カテゴリー「'13 Kona 〜アイアンマン世界選手権」の25件の記事

2016年10月29日 (土)

KONA'16、稲田弘さん225km地点動画にみるランニング技術

稲田弘さん、去年6秒差で逃したアイアンマン世界選手権での最高齢完走 を、今年ついに果たされた。レース当時83歳10ヵ月。(大会では年末カウントのため84歳扱い=だから去年記事は83歳と表記しているが、最高齢記録では誕生日基準なので。1932年11月19日大阪生まれ、和歌山の熊野古道沿いの田辺市育ちの、元NHK記者さん。

ライフヒストリーはこちら日経系の記事 「「人生に限界はない」 御年84歳のトライアスリート、世界の歓声を浴びてゴール  参照)

アイアンマン226kmを完走するだけでも凄いことで、それを今年の予選で実現されたから出場されたわけだ。

70歳でトライアスロンを始めた稲田さん、所属チームは「稲毛インター」で、オリンピック女子代表にして2016世界ランキング年間3位の上田藍選手、リオ出場を果たした加藤友里恵選手などいるのだが、彼らと同じ量のトレーニングをこなすことが、たしか、週1くらいであると聞いたような。(正確には山本淳一コーチにお聞きください)
 
その時点で、既にすごい。

だから、予選突破した(=完走した)とか、あるいは藍選手と同量の練習を終えたとか、それだけで大騒ぎされてもよいようなものだが笑、それくらい当然、みたいな雰囲気もあり。やはりトライアスロン界において、ハワイ島KONA世界選手権での達成には、 特別な意味がある。

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こちらネット動画でゴールの瞬間を画面キャプチャーに成功した。僕は通過速報からペース計算して、現地応援からのリアルタイムコメントももとに、完走できるかFacebook実況をしていて、ゴールに入ってくる数秒間のタイミングも逃すことはなかった。ただ、予想した範囲中で最も速いペースで入ってきたので焦った!
 
現地情報源のおひとり、淳一コーチがゴール1.6km手前で撮影したのが、この動画。ここまでの225kmを16時間半にわたり、自らの力のみで移動してきた83歳の走りだ。
ペースは、1km10分、健康な現役世代なら速歩きペースではある。しかし、実質4kmの海を泳ぎ、180kmの暴風&獲得標高1000mくらいの自転車を走った後の、フルマラソンだ。それを、83歳の身体で。
 
ランニングフォームとして見ると、そこかしこでみかける脚筋と体力に依存した走りとは全く技術レベルが違う。
 
肩甲骨の柔らかで大きな動きに、僕は注目した。これにより骨盤も大きく動き、この年齢にありえない脚の耐久的な動きを生んでいる。見事な全身の連動性。それにより、上体の重さを「振り子」として推進力に転換させている。あるいは、「きちんと歩く」という平凡な技術を、超非凡なレベルにまで完成させている。単なる「とても元気な83歳」ではない。
 
そして最後、花道からゴールゲートまでがこちら動画。加速しているのが凄い。世のほとんどの83歳は、100mだけでも、これだけ走れないだろう。
この盛り上がりが、アイアンマン世界選手権KONAだ。この9時間ほど前にその年の世界王者が決定した同じ場が、この近さで誰にでも開かれている。その日の終り、人は何歳までこの道を走りきることができるのかを決めて終わる。応援者に加えて、自ら走りきった選手もシャワー浴びて着替えた後で見に来たりして、狭い場所にすごい人が集まる。
 
ついでにすごいのが、この人垣の中をかきわけながら最後まで撮りきる淳一コーチの運動能力! しかも普通のi-Phoneなのに手ブレ少ない! さすが元全日本チャンピオン!
 
 
<いつかは稲田さん、という希望について>
こうした活躍は、戦前生まれ世代ならではの芯から強靭な心身と、健全な生活習慣ならでは、という気がする。
 
市民トライアスリートには、「私も80歳まで続けて稲田さんのように・・・」といった希望があったりする。それは「80歳でもアイアンマンを『完走』できるような健康を維持したい」という目標なら現実的だし、素晴らしいことだ。ただ、「予選を通ってKONAに出場し、あわよくば優勝」という願望であるなら、それはファンタジーのまま終わるだろう。
 
今年の男子50−54歳カテゴリの優勝記録は9時間18分。デンマークのBENT ANDERSENだ。30年後、彼が出場したとして、どれだけの速さで完走することだろうか。あるいは、彼を目標にレベルを上げてゆく同レベルの選手なら、どうだろうか。
 
稲田さんが世界一なのは、1932年生まれ、という世代でのこと。自分の世代での「競争的な達成」〜たとえばKONA出場や表彰台〜を目指すのなら、何十年と待たず、今できることをがんばったほうがいいだろう。
それとも、自分のしたいことは「自分自身に対する達成」〜たとえば83歳になってどこかの長距離大会での完走を目指すこと〜なのかを考えてみてもいいかもしれない。
 
 
<社会的認知>
ちなみに、ここまでの報じられ方を時系列で並べてみた:
と来ている。やはり、大手のウェブメディアに載り、さらにYahoo!のランキングに入ると、この人なんだ?すごい!と関心を呼び、検索とかブログアクセス数にも表れる。
 
とはいえ、それでも僕の記事アクセス数とそう変わらないレベルでもあり、まだまだかな、という気もする。
 
難易度からすれば、80歳で(酸素ボンベとかいろいろ使っての)エベレスト登頂、とかよりもよっぽど凄いような気もするのだけど、まだまだ、という印象。ただこうゆうのは継続による知名度の蓄積が効くと思うので、さらに、全国のメジャーなメディアさんはとりあげていただきたい。(まあそうなったら人気が出ちゃって、大会不足とかになっても大変だけど、笑)
 
 

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2015年10月16日 (金)

【英語教室】世界はヒロム・イナダ(83)をどのように称えているのか?

アイアンマン世界選手権2015公式動画 が発表された。10分ちょっと。稲田さんは最後の方、9:50から登場する。以下写真はそちらから、ゴール1−2mくらい手前の最後の転倒の瞬間:
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このカイルア・コナというのは本当に小さな田舎町で、もしもこの大会がなければ、マジで超ド田舎なままだったと思う。そこに作られたこの花道も実際かなり狭い。そこに応援者+自分のゴール後に応援に回った人たちが密集し、深夜24時の閉門前はすごい熱気となる。らしい。
 
僕が出た2年前は、当日までそれを知らなくて、自分のゴール後に知らされ急遽いこうと思ったのだけど、夜に強めの雨が降り、せっかくシャワー浴びたあとに濡れた靴に足を入れる気がしなくて、23時頃だったかに寝てしまったのだった。当時81歳の稲田さんが制限の数分遅れでゴールに入られてかなり盛り上がったらしく、もったいなかった笑
 
今回の稲田さんゴール前の状況は、現地応援でまのあたりにした日本人からコメントいただいた。以下引用:
 
「彼の一度目の転倒(写真のシーン=ゴール100〜200m手前)を目の前に見ました。その後立ち上がって一心に前を見る姿に私が受けた感銘は文字に出来ません。
 
その場に居た誰もが、その時、彼の記録について知っていたわけではありません。しかしその場に居た誰もが、彼の転倒に嘆き、立ち上がる姿に勇気づけられ、そしてフィニッシュしたときには大いに歓喜しました。
 
私は確信しています、私を含め、あの時彼の走る姿を見た者誰もが、口を揃えて"Yes!! He's an IRONMAN!!"と答えることと。」
 
Facebook写真への英語コメントをざっと眺めて、現場目撃証言は3つ見つかる:
 
"We were there cheering him on, from where photographer took this pic. Very heart tugging moment. We all wanted to go over to help him up. His amazing efforts touched all of us."
 
