのは、それだけ「旧常識」が多くの人に染み付いているからだろう。それを進めてきた一角が「熱中症ビジネス」なのかもしれない。
 
たとえば、アミノバリューによるランニング情報サイトの最新記事:夏の水分補給は毎年おさらいを。水分補給を制するものは夏ランを制する。 これ、商品を買わせることだけに集中した記事だ。その商品を買えば全てが解決するかのようなイメージを振りまいて。(長くなるので、詳しくは文末参照)
 
こうしたイメージを刷り込まれたシリアスレーサー達が、レース中にスポーツドリンクを飲み過ぎておなかを壊し、さらには低Na症でつぶれてゆく。
 
提言:「体系的な知識」を持てば、業者のトラップを見抜ける。
 
そこで、この図1枚でどうだろうか?
 
3
(著作権は僕です、図も文も)
 
この図での主役は、オレンジの曲線。運動が進むにつれての「汗中の塩分濃度」をカーブの傾きが示し、その際の「体内の水と塩分のバランス」を縦横で示す。
  • かきはじめの汗は塩分濃度が低く、少しくらいの発汗なら、普通の食事と、そして体内のNa貯蔵量(後述)とで十分賄える。よって、麦茶でも飲んでおけばOK
  • 発汗が進み、Na流出が増えてゆくと、スポーツドリンクのメリットが出てくる。ちなみにアクエリアスほか大手の「ジュース会社」系のものはミネラル濃度が薄め、製薬会社によるポカリは2割ほど濃い。意外と健闘するのが「ソルティライチ」だ
  • 通常、レースのコース上にはここまでしか置いていない。発汗が進んだ場合には、塩のタブレットや、塩そのもので補完しよう
  • 発汗が進むと、汗の濃度が高まり、同時に、飲むべき濃度も上がる。正常時には不味い「OS-1」が美味しく感じるようになったら、OS-1が最適だということだ
  • 極限状態では、「小型容器に携行した25%濃度の雪塩」が「甘く感じた」という報告例あり
※なお、ここで商品名に付記する「%」は塩分濃度。Na=ナトリウム濃度は「塩分の約4割」に相当する。商品パッケージにはNa量が表示されるので、「2.5倍」すれば判りやすい。 (以前の記述と図で混乱があるかも、最新のが正しいということで)
 
結論として、「今、美味しく感じられるものが、身体にとって最適なNa濃度」だろうと考える。いいかえれば、「知識ではなく、体感」。
 
僕は天然素材そのまんまが好きなのだけど、長時間になるなら、何でもいいから、常時携行はしておくべきだ。水なら公園の蛇口でも日本ならOK、でも塩はそうはいかない。
 
そして、練習前後の計量を是非。体重が2-3%減るというリミットは、知識として持ってても意味がない。それがどんな感覚なのかは、安全な環境下で試して、感じておいたほうがいい。
 
4回続いた暑さ対策シリーズは、たぶんこれで最終回。
 
暑い夏を、楽しもう。
 
 
<体験談>
読者のみなさんから報告いただいた経験談も紹介しよう。
 
例1)
「フルマラソン完走後に足が攣ってどうしようもなくなったときに、救護室でOS-1を二本もらって飲んだら、ものの数分で足攣りが収まりビックリ」
 
ゴール後には、アクエリやポカリを配る事が多いけど、大塚さんスポンサー大会なら、むしろOS-1を配った方が、その後の売上増につながる気もする。そうゆう極限状態向きの商品なのだから。
 
例2)

「同じ50代の男女二名が、31℃90%という高温多湿下で20km走を実施。

同じ時間、同じ距離、同じタイミングで補給したのに、男性だけひどい熱中症に、女性は平気。男性は肌の露出が多く、途中で赤い自販機でジュースやスポーツドリンクをたくさん飲み、結果、汗が大量に流れ続けていた。女性は肌を覆い、水を掛け、飲んだ水の量も少なめ」 

「そのリベンジ戦で、男性は25%濃度の塩水を携行し、ちびちちびり飲みながらで、無事帰還に成功」

極限状態もそこまで行き着くと(それも自由てものだ、笑)OS-1どころではなく、25%濃度にまで、本能のメーターが上がるわけだ。
 
<アミノバリューのサイトの問題点、続き>
冒頭の記事の問題点についても、以下説明しておこう。
 
あらかじめ断っておくと、商品の機能自体にも問題はない。正しい場面で正しく使えるのなら、十分に優れた商品だ。そして実際、気軽なお散步テニスゴルフなどの場面なら、この方法「でも」許される。接待ゴルフとか、ご近所さんが見てる犬の散歩とかで、そんなに水掛けれないだろうし。
 
