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2017年12月 8日 (金)

NIKE ズーム&ヴェイパーフライについての7つの仮説

話題の NIKE ヴェイパーフライ 4% & ズームフライ について、まずは過剰な反応を排し、このあたり意識して観察しとけばいいかな、という7つの「仮説」を書いておく。

  1. 福岡国際マラソン2017での上位独占はじめ、世界トップレベルの大会での好成績が目立つのは、NIKE社のマーケティング戦略による「見せ方」が効いている。五輪翌年の手薄なマラソンシーズン序盤に有力選手を集中してぶつける作戦
  2. とはいえ、BREAKING2.0、モーエンなどの新記録は大きく、「何か」はありそうだ
  3. 何か、とは? 世界トップレベルのランナーでは、中盤までの "省エネモード" でのエコ性能を上げているのかもしれない
  4. 高速&短め距離では、合いにくいかな?
  5. フルマラソン3時間前後レベルの市民ランナーでは、「目標レースペースから疲労で少し落ちた状態」と相性よさそう
  6. 長距離トライアスロンでは、トッププロ、一般市民、ともに不明
  7. 「シューズのドーピング」といえるほどの性能があるのか不明

なお僕は試着も実物を見たこともなく、ネット情報を僕なりに整理したに留まることをお断りしとく。その程度の文章なんだけどそれでよければ以下、仮説の背景(=根拠とまではいわない)を説明しよう。なにしろ僕は「ハッタリくん」の名で知られる者だ😁

 

1.上位独占

たとえば福岡国際マラソン2017で、NIKEスポンサー組と同等以上に実績ある有力ランナーどれだけいたっけ? (私ランニング無知なんですが) 普通に実力を出せばそうなる、という状況を作り、強烈な初期イメージを焼き付けるマネジメントの成功は大きいと思う。

 

2.新記録たち

とはいえ。

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Breaking2については、5月に僕のブログ 「キプチョゲ2時間切りまであと26秒! NIKE ”Breaking2” プロジェクト」 で書いた通り、閉鎖されたサーキット内で、空気抵抗を十分に削減した環境設定の要因が大きい可能性がある。自転車レースであれば、時速20kmであの位置のクルマ(と天井の計時ボード)は強力な速度アップ効果がある。大型トラックの後ろの、後方から渦の巻き込みに背中を押された状態だ。またクルマは同時に正確なペースメーカーの役割も果たす。これらあいまって、精神的な負荷も下げて、つまり脳側のエネルギーも削減している。

これは、他社シューズで同じサーキットで空気抵抗削減システムを組んで、世界トップランナーに実験してもらわないと、検証しようがない。

モーエンについては、2つ前に 「マラソン欧州記録更新、ソンドレ・モーエン選手(とカノーバ コーチ)トレーニング説明は金言の宝庫!」  で書いたように、トレーニング方針や環境の要因がまずもって大きいと思う。その上で、個性あるシューズの特徴を活かした走りを修得したのも事実だろう。

それは大迫傑も同じくだ。

 

3.省エネ性能?

ここが、よくわからない。

「ランニング効率を平均4%高める」というのがNIKEの能書きなのだが、この指標には定義が示されていない。速くなる、とは一言も言っていない。まあ自転車の場合ならば、「同じ速度を4%低いパワー(watt)で走れる」といった意味あいだろうとは思われるのだが、どう計測したのか?

こんなときには、日本語では無理で、英語で検索する。たとえば "vaporfly running economy " とグーグルさんに投げる。すると "CAN NIKE'S NEW MARATHON SHOES MAKE YOU FASTER? A NIKE-FUNDED STUDY SAYS YES"  など新しい記事が出てくれる。「ランニングエコノミー」、つまり同速度で走る場合の酸素摂取量が基準のようだ。だが、具体的な実験状況は不明。どんなランナーが、どの速さで走ったのか?

そもそもが”NIKE-FUNDED STUDY”だ。実験素材はNIKEからお金をもらったランナー。幾らもらってる人が、どこまで中立性を保ってトレッドミルを走ったのか?というツッコミも不可能ともいえない。(※同じことは自転車の空力測定でもいえる)

「このシューズのおかげで、レース中はすごく 余裕を持って力を貯められた。」という大迫傑選手のNIKEサイトでのコメントが、まあ唯一の手がかりといえる。「証言者の中立性が担保されない質的調査」ではあるが笑。「反発力」「軽い」などは、他社のシューズでもよく聞かれる常套句だ。

 

4.速さ?

自転車的にいえば、パワーをかければ速くなるが、脚を使う。シューズ側の反発力が強い、とNIKEはうたうが、その反発力は同時に脚にも来て、消耗させそうな気もする。

実際の声として、ランが超強いエリート・トライアスリート三須龍一郎選手(明治大)は、

「足がフワフワしちゃって空回りしてる感じ」

「トライアスロンになら薄底シューズの方がいいというのが自分の感想」

と10kmでのトライアスロンRunには合わない、という結論だ。

同じくラン強エリートのプロ・トライアスリート阿部有希選手は、10kmのラン大会での好感触を得て、

今までよりもスピードが上がる!! というよりも今までのスピードが楽に出る!!という感覚。

決して速くするシューズではなく 少しでも楽をさせるためのシューズ

と表現する。

阿部選手の現時点での結論:

「自分のような大型の選手(181cm 72kg)に向いている気がします。マラソン界では大型であるほどランニングエコノミーが低い(燃費が悪い)・・・ランニングエコノミーの向上という恩恵を1番受けられるのが、もともと低い大型な人間なのかなーと。」

