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2017年12月の8件の記事

2017年12月31日 (日)

【図解】 「腕振り」とは「慣性力」の制御 〜新刊『ランニング・サイエンス』をふまえて

最近出た『ランニングサイエンス』、普通のランナーにとっては、(人によっては)決定版ともなりうる良書だと思う。

長所を挙げると:

  • 「普通のランナーにとっての基本」がまとまっている
  • それらの多くが、良質なイラストで説明されており、インパクト強い
  • 値段は高いが、その分、所有欲が充たさる (←ここに魅力感じないなら向きません)
  • その高級感が、壁に飾る系インテリアにGood! (←そこかよ)

逆に向かないのは:

  • 情報へのコスパにシビアな方
  • 知識豊富で最先端を求める方

<ランナー・コーチ・研究者、視点の違い>

Amazonレビューは1つだけ最低点がついてるけど、その方の他のレビューを読むと理由がよくわかる。このレビュアーさんは、おそらく大学など高等研究機関のスポーツ科学の専門家のような立場にあるのだろう。いいかえれば、「自分が速くなりたい&速くなれさえすれば満足するランナー」ではない。

プレイヤー(とくに凡才ランナー)、コーチ(元エリートアスリートが多い)、研究者(学界の内部で評価されたい学者の先生がた)、それぞれの立場、目的、視点、は必ずしも一致しないものだ。

今回このブログ記事は、「ランナー」の視点から、「腕振り」について解説するものだ。

 

<腕振りの物理学>

腕振りとは、ニュートン第3法則=作用・反作用の法則に従ったもの。
 
以前書いた

の画像より、マラソン転向するジョーゲンセン女王で説明しよう。

Uedaj_y20163_5

 
出発点の「作用」は、両脚が作る角運動量(回転運動)。
後方への、一見、直線的な動きだが、背骨という回転軸が存在するので、時計回りの回転運動力ともいえる。(みやすのんき「大転子ランニング」もこの発想)
 
さらに振り脚(左)も、前への直線的動きであると同時に、やはり時計回りの回転力の発生源だ。
 
このままでは、ニュートン第1法則=慣性の法則により、 ジョーゲンセンの身体はコマの如くスピンし続けることになる。フィギュアスケートなら、それで構わない。
 
でもジョーゲンセンは回らず前に進んでいる。それは、逆回転の「反作用」が存在することを示している。
 
その力は上半身側で働いており、その発生源が腕振りだ。
 
こうして、上半身+下半身トータルでの「総角運動量」はゼロリセットされている。
 
この仕組みの理解が基本。
その上で、それぞれの脚と腕の働きを、 もう少し細かくみてみよう。
Uedaj_y20163_7
 
右脚の最大パワーに対抗するのが、対角線の反対側(左腕)の腕引きだ。
 
上下左右なXの軸(点線)をイメージするとわかりやすい。
これにより、上下左右での物理的パワーをバランスさせることができる。
 
運動生理学的にも、腕引きは背筋側を使うので、未活用の筋力となる。
腕を押す側(右)だと腹筋側を使い、これは脚を振り戻すための動きと重なるので、そのために温存しておきたい。
 
(おそらくこれが、コーチの多くが「腕を引け」と指導する理由だ)
 
さらに下の画像。
振り戻し脚(左)の膝を曲げることで、重心を回転軸=股関節に近づけ、回転力を弱める。
この左ふりあげ脚に対抗する右腕も、やはりヒジを曲げて腕の重心を回転軸=「鎖骨&肩甲骨」の中央に近づけて、回転力を弱める。
Uedaj_y20163_8
 
ランニングとは、ようするに、体重の操作スキルを競うもの。だから「基本」としてまず理解すべきは、 ニュートン物理学の基本概念だと思っている。
 
ランニングのコーチ達は、それぞれの指導経験に即して、理想の腕振り方法をそれぞれに説明する。それは多数のランナーを指導する彼らの立場から得られた知識であって、プレイヤーの立場だけなら、もっとシンプルでいいとも思う。
その上で、個々人の走りに合うコーチの方法論を幸運にも見つけることができたのなら、それを参考にすればいい。この順序が大事。
 
 
<メンタル>
心理学も、ごくごくシンプルに説明されている。
不安を含めた「感情」とは、状況への反応として必ず生じるものだ、と説明される。
東洋系、禅的思想がいうような「無」ではありえない。
 
ある状況があり、そこに不安を感じる(「認知的不安」という)までは良い。
問題は、その不安に対する解釈。それをプラスに転じるか、マイナスに転じるかに、アスリートの力が現れる。
 
このレベルの大原則を知っておくことで、さらに詳しく知りたいなら、それ用の具体的な方法論を探ればいい。
 
・・・
 
このように、辞書的に、また第一歩めの道案内に、使えるのがこの本だ。
 
独特の高級っぽい質感は、書店で手にとってもらえればわかるだろう。こうゆうのはデジタル書籍にないもの。ゆえに、情報に対するコスパを求めてゆくと、いくらか落ちるであろう要素ともえいる。(欠品の多い『覚醒〜』のデジタル化も、そこは微妙に難がある)
 
昨今、スポーツに限らず情報過多な時代なんだけど、そんな時こそ、軸となるシンプルな知識体系の価値は逆に高いはずだ。
 
←ついでの読んだのが室伏広治さん『ゾーンの入り方』。すごい人だ。。

2017年12月28日 (木)

【メジャー媒体ふたたび掲載】 "週刊読書人 2017年回顧 社会学" 日大教授に書評いただきました

週刊読書人(しゅうかんどくしょじん)、といって、ほうほう、と頷く方はちょっと前までの僕も含めてあんまり僕のブログに居ないと思うのだけど、https://ja.wikipedia.org/wiki/週刊読書人 によれば創刊1948年の老舗書評誌、「インテリの読む書評紙として独自の地位を築いている」のだそうです。公称発行部数は10万なのか3万なのかどっちだwまあウェブ無料公開に移行すれば減るのは当然で、ツイッター@Dokushojin_Club はフォロワー4万超、影響力の大きさはまさにメジャー級だ。