そうゆう一般さん限定なら問題ないのだけど、アミノバリューのサイトでは、「マラソンにはスピードトレーニングも必要」とか、明らかにレースレベルでの情報提供もしている。このレベルの真夏のトレーニングでは、「水かけ冷却」は最優先にくるべきだ。それに犬のお散步程度でも、首に濡れタオルくらい巻くといい。
 
そこに一切触れないのは、「発汗量が減り、補給すべき水分量が減って、商品が売れなくなるからじゃないの?」とつっこまれる(実際にはそんな邪念はなく、単なるライターさんの知識不足だと思うけれど)。また最新記事なのに、あの重要な海外学会を踏まえてる様子がないのも痛い。
 
しかし、こうゆう記事が、ほぼ主流になっているのではないだろうか。しかも有名企業が、それなりの専門家を用意し、最新デザインのウェブサイトで発信するから、信じない要素を見つけるのが難しい。
 
さらにこの季節、商業メディアにとって彼らは大量に広告出稿してくる超VIP客だから。ニュース原稿作成でも配慮されないとも限らない、という皮肉はさておき、実際メディアでは「普通の人達」が対象なので、耐久系アスリートの存在は考慮されない、これは間違いないだろう。
 
そんな情報が渦巻く中で。僕らは、「自分なりの判断基準」を持つ、独自に磨いてゆく必要があると思うのだ。
 
もう1つ付け加えておくと、大塚製薬さんは、むしろ「OS-1」を、今のような医療系ではなく、耐久アスリート向けの日常使いとして、もっと激しくアピールしたほうがいいと思う。「水をかけながらOS-1を飲む」なら、売上はそう落ちないかも、笑。
 
<医学的なお話> 
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※お知らせ: 次回の代々木プール練習会は7/26(日)午前、初の日曜都心開催です。

2015年7月14日 (火)

真夏の耐久スポーツ3 【一発ビジュアル理解!】 低Na・脱水・熱中症の関係

2つ前に書いた「低Na症・脱水・熱中症」の3者の関係を、図に描いてみた。こんなのブログ開設以来初の大サービスw。まあ単純な理解ではあるけど、レースやトレーニングで本当に使える科学知識とは、シンプルなもの。レース中なんて小学2年生の計算すらおぼつかないから、正確厳密なものほど無意味なのだ。

この図では、1)体内の水分量は多いか少ないか、2)塩=Na量は、という2つの軸により、「今、自分はどの区画にいるのか?」を直感的につかむ仕組みだ。昨日Facebookで議論しながら思いついたばかりのアイデアなので、修正点などご指摘くださいな。

1
すると3つの関連症状は、以下の位置づけで理解できる:
  • 低Na症 ・・・上図の斜め左上。体内の「比率」として、水たくさん(※NHK「あまちゃん」のではない)&塩すくない、という状態。体内Na(=塩)比率は正常の0.9%よりも下がっている
  • 脱水・・・ 図の下側。水の体内での「絶対量」が少ない状態
  • 熱中症・・・ 本来はどちらとも無関係に、身体に熱がこもった状態。ただし、脱水により汗の冷却機能が落ちることで起こりやすくなる(だからTVニュースでは脱水とセットで説明される)
各症状の発生メカニズムは順に:
  1. 発汗により、まず水から減る。なぜなら、汗のNa濃度は0.05〜0.5%、身体全体のNa比率0.9%より常に低いので、汗が出るほど、身体の水分比率が減る=Na比率が高まるから。よって、はじめのうちは、塩を残しながら水が減る 
  2. こうして脱水が進んでゆく。すると体内Na比率が高まっていき、それを低下させるために、汗のNa比率が高まる。この時ウェアは「塩を吹いた」状態だろう。こうしたバランスを常に維持しようとする作用が、「恒常性=ホメオスタシス」だ。暑いほど汗そのものも出続けるので、トータルでのNa排出量が増えて、「水とNaの同時不足」へと進んでゆく
  3. だからといって水をガブガブ飲んでいると、Na量は減る中で水量が増えるため、Na比率が低すぎる「低Na症」になる
  4. 低すぎるNa比率を、水を排出することで戻そうとする → 汗が大量に出る(事例報告あり)など体内の水の絶対量が減り、やはり「水とNaの同時不足」へ
そして、「水とNaの同時喪失」は、発汗量の大幅減少につながる。暑さの中でそれが起きている場合、体温の急上昇=熱中症を招く。ただしそれは、「そうなる場合が多い」というだけの話で、冷却ができていれば起き得ないので、直接の関連性ではない。(だから5.という番号はふらなかった)
 
