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2015年1月23日 (金)

世界Top20でも収入はJリーガー平均? プロ・トライアスリートは「商才」勝負

世界の長距離トライアスロン(ハーフ113km〜フル226km)プロ選手の収入について、自らプロであるJesse Thomas選手が書いている→ Things To Know Before Turning Pro
 
トライアスロンは、野球サッカーテニスのような一般人がお金を払う興行スポーツではないという点で、少なくともビジネス的にはマイナー競技だ。そんな市場を職業とするのは、"I’m living my dream" と心から思える素晴らしいものである一方で、おカネ的には、なかなかに「商才」を要するキャリア選択だと思った。 
 
※念のため、商才、て言葉にマイナスイメージある方いるかもしれないけど、お金を動かす=人の心を動かすということ。僕は100%肯定で使ってます。
 
<世界のトライアスリートの収入>
記事によると、男子Top100レベルでのプロとしての収入(スポンサー・賞金など)推定値は
  • 1‐20  $200,000以上  (ごく少数のトップなら、もっと多いかな)
  • 21-40 $100,000–$200,000
  • 41-70 $50,000–$100,000
  • 70-100 要バイト
あくまでもJesse選手の個人的感覚だけれど、選手ともスポンサーとも通じたインサイダーだから、「実感」レベルであたってるだろう。
 
20万ドルとは、日本のトライアスロン界からすれば多いのかもしれないが、日本のJリーガー数百名の「平均」年俸程度だ。「世界のトップ20」でね。上位70人レベルなら5万ドルを超え、ぎりぎりプロ活動だけで生活出来るが、それ以下のプロ登録選手の方が圧倒的に多く、また日本人選手はこのレベルに入れていない。
 
しかも旅費だけで2.5万ドル(Jesse選手実績値)かかったりするのがプロ活動で、コーチ、身体メンテ、などなどの諸経費もそこから賄わねばならないから、実収入はより低い。この点、日本の実業団では諸経費は会社が出してくれるわけで、(手取り額が低くとも)相当に恵まれているといえる。まして引退後に社員として残れるところなら圧倒的に。
 
賞金の比率が低いのも特徴。
Jesse選手の2014年実績では、ケガの影響で年後半からが中心だが、
1位  Wildflower Long Course: $5,000
1位  Ironman 70.3 Mont-Tremblant: $3,000
2位  Ironman 70.3 Princeton: $2,000
3位  Ironman 70.3 Buffalo Springs: $1,000
4位  NYC Triathlon: $750
6位  Ironman 70.3 Vineman: $1,500
12位 Ironman 70.3 World Championship: $0
Total: $13,250 (税抜き前)
 
計150万円では子供のオムツも買えません。

※USAトライアスロン協会による賞金ランキング

https://www.teamusa.org/USA-Triathlon/Elite/Prize-Money-Leaders

ITUは提供賞金が多く、選手もランキング上位に来るが、Topでジョーゲンセン級の20万ドルほど(まさに上限で栓)。上田藍選手が$86,258で14位/女子6位だ。2016年男子20位で4万ドルなので、このレベルで、スポンサー等々の収入が20万ドルほどある計算だ。

WTC=アイアンマン系列は低めで、KONA上位での一発勝負。選手は自分で勝手にスポンサーつけてね、というアメリカンな仕組み(で高収益を実現) 

 
 
<スポンサーについて>
つまり、スポンサー獲得がプロ活動の(そして子供にオムツを買ってあげるための)生命線となる。速けれりゃいいってもんではないのだ。企業にカネを出させる「法人営業力」(いわゆるB2B)が必要なのだ。
 
スポンサーがカネを出す理由は明白、それ以上に儲かるからだ。だから、スポンサー獲得後にはその商品の「営業マン」に変身することになり、次には「個人向け営業力」(いはゆるB2C)の勝負となる。
トップレベルの競技成績なら、それが最大の営業力となり、スポンサー獲得も、売上貢献も、楽にはなるだろう。でもそれが出来る選手数は限られるし、そうでなくとも商品を売る力のある選手も、結構いるよね。
 
女子選手の場合、賞金こそ法的な理由により男子と同じだが(ITUなども競技規則として定めているはず)、スポンサーがつきにくいので、収入レベルはより低い。
女子へのスポンサーは儲からない、ということだ。おそらく、選手人口として女子の方が少ない=競技関連商品の市場サイズが小さいこともあるし、プロ選手の数が少ないから競技レベル自体が低いとみなされ、「女子5位より男子10位のが格上」的な認識がされてるのかもしれない。
ここは僕も推測で、本当の事情はスポンサー企業が知っていること。彼らが儲かった一部がプロ選手に回るのだから。
 
なおこの記事では、スポンサー獲得の方法までは書いていない。ある程度は向こうから持ち込まれるだろうけど、それだけで十分な支援を賄えてる選手は少数の上位選手に限られるのではないかな。このあたりJesse選手に質問メール投げてもおもしろいかも。
 
ここまではもっぱら記事の解説。どこから僕の私見かは、元の英文記事でご確認。以下、考えを進めてみよう。
1394807_10202197925368623_259209488(KONA'13往路急坂暴走ノ図by純田柴)
 
