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2018年7月 7日 (土)

「クロールのバタ足、速くなる効果なし」との虚構タイトル記事を解説しよう

事実が「抵抗となる可能性がある」であるものを、「速くなる効果なし」と表現したのなら、虚構と呼んでも虚構ではないだろう。7/4朝日新聞デジタル掲載 「クロールのバタ足、速くなる効果なし むしろ水の抵抗増」 との記事がこの数日、スイマーに限らず、ネット内で話題になった。ただし多くはタイトルに反応しただけ、中身を読んでいない(or 読めていない)。へんな誤解が広まらないよう、解説しておこう。
 
<ネットあるある>
その前に、社会的背景に触れさせていただこう。昨今のネットニュースでは、おおげさなタイトルで注目を集めるために、事実をねじ曲げたタイトルで「釣る」のが多い。僕はこれを「フェイクタイトル」or「虚構タイトル」と呼んでいる。
 
それを読む方はというと、タイトルだけ見て動物的な反応をして、中身はマトモに読んでないことがまた多い。投稿やコメント内容から明らかにそうとわかる。僕はこれを「一行さん」と呼んでいる。ドラゴンアッシュのボーカルのお父さんの名前ではなくて、いちぎょうさん。一行しか日本語を読めないから。わりと有名な学校とか卒業してても見受けられる現象だ。小学1年生の国語の教科書でも何行か書いてあるんだけどなあ。
 
つまりはみんな、「わかった気分」を消費したいんだろう。スマホ画面にあらわれる刺激的なフレーズみて、一瞬、「世の中を理解する賢い自分」を感じ、気分をちょっとだけ上げて、次の瞬間には忘れ、何も残らない。笑
 
この記事も、そこへの反応も、その好例。
 
<クロールの常識>
「下手なキックは抵抗になる」のはクロールの常識の1つ。だから抵抗の少ないキックを練習する。
ということは、
「抵抗になるような下手なキック」で実験すれば、「キックは抵抗になる」という結論が得られるのも当然。
 
実験画像をみると、腰位置よりもかなり深くキックを打ち下ろし、ふくらはぎのアップキックも水を受けて、「抵抗になるキック動作」に見える。
20180707_155301
トップスイマーはというと、たとえばレデッキーはキックが浅い(画像は2016Rio800m)。これには、「腰を高く浮かさない」という技術が効いている。(4月にブログに書いた話→ 「リオ五輪からのクロール姿勢の変化」
R
 
※ついでに解説しとくと、両者の差となりうるのは、「腰を浮かすフラットな姿勢」だ。腰は浮かさない、沈めにいく、のが最新泳法。この研究が説明しているのは、「腰を浮かせてもキックが抵抗になるよ」ということだ。アップキックも1つのカギになる。(もっとしっかり説明したいけどいろいろ忙しいので、知りたい方は、せめて三浦広司コーチのFacebook フォローしておきましょう)
 
これら前提知識がないと、タイトルで盲信してしまいかねない。
そんなとき=メディアが信用できないときには、原典にあたるべきだ。
 
<実際の研究>
このプレスリリースのPDFによると、ポイントは
  1. これまで困難とされてきた自己推進しているスイマーの抵抗測定に関して、独自に開発した測定法
  2. クロール泳におけるキック動作の役割は泳速度に伴って変化し、速い泳速ではかえって抵抗になる可能性
  3. 速く泳ぐためには、いかに抵抗要素にならないキック動作ができるかが鍵
と、朝日のタイトルとは全然違う。
 
筑波&東工大のチームにとって、最大の成果は、1つめのポイントにあるだろう。流体力学という科学は、船、飛行機など、動かないものが対象。せいぜいプロペラやスクリューのようにシンプルな回転運動をするくらい。泳ぐという動作はそれらよりもはるかに複雑だから、これまで全体の抵抗を計測できなかったわけだ。それが「自己推進しているスイマーの抵抗測定」というキーワードの意味。
 
そんな知見をゲットできた学者さんとしては、世界に発表したい。それで海外の権威ある学会誌に英語で論文を出したわけだ。採用されるのはごく一部で、載るのは学者としての大きな成功になる。とくに共同研究で名の上がる筑波の院生さんにとっては、これで将来が大きく変わったりする。(おめでとうございます)
なお当の論文 "Effect of leg kick on active drag in front-crawl swimming: Comparison of whole stroke and arms-only stroke during front-crawl and the streamlined position" 読むには単独$40, 年間登録$584かかる。海外の学会ビジネスなかなかにえげつない。
 
その技術を使ってみたらわかったのが、「速いほどキックが抵抗になる可能性」であり「キック動作の抵抗をいかに低減できるかが大事」ということ。けっして、「速くなる効果なし」ではないのだ。
 
学者さんは、こうした表現を間違えることはまずない。(実験そのものを捏造しない限り)
 
大手メディアさんにはその信用にかけて、日本語の正確な運用をお願いしたいものだ。とはいえ、この虚構タイトルを駆使することで注目を集めたのだから、目的は達せられたともいえるか。
 
そしてスイマーのみなさん、キックは抵抗少なく打ちましょう。(てことも、この虚構タイトルの強烈さによって強く意識付けられるから、やはり目的は達せられているのか、笑笑)
 

←アウトプット術を今読んでるけど著者の成毛眞さんもよく大手メディア記事にツッコミいれておいでで、結局大事なことほど自分で調べないといけませんな

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