その年末恒例「2017年回顧総評」シリーズの社会学部門 で、日大の好井裕明教授に

「トライアスロンがもつ固有の社会性と文化性を自らの身体で解き明かす社会学的物語だ。」

と紹介いただきました。

中央公論2017年12月号書評 に続くメジャー媒体進出。

20171228_234716

といって、紹介部はこの1行だけなのだけど、他の名著たちと扱いも同じ。

9月末発行でAmazon品切れが続くような本が、社会学、という巨大カテゴリーでの年間まとめの21冊の1つに滑り込めたのは、われながら、すごい。

好井先生の書評は、淡々と一冊一行で紹介し続けるシンプルなものだけど、この本は何であるか、という語彙力と認定力が凄い。引用すると、

著者の思いもあふれ出る見事な絵巻物的社会誌

語りから論じるオーソドックスな社会学研究書

広汎な視野をもつ論集

「分厚い」エスノグラフィーの秀作

一人称の社会学

手紙

・・・以下省略。これらの中で、社会学的物語、とはなるほど的確だなあと感心した。

毎年恒例のシリーズで、2016年 では共著者であり指導教官の田中研之輔教授『『都市に刻む軌跡』が

「当事者の人生や社会階層まで切り込んだスケートボーダーのエスノグラフィー。都市下位文化をめぐる秀逸なモノグラフだ。」

と紹介されている。2年連続。

そして出たばかりの『ルポ 不法移民』(岩波新書)

は来年まとめの有力候補になるだろう。

師に恵まれ、今の僕にできる最高のチームで送り出せたのが、『覚醒せよ、わが身体―トライアスリートのエスノグラフィー』(ハーベスト社)です。


こちら ↑ 楽天ショップはアマゾンと違って在庫あった(12/28時点)←翌朝みたらご注文いただけない商品になってしまい再入荷のお知らせメール登録。。

2017年12月24日 (日)

【図解物理学】 ランニングの上下動はパワー源 〜大迫傑ver.

手軽に計測できるようになったランニング上下動データだけど、少なければ良いってもんじゃないってことを、今回は奥井識仁医師の「重力の10%をランニングのものにせよ」  との12/12Facebook投稿をベースに、ハッタリくんクオリティで解説してみよう。

モデルはNIKE公式動画の大迫傑選手、3−5秒あたりだ。


一歩を4枚に(3つめを後から追加して補正してないので背景色が微妙に違う)
20171224_122815_2

パワポで一枚に纏めた:

20171224_155109

先に結論を書いておこう。

  1. 3つめまでは重力による「沈み込みのエネルギー」が効いている
  2. 上下動が一切ない走りは、このエネルギーを活かすことができない

この仕組みを解説するのが、2007年発表の元論文 "Runners do not push off the ground but fall forwards via a gravitational torque"

東大医学部出身の奥井医師が難しいという説明、文系人間の僕はしっかり読んでなくて、間違いあればご指摘いただきたい。以下は僕なりのざっくり理解だ。

 

<しくみ>

まず、「長さ165cm重さ62kgの丸太」をイメージしてみよう。数字は僕の身長体重なので、アナタので置き換えてね。これを、後ろから前に倒す時、何がおきるか?

その物理学的解説がこの図:20171224_134034(大迫写真とは左右逆)

  1. 母指球(ball of the foot)を回転軸(axis of rotation)として
  2. 身体の重心(centre of mass)に重力(gravitational force)がかかり
  3. 前転力(torque)として発揮される

脚とは支点であり支柱であるということ。その支柱の上を、重心が追い越してゆく。大迫写真では1-2枚目。

この追い越しの瞬間に、重心は下方向に向かう。沈み込みのエネルギーだ。このベクトルと、前方向への慣性力が合成されれば、前方向への力の総量は増える。これは蹴る直前のタイミングで、この時、重心位置は最低レベルだろう。
その力を活かしているのが、大迫2-3枚目。

そして4枚目でこれら力を受け止め、キック動作により、重心を再び上に投げ上げている。さすがは大迫選手、高い。この高さ=上下動の大きさが、次の一歩のエネルギー源となるわけだ。

言い換えれば、上下動ゼロのランニングフォームは、このパワーを使えていない非効率な走りというわけだ。

 

<ピッチとストライドの関係>

投擲競技では、遠くに飛ばそうとすれば、ある程度の角度をつけて高く飛ばす必要がある。「一歩」の原理は同じこと。

ただランニングでは、歩数を増やす、という手法が追加される。低く飛ぶことで、ストライドは減るが、上下動を減らす、というアプローチだ。これには一定の効果はあるのだが、ピッチを増やすとは、今度は「左右(水平方向)の回転動作の慣性力」がロスになってゆく。(これ説明必要?)そしてこの水平ロスは上下動と違ってパワーを産まない純粋なロスとなる。

結果、ほどほどな最適レベルに落ち着くというわけだ。


<上下動がロスになる場合>

念のため、ここでの説明は「上下動データとかに意味がない」とは一切言っていないので。当然ながら、推進力につながらない過剰な上下動はありうる。たとえば膝が曲がりすぎるなど。そこを突き止める目的なら活用余地があるだろう。

実際、それを活かしているよと言ってる方は豊富な知識と考察力をお持ちであって、データだけに頼った改善はしていない場合が多いと思う。

まず必要なのは、原理を理解すること。そして考える。データはその無数にある手がかりの1つだ。

 

<ちなみにフォアフット走法との関係>

大迫選手の4枚目は、フォアフット着地によるアキレス腱の反発力でジャンプしてゆくイメージだろう。
僕だとせいぜい1km3:35くらいがスイートスポット(トライアスロンのランパート10km36分ほどの場合)で、この走りだとジャンプ感はなく、ただ「振り子イメージ」の慣性力を連続させてると思う。

