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2016年1月13日 (水)

最新理論「クロール長距離はS字ストロークが速い」の解説と留意点

昨2016/1/12、筑波大学と東京工業大学がPopなタイトルのプレスリリースを発表し:

「S 字ストロークか?I 字ストロークか? 最適クロール泳法のメカニズムを解明」

早速今日1/13、朝日新聞に紹介されている:

クロール、速いのはS字?I字? 長年の論争に「答え」

その概略は:
  • 効率重視の中長距離では、S字ストロークにより、より少ないパワーで推進力を得ることができ
  • 効率より速度重視の短距離では、I字ストロークが速い
  • 2つの泳法は推進力発揮メカニズムが異なる
素晴らしい研究成果。ただしそれはあくまでも「理論研究」としてであって、僕のような一般スイマーを速くする「実践研究」ではない。いくら有名大学の研究が朝日新聞に載ってるからといって、「じゃあ長距離はS字で決まり!」的な反応は、短 絡 的 か も よ 、て話だ。その上で1つ結論を言っておくと、両方できるようになるべきだろう。I字で速ければS字でも速いし、その逆もまた真だが、I字で遅いスイマーがS字にかえて速くなることはない。トライアスロン3種目において秘密兵器など存在しないのだ。
 
 
<解説>
まず僕なりのざっくりな理解を書いておこう。(画像は筑波大の発表PDFより)
20160113_215018
上側はS字ストロークで、ストローク軌跡のカーブ部分で、そのカーブの外側に圧力の高い渦=青い丸が出来ている。下のI字では、腕の両側に渦ができる。
 
そもそも水泳とは、「渦の操作スキル」の競技だ。ストロークした腕の周囲に発生した「渦」が、抵抗となり、「杭」のように作用して、 腕をその位置に引きとめようとするから、身体全体が前に滑ってゆくのだ。いわばストロークとは、「水中への杭打ち作業」なのだ。
 
この研究で解明したのは、
  • S字ストロークでは、ストローク軌道のカーブの外側に大きな杭を1つ打っている
  • I字ストロークは、ストローク軌道の両側に、多数の杭を打ち続ける
のであり、そしてS字の方が、スピードとパワーを割り算した時の効率が高い、ということだ。
 
なお、定番教科書の高橋先生は、S字を古い泳法としつつ、「結果的に自然なS字になるだろう」くらいに書いている が、それは、「この原理が効かないタイプのS字」を指していると思われる。教科書には、トップスイマーの繊細な感覚までは書かないものだ。
 
なお、すいませんが英語論文まで読んでませんので。詳細を知りたい方はこちらからどうぞ→ http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/02640414.2015.1123284
 
 
<注意点>
まず一般論として、どのレベルのスイマーの話なの? と考えるべきだろう。それ次第では、「トップ層向きの理論を普通レベルがマネする弊害」がありうるから。フォアフット着地とか、幾らでも例はある。1km3分を切る走法であるフォアフットを、1km6分でマネするの?的なね。
 
次に、文章を逆に解釈すれば、この研究の成立条件がみえてくる。
  1. 水をかく向きが変わる瞬間に手首の周りに渦を作れること
  2. その結果、「渦対の発生による非定常揚力」とやらが十分に発生すること
の2ステップだ。
 
具体的には、下手にS字を意識すると、向きを変えた時に水を逃がして、遅くなりかねない。水を逃さずに渦を作らねばならない。でもそれはけっこー高度ではないかな?
 
いわば、ピケティ先生風に表現するならば、
 
本研究が前提とする動作 > あなたの現実の動作 
 
て事態であり、それに気づかないとスイマー格差が不可逆的に拡大的な。。
 
さらに、この実験の手法にも注意だ。
 
上記リリース文では、
 
「ヒトの泳動作を再現 できる水泳ロボットを用い、手部における流体力、圧力分布、流れ場の計測を行った研究成果(Takagi et al., 2014) をもとに検証を行いました。」
 
とある。あくまでも機械効率上の話だ。あなたはロボットのように理想的なS字ストロークができるか? もしできていれば、40代男子なら400m5分以上かかることはありえない。
 
S字プルで短距離の日本記録も出してたハギトモ選手は、そんな機械チックな泳ぎが出来ていたわけだな。天才はどうしたって天才。ハギトモ以外ハギトモじゃないの♪
 
<検証法>
実際どうか? と確かめるには、人体実験で検証するほかない。
S字ストロークで泳ぎながら、感じてみることだ:
  1. 最初アウトスイープからインスイープへの切り返しでは、小指の外側に、
  2. 次のインからアウトでは、親指の外側に、
  3. 渦を感じられるかどうか?
1.のポイントは、速いスイマーさん複数が、「小指の外側に水をひっかける」と表現している。その感覚が、強い渦ができ、身体が引っ張られている状態といえる。
 
 
<対応>
殆どの市民トライアスリートにとって、改善すべきはここではなく、もっと基本的な部分だと思う。まずは共通の基本を徹底すべきだろう。これまでI字で練習してきたのなら、それを改善し、その上で少しだけSも意識してみる、という手順を踏むべきだと思う。
まずは基本の徹底が9割。残り1割の範囲内でいろいろ試してみる、その1つのヒントとしてね。
 
以前にも書いたけど、どんな技法だろうが、速い人は速い。それは、こうした研究成果とされるものを、肌感覚として前から理解し使いこなせているからだ。後付けで理論だけ中途半端にとりいれようとしても、幼少期からの訓練を積んだ天才たちには及ばない。
 
 
<OWSでの応用>
以上ふまえ、どちらも使いこなせるようになるといい。そうすれば、
  • I字ストロークで高回転: 向い潮など高いパワーを要する場合、あるいは密集集団内で細かいボディコントロールが必要な場合
  • S字気味に大きくストローク: 追い潮、落ち着いた集団内など、ゆったりとスピードを出せる場合
という使い分けができるようになるから。
 
・・・
 
以上、突き放し気味な文ですが、、そうはならない正しいアプローチをこれからガンガンに出してゆくのでよろしく〜 (セミナーはFacebookの告知だけで満席が続いているので、気になる方はフォローくださいませ) 

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コメント

菊池さん、端的にいえば、
「科学者向けの研究であって、一般スイマー向けの研究ではない」
ということだと思います。

これはこれで、研究の世界では重要な成果でしょう。ただ、大学さんの魅力的なキャッチコピーと、大手新聞さんの素敵な見出しの記事によって、やや拡大解釈されている気がしますね。

実際のトップスイマーの動きは、4kテレビにも映らないような細かな動作で、「この研究でいうところのS字プル」と同じような効果をだしたり、てこともあるかもしれません。

なんにせよ、現場の信頼できる指導者さんは皆、気にしないでいいよ、と言ってますし。

今回の「S字プルが効率的」と云う研究には3つの疑問があります。

1. この研究ではI字プルについて、「肘をあまり曲げずに・・」と書かれています。
戦前の日本水泳のクロールならともかく、イアン・ソープも孫楊も入水直後に
肘を曲げています。
2. この研究では、I字プルはピッチ泳法で短距離向きであると結論づけています。
しかし、イアン・ソープも孫楊も他の選手よりもゆったりと掻いて、一掻きで
他の選手よりも沢山進んでいます。I字プルが効率が悪いなら、なぜ一掻きで
沢山進むのでしょう。
3. どう見てもS字プルではない孫楊は、短距離選手ではなく、1500mの
世界記録保持者ですが。

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