"Thank you sir for being the most inspirational story of that day. I was there and I saw you and it brought tears to my eyes just to see your determination and will! You are definitely an Ironman and we all hope you return to Kona next year!! Congratulations to you."
 
"The crowd was roaring him home, he got up and jogged the last 200m with the screaming crowd behind him, no help.
He got to the top of the ramp and stumbled on the flat section falling again, mike Reilly called him home an ironman and helped him up a little and he crossed the line. Last fall was on the top of the ramp about 1m from actual line."
 
苦手な方はGoogle翻訳でどうぞ、先の日本語のとだいだい同じに、応援する側がちょー感動してる様が伝わる。そして、これら英文は、アイアンマン完走者をどのように褒め称えるのか、という英語表現のお勉強にもなる。
 
というわけで本題。今回は英語をお勉強しよう。
 
て、僕は教えられるほど英語を知る者ではないのだけど、これら知識があれば、この競技をより深く理解しやすいと思うから。
 
まず、前回紹介した公式Facebookコメントは、かなり気合を入れてポエムしていると思う。全米放送の人気番組であるNBCの総集編で、渋い低音の男性ナレーションで読まれる原稿のような。(NBCで実際どう扱われるかちょっと楽しみ!)
 
まず冒頭:悲劇としての側面を、勝者と対比させることで強調している。
 
With stories of great personal victories also come stories of immense heartbreak. Hiromu Inada, merely seconds past the cut-off time, would have officially become the oldest male Kona finisher.
 
「仮定法過去完了」は、ほんの数秒差で逃した残念さを強調する表現でもある。ここは大学入試みたいだ。
 
大学入試ではまず出ない表現、それが次の
 
He's certainly an IRONMAN in every sense of the word,
 
大文字ひと続きの「IRONMAN」は登録商標であり固有名詞。ハリウッド映画のは「Iron Man」と普通名詞を使っているので、映画会社側は商標違反を問われることがない。たぶん。
 
そして「IRONMAN」の定義とは、Swim2.4mile, Bike112ml, Run26.2mlを所定の制限時間内に自力で走り切った者をいう。稲田さんは数秒差でDNF=記録抹消!という扱いなので、形式的にはIRONMANではないのだ。
 
そこで、”in every sense of the word”=「アイアンマンという言葉が持つ、あらゆる意味において」、という表現が登場する。「意味」、つまり、「歴史と文化の理解」から考えることによって、むしろ彼こそが「本質的なIRONMAN」である、と捉えることが可能になる。これは前回書いた話と同じ。
 
続く、
 
(He...) embodies everything amazing about our sport.
 
では、embodies=「Bodyの内にある」という言葉を使うことにより、「トライアスロンという競技のあらゆる意味、魅力、感動は、この身体1つを見れば伝わるよね」、という身体感覚を強調している。
 
最後の一文は、simply overwhelming =超スゲー!と締めるわけだが、それでは普通すぎるので、The emotion in the photo captured とポエムな主語を使う。ここでは、「稲田さんがembodyするもの」が、観客達を感動させ、その場に「巨大な emotion のカタマリ」が生まれている様子を表してる。ここから、応援者も一体となってつくり上げるのがアイアンマンであることも読み取れるだろう。
 
・・・
 
もうね、競技主催者の言葉として、これ以上の賞賛表現は無いですよ。
「我が社が提供する価値を知るには、この写真1枚だけご覧ください」と言ってくらいの意味を込めている。
 
僕が前回書いたのも、この数行の文章を、背景を知らない方に向けて説明する歴史の授業のようなものだ。今回は英語の授業を書いてみた。(というか、おもわず書いてしまった。。)
 
以上の理解があれば、公式ページの写真→ https://www.facebook.com/IRONMANWorldChampionship/photos/a.512314138901624.1073741827.181824205283954/733468220119547/?type=3&comment_id=733484183451284&notif_t=like への英文コメントが、スムーズに理解できると思うから。いいね!8千に迫っている!
 
“He's still an IRONMAN!!” 的なコメントが目立つのもわかるだろう。そこに ”in my book!” “in my eyes!” “by heart!” などを付けるのも目立つ。これは、客観的には失敗なのは仕方ないけど、私は認めます、ということ。
 
それだけ、「このKONAという地において完走してIRONMANという称号を得ること」の重さがあるということだ。多くのトライアスリートが、その価値を心から信じている。
 
“Legend!” ”You are a true leader in our beloved sport!” など歴史に残るよ、という表現もちらほら。
 
同じ写真が、アルバムの一部として後から追加されている。こちらで目についたのは:
 
 
もしも巨大な写真プリントで、自由にメッセージ書いて、と置いてあれば、何千も書かれるだろうと。まあ、それはネット上で実現してるわけだが。
 
完走者一般への賞賛表現としても使える。ただし最大級の:
 
"I love this picture... pushing your body to the extreme limits of pure exhaustion!"
 
"This picture is the epitome of strength, courage and determination. He is my hero."
 
I"ronman is not just crossing the finish line, it's about you crossing the end of every endeavor in your life."
 