ちなみに上記1、「母指球(ball of the foot)を回転軸(axis of rotation)とする」との点は、フォアフット走法の物理学的な原理の1つを示してもいそうだ。回転軸上にダイレクト着地することは、たとえば自転車のタイヤでいえば、路面接地面積を減らす=路面摩擦抵抗を減らすような効果があるのかもしれない。(まあそれよりも生理学的な効果が良くも悪くも大きいのだろうけど)

 

<練習方法>

緩い下りを走ろう。沈み込みの力をより強く感じることができるから。

着地衝撃を和らげるために、芝生がベスト。まさに砧公園。

 

ランニングとは結局、「着地点と重心」との相互作用。

 

・・・

<おしらせ>
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なお12月ほぼ全期間欠品(チョーツカエネorz...アマゾンさんですがレビュー投稿歓迎ですwww.amazon.co.jp/dp/4863390920

アマゾンで買ってなくても、たしか合計5,000円以上の購入実績あれば投稿可能。 


2017年12月23日 (土)

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写真は代官山の蔦屋書店。
スポーツ書ランニングコーナーが『覚醒』済み。
先日訪問した際の店員さんとの会話:

8 「ども著者です」
つ 「あー担当がヨソ行ってましてー。売れてますか?」
8 「はい、でもアマゾンが欠品補充してくれなくて、リアル書店が頼りなんですー。かれらもう紙の本は興味ないすねー」
つ 「そーなんですよ、自らそう発表されてますし」
8 「でもみなさん変わらずそこで買いたがりますよね・・・」

そうなんです、アマゾンさんは総合小売業であって(紙の)書籍販売事業にはもう意欲ありません。「ロングテール理論」なんて大昔の話です。お求めの方はそれ以外をあたってくださいね。丸善&ジュンク堂、紀伊国屋、ツタヤに在庫あります。
なお、上記SPIKEショップは来月いっぱいで一旦休止予定、今のうちに!

2017年12月10日 (日)

川内優輝のグローバル行動力 〜プロアスリートの世界視野について

「川内優輝はなぜ海外連戦ができるのか? お金をかけず、賢く転戦する仕組み」 とスポーツナビ2017年12月7日のインタビュー記事。タイトル通り、彼の海外レースのマネジメントが説明されている。

 

<スーパー・グローバルな川内選手>

初マラソンの別府大分毎日2009以降、76のフルマラソンを走り、うち海外は33=4割超。初期は市民マラソン入賞ご褒美の海外レース派遣を狙っていたというのがかわいいのだが、日本代表で世界選手権に出た後の2012年デュッセルドルフから、海外大会側から招待されるようになる。

直近3年のベストタイム2時間10分切りで最高位の「ゴールドラベル」を保持。このレベルのアフリカ以外の選手は世界的に希少だ。のみならず圧倒的な完走回数、さらに好記録の数も多い。東アフリカ系選手は賞金をでっかく稼ぐ必要があり、コンディションとレース展開から勝負に絡めなくなると、さっさと棄権することが多い。川内さんは趣味(とトレーニングの一環)なので、毎回それなりにがんばるので、良い記録が出やすい。

おまけにフルタイム公務員。世界のランニングファンに知名度が高く、格の高い大会が欲しがるグローバルなランナーの1人だ。

往復の飛行機代と宿泊代(+たぶん滞在中の食費含む全てのコスト)を出してもらうまでは公務員の副業禁止規定でも問題ないようだ。それでも大会側にとっては出走料を払わずに済むわけで、二度美味しい😁

書かれてないけど、おそらくはエージェントにとっては、この出走ギャラに相当する部分をそのまま手数料として取れて、それでもクライアントKawauchiの利益を一切害さないわけで、商材(?)としても美味しい😁😁

 

<スーパー・ドメスティックな実業団チーム>

もう一つの注目は、この2ページの後半。
実業団系のランナー&マネジメント陣が、川内優輝選手と、これらの情報交換をしていない(というより、「教えて」と言えてない)ことが推察されるのだ。

なぜそうしないのか?と推測すると(あくまでも一般論ですが)
1.グローバル方面への興味が薄い
2.プロからアマチュアに対して「教えて」といいたくない

2.はブラックジョークなんだけど、1.は大きいんだろう。
実業団はどうしても駅伝を重視せざるをえず、マラソンは出るならTV中継される国内主要大会で露出したいはず。実業団というビジネスモデルにおいてはそれが正しく、一概に視野が狭い等々批判するつもりはない。

しかし、世界で戦うための競技力育成としては、また別だ。

この環境の中では、国内最高峰であるはずのニューイヤー駅伝には短距離1区間だけいう排他的なガイジン枠が存在し、世界と戦う気がさらさらないことを堂々と示している。(高校のような選手獲得競争が心配だというならともかく)

そして選手も大会で「日本人1位」であることを(実質)最高の目標としている。

そんな環境だ。

 

<スーパー・アスリートを作る環境>

スポーツで世界レベルで戦うためには、世界の最適地で、その空気感のようなものを吸収する、環境要因が重要になっていると思う。競争が激化し、競技レベルが上がるほど、その傾向は加速するだろう。 

福岡国際マラソン2017は、ある意味、伝統のケニア高地合宿所(モーエン)vs. 新興NIKEオレゴン(大迫傑)という世界の二大ランナー産地の地域対決だった。

川内選手は、練習環境こそ(かなり)劣るものの、これら海外レース経験を、特徴であるタフな勝負強さにつなげているように思う。それによって練習量では圧倒されるプロランナー達と対等に勝負し、何度も勝ってきた。

いやそれとも、駒沢公園という環境は実は世界トップに迫るほどの最適地なのか?😁

とギャグで書いてみたのだが、あらためて考えてみると、川内さんはそこで常に「見られている」ことで、集中力を自動的に高めることができる、さらに「市民ランナー代表としての意識」を毎度確認もできていそうだ。

