アイアンマン主催団体WTC、売却or株式公開で投資利益500億円超? (ピケティ先生も納得!?)
ロイターの2015/2/24付スクープ記事によれば、 「アイアンマン」シリーズを統括するWTC(World Triathlon Corp)は、現在、売却もしくは株式公開を極秘に検討中だと。
驚くべきはWTCの財務状況だ。年間営業利益$50million=60億円以上。株式公開すれば推定時価総額は最低600億円以上となるらしい。これはワタミとかより高い。そんな金額でも、買いたい会社/ファンドなどは普通にいる感じらしい。
そんな経緯を、ちょっと纏めてみた。
〈トライアスロンの経営史〉
- 1978年: ハワイで軍人John Collins氏が企画し、15名が参加した超マイナーな変わり者の競技会が、第一回アイアンマンだ。それがトライアスロンという競技の「実質的な原型」を作った。その前にサンディエゴでも行われていたが、それだけでは明らかに今こうなってはいない
- 1989年: その主催の権利をトライアスリートのお医者さんらしいJohn Gills 氏が買い取る
- 2008年: 「Providence Equity」というファンドがGills氏から推定5,000〜8,000万ドル程度で買収。このファンドは現在総資産40億ドルの有力ファンド(2008年のリーマンショック前は200億ドル以上?)で、TV局、ワーナー・ミュージック、ボクシング会場のMGMとかを所有→ http://en.wikipedia.org/wiki/Providence_Equity_Partners
- 2014年: 2億4,000万ドルを借り入れ、うち2億2,000万ドル=264億円を株主配当に回す
(データ等は、http://triathlon.competitor.com/2015/03/news/ironman-sale_112925 記事のリンクより)
〈トライアスロンで大儲け!〉
つまり、Gills氏は20年かけて「アイアンマン」ブランドを育てることにより、60〜100億円ほどを手にした。
そして現オーナーのProvidence Equityは、7年間でおよそ10倍の価値(600億円以上)に育てた。そして既に差し引きで1億4,000〜7,000万ドルの利益を手にし(=投資額の3-4倍の利益)、残りの6-7倍相当の儲けを、現在、狙っている最中。
WTCの借入金でファンドへの配当を出した時点で、ファンド側は「既に儲け終わっている」。その帳尻合わせ=借入返済のために売却、というところが、さすがのアメリカンビジネス。
もちろん、こんな話は秘密で、誰かが守秘義務を破ってリークしているんだろう。気持ちはわかる、笑。さすがにアメリカ人にとっても、やり過ぎじゃね? てとこかな。
〈正当な権利?〉
彼らの利益は、市場全体の成長に対する貢献に対する、当然の利益という見方もできるわけだが。Gills氏在任の1989-2008年は、おそらくトライアスロン界が急成長した時期。総本山の価値も上がるのは自然なこと。
すると、「Gills氏が権利を(おそらく創成期のメンバーから)獲得した」という一点が、ものすごい転換点であったわけだ。これにより、本質的な創業者であるはずのJohn Collins氏に数十億円が行くことはなくなった。ただ、Gillsの経営努力によりアイアンマン市場がここまで成長し、それを追いかけてオリンピック市場も生まれ、、、ということへの正当な権利という面もあるだろう。
それにしても、今のファンドの利益、美味しいところを徹底的にさらった感がある。
〈結局「資本」が強い〉
そんなトライアスロン市場の拡大の中で、プロ選手も含め、いろいろ儲ける人達が出てくる。その中で最も儲かるのは、「中核の会社の資本を握っている人」なのだ。まさにピケティ先生が説く通り。
そもそも資本主義とは、ビジネス活動における意思決定を「資本」=株にさせる、という仕組みだ。投票により意思決定する仕組みを「民主主義」と呼ぶのと同じくに。
株主=資本家は、儲けをどう配分するかの決定権も持つので、そのポジションが一番儲かる。もちろん損したら損をかぶる役割でもあるわけだが、しかし、経済全体が成長している時、平均として富がまっさきに回るのは株主。一方で、経済が停滞してしまうと、世の中全体がヤバくなってしまうので、マトモな政府ならなんとしてを阻止する。いわゆるアベノミクス(というか黒田総裁ノミクスかな)もそうだ。
つまり、どちらのシナリオに転んでも、資本家は先に儲かるポジションを占める。例外は、革命や大戦争くらいだ。
そしてお金はすぐに移動できるから、衰退産業の株を売って成長産業を買う、ということが瞬時に出来る。一方で、衰退産業で働く人は、そうそう転職できないよねー。この点でも資本は労働よりも強い立場にある。高偏差値大学の学生が金融業界に行きたがる大きな理由は、その前者の側に回りたいからだろう。
〈ほどほどに儲かる大会運営を〉
こうゆうことを書くと、「だから金儲けはいかん」的に流れる向きもありそうだけど、僕はそこには賛成しない。金儲け要素が、日本には足りなすぎる、と思っている。
「スポーツ大会だから儲けなくていい/儲けちゃいけない」という発想が、ボランティア動員と補助金頼りの大会運営につながり、結局枯れていくよりは、収益を確実に上げることで持続可能なものとした方が、スポーツ文化は育つから。
とはいえ日本では安心安全を追求し過ぎる文化もあり、コスト高となりがちだ。とりわけ長距離になるほど、警備コストは響く。
白戸さんは明言を避けたが、昨年のアイアンマン・ジャパン、イベントとしては経費が嵩みすぎ莫大な赤字を計上したと噂に聞く (THE BIKE JOURNAL 2014.3.30)
なんて話もある。
一方で、アイアンマンの本部WTCは年間180レースを主催するそうなので、1大会あたり3,000万円ほど儲け続けてる計算だ。KONA予選レースはたしか年10万人以上参加(それ以外のレースも多いが)、それで割ると1人あたり5万円相当か。ここでもやはり、「資本(WTC)は労働(白戸さん)よりも強い」のか。。
とはいえ、時代の流れは、こうゆうビジネスを必要としているのは確か。
なぜなら、「感動」はライブに「参加」しなければ得られないから。
ロイター記事にも
"Live events and sports brands are some of the most attractive and fast-growing areas of the media industry."
とあるように、ネット社会が進むほど、人は「ライブ」へと引き寄せられてゆくもの。ネットは課金が難しいけれど、ライブにかかるコストなら、「参加者の感動」に見合うだけの利益を乗せて、回収することができる。プラチナ・チケットを獲得して福山雅治のライブを見るよりも、あるいはゴルフでベストスコアを出すよりも、確かな感動が、そこにはあるはずだ。
WTCまわりのビッグ・マネーは、あのレベルの人気大会を育てればカネになるぞ(ただし資本を握っている限り)、という資本主義からのメッセージでもある。
なんでもいいから、日本のレース文化と産業が、育ってゆくことを祈る。
・・・おしらせ・・・
「クエン酸」を運動30~60分前に体重あたり0.05g摂取することで、持久力を向上させる可能性がある。
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