僕にとって新鮮だったのは、"inspiration” という表現。結構目立ち、最大限の賛辞として使われているようだ。単なる勝者ではない、人を心から熱くさせる者、ってとこかな?
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本当に。
 
姿1つで、多くのものを伝えている。
 
・・・
 
このように、トライアスリートは情報源を英語に拡げると、圧倒的に見える世界が変わります。
英語は慣れです。ジョギングと同じ。しかもレベル的には、ランニングの1km8分ペースで1km走れれば十分(=40代男子の場合で) Google翻訳で楽しながら、こまめに接していくのをオススメ。
 
日本語に無い情報なら、使うモチベーションも上がる。Joe Frielのこの2冊は (該当する人にとっての)重要性が高く、しかも翻訳が出てない。僕も時間が空けば読んで報告したい(けど空かない、、)
そして来季への準備を:半額セール中→

2015年10月13日 (火)

16時間50分走った先の世界記録に「 あ と 5 秒 」届かなかった稲田弘さん(83)は、世界のアイアンマンの新たな伝説を作っていると思う

10月の第2日曜日、2015年なら10/11は世界のトライアスロン界ではいわばクリスマス、日本ではさらにお正月まで一緒に来たような1日。

日本の午前1:25にハワイ島でアイアンマン世界選手権KONAがスタートし、そのトップがRun後半に入る8:25にお台場で日本選手権女子がスタートし、KONAでプロ男子が9時半過ぎにゴールして、11:00にはお台場の日本男子がスタート。同じ頃、KONAではエイジ選手のトップレベルが表彰台を決めてゆき、「完走すれば表彰台確実」という高齢カテゴリでは、男子18:45、女子19:00にゴールをくぐれるかどうかで決着する。

僕は、プロ男子でフロデノが史上初のオリンピック(北京2008)とアイアンマン2015の二冠を達成したのを見届けるや否や電車で田町へ、レインボーブリッジ歩道を経由してお台場まで4km走り、途中の橋の上で男子Swimの後半から観戦開始。いろいろな人とお喋りしながら、華やかなお祭りを楽しむ。この1日を終点かつ起点として、日本のトライアスロン界は回っている。

このKONAとお台場の同時観戦記?は、また改めて書こう。纏めて言えば、Swim高速化がえげつない。それから、「トライアスロンとはドイツ人が最後に勝つゲームを言う」的な。

それより真っ先に書きたいのは、83歳のリビングレジェンド、稲田弘=Hiromu Inadaさん。16時間50分の制限時間に、あと5秒だけたりなかった!

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写真は公式Facebookより

この写真は掲載後1日ちょっとの18時時点で、いいね6,936、シェア923、コメント347(このうち僕の英語コメントへの「いいね」は5番目に多い、世界5位?笑)。アイアンマン公式Facebookでの最大反響は男子プロ優勝のフロデノ1.2万いいね。それに続き、女子優勝もアンダーパンツランも(笑)上回る。僕の経験上、Facebookでは「いいね!」のおおよそ10倍の露出があるので、Facebookのこの写真だけで、10万を超える人達が見ることになるだろう。

世界中へ広がる感動を確かめるには、下記の写真リンクでのコメントをご参照:

"With stories of great personal victories also come stories of immense heartbreak. Hiromu Inada, merely seconds past the cut-off time, would have officially become the oldest male Kona finisher. He's certainly an IRONMAN in every sense of the word, and embodies everything amazing about our sport. The emotion in the photo ... is simply overwhelming."

「栄光の影の敗北。わずか数秒差で彼は史上最高齢でのKONA完走記録を逃した。しかし彼はまぎれもなくアイアンマンであり、この競技の素晴らしさの全てをその身体で表現している。この1枚の写真に込められた感動にただただ圧倒される」

上の写真はゴール100m手前らしい。その後再び立ち上がり、現地23:45の男子エイジ制限時間ギリギリでの通過を目指して走り始める。しかし、ゴールのほんの2-3m手前か、スロープを上がる途中で崩れてしまう。つまり少なくとも2度倒れている。最後の数mのスロープが、17時間を走り続けた83歳の脚筋の限界を超える巨大な壁として立ちはだかった。

こちら動画では、3−40秒あたりから右側の日本人応援団が気付いたようで日の丸が振られ始め、稲田さんは59秒あたりに表れ、1:03で倒れ、その「 5 秒 後 」に再び立ち上がって、ゴールされる。このあいだに、世界チャンピオンと最高齢完走記録とが逃げていった。ほんの3m先で待っていたのに。

※タイトルでは「世界記録」という言葉を使ったけど、トライアスロンには、「タイムでの世界記録」というものは存在しない。トライアスロンでは距離の厳密性が要求されていない(ITU=五輪ルールではBike誤差は10%以内まで許容している、意外と知らない人が多いけど)。あるのは「コースレコード」だけで、それも正式に表彰されることはない。今回逃したのは、厳密には、「世界選手権における最高齢での完走記録」となる。わかりやすく省略させていただいた

でも、稲田さんは替わりに、新たな伝説を作ったのかもしれないと僕は思う。なぜか。歴史と文化から紐解いていこう。

・・・

1970年代のアメリカは、ベトナムのゲリラやら日本企業やらに打ちのめされ、自信を失っていた。そんな時代に表れたのが、勝利を求めず、最後までやり抜くという愚直な行為そのものを目的とする行動だ。

その先駆けは、ヒーローなのにボロボロに打ちのめされ、ただ最後まで戦い抜いただけ、という異色の映画「ロッキー」(1976)だ。その舞台フィラデルフィアはアメリカ建国の地、アメリカの本来的な価値観を再生させる象徴的な意味があったと言われる。

ちなみにロッキーの原作・脚本はシルベスター・スタローン。そんな時代の変化を捉えた文学的センスが凄い。実際、大手映画会社は驚き、人気俳優を主演させる前提で数千万円で脚本を買い取ろうとし、しかしスタローンは「無名俳優である自分が主演しなければ意味がない」と拒絶して、低予算で制作された経緯がある。「無名のヒーロー」というコンセプトは、時代を先駆けていると思うし、この点でアイアンマンレース的だとも思う。スタローンは次作以降、クスリで筋肉を盛るようになり、きんにくVaca的なイメージで見てしまいがちなのだが。。

その後数年で、「最後まで走り切る」ことを目的とした奇妙かつ過酷なレースが次々に生まれる。アラスカ1,800km横断犬ぞりレース「アイディタロッド」、100マイルのウルトラトレイル「ウエスタン・ステイツ」、そして当時オアフ島の「アイアンマンレース」(1978)などだ。アイアンマンの発起人はベトナムから帰還して3年目の海軍将校たち。ある面では、失った自信を、自分自身を、取り戻す過程でもあったのだろう。

ただし、当初はあくまでも奇人変人だけのイベントだった。しかし1982年、より過酷なハワイ島に移って初めてのアイアンマンで、24歳の女子大生ジュリー・モス =Julie Mossが「伝説」を作る。初出場し、勝利を目前にして倒れ、這いつくばってゴールする。勝利は逃したが、ロッキーが現実化したかのような感動が全米、そして世界に広がった。

ついでに、アイアンマン競技規則に「Runでは、走る、歩く、もしくは、這って進むこと」との一文が追加された。

こうした歴史は、クリストファー・マクドゥーガル新作「ナチュラル・ボーン・ヒーローズ 〜人類が失った"野生"のスキルをめぐる冒険」に書かれている(32章)。前作「Born to Run」前半と併せて理解しよう。著者インタビューは最新「Number Do」で読める。