そんなメンタル面のメリットは、彼にとっての「世界トップに迫るための環境」になっているのだろう。

一方で、日本のトップ長距離ランナーにとって、実業団というビジネスモデルは国内でプロ活動をするためにとにかく現実的。その枠内で活動する限りは、世界転戦は難しいだろう。
 
でも個人として資金源を獲得し、エージェントなどふさわしいチームを組めるのなら、世界規模で活動する道が拓けてきた。大迫選手はその最高の例だ。その方面での一手段を紹介しているのが、この川内選手インタビューだ。

あらゆる競技において、プロとして世界レベルで競うのなら、視野をグローバルに拡げ、また活動地も拡げてゆくことは、これからの大きな流れになるだろう。特に2020年の五輪終了後にはなおさらだ。

日本の実業団という環境が恵まれているのは間違いない。ただ世界規模で見た場合に、そのための最適地であったのは、1960年代〜90年代くらいまでの、おおよそ30年間だったかなと思う。まさに1 generation。経営の世界では「会社の寿命は30年」という格言もある。この経験則は極めて強力なもの、関係者が数十万人にもなるような超優良企業すら消滅させてきたほどのものだ。そこから逃れるためには、それなりの変革は必要だ。

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ローカル県職員な川内優輝の(意外な)グローバル性と、グローバル企業の多い実業団の(実はの)ドメスティック性。対照的な両者それぞれに合理性はある。TOKYO2020までは日本国内に特殊な風が吹いていて、国内基盤であることの経済的&社会的な合理性もある。

風が去った秋に、景色はどうなっているか。そして競技力を高めるために必要な「世界の中での最適地」は、その時どこだろうか。そこに日本は含まれているだろうか。

<市民アスリートとしての幸福最大化を目指すなら>

ちなみに市民アスリートの場合、マラソン海外レースは、トライアスロンで世界選手権KONA出場を目指す場合と比べて、圧倒的に低コストだ。KONA分の予算(年間50万円でたりないかな)がもしも確保できるのなら、年に何度も海外レースを走ることができてオトク、ともいえる?

写真は2013年10月KONA、レーズ前の国別パレードより。


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2017年12月 8日 (金)

NIKE ズーム&ヴェイパーフライについての7つの仮説

話題の NIKE ヴェイパーフライ 4% & ズームフライ について、まずは過剰な反応を排し、このあたり意識して観察しとけばいいかな、という7つの「仮説」を書いておく。

  1. 福岡国際マラソン2017での上位独占はじめ、世界トップレベルの大会での好成績が目立つのは、NIKE社のマーケティング戦略による「見せ方」が効いている。五輪翌年の手薄なマラソンシーズン序盤に有力選手を集中してぶつける作戦
  2. とはいえ、BREAKING2.0、モーエンなどの新記録は大きく、「何か」はありそうだ
  3. 何か、とは? 世界トップレベルのランナーでは、中盤までの "省エネモード" でのエコ性能を上げているのかもしれない
  4. 高速&短め距離では、合いにくいかな?
  5. フルマラソン3時間前後レベルの市民ランナーでは、「目標レースペースから疲労で少し落ちた状態」と相性よさそう
  6. 長距離トライアスロンでは、トッププロ、一般市民、ともに不明
  7. 「シューズのドーピング」といえるほどの性能があるのか不明

なお僕は試着も実物を見たこともなく、ネット情報を僕なりに整理したに留まることをお断りしとく。その程度の文章なんだけどそれでよければ以下、仮説の背景(=根拠とまではいわない)を説明しよう。なにしろ僕は「ハッタリくん」の名で知られる者だ😁

 

1.上位独占

たとえば福岡国際マラソン2017で、NIKEスポンサー組と同等以上に実績ある有力ランナーどれだけいたっけ? (私ランニング無知なんですが) 普通に実力を出せばそうなる、という状況を作り、強烈な初期イメージを焼き付けるマネジメントの成功は大きいと思う。

 

2.新記録たち

とはいえ。

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Breaking2については、5月に僕のブログ 「キプチョゲ2時間切りまであと26秒! NIKE ”Breaking2” プロジェクト」 で書いた通り、閉鎖されたサーキット内で、空気抵抗を十分に削減した環境設定の要因が大きい可能性がある。自転車レースであれば、時速20kmであの位置のクルマ(と天井の計時ボード)は強力な速度アップ効果がある。大型トラックの後ろの、後方から渦の巻き込みに背中を押された状態だ。またクルマは同時に正確なペースメーカーの役割も果たす。これらあいまって、精神的な負荷も下げて、つまり脳側のエネルギーも削減している。

これは、他社シューズで同じサーキットで空気抵抗削減システムを組んで、世界トップランナーに実験してもらわないと、検証しようがない。

モーエンについては、2つ前に 「マラソン欧州記録更新、ソンドレ・モーエン選手(とカノーバ コーチ)トレーニング説明は金言の宝庫!」  で書いたように、トレーニング方針や環境の要因がまずもって大きいと思う。その上で、個性あるシューズの特徴を活かした走りを修得したのも事実だろう。

それは大迫傑も同じくだ。

 

3.省エネ性能?

ここが、よくわからない。

「ランニング効率を平均4%高める」というのがNIKEの能書きなのだが、この指標には定義が示されていない。速くなる、とは一言も言っていない。まあ自転車の場合ならば、「同じ速度を4%低いパワー(watt)で走れる」といった意味あいだろうとは思われるのだが、どう計測したのか?

こんなときには、日本語では無理で、英語で検索する。たとえば "vaporfly running economy " とグーグルさんに投げる。すると "CAN NIKE'S NEW MARATHON SHOES MAKE YOU FASTER? A NIKE-FUNDED STUDY SAYS YES"  など新しい記事が出てくれる。「ランニングエコノミー」、つまり同速度で走る場合の酸素摂取量が基準のようだ。だが、具体的な実験状況は不明。どんなランナーが、どの速さで走ったのか?

