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2015年5月 7日 (木)

ソープとレデッキーの比較から「ハイエルボー」の最新形を考える

ただいまソウル五輪でリレー5位などの活躍をされたバタフライの名選手、三浦広司さんとお会いして劇的進化中っす。 いいでしょー! そこでの学びを書くわけには参りません笑。まー僕は誰にも入手可能でわりと知られてない、でもアナタが知っとくといい情報をざくざく隠し持っとりますよ。てわけでクロールの話を続けるよー
 
クロールの教科書では、「水を後ろに押せ」と言われる。人気の良書、高橋雄介先生の「最先端泳法『フラットスイム』でクロールがきれいに速く泳げる! (DVD付) 」(2012)もそう。NHKの萩野選手のは、これ読みながら音を消して(笑)見るといい。
 
初心者にはそれで良いのだけど、あるレベルから伸びようとする時、修正を加えるとよいかもしれない。それが「揚力」だ。なぜなら、その理解によって「ハイエルボー」の捉え方が変わるから。(以下、いただいたコメントなどをもと少し修正してます)
 
<抗力>
後ろに押せ、という理論的根拠は、前回書いた「抗力」理論だ。押すから進む、という道理、わかりやすい。しかし現実には、水は後ろに押せない。より正確には、押された水の一部は後ろへ移動し、その限りでは「反作用」が手に返されて、推進力となる。それが「抗力」だ。でもそれは一部のみ。
 
残りの多くの水は、大小幾つかの「渦」として、手の周囲から後方へと逃げてしまう。これが抗力の1つめの罠。
これには対策があり、「加速し続けるストローク」ができれば、「水が逃げる前に押し続ける」ような状態を維持できる。ただし、けっこうなパワーが必要な気がする。
 
もう1つは、人間の関節の構造上、真っ直ぐには押し続けれない。
この点について、今回取り上げるソープとレデッキーとで、異なる対応がされている。
 
<揚力>
下記コメントの通り、いかにも揚力とは、圧力差を原因として、物体が動いていく方向と「垂直」に作用する力だ。その結果、手を斜めに動かした時、押した方向には抗力が発生しつつ、揚力が90°方向へ発生。両者が合成された力が、推進力となる。
ただしそれは単純な二元ベクトル分解をした場合の話。それだけでは済まないのが水泳で、現実には、発生する「渦」の影響を大きく受ける。
 
<渦の抵抗>
ストロークする手が通り過ぎていった跡(=つまり前方向)に、渦ができると、その部分の水圧が低いので、吸い寄せられるかのように、手をそちら側=前方向にもっていこうとする、のではないかな? (それが揚力そのもの?)
また抗力動作でも揚力動作でも、渦の存在は、力を不安定化させるだろう。
(流体力学にお詳しい方々、ご教授いただきたく)
 
これら影響は、十分な科学的解明がされていないのではないかな。船など工業製品なら、スクリューや船体の形状も動作も常に一定なので、コンピューターでも正確にシミュレートできる。しかし、人体の形状と関節の動作による水泳では、不確定要素が大きく、推進力の正体からして明らかにされていない。土台がないから、理論も定まらない。
 
複雑なものはまずは単純化して理解するのが基本。だから高橋先生も書かない。そんなヤヤコシイことを書いてたら初心者がイヤになっちゃうからかな。でも僕は、アナタが逃げないことを知っているのさ!
 
と冗談はさておき、単純な(=デフォルメされた)抗力理論には、15年前のソープ選手の強烈なイメージがあるかな。そして、そこから進歩したほうが良いと、レデッキー選手のキャッチ動作を見て思う。
 
<イアン・ソープ200m自由形(2000年)>
It170200(画像:サンディエゴ州立大学"How Champions Do It"より)
 
6-7-8コマの連続部分、右ヒジを前方に固定したまま、前腕部だけを90°にカクンと曲げてから、直線的に 後ろに押す=抗力で進む。長距離の孫楊選手も同様のストロークを見せる。抗力で進む水泳のお手本としては完璧。
 
<ケイティ・レデッキー800m自由形(2012年)>
次に、ロンドン五輪を圧勝したレデッキー選手。(男と女、200mと800m、という違いには留意の上で)
Kl475800_2(画像:サンディエゴ州立大学"How Champions Do It"より)
 
「ハイエルボー」の角度が緩いのが、一目で明らかだ。特に10−11コマ目。その結果、ソープと比べ、ストローク全体の軌跡がより曲線的だと思う。
 
<ハイエルボーを「揚力」で分析する>
ハイエルボーとは、キャッチ時(上の9〜12)に肘が高い=水面に近いことで、「手→肘→肩」の順に高く=浅くなる状態。
 
抗力で進むのなら、ソープのような極端なハイエルボーが最強なはずだが、進化の過程 (もしくは流行の方向)は逆のように見える。とくに、僕が主に参考にする女子長距離ではその変化があるように見える。
 