つまり、当時の欧米先進国における「もう勝ち続けることができない」という価値観の転換期に表れ、ジャストミートしたのが、過酷さ自体を特徴とするこれらの長距離耐久レースだ。

日本(=当時は勝ち続けていられた) でも受け入れられたのは、1,000年続く千日回峰行などの修行僧文化、そこからのマラソン文化の存在ゆえだろう。

トライアスリートたちの苦闘は、こうした価値観を体現する、いわば「生身のロッキー」として、あるいは「無名の私と、ヒーロー&ヒロインとを、つなげるもの」として、語り継がれ、伝説となってゆく。実際、アメリカNBCのアイアンマンKONAの編集番組はエミー賞スポーツ部門の常連だ。この積み重ねの中で 「アイアンマンというブランド」が育ってきたのだ。

稲田さんは負けたけれど (記録上はDNF=失格の一種)、世界最高の記録をかけて、17時間、最後の瞬間までギリギリの挑戦を続けた。それは過去の伝説たちと同じ系譜に連なるものだ。
 
僕はこの写真を見てすぐ、「歴史に残るであろう1枚」とFacebookに紹介した。ちょっと大袈裟かもと思いつつもその言葉を選んだのは、こうした歴史を踏まえてのこと。それから1日間の反響の大きさは、実際そうなりつつある気もする。

でも、きっとご本人にとってはどうでもいい話で、稲田さんはただ、次のレースでもっと速く走ることに集中しておられるのだろう。レース2日後かな、ご本人ご挨拶動画はこちら→ 
 
参考:稲田さんインタビュー http://www.value-aging.com/interview/vol003/index.html 60歳で水泳を、69歳で競技自転車を始め、3年前の80歳でアイアンマン年齢別世界王者。曰く、
 
「スポーツされる方は、80歳までやり続けることを目標にされている方が多いのですが、僕はすぐに80歳になってしまった。その時に「いつまで続けられるのだろうか」と考えましたけど、まだまだできそうなので挑戦していきます。僕はいまトライアスロンをできること自体が楽しくて、「やればできる」ということが嬉しいんですよね。」
 

この謙虚な、そして淡々とした態度に、彼の本当の強さを見るべきだろう。戦前生まれの強靭さでもあるかな。走り続けるという本質的な意味において、世界最強のトライアスリートとも言えるだろうか。
 
本当の伝説ができるのは、1年後かもしれない。
伝説は「生まれた」のではなく「いま作っている」、過去形でなく現在進行形が正しいかな。

2014年10月26日 (日)

“TOUCH THE SKY” 元F1ザナルディのトレーニング映像に感動する

4つ前の10/17記事 の続き。両脚切断の元F1ドライバー、ザナルディのハンドサイクル練習風景が映像化されている。

ほんの3分間に、とても美しく、人を勇気づけるメッセージが濃縮されている。

冒頭、美しく穏やかな音楽に挟み込まれる当時の実況音声と両モモの傷跡とが、事故の苛酷さを、もっともささやかな表現で伝える。でもそれは悲劇としではなく、スタートラインとしてだ。

「挑むべきものがある限り、どんな大きな失敗でも勝利へと変えられることを知った」

「動機は、ただ自転車に乗りたい、レーシングカーのエンジン音をもう一度聞きたいと」

「どん底から始め、過程を楽しみながら、頂点に触れる 〜touch the sky〜 ことができた」

「もしも事故がなかったとしたら、今は”両脚のある男”、ただそれだけ。この私はいなかっただろう」

ザナルディの語る英語はわからなくても、彼が伝えたいことは伝わるのではないだろうか。(とかいって英語得意な方へ、最後はBully= 「47歳、まだまだ元気だよ」て感じですか?)

大事なのは、何を言うかではない、何をしているか。

特製ハンドサイクルも詳しくわかる。元トップドライバーのコネでカーボンシェルを特注し、カンパニョーロのパーツを改造して、ペダル(手だからハンドル?)部にブレーキと変速を一体化。美しい、彼の新たなF1マシン。ヘルメットのBMWロゴはクルマと同じ純正品かな。
 
あの延々続くクイーンKの暴風の上りをこうして進み続けたんだね。
 
スイム動画はザナルディ公式サイトに→ http://www.alex-zanardi.com
アイアンマンのスイムで1時間8分以上かかる方は、よく見て泳ぎ方を勉強するといい、笑
の35秒あたりからどうぞ。F1レーサーの運動能力ハンパねえっす!
 
「とても体幹の使い方が上手で、腕に無駄な力が入っていないのが良く分かりました」
と運動の専門家であるトモダチのトモダチが、これを見て言ったそうだ。
キックができず、しかも前後長が何割か短くなるわけで、集団泳での姿勢制御は難しいはず。とりわけ今年のような荒れた海では。呼吸が4−1なのも、呼吸後の姿勢安定化が難しいがために、呼吸数を減らしているような気もする。
 
アイアンマン・ハワイ2014での写真は、BMWのFacebookページに。さすがにスイムはウェットスーツとシュノーケルを使っている。それでも、何度かゴーグルが外れるようなバトルに見舞われたらしい。
 
もうね、驚くしかないよね。僕は普段、他人が何をしてるのかは気にしない/ならないんだけど(だから今日の日本選手権も見に行ったりしない)、この映像は別。僕のやってることなんて小さい、と思わせられた。
 
・・・お知らせ・・・

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すっかり秋だ、ホッコリしよう。朝は良いコーヒー豆を電動ミルで挽いて、夜は良質な日本酒を温めて

2014年10月17日 (金)

KONA2014 両脚切断の元F1ドライバーZanardi、驚きのアイアンマン高速完走

アイアンマンWorld Championship KONAの記録は、歴代各年を、カテゴリ別、パート別などで見ることができる ↓
 
今年のRunラップ1位は? と見ると2:24:50。マラソン単独なら2:02くらいの走力が必要かと思われ(2割増しなので、もしもマラソン世界記録を破るトライアスリートがいれば実現するかも)普通のレースなら単なる周回不足なんだけど、KONAには間違える要素が殆ど無い。ALESSANDRO ZANARDIて47歳のイタリア人なにもんだ?と調べたら、F1ドライバーのアレッサンドロ・ザナルディだった!
 
英語のニュース: http://www.usatoday.com/story/sports/motor/cart/2014/10/12/alex-zanardi-completes-ironman-in-under-10-hours/17167933/ Googleさんが翻訳したのをコメント欄に投稿しとくので、苦手な方はご覧あれ。けっこー何書いてあるかわかるとおもうw
 
レースでスピンしてる時に時速320km以上で突っ込まれ、車体の前半分と一緒に両膝から先が吹き飛ぶ、なんて想像もできない(したくない)事故で、致死レベルの出血による心肺停止から奇跡的に生還。その後、アクセル&ブレーキを手元操作できる仕組みで復帰し、大きなタイトルも獲った不屈のドライバー(だと今知った)。
これだけでも驚きだ。両脚を失くして、普通レースになんて戻れない。
 
その後も挑戦は続き、40歳の2007年に車椅子でNYシティーマラソンを完走し、ハンドサイクルでロンドン2012パラリンピックに出場して金メダル獲得。そしてアイアンマンKONAを特別招待選手として走る。
 
レース前、9月の記事で語る、その心構え、強い!
 