そもそもが”NIKE-FUNDED STUDY”だ。実験素材はNIKEからお金をもらったランナー。幾らもらってる人が、どこまで中立性を保ってトレッドミルを走ったのか?というツッコミも不可能ともいえない。(※同じことは自転車の空力測定でもいえる)

「このシューズのおかげで、レース中はすごく 余裕を持って力を貯められた。」という大迫傑選手のNIKEサイトでのコメントが、まあ唯一の手がかりといえる。「証言者の中立性が担保されない質的調査」ではあるが笑。「反発力」「軽い」などは、他社のシューズでもよく聞かれる常套句だ。

 

4.速さ?

自転車的にいえば、パワーをかければ速くなるが、脚を使う。シューズ側の反発力が強い、とNIKEはうたうが、その反発力は同時に脚にも来て、消耗させそうな気もする。

実際の声として、ランが超強いエリート・トライアスリート三須龍一郎選手(明治大)は、

「足がフワフワしちゃって空回りしてる感じ」

「トライアスロンになら薄底シューズの方がいいというのが自分の感想」

と10kmでのトライアスロンRunには合わない、という結論だ。

同じくラン強エリートのプロ・トライアスリート阿部有希選手は、10kmのラン大会での好感触を得て、

今までよりもスピードが上がる!! というよりも今までのスピードが楽に出る!!という感覚。

決して速くするシューズではなく 少しでも楽をさせるためのシューズ

と表現する。

阿部選手の現時点での結論:

「自分のような大型の選手(181cm 72kg)に向いている気がします。マラソン界では大型であるほどランニングエコノミーが低い(燃費が悪い)・・・ランニングエコノミーの向上という恩恵を1番受けられるのが、もともと低い大型な人間なのかなーと。」

そそられる?😁

 

5.市民ランナー

「ウルトラプロジェクト」主催の新澤さんは 「12/1  織田16000m   ナイキズームフライの履き心地」  で、

「多少重たいけど、今日の疲労感のある状態で、4’30/kmを切るくらいのペースならジョグのように楽に身体が進みました。」

と、むしろ反スピード、な状況において好意的。これ系のは他にも聞く。

 

6.トライアスロン

上記5.からは、わりと合うかも?というのがどちらかといえばな仮説。

この点には実績があり、"Newton"や"On"などテコ系の仕掛けをソールに施したシューズの人気は根強くて、実はそう新しい話でもない。

ちなみに、アイアンマン世界選手権での使用実績、2017年の1位は常識を越えた厚底のHOKAが18%、Onは7%に伸び7位、Newtonは一時10%を越えていたのがやや落ち着いて9位。ミズノはその下だ。

 

7.道具のドーピング?

基本懐疑的。ソールの仕掛けには、"Newton"や"On"など先行事例が多いから。

たとえば、アイアンマン世界選手権KONA、2016年にランパート新記録を作ったドイツのpatrik LangeはNewtonで2時間40分、2017年はNewblanceのオーソドックスなシューズに換えて記録ほぼ同じだ。シューズの個性は大きく変わったはずなのだが、そんなもんだろうと思う。

一方で、カーボン素材を本格的に使ってきたことは、これまでにない注目要素であるのは前に書いた通りでもある。そしてここに性能アップの未知の領域がある可能性も否定できない。

「厚底」はHOKAが先行し、「テコ的な原理」はNewtonやOnが先行する。「カーボンプレート」も短距離の決戦一発兵器としての例もある。ただし、全てを組み合わせ、調整を究めたことによって、カーボン性能を引き出したのかもしれない、ということだ。

他社が追従し、そしてランニング市場全体が動く可能性すら高いと思う。

競技自転車はカーボン化することで高価格化したが、多様性を拡げ、市場を拡大した。同じことがランニングでも起きると予想できるかもしれない。

以上が7つの仮説。

 

活かし方:ズームフライ編

阿部選手レビューで、「楽」を引き出すための走り方は:

  • 上半身と下半身を上手く連動させ
  • 腕振りではなく、「肩振り」イメージによる「骨盤との連動」
  • 着地とその連動のタイミングを合わせる
  • 蹴らずに、着地後ハムストリングと臀部を上手く使ってスライドさせるイメージ

新澤さんレビューでは

走り方はシンプルで上体の真下で接地したら、乗り込むだけ。爪先側が沈み踵が浮くのでスムーズな重心移動を勝手にしてくれます。

なお耐用距離150kmというヴェイパーフライでの知人(=競技力などが想像つく人)による使用実績はありませーん。

 

事例:福岡国際マラソン2017

福岡のモーエンのレース展開とは、30kmまではペースメーカーと集団とについての1km3:00ペースの省エネ走、そこまでで十分に脚を残し、ペースメーカーが離れた30kmから1km2:56ペースに切り替え、残していたパワーをつぎ込んでいる。
上記の仮説からは、前半30kmまでは(もしかしたら)シューズ性能も活かしながら省エネ走を徹底し、終盤のスピード走では(あまりシューズ効果に頼らない感じで)自力でがんばった、といったイメージ仮説になるかな。

それよりも、ケニアでのカノーバコーチの指導によるトレーニングが、こうした切り替えの成功要因としてより大きいとは思う。これらの話はまた改めて。

 

ついでに:「36km以降に落ちる説」について

ブログ「月間走行距離なんて知りません」の 「福岡国際マラソンで躍進したナイキとマラソンの未来」 (2017年12月3日)との記事で、「レース終盤、36km以降にスピードが大きく落ちる可能性がある」との見立てが示されている。

これも一つの見方ではあるけど、レース結果だけをみて、その因果関係を全てシューズのせいにしたロジックに陥ってもいるかな。具体的には、

  • 福岡国際マラソンでモーエンは成功した、という強力な反例が存在する
  • 失敗例では、4位カロキは1位モーエンに勝負をかけたから、3位大迫も一度勝負に乗ろうとしたから、とレース展開上の理由がある
  • BREAKING2.0は、2時間切り大前提でのペース設定が微妙に速かった、ペース配分の問題

