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2016年3月10日 (木)

トライアスリート目線から見たシャラポワのドーピング問題

この問題は、今のドーピングの「微妙なイヤらしさ」が象徴的に表れていると思う。「3ヶ月前には "クリーン" であると "定義" された選手が、ルールにより "再定義" されて150億円を失う」というジェットコースター感だ。
 
世界の耐久スポーツ界、特に1990年代からの自転車や馬軍団(長距離走)など増血剤「EPO」まみれの分野では、「使ったもの勝ち、ただしバレない限り」(※たまに競技団体が隠蔽に協力してくれる場合あり)、なんて状況があった。他種目、例えばトライアスロンではどうかというと、情報=摘発事例がないからわからない、というほかない。
 
ドーピング薬は巨大市場である医療用に先に進化する。スポーツ界では極悪扱いの「EPO」なんて医学的には超普通で、そこらじゅうの病院にゴロゴロしてる。医者が一人で世界中の新薬情報をチェックし、効果ありそうなのをスポーツ目的でアドバイスする程度ならネットで簡単に始められるし、そこで顧客を捕まえてこっそり送るのも簡単。そもそもは合法なごく普通のクスリなのだから。それを取締側は、限られた予算内で後追いせざるをえない。今後もゼロになることはないだろう。
 
それでも包囲網は確実に狭まっており、その件数も影響度も小さくなっているとも思う。そのせめぎあいの中、オフサイドラインのように境界は明確に引かざるをえないが、その実態は曖昧なものだ。それにより巨額マネーの行き先が変わってしまう。シャラポワはまさにそう。
 
 
< メルドニウムの仕組み >
メルドニウム/meldoniumは、心臓病治療薬として1970年代(?)の旧ソ連(現ラトビア)で開発され、80年代アフガン戦争で兵士のストレス対策と疲労回復に広く使われた という。(この順は逆かもしれない=戦争薬として開発され心臓に効くぞと転用された的な)
アスリートが使えば耐久力とメンタルを向上できるという「副作用」があり、「ドーピング効果があるのに(まだ)禁止されていない美味しい薬」として、地元ロシア中心にいろんな種目で使われていた。
 
医学的には、脂肪活用を抑制し糖質をより多く活用する仕組みらしい。糖質は数十秒〜数十分間くらいで大きなエネルギーを出せるので、エンジンにターボチャージャーを付ける感じかな。以下は製薬会社による説明動画(英語)。
なお心筋について説明されており、骨格筋にどの程度あてはまるのか不明(というか私の英語力と医学知識の限界orz)、ただミトコンドリア代謝レベルなので共通性はある気がする。
糖質を大量消費するわけで、総カロリー消費の大きいトライアスロンやマラソン以上のランには、糖の供給(体内ストック+消化吸収フロー)が間に合わず不向きかと推測する。90分を超える耐久的な動作では、脂肪活用能力の方が重要だから、逆効果とも思える。(摘発されたアフリカのマラソンランナーは知ったのだろうか?)
 
だが、テニスや自転車集団走のように回復時間が多く挟まれる形態なら、その間に糖の再供給ができ、アクセルを踏んでいる間のパワーが上がるだろう。本来は脂肪エネルギー主体になるであろう数時間のゲーム終盤で、糖エネルギーを使えれば強い。
だとすれば、アイスダンスで摘発されたのも理解できる。長時間の練習で「数分間の集中力」を繰り返し維持出来るのなら、メリットが大きい。長時間練習の大きな副作用とは集中力の低下だから。これはテニスも同じ。
筋肉増強剤や増血剤では、能力の絶対値を増やすことができた。こっちは同じ能力レベルのままで、偏らせるだけの選択的なもの、という印象。効果はあるとしても、限られてもいるのではないだろうか。
Youtubeのコメントによると、1年のうち1ヶ月程度の連続服用を4回し=2/3の期間は服用しない仕組み。なにかしらの残留効果があるとも思われる。シャラポワはそれで検出された可能性もあるかな? 