同様の図で、「対策」も理解できるだろう。  
2
上図と同じ順に:
  1. 体内にNa貯蔵が十分なうちは、水お茶ジュースを美味しく楽しく飲んでれば十分 (発汗初期のNa濃度の低さとも関係=後述)
  2. 脱水が進んでゆくと、上記2の結果、体内のNa貯蔵も枯渇へ向かうため、Na濃度が高いOS-1などにより、水とNaの同時補給が必要となる
  3. 低Na症なら、水を断つことで、体内Na比率を上げる
  4. 脱水と低Naが同時進行していると、その程度により、0.9%生理食塩水、さらには3%高濃度水(=て海水そのもの! )により治療される。それは病院で、かもしれないね
ここで、補給すべき水分のNa濃度は、発汗の進行と共に上昇する。汗のNa濃度は個人差・状況差が大きく、0.05-0.5%くらいの幅がある。発汗が進むほど「体内Na比率」が上昇し、それを下げるために「汗のNa比率」が高まる。それに見合った濃度の水を飲むべきだ:
  • 始めのうちは、ただの水や、ポカリスエットのNa濃度でも十分
  • 発汗が進むと、トータルでのNa損失も拡大し、0.3%の 「OS-1」などが美味しく感じるようになる。このとき多分ほぼ脱水手前レベルだ。身体は、必要とするものを美味しいと感じるものだ
  • 低Na発症後は、海水濃度の3%水が効くそうだ。切実に塩がいる状況で、母なる海水レベルまで先祖返りしちゃう
  • もっとヤバくなると、マジで先祖そのものになっちゃうかも
「熱中症」への対策はこれらとは別で、身体を覆い水を掛け、気化し続ければいい。 
以上、2つ前に書いた話のおさらいだ 。理解できてました?
 
なお、ここでの「塩」は、カリウム、マグネシウムなど微量ミネラルも含む概念と捉えてもいいだろう。つまり、水とミネラル群の話であり、ミネラル群の中で圧倒的に重要なのががナトリウム、という理解だ。
 
ここで1つ強調しておきたいのは、冒頭に書いた、今自分はどこにいるのか? ということ。
 
僕が2つ前に書いたのを表面的に受け取ると、「あんまり水は飲まなくてもいい」という短絡的結論をとりかねない。しかし実際トライアスロンは、身体の極限状態を長時間維持する危険なもの。計算通りにいかないことも多い。さらに、その計算そのものが間違っていることもある。医学の限界を僕らは受け容れるべきだが、特にこの分野は、競技自体の歴史も、参加人数も、また研究資金も、薄い。
だから、「・・・すれば十分」という発想は、実はとても危険なのだ。せめて、その選択によって新たな発生するリスクには、気をつけるべきだ。
LUMINA誌でも 「あまり水を飲まなくていい」というトーンで書かれていた。おそらく情報源は僕のと共通するアメリカの学会論文。僕自身もその方向でレースしているのは書いた通りだけど、僕らが本当に理解すべきは、
 
「飲み過ぎによる低Na症を避けることは大事。ただしそれは、上図の斜め左上に限った話で、下側に入っていけば別。そして塩と冷却も大事」
 
ということ。ややこしーよねー! でも真実は常に複雑なもの。だから僕のブログは、いつも長く、また難しくもなる。それだけの説明が必要だと思うからね。その理解の上に立って、よりシンプルな視点を持つ。その結論だけではダメ。
 
かくして僕らは、科学の成果は知りつつも、自分の体感を最後は信じるしかない。
それは、「自分だけの教科書」を、自分の身体に書き込んでゆくということだ。
 
少なくともこの件に関しては、LUMINAさんより僕、いや、「チームぼくたち」のほうが、よっぽど「使える」だろう。ぼくらチームの戦闘力の高さを、読者のみなさんは信じてもらって構わない、微笑。
とはいえ長いブログ、 夜おうちでゆっくりと、キリっと冷えた炭酸水にレモンでも混ぜて、あるいは麦の発酵液などと共に、楽しみくださいな。

2015年7月12日 (日)

真夏の耐久スポーツ2 〜対暑トレーニングは「100分以内」

前回ブログは、1日の閲覧数6千、訪問者4千超と記録更新。Facebookでは46ものシェア、Twitterでも、見えた範囲で自転車プロショプ2軒で紹介頂いた。その1つ、「サイクルショップ マティーノ」 ‏@bicidimattino ツイートを紹介:
 
 
旧来は… につき僕も同感w、まさに夏の長時間ライドには、そんな切実性がある。我ながら、知らぬなら損する話だと思う。とはいえ長文だしw、結論を改めてまとめると、
  1. 喉乾いてから飲め=新常識
  2. 塩摂れ=確認
  3. 水掛けろ=オマケ
のつもりで書いた。ただ、その逆の順で、より強くウケた感じ。実際はやくも劇的な効果を報告頂いている。
 