その変化を理解するためのヒントが、「揚力」の作用だ。
 
ソープは、少し手を沈めた状態からストロークに入る。その間(10〜15cmくらい?)、推進力は無い。そこから、肘を90°に曲げるまでの間は、ある程度の揚力も発揮しているだろうが、より小さな部分なので、得られる力は小さそうだ。つまり、抗力を最大化するために、揚力を犠牲にしている。
 
一方、レデッキーも萩野も、入水時の手の位置が水面に近い。そこから手を斜めに下ろす際に、揚力により、前への推進力を得ることができる。(=これがNHKが無視した点)
水面スレスレから「揚力」を発生することができる高度なキャッチ技術により、 「有効ストローク長」を伸ばしていると理解できるだろう。
 
<仕組みから理解するということ>
コメントいただいたように、この差が関節など身体的特徴による可能性もあり、本当のところは、わからない。わかるのは、かれらの突出した才能くらい。
 
その上で、「揚力」という補助線をひくことで、最新の泳ぎの意味が幾らか見えてくる。(それなくしてはむしろ、後退してるようにさえ見えてしまう)
だから、世界の最新の本では、きちんとその仕組みを説明している。(僕の主情報源はShielaコーチの最新刊"Swim Speed Strokes"、このブログよりはるかに説明してるけど、僕は熟読してないので、この程度です)
基本→ 発展→ 
まあでも、このブログが理解できればOK、その視点を加えて教科書を読み直してみよう。そこで実際、どう修正すれば有効か? についての僕の考察も、少し書いていこうと思う。
 
質問はFacebookとコメント欄でお気軽に。保障しんけど。
 
まだまだ僕は情報隠し持ってますよーーもっと知りたいアナタはブログランキングをクリック→にほんブログ村 その他スポーツブログ トライアスロンへ なお今日の投票数は5人。。(あれランキングどうでもいいんじゃあ???

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コメント

ハル先生的確なコメントどうもです!あとで少し修正しておきます。問題意識として、

1.揚力自体は、私も1980年代のスイミング・マガジンの解説で知っていたのですが、時代によって振り子のごとく抗力によったり戻ったり、みたいな感じ。そのバランスを、どう理解すべきか?

2.てことは、専門家のあいだでも、水泳における抗力と揚力の最適解は、わかってなくて、結局、ぽっとあらわれた天才たちの泳ぎで、後付で正当化されてる

3.抗力は、加速し続けるストロークができれば、水を逃さないので、効率よく活かすことができる=トップスイマーのストロークが一見、ゆったり見える=加速に集中してあとはリラックスしてるから

4.揚力は「圧力差」を利用するので、加速の必要性が、抗力よりは弱いのでは?

5.振り子の振り戻し的に、レデッキー以後、揚力を高い位置から活かす泳ぎが流行ってる(今年の日本選手権女子長距離みて思った=でも昔とは比べてない)

6.そんな日本女子トップと、1500で周回遅れをくらわすレデッキーとの違い

などなどです。

ストローク中に発生する揚力が推進力になる理論は私が大学で水泳をやっていた20年以上前から提唱されていたことで、特に目新しいものではありません。
そもそも揚力とは、流体の中で、物体の形による圧力差により、物体が動いていく方向と「垂直」に作用する力ですので、水泳の中ではスカーリング動作で揚力が発生するわけで、渦抵抗とは別物です。
これにより、昔はS字ストロークで揚力を大きく発生させる泳法がもてはやされました訳です。
空気より粘張度の高い水中での運動においてはストロークを高速にすることで、流体を固体のような抵抗物として利用することができるため、いかにストロークを高速に行うかということで、短距離世界では揚力より抗力を重視するI字ストロークが提唱されるようになってきたと思います。
しかし、実際には肩肘の屈伸や、肩のローリングにより、掌が一直線の軌道を描くことはなく、微妙なS字になります。
ですから、I字ストロークを意識しても、実際には揚力による推進力は発生します。
自分はそういう考えでI字とS字の中間のようなストロークをやっています。

ハイエルボー動作は肩挙上+内旋+肩甲骨外転動作ですので、関節可動域が広い人ほど有利です。個人差がありますので、レデッキーの泳ぎが進化形とは限らず、可動域を評価してみないとソープの泳ぎとの比較はできません。

私は、萩野選手のストローク技術だけでなく、キック力、キック技術に注目しておりまして、NHKはそこに焦点を当てなかったことがもったいなかったなーと思ってます。


あまり理論を学んでないので間違っていたら指摘してください。

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