と反証可能だ。

ランニングにかぎらず耐久レースの問題の多くは、結局のところは、ペース配分の問題に収まるものだ。

 

全ては仮説である 

これらが正しいか間違っているか、は問題ではない。全ては仮説であり、それによって考えを整理し、深めるための手がかりだ。もしもなにかにピンと来た方いたら各自検証いただければいい。結局は自分にとっての妥当解を探るしかないのがスポーツの器材であり各種手法であり。

・・・

市民ランナーレベルでなら、自分なりに考えて良質の練習をすることでしょうよ。

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こちらは2010年、トライアスロンデビューにあたり20年ぶりにランニングというものをしてみた時の練習シューズ、20年間実家の倉庫に眠っていた(よく残ってたな)ASICS。たしか翌年にソールがバラバラになって永眠された。僕はこれくらいのを砧公園のクロスカントリーコースで専用機にしとります。

とはいえ走ってる途中にソールが分解するのもなんなので、もっとマトモなのがいい方には、これ系のがいいんじゃないか、と前記事でなんとなく挙げてみたTeslaシューズ、実はコアなトレイル系ランナーの一部に強いファンがいると後で教えてもらった😁

 

サイバーマンデーで12/11まで1,980円❗ ←『ランニングサイエンス』は今読んでる良書。普通のランナーにとっては決定版に近い。値段は高いけど、その分所有欲が充たされ、インテリアにもGood!

2017年12月 6日 (水)

「つま先着地」という誤表現 ・・・わかりやすいもののリスクについて

福岡国際マラソン2017、世界の陸上史を刻むモーエン選手の大記録をまのあたりにした翌日の、主催の大手新聞社系列のスポーツ紙サイト陸上カテゴリ記事一覧がこちら:

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最優先は箱根スター組(代表が大迫)、カウンターの川内&一般参加の非箱根組、て構図。
視点を変えれば、 世 界 に は 一 切 興 味 な し 。
オリンピックの後だけ「世界で戦えない」とか騒いでみても、1年たてば平常運転、いつものニッポンに戻る笑。
 
その3つめ「陸王あらわる!」て記事(だいたいなんで陸王なんだよ笑)に、「アフリカ勢が主体の爪先から地面につく走法」なんて表現があった。
 
しかし、つま先で着地するランナーなんてインテリの妄想の中にしか存在しない。
 
新聞TVが「つま先着地」と表現するのは、好意的に解釈するならば、その方が素人にとってわかりやすい説明だから。かれらマス媒体の客は多数の素人層であって、少数奇行種であるアスリート側ではない。自分の商売をよくわかっている。
 
これは人と状況とによる話でもあり、たとえば「足には、カカト、土踏まず、つま先の3箇所しかない」と世界を認識してる人にとっては、それは現実を正解に伝える表現といえる。だが、ランナーはそうではない。

ランナー側にできることは、多数派に流されず、自分に必要な情報は自分で探りあてることだ。
 
 
<フォアフットの真実>
現実にランナーが着地している「フォアフット」とは
  • 前後位置: 足底アーチ前側=拇指球のライン上の
  • 左右位置: 外側=小指側のエッジ部
であって、「つま先」=Toeではありえない。「つま先寄り」なら間違いではないが、今度は意味不明になる。でもTV局にとっては、そんな説明ややこしくて使えないわけだ。
 
例えばパトリック・マカウ選手、右接地の瞬間
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左着地の直前
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(2012NHKスペシャルより)
 
動画スローみると、遊脚を前に伸ばしたあたりで、足の外側を伸ばすように、2枚目では足裏がこちら側から見えるような、外から内に巻いてくるような動作がある。
 
福岡2017では、朝日新聞のこの公式写真→  http://www.asahi.com/articles/photo/AS20171203001105.html の大迫(no27), カロキ(no21)がわかりやすい
彼らはアキレス腱を縮めて接地し、かかとに体重をかけないことでアキレス腱への荷重を強め、その反発を引き出して、筋消費を抑えるらしい。
 
と書けばわかるだろう。下手に真似すればアキレス腱や足底筋膜を傷めるリスクが高いことを。腱はトレーニングで大きく鍛えることはできず(※ある程度の強化効果はある)、できるのは、傷めないよう気を使うくらいだ。
 
さらに問題となりそうなのは、「つま先意識」で走ると、逆に内側エッジを接地させがちかもしれない。自然にその動作が引き出されたのでない限り、それはアタマで作った不自然なネジリ動作であるわけで、これでガチに練習して故障しない方がおかしい。
 
2つめの画像の通り、多くのケニア選手のふくらはぎは細く、特に下側からの腱が長くて、上側からの筋肉量が少ない。長い腱はそれだけ強い反発力を生むことができる。この身体的特徴を活かした走り方でもあるそうだ。
 
 
<大迫傑選手>
大迫で注目すべきは接地ではなくて、外エッジ意識によってひきおこされる 全 身 の 連 動 性 だと思う。これは2時間8分までの日本人選手には見られないものだ。
 
大迫選手自身が言っているのは、たとえば
 
「かかとをつくことはあまりない」
 
「接地のポイントを意識するよりも、上体を起こさないようにしています。前傾をかけるように意識すると、うまく足が回るかな、と感じていて。多分それで接地もうまくいっているのだと思います」 
 
 
ということ。
つまり、全体動作の結果として、末端が(たまたま)そう動いた、というだけだ。
 
 
<フォアフットは「唯一解」ではない>
モーエン(福岡のno5)は、伝統的な白人ランナーのフォームをそのまんま継承しているような印象も受ける。着地スタイルでいえば、ミッドフット型だろう。足のセンター=中指ラインに沿って遊脚をまっすぐ前に出し、その結果カカトから接地へ向かう雰囲気だ。
 