腕力だけで226kmを走破し、9時間47分。その中身は、車椅子乗ったことないしよくわからないんだけど、たぶん凄いんだと思うんだ。
腕で進むということは、脚と違って、体重を乗せられない、ということ。ただ体重を支える必要がないので、平坦の車椅子マラソンなら二本足走行より速い。しかし、アイアンマンKONAともなると、全く変わる。
 
スイム1時間8分、今年はうねりがあり、キックでの姿勢制御がより重要な難しい海面を腕だけで泳いで、去年の僕より8分おそいだけ。
バイクはUSA TODAYのニュース写真の通り腕だけで、6時間7分。これは今年の日本人の二本脚つき参加者59名では真ん中の27位くらい相当。女性や高齢者を含むとはいえ、国内トップレベルが両脚で体重かけて 、これだ。 獲得標高が計1,000mともいわれるコースに、当日は20年に一度という強風が吹き荒れる。延々続く向かい風の上りを。
ランも車椅子、つまり車体と乗車姿勢は変わるけど、腕で回し続けるのは変わらない。
なお同じ方式:PCでの出場者は7名、完走6名、優勝は13時間台で、多くは制限時間との戦いだ。ザナルディの身体能力の高さは際立つ。
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(Photo: USA TODAY, Marco Garcia, AP Images for IRONMAN)
 
こうゆう物語が毎年のように、なにかしら表れるのがアイアンマンKONA。NBCの特集番組はエミー賞を過去16回受賞してるそうだ。それだけの素材に充ちているんだろう。その幾つかは伝説として残り、伝統を積み重ねてゆく。 ホイト親子の物語はTVで「涙が欲しい時の定番」かのようで、今年、「グレート デイズ!」として映画化までされた。
(「行列・・・」の佐渡トライアスロンもこの焼き直しかな?)
そんな物語に感動してトライアスロンを始めた人達にとって、ゴールで「Yes, you're an IRONMAN!」と称号を得ることは、その物語の観客から主人公へと変わるということかもしれない。
 
大人になって、主人公にはね、なかなかね・・・
 
・・・おしらせ・・・

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2014年10月16日 (木)

アイアンマンKONAでは「W杯決勝を一緒に戦える」 〜豪華付録はハッタリくんレース中継動画

アイアンマン世界選手権KONAはやはり特別な大会で、書いてるとブログアクセス数も何割か増える。昨15日のページビュー1,916はたぶん過去最高、ユニークユーザー763は2番目。今日も既に1,000PV超え。この2日書いてないのに。ちなみに以前の記録は4月23日のPV1873/UU959、おそらく『量に頼らない練習法2つの極意〜「やりきらない」ことも大事』→https://masujiro.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/post-7c4c.html の後で、トレーニング哲学的なのを連載してた頃。
 
KONAの特別さとは何か?
その一つは、僕のような一愛好者が最高峰のレースを共にできることにある。
サッカーで喩えれば、「30歳過ぎてからサッカーを始めた普通のファンが、ワールドカップ決勝を、同じ会場で一緒に戦える」ようなものだ。こんな大会を他には知らない。(モンブラン100マイルとかのウルトラトレイル系は割と近いけど、「世界中の予選を通過して出場できる唯一の最高峰大会」ではないと思うし)
 
実際どんな感じなのか? 去年の僕のネット中継映像を公式サイトから紹介しよう。
 
【豪華付録:ハッタリくんを探せ!】
動画のほぼ最後の2:44:30から2:44:51まで、20秒にわたり僕が映っている。
 
男子優勝フレデリックのラン終盤、クイーンK終点に差し掛かりゴールへの花道へと向かう手前を、ヘリコプターから空撮した映像。画面右下からすれ違ってゆく数人の中に、白色の帽子+腕カバー+U字に空いたウェア背中で、脇を開いた感じでヒョコヒョコ走ってる、それが多分僕だ。僕のランスタートからたぶん1時間十何分後なのでタイミング合ってるし、実際、その地点で「前からなんか来た」のを覚えている。
 
ランコース上で男子優勝者とすれ違うのは、ある程度速い選手限定のご褒美。写真では右端に僕が居て、フレデリックとは近い人は1mの距離ですれ違ってる。なんだけど、当時は知識がなくその有り難みを知らなかったw
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この少し手前から対面・折り返しが延々続いているので、前後の選手との間隔もよく分かる。この後にプロ選手がパラパラと続き、そのうちに同時スタートのエイジ(=アマチュア部門)選手が表れ始める。
エイジ総合1位の南アフリカのKyle Buckingham,は僕より約58分速いので、片道29分=折り返しの6kmくらい手前(クイーンKからエナジーラボに入る手前くらい?)ですれ違っているはずだ。そこで「おーついにエイジ組とすれ違い始めた、折り返しも近いぞ!」 なんて喜んでると、そこから先が延々と遠く、視界の先の折り返しらしきものがいつまでも視界の先のまま。この距離感に世界トップレベルとの実力差をまざまざと見せつけられるわけだ。
 
【豪華付録その2:ハッタリくんを探せ! ゴールの巻】
ゴール映像では、僕は1:52:00に登場。(写真は当時のブログ記事に掲載)
合わせて計1分くらい映像に残っているのは驚きだが、見つけるのはもっと驚きだ。ゴールのは計算できるけど、ランのは画面の隅から目に飛び込んできたんだよねー
 
この映像は男子優勝ゴールに始まり、45分過ぎに女子優勝が入って婚約者と抱き合った後でインタビューがあり、そこから女子プロ入賞者が、そして各カテゴリの入賞者が続々と誕生してゆく。
エイジ総合1位を過去3度、世界的強豪アマのChristian Muellerは今回2位で57分頃にゴール。ちなみにドイツ人の彼は僕と昔同じ会社の同じ商品郡を担当してたけど国が違うし面識は無い。1位のKyleは映っていない。
僕の1分半前には50-54歳5位入賞のアメリカ選手の、その33秒後にはギリギリで逃した日本のタナカさんのゴール。熱いぜ! (それって僕も10年間パフォーマンスを維持すれば入賞のチャンスがあるってことか?)
 