<競技力「だけ」で勝負できる世界は限られている>
「強ければいい」とは、多くのエリート選手が陥りがちな心理だろう。
しかし、それが通用するのは、興行としてのビジネスモデルが確立している分野(野球・サッカー・ゴルフ・テニス・競輪くらい?)、そして実業団チームが充実した分野(長距離走・ラグビー・バレーなど)に限られる。
 
ただし、国民的な知名度のある選手なら、どれだけ選手人口が少なくとも、一般企業がスポンサーにつく可能性がある(たとえばフィギュアスケート)。
 
その意味で、「オリンピック枠」ならば安定している。その枠を現実に争えているレベルならば、一般企業が支援してくれる可能性が高い。
これは日本人のオリンピック・ブランド信仰心の高さと、日本経済の総量の大きさとの掛け算によって成立している。
この場合、必ずしもその商品が売れる必要はなく、ただ本人がオリンピックに出れさえすれば良い。たとえば社員だけで数万人以上いるような大企業にとっては、我が社はオリンピアンを支援する立派な会社です、と関係者に宣言できるだけで十分なメリットがあるからだ。
 
トライアスロンでは、出場枠は男2+女3てとこ。その2〜3倍くらいはプロ枠があるだろう。具体的なレベルは、代表チーム強化を担当する中山俊行さんが、

蒲郡、大阪、村上・・・ まずはここで3位以内に入ることは必須条件だ。

と明言されている。まさに限られた枠だ。
 
(なお、オリンピックのトライアスロンは51.5kmの短距離タイプのみ、ルールも違うので、長距離トライアスリートには無関係)
 
<マイナー競技では、その小さな競技関連市場の中から、支援を得ねばならない>
アイアンマンは、競技自体は知られてるけど、中身までは日本人は(たぶん欧米でも)全然知らない。そうゆう分野では、スポンサー料とは最終的には、「その競技の愛好者」が支払う中からの分け前となる。それでも、世界トップ選手なら「世界のトライアスロン市場の全体」から分け前を得ることができるが、日本トップ選手くらいだと、分母は国内トライアスロン市場に限られる。たとえ最高の日本王者であったとしてもだ。現実的にコーチなどプロ活動以外の収入を得る必要があるだろう。
逆にいえば、はじめからコーチとして活動する目的で、そのブランディングとして、プロ活動をする、というキャリア戦略があるような場合には、現実的な手法だろう。
 
<アメリカの場合>
アメリカ在住の友人の話では、エイジ選手のパーソナルコーチをして収入を得るプロは多いそうだ。
エイジ選手の事情はというと、アイアンマンのようなお金と時間を食う分野には、管理職以上が多い。成果主義が徹底しているので、仕事できている限り、時間を工面しながら十分な収入を得ることができる。KONA出場者の平均年収が15万ドルくらいという情報があるくらいだ。
一方で平社員レベルでは、有休も、収入も、限られる。そこで近場のローカルレースを選ぶ。その受け皿となるレースの数は多く、参加費も安い。
両者あわせて市場は大きいから、プロ選手(兼コーチ)の広い裾野が形成される。銀行のような一般企業も大会スポンサーになるメリットが生まれ、大会も安く多く開催できて、市場を支える。
 
<商才>
ちなみに記事を書いたJesse選手は栄養バー(=カロリーメイトのブロックみたいなの)の製造販売会社を経営して売上を伸ばしてるようだ。売上規模は不明だが。これは上記の「競技愛好者の市場」を開拓してるわけだ。
 
なんらかのビジネスと関連付けすることのできる商才が重要なのだ。
 
スノボなどマイナースポーツでは、実家の家業と結びつけながら支援を得て、競技環境を作ってる冬季五輪メダリストが複数いたと思う。観光飲食のような人気&イメージ商売なら相乗効果がありうる。このように「スポンサーは自分」と出来るのが、最も強い立場だろう。
あるいは、ゆるキャラやアイドル同様に、地域密着型「ご当地アスリート」として活動し、地元企業からの支援を受けるという手もある。広島とか山梨とか。
「自分が圧倒的No1になれるようなターゲット市場を絞り込む」のは、起業における基本の一つだ。
 
結論1: マイナー競技でのプロ生活の条件とは、トップレベルの才能、もしくは商才。
 
かといって、野球やサッカーでも、一生それでいけるのは本当に少数だ。引退後のセカンドキャリアでは、結局なんらかの商才(もしくはキャリア戦略)が必要となる。だから本来は野球エリートでも、プロになる前からその意識は必要なのだが、多くは野球漬けのままなって、壁=契約打ち切りを前にして焦る。プロに転向する前からその意識を持たざるを得ないマイナー競技には、早くからそれを意識でき、タフに生きてゆける強みがある、とさえ言えるかもしれない。
 
結論2: プロを目指すのなら、ビジネスを理解せねばならない。
法人営業・消費者マーケティング・キャリアデザインにより、プロ選手の人生全体が決まる。
 
結論3: それでも、"I’m living my dream" と心から思えるのなら、そんなに素晴らしいことは無い。
 
最後のは説明不要だよね。さて、この話には、「プロとアマの差」という続きがある。長くなったので、また次回にでも。

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