つまり、モーエンはケニア生活をしながらも、フォームをケニア流に変えたわけではなくて、適応させたのは 練 習 環 境 に対して、ということだ。
 
細い足首からの長い腱がない(=ケニア系のぞく普通の人間)ならばないなりに、そんな足を活かす走り方を探ればいいという見本だ。
 
どんなスポーツでも、フォームに正解はない。自由度が極めて高い水泳 (=体重を支える支点が存在しないから)の最速フォームがオリンピックの度に変わってゆくのは好例だ。長距離ランニングでも例外ではない、ということだろう。
 
ただ、ケニア系があまりにも速かったので、そしてのそのカカトを浮かせ気味なカタチという「見えやすいもの」があまりにも明確だったので、そこに目が集まったというだけで。
 
 
<結論>
ぱっと見わかりやすいものを盲信しないほうがいい。
最新理論、フォーム、計測数値やグラフ、そんな罠はいくらでも転がっている。
一方で、「環境や集団の作る効果」といった目には見えないものは、軽視されやすい。 そこに注目したのがカノーバコーチとモーエン選手。
真に信じられるものは、自分の感覚。
それを証明するのは、自分で感じた結果だ。
 
・・・
 
<宣伝>
『覚醒せよ、わが身体。トライアスリートのエスノグラフィー』 Amazonでは12/4頃から安定の欠品開始。紙の本なんてもう今のかれらの戦略上にないんだろう。本=アマゾンなんてイメージも、盲信しないほうがいいかもね。
丸善&ジュンク堂グループが確実→ https://honto.jp/netstore/pd-store_0628702228.html リアル店舗では、丸の内丸善本店、池袋ジュンク堂本店、新宿紀伊国屋本店、と主要店にて平積み販売中、関東では渋谷吉祥寺藤沢大宮松戸等等&地方拠点都市のお店の棚にもあります(11月末時点)
 
 
ちなみに最新シューズがどうのこうの考えるより、まずは超安いペラペラな靴とかで起伏あるオフロードを走るのが一番速くなると思う。
上のは、僕は使ってないけど、イメージそんな感じだなと載せてみたら、実はコアな裸足ランナー御用達らしい。
 
僕の専用シューズは、2010〜2011年購入のMIZUNO薄底軽量レース用の、廃棄レベルにボロボロになったの。激戦のJTUランキングレースから引退し余生をのどかな砧公園で過ごされておる😁

2017年12月 3日 (日)

マラソン欧州記録更新、ソンドレ・モーエン選手(とカノーバ コーチ)トレーニング説明は金言の宝庫!

福岡国際マラソン2017、リオ五輪から1年経ち、TOKYO2020に向けた世界レベルでの変化の兆しが現れたかもしれない。

  1. 欧州選手によるケニア流への適応
  2. 市販シューズでのカーボン素材の使用本格化

の2点、とくに1つめは大注目だ。

優勝タイムは2:05:48、ノルウェーの26歳ソンドレ・モーエン (Sondre Nordstad Moen ←wikiノルウェー版のGoogle英訳)。欧州記録のみならず、アフリカ生まれ以外で史上初の2時間5分台の公認記録。歴史を刻む偉業だ。

wikiによれば178cm62kg、ノルウェーでは低いほうかもだけど日本人比では長身。胴体をロックさせて長い脚&腕を機能させる走法は、ジョーゲンセンやフロデノ(←トライアスロン選手です)とも通じる。上体の前傾も大きめかな。腹筋&背筋をかなり鍛えているのかなと思った。ただし器具を使うタイプの筋トレは行っていない。(後述)
 
 
<欧州選手によるケニア流への適応>
リオ五輪マラソンで19位になった後で担当コーチが廃業し、2016年10月以降ケニア在住イタリア人コーチ、レナート・カノーバの指導を受け急成長、2017/10/22バレンシアハーフで欧州歴代2位の59:48を出し、6週後に福岡でこの記録だ。
 
ケニアの高地で安宿で自炊しながら長期合宿を繰り返しているようだ。 インスタ https://www.instagram.com/sondrenmoen/ に赤茶けた大地を走る動画など載ってる。

 
練習内容について、アメリカ "LetsRun.com" 掲示板にカノーバコーチが10月末から幾つか書いている。http://www.letsrun.com/forum/flat_read.php?thread=8495930&page=4 から3ページくらい。その要約が日本版の "LETSRUN.COM JAPAN" ブログに掲載。
 
 
これが金言の宝庫なのだ。
以下、八田なりに少々整理して紹介しよう。
 
 
<カノーバコーチの基本思想>
  1. アフリカ選手の優位性は遺伝ではなく、練習の雰囲気やトレーニング条件の違い。高地、大きなトレーニング集団、精神的限界を作らない、身体の感覚を重視する
  2. トレーニングとは、刺激に対する身体の反応
  3. 刺激とは、量と強度の2方向だけ
  4. 選手のキャリアを通して、高い質で量を増やす=つまり両方必要
  5. こうして徐々に段階を踏めば、これまで不可能だった事を当たり前にすることができる
  6. マラソン選手にウエイトトレーニング(器具〜おそらくバーベル・ダンベル含めて〜を使って収縮性繊維を鍛えるもの)はしない。コアと反応性を鍛えるためのバウンディングなど弾性繊維を鍛えるトレーニングはしてる模様
  7. フラットな場所だけで練習するなら、それ以上のトレーニングが別に必要 (ケニアは起伏豊富なので他人事として言っているっぽい)
  8. 可動域を拡げる動的ストレッチはするが、静的ストレッチは反応性を低下させるので時間を使わない
  9. サプリメント使わない、例外はエネルギー補給用のマルトデキストリン
 
<モーエン選手への指導方針>
  1. 基本目標は中距離のスピード改善。トップレベルのマラソン選手として育成することを視野には入れつつも
  2. この1年間で高地トレーニングが累計217日間。血液値がケニア人ランナーに近づいてきた (※たぶんヘモグロビンなど増加している)
  3. 80~100m×10の上り坂のスプリントトレーニングは週1〜2回
  4. 食生活: 主にパスタや米、野菜や果物をたくさん。肉や卵の動物性たんぱく質はあまり摂らず、牛乳だけはよく飲んでいる
  5. 睡眠: 毎日8~9時間の睡眠をとり、昼食後、午後練前に1時間の休憩も
 
