« 死の危険も招く「過呼吸」の誤解と対策、そしてトレーニング意識について | トップページ | 日本女子体育大学キャリアセンターで講演してきました »

2015年7月22日 (水)

【実態少し解明】レース水難事故の主犯「血行障害」、そして「体幹に寄せるウェットスーツの着方」について

トライアスロン大会での相次ぐ水難事故につき、昨日あたりからFacebook界隈で一気に主犯格として浮上した、「きついウェットスーツ」。

いただいた体験談から推察するに、どうやらウェットスーツの単独犯ではないようで、低水温、緊張など複数の共犯が絡むことで、血行障害」と「筋肉内部の低酸素が発生するケースは多いようだ。当ブログではその仕組みを説明した上で、現実的な対応として「キツさを和らげるウェットスーツの着方」を提唱したい。

・・・

まずは、西内洋行コーチによるFacabook7/22投稿「《トライアスロン死亡事故をなくすために 個人的検証》 」より引用させていただこう。

きついウエットスーツは腕周りの血流が悪くなり、呼吸がしずらく、パフォーマンスを下げてしまう
 
胸がきついと腕や脚の静脈を圧迫する以外に、物理的に心臓、そして肺を圧迫します。・・・肺が圧迫されると、呼吸が浅くなり、低酸素状態になる場合があります。また、圧迫感で焦りも出てくる事でしょう。
 
最近の事故は初心者ではなく、ある程度の経験者・・・中には医者であったり、持病がなかったりでの事故が出てきています。・・・トレーニングではそれまで死亡しなかったのが、ウエットスーツを着たレースで死亡したという点は・・・ ウエットスーツの締め付けがあったと考えると、つじつまが合ってきます
 
こうした問題認識を受けての、西内さんの提案は、まったく正しい:
 
(私は)布地メーカーとタイアップして製品づくりもしていますが、ウエットスーツの布地は、ゴムの中に気泡が入っていて、それが3年くらいかけて抜けていくそうです。それと同時に硬化も始まり伸びにくくなっていきます。最低3年目安にしたいところです
 
サイズ売りの既製品を購入する場合は、胸部、肩周りはゆるめを選ぶようにしましょう。ただ、それに合わせると首や手首がゆるくなり、そこから水が入ってくる場合がありますので、難しい所です。
 
レース中、苦しく感じたり、違和感があれば、浮く事が可能であればファスナーを緩める、ファスナー無しの場合は胸の所を引っ張ってみるなど効果があるかもしれません。
 
それから、万が一の場合は、仰向けになって休んでください。そこで気を失っても、呼吸ができる状態にあります。下向きで気を失うと水を飲み、呼吸ができなくなります。また、仰向けだとライフセーバーが変化に気づいて注目してくれます。
 
さすがは、トライアスロンのウェットスーツについて、開発段階からレースまで熟知した上での提言。西内さんの思考はいつも信頼できる。ただしここまでは、トライアスリートなら当然知っておくべき基礎知識にすぎない。本稿はここから本題に入る。
 
・・・
 
「チームぼくたち」 (笑)の調査によれば、この問題はたしかに多発している印象を受ける。そしてその発生メカニズムは、もう少し複雑のようだ。
 
<「低酸素と血行障害」の発生メカニズム>
 
1) スタート前の筋肉血管の収縮
  • ウェットスーツによる締め付け
  • 水温の低さ(たとえば22℃以下の海水温など)
  • レース特有の心理的緊張
といった要因が絡み合って、血管が縮まり、血行障害が起きる。みなさんの過去のレースで、筋肉が縮こまった感じってなかっただろうか? 特に少し冷えた海では。(僕はないけど。ちなみに中学では水温17℃から水着で泳いでいた)
 
2) スタート直後の低酸素化
スタートし、筋肉が急に活動し始め、体内の酸素を消費する。
しかし上記1.による血行障害のために酸素が行き渡らず、筋肉が低酸素状態になる。
 
さらに、他者との接触(=バトル)、うねりなどの物理的ショックによる心理的緊張が加わる。しかもウェットスーツが締め付け続け、さらに低水温まであれば、筋肉血管は縮みっぱなしだ。
 
