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2015年7月28日 (火)

「暑さの中がんばったバイク錬で平均速度あがった! という勘違い」を説明しよう

「気温が20℃上がると、空気密度が7%減少し、6%のスピード向上効果」という研究成果を発見。

出典) Triathlete Magazineのネット記事Can Heat Acclimation Help Race Performance? から芋づる検索で発見した英語論文→”Effect of Heat and Heat Acclimatization on Cycling Time Trial Performance and Pacing” (Medicine and Science in Sports and Exercise,2015)

「自転車選手が暑さに慣れるのには1-2週間でOKです」という結論を導くことを目的とした論文だが、その過程で指摘されるのが、この「暑さで速くなる現象」だ。これ、真夏の日本でのバイク練習にちょうどいい情報だと思い、少し考えてみた。

実験対象は43kmのTT(=タイムトライアル、つまり独走)で、出力の90%が空気抵抗に費やされる、という条件。これは時速50kmhあたりかな。このスピード域で6%=時速3kmh上がるとすれば凄いこと。ドーピングしても厳しいのでは? もしかして昨今のトップレースの高速化は地球温暖化のせい?というのは悪い冗談ですゴメンナサイ m(_ _)m

多くの方が長距離バイク錬での目標としているっぽい「平均時速30km」域だと、どれくらい影響があるのかな?

<計算の過程 〜は文末参照>

プロの計算屋さんからの情報によると、理論上、東京の1月と8月とを比較すると、速度域がどうであれ、4%の速度向上効果があるらしい。

<考察>

ならば本来は、上記実験も4%アップに留まるはず。ではなぜ実走で6%アップなのか? 

実走なので計測値には誤差が大きめに出るだろうけど、ここでは正しいと仮定しておく。すると考えられるのは、実走では暑いほど薄着になるために、服の空気抵抗が下がる、ということ。同研究の目的は、あくまでも耐暑順化なので、このあたりの厳密性は問われていないだろう。
 
そこで、「他の条件が同じならば気温上昇により4%アップ、さらに薄着になってれば更に2%の速度アップ効果」と考えられるのではないかな。
 
実際、標高と気圧の関係で考えると、空気密度の7%低下とは、標高600mくらいな状態だろうか。僕の実感としても、標高400m前後でも40kmh巡航すれば、空気抵抗の低さを肌で感じることができる。
 
<ケーススタディ>

  • 練習データ: 気温18℃での平均時速29kmのコースで、38℃で頑張って30.5km!
  • 本人感想: 「暑い中でがんばって練習してキツかった、意外と速かった、よくがんばったジブン!」  
  • 真実: 暑さの中を無理して、練習の質を落としただけ (解説: 気温効果で4%、さらに薄着効果で2%以上、計6%=1.8kmh以上、速くなってるべき計算なので)

ということが、起こりうる。というか実際、暑さが本格化した2週ほど前あたりから、そんなようなFacebook投稿をちらちら目にしてるような気がする。

この知識 〜練習用ウェアの空力差も考慮して、1割くらい速度を上げて始めて対等なトレーニング効果となるであろうこと〜 が無いと、「やったつもりの練習」を暑さの中、それとは気付かずに、してしまうおそれがある。心当たりがないと良いのだが。

<練習したらダメ。>

前も書いた通り、(また上記の英語論文でも説明される通り)、暑さ対応には、長時間の練習は必要ない。暑さに耐えた長時間練習で達成感が得られたとしても、それはレースでの成功に向けられた努力ではない。その達成感(のような気がするもの)と引き換えに、内蔵ダメージなどのマイナスのトレーニング効果を蓄積しているかもしれない。

参考:「練習したらダメ。」2013年8月10日 小笠原さん

実際、8月下旬のアイアンマン洞爺に出ると、10月中旬のKONAでは実力を発揮できないことが多いと思う。(その例外を僕は知らない)

レース結果を決めるのは、練習の「濃さ」だ。暑さは薄める要素であり、それを避けられない日本の夏では、薄めないための工夫がレース結果に大きく影響する。

このあたりの基本は、まずは山崎敏正さんに学ぶといい→僕はロードバイクのりはじめた頃から彼のコラムは熟読して、正しく初期設定することができた。

それから僕は過去、9-10月の勝負レースは軒並み大成功させている。

 

<付録>
回答A: プロの理系さんに計算いただきました
東京の平均値(2014年)は
1月  1013.4hPa  6.3℃  空気密度:1.2618
8月  1005.7hPa  27.7℃  空気密度:1.1648
FA(空気抵抗)=CA(空気抵抗係数)×A(前面投射面積)×ρ(空気密度)×Vb*2×1/2  (*2は2乗)
空気密度と速度以外が一定とし無視すると
Vb(8)*2=ρ(1)×Vb(1)*2/ρ(8)=1.08327×Vb(1)*2
Vb(8)=1.0408×Vb(1)
結論: 理論上は速度域に限らず4%の速度向上

ハッタリくんの答案・・・ 文系人間の限界デアル

時速30kmhで空気抵抗は全出力の79% というデータをIT技術者氏が出してるが、トラックレーサーで、タイヤも最高圧にあげれて路面抵抗が最低になる状況なので、空気抵抗比率が高過ぎる。「必要動力計算器」というサイトでてきとーな数字を入れてみると、68%と出た。ま7割てとこか。
「温度による流体の抵抗変化」の速度に対する影響は、競技ボート(手漕ぎ)の水との関係 では、直線的だ→ 11694080_10204593742299193_75537443

そこで、「空気抵抗の寄与度」は30kmhでは7割、上記研究の状況では9割、つまり23%分だけ影響が落ちる。よって同研究での「6%のスピード向上効果」は23%差し引かれ、30kmhの4.7%=1.4kmh相当、と計算できる。 

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