そんな熱気と興奮の中に、一愛好者に過ぎない僕もゴールしてゆく。「マスーキ、ハター、ジャパーーン、ユーアーアイアンマーーーン」というアナウンスと共に。それはサッカーで喩えれば、ワールドカップ決勝戦の終了直後のそのスタジアムで、自分のゲームも終了するようなものだ。
 
出場にはハワイだけで総額50万近く、予選に6−7万、と高額なカネをかけたが、1年経ってこれだけ楽しめる。一生モノの経験、Priceless。
 
 

2014年10月14日 (火)

2013年の僕が、アイアンマンKONAとJTUチャンプを「両立」できた理由

2014 Ironman World Championship KONA、男子優勝Sebastian Kienleはスイムでのトップとの差3:45からの逆転は2004ノーマン・スタッドラー以来のタイ記録。2005年以降の優勝者は、全員がスイムトップ20秒以内の先頭集団からしか出ていない。
 
8時間超のレースで30秒遅れたらダメなの?て気もするのだけど、 それだけ男子プロのトップ選手たちが「合法的に形成する車列」の空力効果は大きいわけだ。12m差で平均12wの出力削減というデータもある。
つまりスイムのタイム差には掛け算がかかり、その係数は高レベルなほど大きい。KONAでもエイジ年代別5位以内に入るなら、スイム1時間ちょっとかかってもOK。ただそれは、そのレベルならバイクが猛烈に速い選手が幾らでも居て、一緒に上がれるから、ということでもある。3種目のレース距離でスイムだけが「少なそうにみえる」のは、そうゆう理由だと理解しておいたほうがいい。事実上のスイム割合はもっと高いのだ。
 
逆に言えば、それを覆せるほどにKienle選手のバイクは圧倒的。(ワイズロード茅ヶ崎さんの動画↓)
この写真も 一目見ておこう。自転車選手なら普通だけど、トライアスリートがやってるの初めて見た → http://cdn.triathlon.competitor.com/files/2014/10/2JB2725.jpg
 
女子優勝Mirinda Carfraeは、バイクまでのタイム差14分30秒の大逆転、やはり新記録。
バイクまでなら僕でも勝負できるレベルなんだけどw(ちなみにワタシ去年セントレアで上田藍選手に勝ってます!)、このランの強さは、男子ならラン2時間35分とかで、もしかしてそれはマラソン単体を2時間15分とかでで走れないと無理、とかそんなレベルではないだろうか。んなもん誰にできるか?
 
ハビエル・ゴメスやブラウンリー兄弟ではないだろうかっ!
 
今年のハーフ=113kmの世界選手権優勝のゴメスはRun1km3:15で入り、10km通過32分だと!
そのレースで2位に入った北京金メダリストのフロデノは、今回6:14差の3位だが、パンクとペナルティーストップ4分が無ければ優勝してた可能性は高い。
そして、ゴメスやブランウンリーとフロデノとの間には、明らかに超えられないレベルの実力差が存在する。彼らが30歳過ぎあたりからロング転向してくることで、アイアンマンの強烈な加速が続くのだろうと思う。
 
・・・
 
ショート「から」ロングへ移行するのは、マッカとか、こうたんとか(笑)、昔からの王道的パターンだが、同じ年に両方で成果を出している例はあまりない。だから、去年のハッタリ選手の対応について説明しておく価値もちょっとはあるだろう。
 
結論を言うと、去年の僕は、「長短の両立」をしたわけではなくて、「切り替え」をしただけだ。
 
基本的発想は、「技術・筋力・心肺能力は共通、あとは耐久性能を適応させるだけ、それは7週間で最低限可能」というもの。
 
具体的には、まず、6月の予選@常滑はハーフ。普段の倍の距離なら特別なトレーニングは不要、気合でごまかせる。ただし距離は2−3割増やす日を何日か入れて、1日にバイク50km、ラン12km、など僕にしては長距離なメニューをやってみた。
KONA8週ちょっと前にあたる8月中旬から長距離を意識したトレーニングを開始。途中で会津のショートはJTUランキングポイントのために出場したけど、それを含めて初め3週間で身体を長距離に移行させる。
そして9月いっぱい、レース2週前までに、室内ローラー2時間の後の20km走とか、ローラー1時間の後の30km走とか、レースのシミュレーション的な動きを何度か行った。
 
これら含めたトレーニング量は、昨年末の記事のグラフで読みとってね→
 
つまり、ショートでスピードを磨き、その持続可能な距離を延ばせば良い。単純明快。質問あればお気軽に。

2014年10月13日 (月)

あれから1年〜 2014アイアンマン世界選手権KONA、見る感想

トライアスロンという競技の実質的な起源※にして最高峰であるハワイ島のアイアンマン世界選手権が昨日開催。日本時間では未明1:30から19:00までの長い1日、トライアスロン界は1年で一番盛り上がる。

(※1974年サンディエゴが起源とされるが、当時はアメリカ西海岸に幾つも登場してたらしいマイナー新スポーツの1つに過ぎない。3年後オアフ島で開催された「第一回アイアンマン」が今に至る人気のキッカケとなり、同時にSwim3.9km-Bike180.2km-Run42.2kmという競技の「型」も出来た)

公式サイトでは、移動バイクによるネット中継と、全選手が付けるGPS付きICチップによる途中計時が流れてゆく。

GPSは今回初登場のサプライズで、精度は粗かったようだけど、ほぼリアルタイム知りたい選手の位置関係が地図上に表示される。通過タイムを見ながら、各年代5位以内の表彰圏争いに絡む日本人選手のGPS情報を、ライバルと選手と一緒に、地図上で表示できる。

今年はアイアンマンに興味なかったはずの僕だけど、気がつけば熱中していた・・・ やっぱりKONAは特別な大会だ。

<プロ選手>

BikeもRunも、全身を活かすことの重要性がよくわかる動画が、男女優勝者から得られた。
女子優勝ミランダは、スイム・バイクまでは去年の僕とそう変わらないタイム。それだけRunが飛び抜けていて、新記録の2時間50分(1km4:11)。男子プロ選手でもこのレベルで走れるのは世界で数人てとこだろうか? 普通のマラソン出れば2時間30分切ってオリンピック代表クラスてとかだったりしてね(=すいませんテキトーに書いてみました)。
 
動画を見ると、上体を大きく使ってることがわかる。純ランナーだとこんな筋力が無く、脚の腱とかのバネを活かした走りになるんだろう。トライアスロンのRunは別種の競技だと認識しておくべき。よって陸上向けの方法論は(世に多く流通してるけど)そのまま受け取るべきではないと僕は思っている。この動画のような一次素材の情報をまず知っておくことが大事。
男子優勝セバスチャンはBike4時間20分=平均時速41.2km。動画の冒頭、やはり全身を使って進んでいるように見える。強風で倒れないようにバランスを取ろうと必死なだけかもしれんが。動画のばばばばばばば・・・ という音を聞けば強風がわかるだろうか。
動画二人目はバイク4:24Maik Twelsiek。終盤の走りの動画がこちら。速い!