<暑さ対策トレーニングと、その方法について>
ちょうど今週末から一気に真夏化。でも秋にかけて長距離トライアスロンのレースは幾つも続き、練習しないわけにもいかない。難しい時期だ。
 
まず、欧米の理論に触れておく。220Triathlon (No.262)での記事を紹介:
 
耐暑トレーニングによって、血漿の量を多く保つ、素早く汗をかく、汗に含まれる塩分量を減らす、高パフォーマンスの持続時間を延ばすことができる。耐暑トレーニングは、体幹温度を繰り返し上げることであり、トレーニングかサウナが効果的である。トレーニングの場合、暑さの中での100分間の練習が最も効果的であり、これ以上長く練習しても効果がないことが知られている。10~14日間の耐暑トレーニングで成果が表れる。
 
(理論派トライアスリートとして名高いブログ「Training Guide for Triathlete in Nagoya, Japan」より引用)
 
この100分間という量は、以前、「30km走しなくても、ロングレースで勝てると思う」 で紹介した目安に一致する。(僕の示す情報は、こうした複数の情報源を総合した上での判断が多い。個々の根拠を示さないものでもね。「僕だったらこうする」という話)
 
とはいえ、アイアンマンレースに向けては、4-5時間のバイク実走もしておいた方がいい(=それが上記記事の限界であり、今後の改善点)。それは涼しいうちにしておき、その貯金(=貯体?)を100分間練習で維持する、という期分けで良いのではないだろうか。
 
以前から書いているように、暑さを我慢すること自体には、パフォーマンス向上効果はないと思っている。100分間ならば、「暑さを我慢しない範囲」で、「パフォーマンス向上」に集中することができるだろう。
 
それに、日本の真夏は、普通に生活しているだけで、十分に「体幹温度」は上がる。涼しい朝のうちに、普通に高負荷トレーニングをすれば十分だろう。上記記事は、あくまでも欧米の話だ。
 
僕の場合、真夏はUp&Dowmを除けば、60分以内だと思う。ランなら1-2km走でインターバル間に水道蛇口から冷却、Bikeも3km直線セットで間にボトル水かけ、とか。
 
脚や腕のカバーは、欧米では疲労回復と紫外線対策で使われるけど、日本では、水かけの保水材としても活用可能だと思う。アームクーラーはKONAで買ったSUGOIを使ってる。いちど転んで穴を空けたけどそのままで。
 
 
<付記:このブログは、「チームぼくたち」のものだ>
最後に一つ。もともとこのブログは、僕がレースで得られた経験を「なぜそうなったのか?」と考え、論じるものだ。実際そうして勝ってきたしね! ただ、続けるうちに、競技成績ではなくて(もしくは併せて)、この考え方への賛同者が増え続けている。これは、レースで勝つことと同じくらい嬉しい。いや、それ以上かな?
 
僕が一貫して書いているのは、「ロングレースで、ゴールまであと20分の最終エイド、水を飲むか、どれだけ飲むか」 という実践ありきの話だ。そして、読者は、その答を一緒に探る「チームぼくたち」がの仮想的メンバーでもある。しかも個々の仮想的メンバーのレベルは、現役プロ選手・アスリート医師・はたまた弁護士(笑)、とそーとー高い。これは、月をおうごとに加速する感のある変化。
 
なので、文脈無視で、教科書そのまんま的な断片的知識に基づいての攻撃コメントとかは、いまや毎日千人を超える読者さんが求めていないのみならず、僕一人ではない、暗闇の向こうの多数の強者を相手にすることとなりかねず、オススメできない。
 
・・・
いただいた質問にも触れておこう。(質問表現は事情により改変)
 