八田の私見として、基本思想4.は「選手のキャリアを通して」という点が重要。トップレベルでは質と量は両方必要だが、それはキャリアを通じて=年単位で実現すればよいこと。同時に両方を追求するわけではないということ。
 
指導方針1.について、上記「②練習メニュー詳細」をみると、数百m〜3kmくらいでのインターバル、変化走、ファルトレクなどが多い。これらは、「月間走行距離」やらいわゆるTSS=Total Stress Scoreやらの数値には表れないタイプの負荷を重視するものだ。
(ちなみに八田もファルトレク的な起伏走は結構やってきて、かつ月間走行距離を信用してません)
 
それでも、フルマラソンで成功できた、という事実に注目する。
 
※追記※
2017年12月4日
 
上記ブログの続報、レース後にカノーバが早速語っている。(相手がブロガーというのがおもしろい) 僕の注目は最後の、
 
「この1年間 ・・・ これまでのマラソンより1kmあたり10〜15秒ほど余裕を持てるようになった」 
 
との点。これが「マラソンを視野に入れた中距離重視トレーニング」の狙いであり成果だろう。短い距離が速くなれば、長距離の余裕になるのだ。
 
 
<ドーピングについて>
残念ながら1年で急に強くなる系の選手に付き纏うドーピング疑惑、カノーバ氏ははっきり書いていて興味深い。
  • ケニアでは、国内無名選手ならドーピング検査がマトモに実行されていなかった(だから摘発事例が最近多い)
  • ケニア選手でも、世界トップ選手では、IOCが入念にチェックする
  • 欧州では国内機関がちゃんとテストしており、特にノルウェーは反ドーピング機関が最も進歩している国の一つ
八田から注記しておくと、禁止リストにないグレーゾーンなクスリは当然存在し、その使用実態、そしてその効果は、謎だ。だが少なくとも、禁止リストの薬を使える立場にはないことを主張しており、それは実際その通りだと思う。
 
 
<大迫傑選手>
大迫選手も、今後の可能性も感じさせる良い結果。
(※あくまでも3位、なんらかの記録も更新しておらず、脇役レベルでの好活躍ではあるが)
そのフォームは、尻・骨盤・背中が柔らかく連動して大きく動いていると思う。体幹部は部位サイズが大きいから、一見して小さな動きでも、現実のパワーとしては「大きい」のだ。
このためのトレーニングとは、世間でよくあるタイプの「体幹を固める筋トレ」とは違う。
 
 
<川内優輝選手
川内は、途中で遅れて上げてくの定番の展開で、遅れるとTVに映り、上がるとまた映って二度美味しい。普通は先頭から遅れたらそれまでだけど川内はどこまであがれるか?と新たな興味を発生させる。
 
 
<中継が残念
ついでに書いとくと、テレ朝の中継、モーエンの5分台という記録の意味を全く解説できていない。単に大会記録との比較のみだ。レース後インタビューも日本人1位の2時間7分台の選手。モーエンはケニアで合宿までするノルウェー人、英語も話せんてことはないだろう。世界レベルでの偉業に対して、残念なことだ。
 
 
<NIKE Vaporfly 4%
もう1つの主役が、上位3名独占のシューズ、NIKEヴェイパーフライ。
カーボン素材は世のスポーツ用品にことごとく使われていながら、ランニングシューズ分野は、トラック短距離の超エリート向け特殊一発兵器を除いて、遅れてきた。ただ逆にいえば、採用は時間の問題でもあっただろう。その実現性は、カーボン繊維の性質・積載法・形状の調整の問題で、厚底化したのもその結果かもしれない。これらは微調整の連続的なことで、おそらくは特許とか取りにくいと思われ、今後主要メーカーが追従してゆく可能性は高い。
 
すると、Vaporflyでフルマラソン2-3回分の耐久性という一発価格が問題になりそうだけど、トライアスロン&自転車の決戦レースタイヤのような器材スポーツでの予算感を考えれば、実は、とんでもない価格感ではないともいえる。
 
耐久性の強いズームフライ含めて、しばらく品薄に拍車がかかりそうだ。
 
 
<フォアフット走法
Vapor & Zoom-flyでは、大迫のような「フォアフット着地」がとりわけ目立つ。大迫も他のアフリカ選手も、土踏まずよりは前&指より後ろの、外側サイドが先に接地している。だから「つま先着地」ではありえない。
 
こちら朝日新聞公式フォトがよくわかる→ http://www.asahi.com/articles/photo/AS20171203001105.html
 
先に接地、というだけで、最も重要な荷重ポイントでは、どのフォームでも基本は同じだ。
ただ、荷重ポイントの直前にアキレス腱あたりを縮めることで、その後の腱の反発を引き出す効果があるとの最新論文がある。腱をより使うわけで、大人が鍛えることは(ほぼ)できない部位なので、イキナリ真似をするのはリスクある。もちろん適応出来る人もいる。
 
モーエンは(ソール形状によるけど)基本ミッドフット着地。
20171203_220444(インスタより)
 
普通の大人ランナーにとって、基本は体重を使うこと、全身を使うこと。末端の動きは、試してみるのはよいことだが、こだわるものではない。このあたり考え方は、
に書いてるので、ご一読どうぞ。リアル書店では、丸善&ジュンク堂グループのサイト→ https://honto.jp/netstore/pd-store_0628702228.html から在庫検索が便利。11月末時点で、丸の内丸善本店、池袋ジュンク堂本店、新宿紀伊国屋本店、と主要グループ本店にて平台に積んで販売していただいております。
 
(体重活用の技法、もっと詳しい原稿も準備してみたいけどまだ先です) 

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『覚醒せよ、わが身体。〜トライアスリートのエスノグラフィー』

  • 初著作 2017年9月発売

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