そそられる?😁

 

5.市民ランナー

「ウルトラプロジェクト」主催の新澤さんは 「12/1  織田16000m   ナイキズームフライの履き心地」  で、

「多少重たいけど、今日の疲労感のある状態で、4’30/kmを切るくらいのペースならジョグのように楽に身体が進みました。」

と、むしろ反スピード、な状況において好意的。これ系のは他にも聞く。

 

6.トライアスロン

上記5.からは、わりと合うかも?というのがどちらかといえばな仮説。

この点には実績があり、"Newton"や"On"などテコ系の仕掛けをソールに施したシューズの人気は根強くて、実はそう新しい話でもない。

ちなみに、アイアンマン世界選手権での使用実績、2017年の1位は常識を越えた厚底のHOKAが18%、Onは7%に伸び7位、Newtonは一時10%を越えていたのがやや落ち着いて9位。ミズノはその下だ。

 

7.道具のドーピング?

基本懐疑的。ソールの仕掛けには、"Newton"や"On"など先行事例が多いから。

たとえば、アイアンマン世界選手権KONA、2016年にランパート新記録を作ったドイツのpatrik LangeはNewtonで2時間40分、2017年はNewblanceのオーソドックスなシューズに換えて記録ほぼ同じだ。シューズの個性は大きく変わったはずなのだが、そんなもんだろうと思う。

一方で、カーボン素材を本格的に使ってきたことは、これまでにない注目要素であるのは前に書いた通りでもある。そしてここに性能アップの未知の領域がある可能性も否定できない。

「厚底」はHOKAが先行し、「テコ的な原理」はNewtonやOnが先行する。「カーボンプレート」も短距離の決戦一発兵器としての例もある。ただし、全てを組み合わせ、調整を究めたことによって、カーボン性能を引き出したのかもしれない、ということだ。

他社が追従し、そしてランニング市場全体が動く可能性すら高いと思う。

競技自転車はカーボン化することで高価格化したが、多様性を拡げ、市場を拡大した。同じことがランニングでも起きると予想できるかもしれない。

以上が7つの仮説。

 

活かし方:ズームフライ編

阿部選手レビューで、「楽」を引き出すための走り方は:

  • 上半身と下半身を上手く連動させ
  • 腕振りではなく、「肩振り」イメージによる「骨盤との連動」
  • 着地とその連動のタイミングを合わせる
  • 蹴らずに、着地後ハムストリングと臀部を上手く使ってスライドさせるイメージ

新澤さんレビューでは

走り方はシンプルで上体の真下で接地したら、乗り込むだけ。爪先側が沈み踵が浮くのでスムーズな重心移動を勝手にしてくれます。

なお耐用距離150kmというヴェイパーフライでの知人(=競技力などが想像つく人)による使用実績はありませーん。

 

事例:福岡国際マラソン2017

福岡のモーエンのレース展開とは、30kmまではペースメーカーと集団とについての1km3:00ペースの省エネ走、そこまでで十分に脚を残し、ペースメーカーが離れた30kmから1km2:56ペースに切り替え、残していたパワーをつぎ込んでいる。
上記の仮説からは、前半30kmまでは(もしかしたら)シューズ性能も活かしながら省エネ走を徹底し、終盤のスピード走では(あまりシューズ効果に頼らない感じで)自力でがんばった、といったイメージ仮説になるかな。

それよりも、ケニアでのカノーバコーチの指導によるトレーニングが、こうした切り替えの成功要因としてより大きいとは思う。これらの話はまた改めて。

 

ついでに:「36km以降に落ちる説」について

ブログ「月間走行距離なんて知りません」の 「福岡国際マラソンで躍進したナイキとマラソンの未来」 (2017年12月3日)との記事で、「レース終盤、36km以降にスピードが大きく落ちる可能性がある」との見立てが示されている。

これも一つの見方ではあるけど、レース結果だけをみて、その因果関係を全てシューズのせいにしたロジックに陥ってもいるかな。具体的には、

  • 福岡国際マラソンでモーエンは成功した、という強力な反例が存在する
  • 失敗例では、4位カロキは1位モーエンに勝負をかけたから、3位大迫も一度勝負に乗ろうとしたから、とレース展開上の理由がある
  • BREAKING2.0は、2時間切り大前提でのペース設定が微妙に速かった、ペース配分の問題

と反証可能だ。

ランニングにかぎらず耐久レースの問題の多くは、結局のところは、ペース配分の問題に収まるものだ。

 

全ては仮説である 

これらが正しいか間違っているか、は問題ではない。全ては仮説であり、それによって考えを整理し、深めるための手がかりだ。もしもなにかにピンと来た方いたら各自検証いただければいい。結局は自分にとっての妥当解を探るしかないのがスポーツの器材であり各種手法であり。

・・・

市民ランナーレベルでなら、自分なりに考えて良質の練習をすることでしょうよ。

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こちらは2010年、トライアスロンデビューにあたり20年ぶりにランニングというものをしてみた時の練習シューズ、20年間実家の倉庫に眠っていた(よく残ってたな)ASICS。たしか翌年にソールがバラバラになって永眠された。僕はこれくらいのを砧公園のクロスカントリーコースで専用機にしとります。

とはいえ走ってる途中にソールが分解するのもなんなので、もっとマトモなのがいい方には、これ系のがいいんじゃないか、と前記事でなんとなく挙げてみたTeslaシューズ、実はコアなトレイル系ランナーの一部に強いファンがいると後で教えてもらった😁

 

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