1.低NA症に関連した部分について、「その根拠は?」と問う質問につき
  • 「根拠を示すべき根拠」は? 言論において立証責任は反論する側にあるのは、前のコメントで書いた通り
  • 仮にあなたが地方国立大の理系学生だとして(たとえばの話ね、もしも社会人だと失うものが大き過ぎるしね)、大学では質問すれば先生が答えてくれるけど、それはアナタが「おカネを払うお客様」であるからだ。こんな社会の構造には、早く気付いたほうが将来のためだ。そしてそれを踏み越えた時のリスクについてもだ
2. 「Na濃度を一定に保つために、過剰な水を汗として排出する」点に関して、「世界の医学の常識と物理法則がいっきにひっくり返ります、腎臓の役割は?」との質問。文意不明につき、逆質問を3つと、オマケ情報を1つ:
  • 恒常性(ホメオスタシス)って中学生くらいで習いませんでした?
  • 腎臓があるこらこそ再吸収して一定に保とうとしませんか?
  • 細かいようだが、物理ではなく生理学というのが普通では?
  • ちなみに、Chapman&Mitchell1965によると、安静時の分あたりの心拍出量は5800mlでその時の腎血流は1100ml、一方最大運動時では25000mlに対して250mlという報告があるので、腎機能は期待できないと考えた方がよいです
3.「飲んでから吸収されるのに最低20分」への疑問につき
  • まず(耐久レースという文脈を無視した)一般論をいえば、福岡伸一先生が「飲水の吸収速度=体内の拡散速度」に関し書かれるような状況はある
  • しかし、本題である耐久レース、しかも最終盤では、極度の交感神経優位状態にあり、吸収速度が鈍ることが考えられる。のんびりリラックス状態で飲むビールが身体に染み透るのとは状況が全く別
  • しかも、ここで問題となるのは、「レース中に身体が必要とする水分量」を確保するのに必要な時間
  • 実際、スポーツドクターは、「経口で飲んだ水分が胃を通過して小腸に届くのに15〜20分かかる」と説明する
異論反論があれば、根拠をご自身で示しながら、もし可能であれば(せめて大学生レベルにふさわしい)マナーを以って、お気軽にコメントいただきたい。
 
実名で発信し、読者の支持を増やし続けている者より、微笑。

2015年7月 7日 (火)

夏の耐久スポーツ、水分補給と熱中症対策の「新常識」を知っているか?

要旨 〜 夏のスポーツの3ヵ条:
  1. まず水を身体にかけろ
  2. 水分を飲むのは、喉が渇いた後でいい
  3. 塩のバランスを保て
  • 〜塩バランスの3ヵ条:
    • 真夏の長時間なら、スポーツドリンクに塩を足せ
    • 塩分比率の低い水を飲み過ぎるな、「低ナトリウム血症」になるぞ?
    • 低ナトリウムになったら、水を断ち安静にして、水と塩のバランスを戻せ
 
<僕は暑さに強い>
今年の6月は湿気も低めで過ごしやすかったけど、月末の館山トライアスロン2015は最高30℃に近づき、総合上位レベルにも熱中症らしきトラブルなどあったようだ。急に気温の上がるタイミングでは、暑さ耐性ができていないためのトラブルが多い。30℃を超える高温でなくてもだ。
 
一般人には運動自体が危険な暑さの中、僕らは半日がかりでレースまでする。それは脱水や熱中症、そして「低ナトリウム血症」を予防するマネジメントでもある。その最新の対応法は、少し前に「常識」とされたものとは逆なものすら含んでいる。今回はこの問題を取り上げよう。
 
僕は暑さに強い。館山も僕にとっては涼しいレースだった。それは、即効性の高い対策を徹底しているから。即効性とは、暑さを我慢して耐性を高めることではなく、暑さによる悪影響を最小化するものだ。それは練習も同様。
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(撮影:Shimonoさんご夫妻@愛南2015)

<新常識>
最近、アスリート医師の先生方と繋がりができ、最新&良質なスポーツ医学情報が入るようになった。その1つ、2015年カリフォルニアでの学会の成果が日本語で紹介されている→ 「アスリートはのどが渇いたときだけ給水すべきであるという新ガイドライン」
 
「この低ナトリウム症は、水やスポーツドリンクの飲み過ぎによって引きおこされているようだという。この低ナトリウム症を予防するために、新しいガイドラインによれば、のどが渇くまで水分補給を控えるべきである」 (上記より引用)
 
元情報は海外の有力学会誌らしい "Clinical Journal of Sport Medicine" (臨床スポーツ医学雑誌?)最新号に掲載され、「運動誘導性低ナトリウム症に関連した第3回国際コンセンサス形成会議」とやらで合意された模様 → "Statement of the Third International Exercise-Associated Hyponatremia Consensus Development Conference, Carlsbad, California, 2015" 
 
ここから、暑さ対策の2つの結論が導かれる:
 
ルール1.喉が渇いた時にだけ飲め
ルール2.塩のバランスを保て 
 
その根拠:
  1. まず「脱水」については、健康状態の良いアスリートであれば、体重の約3%までであれば、水分量を失ってもパーフォーマンス低下なく、安全に競技可能
  2. よって、喉が渇いた時にだけ飲むようにすれば、「脱水」を起こすことはない
  3. 水は飲み過ぎると、EAH=「運動関連性低ナトリウム症」になってしまう
あまり知られていないのは、塩分比率の低い水分を飲み過ぎると「低ナトリウム血症」になるということ。そこまで行かなくとも、飲み過ぎは胃腸に負担をかけ、ブレーキかかったり、吐いたり、下ったり、、と問題が起きやすい。
そして、自動販売機で買えるような「スポーツドリンク」は、塩分比率の低い水分、に含まれる、少なくとも夏の耐久スポーツという環境下では。
 