ちなみにここのYoutubeコメントは少数ながら強烈で、 

" I know a couple of MTB guys who take it --- they say it really helps with their stamina. "
 
"I am a pro cyclist and I use Meldonium/Mildronate. Our whole team does. It has very calm side effects and we all notice improvements when out on the road."
 
そしてリンク先のFbページから「120錠149ドル送料無料」で世界中から買える。(この手の詐欺は多いけどね) 真偽はともかく、日本語だけ読んでると限界あるよね。  
 
< クリーンな選手、という曖昧さ >
確認しておくと、マリア・シャラポワ選手は2015年12月31日までは「クリーン」だった。世界のエリート・スポーツ界では「禁止リストに入っていないクスリ」は普通に使っていることを、欧州プロレーサー経験をふまえ土井雪広選手が「敗北のない競技」(2014)で証言している。それにどんな効果があろうともね。クリーンて一体なんだ?て話なんだけど、それが世界の現実であることは知っておかねばならない。
 
アスリートの使用率が異常に高いことをWADA(世界アンチドーピング機構)も掴んでおり、昨年9月に禁止薬物リストへ入れた。WADAによる最近の対ロシア包囲網の一環としての意味もあるかもしれない。その発効は今年1月1日。元旦の朝めざめたシャラポワは突如としてDoperへと変身したわけだ。カフカ的不条理。
 
彼女の「合法ドーピング」の目的は明らかだとは思う。心臓の治療「も」必要だったとしても、純粋にそれだけなら生活してるアメリカ西海岸には世界最高レベルの専門医が何人もいるはずだし、彼らがロシア近辺でしか認可されていないこのクスリを使うことはないだろう。そして、普通は数週間で止めるクスリを、彼女は10年間だ。
 
念のため、シャラポワは17歳でウィンブルドン制覇。服用は20歳頃の故障が出始めてからと言ってて、さすがにトラブルのない17歳でクスリに手を出さないと思うのでこれは真実だろう。テニスという競技の性質からも、こんなもん使わなくても十分に勝てるはずの選手だ。ただ、長時間のゲーム終盤に体と心を少しでも上げられるのなら有利なのも間違いない。不安の中から手を出したら効果を感じて、て経緯かな? 
 
それでも普通、去年までで服用は止めるはず。それに成功してれば相変わらず「クリーン」でいられたわけだ。
 
 
< なぜ発覚した? >
シャラポワの検査は今年1月26日。自転車カチューシャの選手は同14日のレース外での検査で摘発されている。このタイミングでロシア選手に検査するのは、ロシアの組織的問題もあったし、WADAが温めていた計画に違いない。狙い通りに速攻勝利。
 
2015以前のも再検査し公表してほしいものだけど、それは法的に難しいんだろうな。過去に遡っての実名での情報公開があれば抑止力になるはずなんっだけどね。
 
ここで謎なのは、使ってる側の無策ぶりだ。禁止直後は最も警戒するはずなのに、スピードスケート、アイスダンス、自転車、マラソン、と同時多発に摘発されている。
 
シャラポワは「服用前に禁止リストを確認しなかった」と弁明してるけど、「4年間の資格停止処分を受けた場合、1億ポンドもの広告契約収入を失う」 という中での発言だ。日本では年初にベッキーさんも同様に大企業スポンサー収入を失わない目的での会見でハマってたけど、こっちは軽く数十倍だ。お金に変えられない「世界女王」としての名誉もある。「チーム・シャラポワ」は粗利だけで年間20億円以上を安定して稼ぎだす超優良企業なわけで、某国の自転車競技連盟のようなポカ をするとは思えない。
 
仮に、年が明けても飲んでたとすれば、担当者は無能過ぎる。(医療系チームはアメリカだが、薬物調達の「ロシア・ルート」が別に存在し、その担当者がウォッカのみながらWADAの告知メールを削除してた的な)
 