後ろは優勝のセバスチャンぽい。記録によれば、ふたりとも96km〜144km地点まで約48km区間の平均時速が49.8kmhくらいだ。 地上1mを滑空するグライダー。追い風とはいえ、これが世界トッププロのスピード。同じ区間をバイク日本人トップのオリンピアン竹谷さんですら平均40kmhだ。(ラップは"LEADERBOARD"からクリックしてゆけば簡単に見れる→ http://www.ironman.com/triathlon/events/americas/ironman/world-championship/ironfan/2014-oct-11/leaderboard.aspx#axzz3G1RMjouH  )僕も距離40kmではこのレベルで走れるようにしたいものだ。

反対車線も選手なんだけど、、時刻はたぶん11時何分か、バイク往路のこの位置を走る選手はおそらく高齢の方々、完走ギリギリくらいかもしれない。がんばれーー 

こんなふうに、トップ選手達の走りをすれ違いざまに同じコース上で見れるのは、1本道折り返しのKONAならでは。

2008北京五輪優勝(51.5km)のフロデノはバイクでドラフティング違反とパンクでタイムを大きく失ったようだけど、195cmの巨体でランを2:47で走り3位入賞。ショートでスピードを高めてから距離を延ばしてゆくのが、アイアンマンで成果を上げる有力な道であることを証明していると思う。

<日本人選手>

今年表彰圏内に居たのは、女子25-29の西村さんと東さん、男子50-54の田中さんと高橋さん(川島さんも健闘!)、75-79のお二人、80-84の稲田さん。

KONAのバイクは、太平洋を渡る貿易風が遮るものなく向かって来て、日本でいえばほぼ台風レベル。今年はとりわけ強いらしく、高齢組が軒並みバイク制限時間オーバーを喫してしまって残念。バイクの強いガイジン選手との差を開けられたであろ中で、西村さんが6分差で6位、田中さんが5位と1分半差の7位、共に、30分レベルのバイク差をランで猛烈に追い上げての健闘。

初KONAの西村さんはラン初め5kmを4:13で入り、以降16.5kmまで3関門を、1km平均4:33-26-26、とカテゴリ優勝選手とほぼ同じペースで攻めている。客観的にはオーバーペースだけど、本気で表彰台を狙った走りだったんだろう。熱いぜ! そして去年の僕のラン記録3:21:57を3秒破られた! バイク差をもう少し抑え、ランをイーブンペースに持ち込めば表彰台だ。

アイアンマンは身体が大きくてバイクが強い欧米勢が有利な競技。日本人が勝負するなら、まずバイク。

<最終ランナー>

そして最終制限時間のハワイ24時(日本時間19時)、7−8時間前にゴールした男女総合優勝のプロが戻り、最終ランナーを迎える。

大きく一回りしたものが、今ここで終わろうとする瞬間の華やかさ、そして寂しさ。

僕は去年、雨で靴が濡れるのが嫌で寝てしまったのだけど、せっかく宿が近かったしライブ参加すべきだった。その前年まで興味なかったレースだし、ここまでのものだとは知らなかったんだよねー。

そこには、「トライアスロンの原点が見える」、とその場を知る友人が言った。世界最強のプロと、その倍の時間をかけてヨタヨタとゴールする70歳以上の高齢アマチュアが並ぶ。共通するのは、最後まで走り切った、ということ。

KONAを走る大きな魅力は、世界最強選手が通過した興奮が残るゴールに、僕のような一般市民までゴールできることだろう。去年の僕だと2時間くらい後かな(スタート時間差もあるので)。スター選手になったような気分だ。草野球ではいくら上手くても満員の東京ドームではプレーできない。

その盛り上がりは、最終ゴールを前にした深夜、最高に盛り上がってゆく。

今年は、制限時間1分過ぎにNZのおじいさんがゴールラインに入り、その場で崩れていた。1990位はMichael Ramsay さん? だとNZトライアスロン界の重鎮の元海軍司令官(?)のようだ。百戦錬磨の方だろうに。

走り切る、っていいなあ、と思った。

華やかさ、その後の寂しさ。そして次の1年が始まる。この波のようなものの大きさが、この大会だけにある魅力なのかもしれない。

2013年11月14日 (木)

アイアンマン世界戦(終) ゴールで僕は特別な何かになっていた

そして40km地点で高速を抜け、Planiの下りへ。この坂の途中のスーパーマーケットには毎日のように通っていた。「ただいま」って気持ち。もう脚なんて壊れちゃえ、と重力に全体重を委ね、脚を地球に叩きつけて加速し、何人かを一気に抜いた。
 
サカモトさんによる連続写真はその後、ゴール手前1kmあたり。 奇数ショットで笑い、偶数で苦しみ、まるで呼吸するかのように表情が入れ替わってる。
その少し先、僕のコンドミニアムほぼ手前の坂を降りる。すると、世界が変わった。

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狭い海岸通りの両側にびっしりの観客と歓声。応援の密度が一気に高まり、歩を進めるごとに濃くなってゆく。

観客たちは、心から楽しんでいる。不思議なくらいに。

僕らを見ることの、何がそんなにおもしろいんだろう? 

2,000人のそれぞれが、226kmを一人で移動し終えようとしている、という事実はある。その内側には、ここに来るまでの努力や思いもあるだろう。その全てが、今ここで解き放たれようとしている。そんな解放されてゆく力と心が、伝わるんだろうか。

あるいはそれは、いい大人たちが、つかの間スター(笑)のようなものに変身する瞬間でもあって、そんな非日常が興奮を呼ぶのだろうか。

走る人、見る人、見られる人、個々の動機がなんであれ。それぞれの相互作用が、世界最高の舞台に、熱気を注ぎ続け、溢れさせる。

僕は、スターになったみたいだ。花道を走る僕は、この熱気に少しでも応えたいと思う。帽子を取り、手を振り返し、叫び返す。叫び過ぎて軽い酸欠を起こす。

この3年半の全ては、この瞬間のため。極限まで追い込んだ身体と精神が、僕にそう伝える。

 

2−30mくらい前に2人見えた。もうビクトリー&パレード・ランでいいかな、とも思ったけど、僕の前に人間が居ることを許さない習性の方が強く、最後50mくらいを最高速に上げてゴール数m前、スロープのあたりで抜く。ガイジンさんお二人、隠してしまい恐縮ですアイムソーリー。まーでも、最後まで「駆け抜ける喜び」ってあってね(BMWか)

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このゴールゲートは少し高く設置されていて、周りには観客用のスタンドや、撮影用の大きな台もある(この写真もそこからメイストームさんに撮影いただいた)。

見下ろし、見下ろされる僕は、円形劇場の舞台に居るようだ。

この瞬間、僕は特別な何かになっていて、ほんのしばらくの間、そこに立ちつくしていた。

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そして僕は、ショートとロング、国内カテゴリー王者としての「自称Wタイトル」を獲得。ロングのは自称だけど、KONAの1位だし、それに僕はハッタリくんだし!