これが最新の研究成果。ただし、より原始的な方法がその前にあり:
 
ルール0.水を身体にかけろ
  1. 「熱中症」の原因は、まずもって「熱の過剰」であり、水分摂取量ではない
  2. 汗による気化熱の冷却効果は有限かつ微力だが、外からの掛け水による気化熱の効果はほぼ無限
  3. 水を最大限にかけて体温を下げれば、発汗量が減って脱水予防になり、水分摂取量も減って胃腸に優しい
これが大前提だ。特に、蒸し暑い日本の真夏では。
つまり「水かけ」によって汗を減らし、飲むべき水分量も減らす。その上で、合理的な水分補給法が登場する。
 
 
<常識が覆される理由>
これは従来、喉が乾いていなくても早めに水を飲め、と言われていた常識の逆だ。
なぜこうなるのか? には、3つの理由をあげておく。
 
1.「運動習慣のない一般人」と「鍛えている耐久アスリート」とでは、症状も対応も大きく違う。しかし医学研究の主対象は圧倒的多数派である前者であり、またマスメディアにも前者向けの情報しか載らないのだ。そして僕らは後者であるのに、どうしても情報量の多い前者の影響を受ける。
 
2.そして、後者のスポーツに特化した研究であっても、研究体制の薄さ(市場規模は圧倒的に小さいから研究資金も同様に少ない)、研究サンプル数の少なさ、特殊過ぎる条件設定(=学者さんは尖った結論を出して認められないと仕事にもありつけない)、などなどの問題がある。
 
だから僕はスポーツ科学の知見は、「知っておくが、信じるのは自分の感覚」という態度を取る。知っておくことは大事だけど、その先は自分の感覚を信じるしかない。過去何度も書いている通りだ。 
 
3.業者さんの立場はまた別。「スポーツドリンクと称する商品」 をいっぱい買ってほしい。以下省略。
 
 
<低ナトリウム症について>
塩=Na(=ナトリウム)不足による失敗は、たとえば「長距離トライアスロンのバイク中に眠くなって総合表彰台圏内から転落したが、ランで塩を摂ったら復活しギリギリ完走できた事例」→ http://rumiokan.blog.fc2.com/blog-entry-1859.html など結構多いようだ。
 
ここで大事なのは水と塩の比率だ。体内のNa濃度は0.9%で一定に保たれている。汗のNa濃度は0.3%。(より正確には、0.05-0.5%の範囲で発汗と共に上昇し、大塚製薬「OS-1」の0.3%は、脱水手前レベルの汗濃度に合わせていると思われる。ただしこの文脈において重要なのは数字ではなく、体液より低いという比較だ)よって、
  • 発汗が続くと、1.血液中の水が先に抜けて、2.Na濃度が高まり、3.発汗が減り、4.熱中症へと近づいてゆく
  • だからといって水や塩分の薄いものばかり飲んでいると、1.こんどは逆に血中Na濃度が低くなって、2.痙攣や眠気などの神経系トラブルを招く。それが低ナトリウム血症。 3.さらにNa濃度を一定に保つために、過剰な水を汗として排出してしまい、脱水にも向かう
そこで、低ナトリウム血症が起きた場合には、基本の回復方法は水を断ち安静にして、水と塩のバランスを戻すことだ。塩が吸収されれば良いのだが、摂ってもすぐには、水と塩の体内バランスが回復しない。水を断てば排出は続くので、確実にバランス回復できる。(※脱水がない場合に限る=あれば、OS1のような適切な浸透圧での水分補給が必要)
 
2リットル分の汗が出た時、Na不足量は112mEq=食塩6.6g相当。酷暑では1時間に最高1リットルを失う場合があり、だとすれば8時間で26gの食塩が必要だ。実際の発汗量は何割が抑えられるとしても、レース時間が12hや15hなら、結局同じ。
そして、ナトリウムは体内の貯蔵量が少ないので、レース(or練習)中の補給が必要だ。ある医師アスリートさんは、その8割=20gの塩をレース中に補給しているそうだ。当然、スポーツドリンクだけでは無理。
 
一方で、トレーニングを積んだアスリートは、発汗に強くなる。おそらく、汗から排出されるミネラル分が減る、少ない発汗量でも体温調節できる(脂肪の薄さもあるかも)、といった変化が起きるのだろう。さらに、水を掛ければ発汗量自体も抑えることができる。
 