この点、WADAの元会長は「言葉にできないほど無思慮だ」 と語っている。このインタビュー内容はいちいち的確。原文は “reckless beyond description” かな。「説明不能なほどアホ」とは、「現実にはアホじゃない=故意犯だよね」ということを欧州セレブらしくお上品に表現してる感。受験英語の「Too〜To構文」とか古文の「二重否定は強めの肯定」的な。
 
そこで「昨年内に服用を止めていた」と仮定すると、それでも検出されたのは、先に書いた残留効果である可能性があるかも。骨髄や内臓などに残ったり。ちなみに血液は入れ替わりに120日かかるそうだ(※メルドニウムは血液そのものを変えるわけではないが)。
 
使用者が多過ぎるから、中にうっかりしてたのもこれだけいた、という理由もありうるが。
 

< 社会の変化 >

もう1つ言えるのは、1990年代から比べて、取締が圧倒的に厳しくなっているということ。この主因は、検査技術や住所管理など手法(=馬軍団はこれで逃れた)の進化だろうけど、背景にスポンサーの変化もあると思う。

ないものとして見ないふりする態度から、リスク管理としての積極的排除へ。過去の大きな事件で結構なブランド毀損してそうな大企業も思い浮かぶ。ネットであっという間にプラス数字にマイナス符号が付いてしまう時代、最近のスポンサー社の対応はとにかく早い(下記ロイター記事参照)。予想されるリスクとしてシミュレーション済なんだろう。WADAへの資金提供も、できれば削りたい単なるコストから、広告活動に伴う「戦略的な保険料」のようなものに変わっているのではないだろうか。

凄い選手が表れると「やってるのか?」と疑ってしまうようでは、明らかに競技の魅力を、そして広告価値を損なう。

スポーツとシャラポワの広告価値について、ロイター記事では

  • スポーツのスポンサー・ビジネスは世界全体で投資額600億ドル(約6兆7500億円)
  • シャラポワのコート外収入は通算2億ドル以上

FT記事では

  • シャラポワ選手は、米誌フォーブスの世界で最も稼ぐ女性アスリートとして過去11年にわたって毎年1位を獲得
  • スポンサー契約料などで年間2000万ドル以上の収入を得ており、その数字は15年のテニス獲得賞金を上回る
  • フェイスブックに1500万人以上、ツイッターにはさらに200万人のフォロワー

と、ビッグビジネスぶりがよくわかる。これ以上カネあっても使い切れん気もするのは凡人の想像力の限界で、有名人さんたちは平気で100億円くらいを溶かして破産なされる。。マトモな人なら引退後に投資などで影響力を維持・拡大できるだろうし。

 

< シャラポワ選手について >

とここまで書いてもう一度確認しておくと、こうした状態は「3ヶ月前まではクリーンとされるもの」であったということ。そのクスリにどれだけの効果があるにせよ、シャラポワは服用前の17歳にウィンブルドンを優勝してる正真正銘の世界トップ選手。何らか復帰し、再び活躍してほしいと思う。

そして深刻な副作用が残らないことも祈る(どうやら、副作用の低いクスリであるようだが)。一般に、効果の強いドーピング薬物はかなりの高確率で深刻な健康被害を残している。たとえばEPO服用の自転車選手には性ホルモン系統のガンが多発している。

たぶん効果と健康被害は比例し、たいしたことないクスリならダメージもそうは大きくはないだろう。そしてドーピング対策が進むことで、強いクスリほど使いにくく、問題になるのは効果も弱いものになってゆく、その途中ではないかと思う。

 

< 僕らにとっての結論 >

だから僕らは、「観客として」は、そう悲観的に見ることもなく、幾らかの距離感を持って見ていればいいと思う。

そして「競技者として」の立場からは、結局効果の高いものとは、リカバリーには「睡眠」が最高だし、サプリメントなら野菜果物。競技中にパフォーマンスを上げられるとすれば、クエン酸、ココナッツオイル、最後にコーラ、等々、ごくアタリマエなもの。なにより練習!

  

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