3) 「代謝性アシドーシス」?
これは仮説だが、2.の結果として血液が酸性化し(アシドーシス)、呼吸が深く速くなる。これは一見、前回書いた「過呼吸」と似た症状だが、しかし原因は全く別だ。「過呼吸モドキ」であって、前回の話は当てはまらない。
 
4) 発生後の対応
西内さんが書くように仰向けに浮いたり、ブイやライフガードさんのボートにつかまって、筋肉活動を止めれば、低酸素状態が解消される。そして呼吸が整えば、再スタート可能だ。
 
5) 予防法
陸上ウォーミングアップで十分に筋肉を温めるのも有効だろうが、なによりも、スイム・ウォーミングアップで冷水刺激に慣れること。その際に、ウェットスーツの中に海水を少し入れて、全身を冷水に慣らすことで、そもそもの原因環境である1)を防ぐ。
 
以上、Facebookで寄せられたみなさんの報告を纏めたものだ。個々の情報の多くは、既に知られていることだけど、実際のレース現場で組み合わさることで、発生率が急増しているような印象を受けた。
 
 
<提案:ウェットスーツは「体幹寄り」に着よう!>
つまり、適切なウェットスーツに買い換えるのがベスト。かといって予算がないとか、ショップできちんとサイズ合わせて問題ないはずなのに、という場合もあるだろう。そこで提案したい最も現実的な方法が、フランスZ3R0D-ゼロディ社のFacebookに載っている。その要点は、 『出来るだけ体幹側でウエットを着る』ことだ。
10411999_1644420205769924_559114387
つまり、腕も脚も、出来るだけ裾を手繰る。
これだけで、肩周りと、腰回りに、余裕を持たせることができる。
肩と腰の余裕により、胸部への前後方向の圧迫を減らす。
肩の余裕は、首周りと、胸部の横方向への圧迫を減らす。
 
この着方では、脚や腕は今までよりも多く露出する。僕は館山で実験し、10cm近くまで余分に露出させることになった。その分、末端の浮力、つまり脚腕のストロークとキックの動作に、余計な筋力を要しなくなると思う。
 
注意点として、腕と脚のスソ部分は以前より締め付けられる。それが新たな血行障害を起こすようなら、カットするのも1つの手。フクラハギ部分まるごと、ヒジから先、など。ただし浮力の総量は減るので、「脚が沈みキックも弱い」方だと、脚部カットで遅くなる可能性はある。「フラット姿勢を保ちながらキックで進める」のなら問題ないけど。
 
週末のレースから早速使える手っ取り早い方法なので、試してみるといい。
 
<だけではない!>
もちろん、前書いたとおり、個々の原因はよくわかってないのが実情だ。リスク要因を最小化する意味で、前日に酒飲まないとかはアタリマエなんで、わざわざ僕から書くまでもない話だ。(2日かける大会なら、愛南大会のように、土曜午後レース、夜パーティー、日曜フリー、という日程がベストだと思う)
 
他にも、落ち着いて安全に、そして速く、泳ぎ切るための実戦的なテクニックはいろいろあるので、もう少し続けよう。
 
 
<お知らせ>
プールの練習では、ウェット素材水着で浮く感覚を近づける事が出来る。 ←フランス・ゼロディ社の水着もかっこいい! 
 
なお次回の代々木プール練習会は7/26(日)午前、初の日曜都心開催。
  •  

« 死の危険も招く「過呼吸」の誤解と対策、そしてトレーニング意識について | トップページ | 日本女子体育大学キャリアセンターで講演してきました »

◆* クロール/OWSの技術」カテゴリの記事

コメント

ハッタリさん
ゆるりとトライアスロンにトライのSpeedromです。直前ですが、明日の代々木プールの練習会はまだ参加できますか?あとでfacebookのイベントにもコメント入れておきますので参加できるようであればご返事いただければ幸いです。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 死の危険も招く「過呼吸」の誤解と対策、そしてトレーニング意識について | トップページ | 日本女子体育大学キャリアセンターで講演してきました »

フォト

『覚醒せよ、わが身体。〜トライアスリートのエスノグラフィー』

  • 初著作 2017年9月発売

フォローください

Blogランキング

無料ブログはココログ