だから、自分のセンサーを一番に信じることが大事。ただ、科学を知っていれば、身体で何が起きているかを理解し、この先どうなるのかを予測することができる。
 
 
<塩&マグネシウムと、痙攣について
市販のスポーツドリンクは、「真夏の耐久レース」という用途を想定していない。しているはずがない、1億人に向けて広告宣伝費だけでたぶん1ブランド年間数十億円規模(たぶん)を費やすような国民的商品が、我々のような奇行種に目を向けるなどということが。だから、その商品の効能をそのまんま信じるわけにはいかない。
 
かといって、耐久レース専門のものくらいなら、自分でカスタマイズできると思っている。売上規模から商品開発費を推測すればそんな気がする。まあここは各自のお好みでどうぞ。笑
 
足などの攣りは、過度な負荷、過剰な熱産生、そして低ナトリウムが大きな原因だろう。脚筋に無駄なパルスを送るような使い方を避けること(=これがグルコーゲン節約にもつながる)、過熱したら水をかけて冷やすこと、そして、塩。
 
最近流行っているマグネシウムについては、基本としての塩が十分に足りていることが大前提。その上で摂れば、さらに痙攣防止効果などを上乗せできるだろうが、万能視するのは、違う。
その役割を理解した上でなら、天然の「にがり」(=つまりマグネシウム)でも、錠剤(=カルシウムと一緒に売られてる)でも、また専門サプリで摂ってもいいだろう。まあトータルで、美味しい天然塩でいいんじゃないのかな? 毎日使えるのが一番、クエン酸と同じく。
 
 
<僕の補給法>
僕は酷暑のレースが得意で、8月長良のように、裸足でコース上を歩けなくくらい暑い中でも、結構平気だ。
 
ショートレースでは、バイクにボトルは2〜3本積み、1時間で飲むのは最大1L、それ以上は吸収されないので無駄だ。残りは掛け水専門。最低一摘みの塩をポカリスエットに混ぜる。750mlボトルに1L分のポカリ粉末と塩、もう1本のボトルに水だけ、交互に飲んだりする。
上記の「体重3%」ルールによれば、1.8kgちょっとまでは水分を失ってもパフォーマンスは落ちないと計算できる。
 
実際、レース後に2L 近く飲んで、ようやく水分回復した感じになることは、夏には結構ある。たぶんこの時体重を測ると、スタート時より2kg落ちていると思う。つまり上限ギリギリまで「貯金の取り崩し」をしている(てゆうか貯水)。どこまで取り崩していいか、そのギリギリ感を見極めるのが、「体感」だ。
 
これだけ減るのには、ランの最後30分間は基本水を飲まないのも作用していいる。飲んでから吸収されるのに最低20分かかり(微量の吸収は除き=それでは効果ないので)、糖分などの濃度次第でさらに時間がかかる。だから飲んでも無駄。その分、ゴール後には、少し脱水方向に振れるので、しっかり補給する。
 
ここでの判断基準は、「胃に残ってる水分が30分もつか」、だ。バイクパートで飲んだものがランパート途中で枯渇しそうだと感じたら、ランのはじめのうちに飲んでおく。
また同様に、「1時間1Lルール」を拡大して、ラン中に吸収させる目的で、バイクの最後に数百ml分を余計に胃に入れておくこともある。この場合にはラン中にほぼ水は飲まない。
 
このように吸収時間を考慮した補給は、基本常識だけど、けっこう無視している方を見かける気がする。さらに、熱中症や低血糖への不安から飲み過ぎ食べ過ぎで失敗する例は結構おおい気もする。

追記: 脱水状態でのパフォーマンス低下を報告する研究成果 はあるので、「程度」「耐性」などが複雑に絡んだ結果だということだろう。実際どうやっても1-2kgくらいの水は抜けるはずだし  (2016.07)

 
むしろ大事なのは、水を身体に最大限かけ続けて気化熱を最大利用すること。発汗量が減れば、飲むべき量も減る。アタリマエの理屈だ。
 
さらに、腕や脚を覆うことで、保水できるので、さらに効果が上がる。僕がふくらはぎをCEPで覆い、アームカバーもすることが多いのも、その目的が大きい。
 
もちろんこれらは、練習でも同様。いつでも水を確保できる場所を選ぶ。僕はランでは日陰の多い公園の周回路が基本で、暑い日は頭に水を流しながら。アスファルトは基本走らない。
 
これらの話は、Facebookでは先週あげて、複数のアスリート医師の皆様からの知見も頂いた上で書いている。後日、 実際、トラブルの原因がわかった! という声も頂いた。同年代の2名での暑中長距離ランで、一方だけが熱中症でやられたのは、途中で自販機でジュース飲み過ぎたから、、という身を削った比較実験によって検証いただいたのであった。。
 

2015年7月 1日 (水)

「質重視のスイム練習」とは何か 〜そして水中撮影会はソウル五輪5位の三浦広司さん監修!