(了)

2013年11月12日 (火)

アイアンマン世界戦14 どこまでも続くQueen-Kを走る・・・

日曜「情熱大陸」での新城幸也選手の腹式呼吸が話題だ。風船のようにぷくーーーっとまあるく膨らむ!

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追記:2016.05) 

呼吸とは、単なる酸素と二酸化炭素の交換行為ではない。呼吸筋は胴体の中央部に位置し、その動作は隣接する胴体の大きな筋肉群に影響するため、胴体発のパワーの源となる。そこで腹式呼吸とは、力の発生源を胸ではなく腹周辺にシフトさせる効果がある。

僕も、バイクでパワーを出す時には最初に、呼吸とタイミングを合わせて腹圧を入れる。すると、背骨と大腿骨とをつなぐ大腰筋周辺のパワーが増して、次の瞬間にビュンと加速が始まる。バイクで「腹圧」の重要性が言われるのは、つまりは、お腹周辺の大きな筋肉群を使えていますか? ということだ。

スイムも同様で、「ストロークの後半勝負パート」に入る時、お腹の空気をぐっと吐くことで、最も美味しい部分の推進力を最大化することができる。だが実際には、呼吸への義務感or恐怖感から姿勢を乱して抵抗を作り、かつストロークパワーまで失っているケースが本当に多い。

スポーツの技術論を進めていくと、呼吸を避けて通ることはできない。

これで一部で囁かれた私の太鼓腹デブ疑惑も払拭されることだろう。いやむしろ太鼓腹でいいのである。ちなみに私、KONAスタートの朝は138.6ポンド=62.9kg。

あと新城選手は脂肪を食べないそうだけど、これには2つの解釈が可能で

  • A) だから2位になれた
  • B) だから1位になれかった

あくまでも一般論だが、僕はB派。ま職業競技者はともかく、社会人や学生なら脂肪は意図的に摂った方が良い。

・・・

さて、前書いた16km激坂での撮影者証言:

「ファインダー越しに見たハッタリくんの笑顔は間違い無く変態に見えましたw」

なるほど、応援のガイジンたちは、「変態が来たぞー」 と騒いでたのか。でも、こんな退屈なものをずーっと見続ける方も十分に変だと思うが。鏡の法則てやつで、「わーあいつ変態だー」と鏡の向こうの自分を指さして楽しむプレイなんだろう。

※ところで前載せたGPの5kmラップは、CSVからExcelに落として計算したら間違いを発見。

 訂正がてら、改めて振り返ってみる。

<5km通過 / 5kmラップ21:44> やはり速過ぎた。

<10km通過 / 22:43 / 59秒落ち> 暴走ダメージの反動。

<15km通過 / 23:03 / ほぼ平坦で20秒落ち> まだダメージが滲み出続ける。 

<20km通過 / 23:16 / 上り計15mで13秒落ち>

16kmの激坂を含む上りを考慮すると、むしろペースを上げ気味だろう。それまで10kmを落ちてきたのはオーバーペースの証なのに、応援とかで頭が興奮して、身体に無理させてる。不安定なペースだ。

そして22〜3kmあたり、殺風景なQueen-Kに入って5km、僕の走力が「落ちつつある感覚」が、7時間走り続けて鈍った頭にも、届き始めた。

みんな苦しみ始める頃なんだろう。エイドでは、へなへな、と力が抜けたように立ち止まったり、歩いたりするランナーが増えてゆく。1つエイドが過ぎると、タイム差はかなり開く。だから前書いたエイドの技術にも、多少の効果はあると思っている。

<25km通過 / 24:10 / 上り3mで54秒落ち>

前区間の無理の反動が、数字で表れている。一方で、「でも半分過ぎたからいいだろ」という期待/願望が、僕には、まだ、あった。でも実際の感覚として、折り返しっぽいのは30km過ぎてからだったんだけど・・・

26km過ぎ、Queen-Kを西に出て少し下るが、脚が重い。走力が「明らかに落ちた」のが判る。エナジーラボの折り返しは28km過ぎ。おーはたさんがすぐ後ろに、たなかさんも迫っている。同カテゴリのわかはらさんとは数分かのリードがありそう。カテゴリ日本人1位だけは取ろう、と思う。

30kmあたりでおーはたさんに軽快に抜かれる。少しでも付いていきたいけど、脚がまったく反応しない。この頃から、大きなガイジンさんにも抜かれ始める。

<30km通過 / 24: 37 / 下り計26mなのにさらに27秒落ち>

そして32kmあたり、下り区間なのに、スピードが落ち始める。1kmで13m下る区間で1km5:07かかる。その後の上りでさらに落ちる。

この頃たなかさんにも抜かれる。ブレない軸で、軽快なピッチで進まれる。全く速度差が違う。10歳年上なのに。すげー 

Queen-Kの緩やかなアップダウンの直線は、片道9km。延々と続き、いつまでも終わらない。僕の脚は重くなる一方だ。

1kmごとに腕のGPSが鳴り、ラップを表示する。5分てなんだよ! とガッカリする暇なく走り続けねばらない。でも次の1kmの音がなかなか鳴らない。聞き逃した?と見るとまだ0.7kmだったり。

<35km通過 / 26:22 / 上り計26mで1分45秒落ち>

いよいよ脚が動かなくなってくる。

「諦めたら試合終了」とか人気漫画の台詞があった。Facebookとかで今だに見るけど、そんなのあたりまえだろ、て思う。空が青いって言ってるようなものだ。そんな精神論でトライアスロンは戦えない。動かないなりに、どう動かすのか。その技術を争っているんだ。そしてそれを実現する事前準備をどこまでしてきたかを。その勝負が、ハッタリくんなのさ!

残りは7kmほど、30分ちょっとだろう。ショートレースのRunのようなものだ。

いつもの自分の力、を信じよう。

腕を肩から大きく振り、その反動を腰骨に伝えて、モモを前にブン投げる。すると振り子運動の如く、脚には後ろ方向の力が発生する。腕振りの分、エネルギー消耗するけど、幾らかの推進力を加えることができる。かっこいい走りではないけれど、タイム損失を最小限に抑えるはずだ。

そして平坦で1km4:56。上り12mで5:12。持ち直した。諦めたら試合終了だからね(あれれ?

<40km通過 /  26:05 / 上り計12mで17秒上げた>

・・・ 

振り返って、スタートからおーはたさんの後に付いてペースメークしてもらえれば、もう少し効率よく走れたのかもしれないなあとは思う。でも、自分をちょっと過剰に信じでぶっとばし、そして潰れるのも、気持ちがいいもんだ。ちょっとキツいのを我慢すればいいだけ。

フォト

『覚醒せよ、わが身体。〜トライアスリートのエスノグラフィー』

  • 初著作 2017年9月発売

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