最後(仮)のJTUランキングレース、年代1位表彰で締めることができて嬉しい。バイクちゃんと走れば総合3位シャンパンファイトに食い込めるレースでもあったけど、もうお腹いっぱいだ。詳細はのちほど〜

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写真:女子総合優勝サノさん友人より

< 体験者の声 >
さて、2つ前に書いた練習会はなかなかに好評で、ブログだけでも

「スイム再入門 スキルアップ練習会」  (ブルゴーニュの走り書き)

バリエーション豊富で一本毎にコーチからテーマを与えられ、泳ぎ終わりにフィードバック貰える贅沢なレッスン。掻き方と入力位置を補正するだけでスピードが上がるし、掻き始めが早い、サイドキックがペースアップの鍵とかたくさんの知見を頂きました。
最小の費用で時間をショートカット出来るし、トップスイマーでもコーチを招く訳ですから、我々平均レベルのアスリートもスイムは習う価値あります。

「八田さんスイム練習会効果」  (青い空と海と地平線をどこまでもーlife is wonderful)

上半身をとにかく前へ前へと運ぶイメージで、キックも脚全体と膝から下を組み合せて使う意識で。すると・・・50mを55秒ぐらいで泳げてビックリ。体のブレも少なくわりと安定して泳げた。いままでは頑張っても60秒ぐらいだった。
まだまだ遅いけど、泳ぎ方の改善で単純にスピードアップが実感できたのは大きな収穫。
脳が活性化するとは、脳をマンネリや思考停止状態から解き放つということ。八田さんスイムに参加して、僕が低めの限界を設定して逃げて来た脳が新たな刺激を受けたのかもしれない。
こんなに気持ちよく泳げたのは初めて。
 
などなど好評。やってよかった〜
 
< 質重視のスイム練習とは >
前回やったのをまとめると、「前後左右の体重移動」だ。それをドリル系スイムでみっちりと。距離はカウントしていないけど、まあ数百mだろう。
 
技術レベルでの進化があって、始めて距離や心拍ゾーンに意味が出てくる。大事なことだと思っているので、逆方向からも書こう。練習の距離や心拍強度を幾ら上げても、今のレベルを超えることはできない。
 
これは水泳に限らないが、水泳ほど、「練習距離の意味が薄い種目」はないと思う。(練習「頻度」には意味があるのは、以前から書いている通り)
 
トライアスリートの(そして耐久系アスリートの)実力差とは、こうして生まれ、拡がるものだと思っている。
 
それを実現するのが 「質重視」のトレーニング。
距離ではなく、高い心拍数でもなく、良質な動作を追求する。
そのための仕組みを、どう用意するか。
 
上記の感想にあるように、人の脳は、何の仕組み/仕掛けも無い状態では、それぞれの限界の範囲内でしか処理をしない。運動もその1つだ。(※ただし子供と天才を除く ・・・子供はみな天才と言っておけば一言で済むか)
 
ここに、質重視の練習会の意味がある。
 
< 水中撮影会 >
とうわけで、概要決定。
 
監修はなんと三浦広司さん。ソウル五輪メドレーリレー5位(当時メンバーは鈴木大地&緒方茂生選手ら、超豪華!)、元日本記録ホルダー、バタフライの名選手にして個人メドレーも得意とし、理論にも通じた贅沢すぎるコーチです。(はっきりいって今のうちだと思う!)
 
三浦コーチ監修によるプール全面貸切での子供向け合宿があり(ご本人もいます!)、そこに1コースほど間借りする形で、1コマ2時間程度での、練習+水中撮影会を実施します。ウェットスーツ利用可能。ありなし両方撮れると思います。
 
日程予定)
7月4日〜5日
7月11日〜12日
8月24日~29日
 
今週末は、以下の時間帯に、各数名募集します。
7月4日)16:00~19:00
7月5日)11:00〜13:30
(時間帯は目安です。土曜9〜19時、日曜7〜13時半までの間なら、お気軽にご相談を)
(私はどちらも不参加、11−12いずれか参加予定)
 
会場) 桐花園 神奈川県相模原市緑区佐野川1822
料金) 5,000円
持ち物) SDカード、もしくはミニSDカードをお持ちください(無い方は要相談)
関心あるかた、メールアドレス記載でコメント、もしくは、Facebbookからメッセージください。
7/8代々木練習会もあと少し空きあります。
 

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『覚醒せよ、わが身体。〜トライアスリートのエスノグラフィー』

  • 初著作 2017年9月発売

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