カテゴリー「◆* 長距離ランニングの技術」の21件の記事

2017年12月31日 (日)

【図解】 「腕振り」とは「慣性力」の制御 〜新刊『ランニング・サイエンス』をふまえて

最近出た『ランニングサイエンス』、普通のランナーにとっては、(人によっては)決定版ともなりうる良書だと思う。

長所を挙げると:

  • 「普通のランナーにとっての基本」がまとまっている
  • それらの多くが、良質なイラストで説明されており、インパクト強い
  • 値段は高いが、その分、所有欲が充たさる (←ここに魅力感じないなら向きません)
  • その高級感が、壁に飾る系インテリアにGood! (←そこかよ)

逆に向かないのは:

  • 情報へのコスパにシビアな方
  • 知識豊富で最先端を求める方

<ランナー・コーチ・研究者、視点の違い>

Amazonレビューは1つだけ最低点がついてるけど、その方の他のレビューを読むと理由がよくわかる。このレビュアーさんは、おそらく大学など高等研究機関のスポーツ科学の専門家のような立場にあるのだろう。いいかえれば、「自分が速くなりたい&速くなれさえすれば満足するランナー」ではない。

プレイヤー(とくに凡才ランナー)、コーチ(元エリートアスリートが多い)、研究者(学界の内部で評価されたい学者の先生がた)、それぞれの立場、目的、視点、は必ずしも一致しないものだ。

今回このブログ記事は、「ランナー」の視点から、「腕振り」について解説するものだ。

 

<腕振りの物理学>

腕振りとは、ニュートン第3法則=作用・反作用の法則に従ったもの。
 
以前書いた

の画像より、マラソン転向するジョーゲンセン女王で説明しよう。

Uedaj_y20163_5

 
出発点の「作用」は、両脚が作る角運動量(回転運動)。
後方への、一見、直線的な動きだが、背骨という回転軸が存在するので、時計回りの回転運動力ともいえる。(みやすのんき「大転子ランニング」もこの発想)
 
さらに振り脚(左)も、前への直線的動きであると同時に、やはり時計回りの回転力の発生源だ。
 
このままでは、ニュートン第1法則=慣性の法則により、 ジョーゲンセンの身体はコマの如くスピンし続けることになる。フィギュアスケートなら、それで構わない。
 
でもジョーゲンセンは回らず前に進んでいる。それは、逆回転の「反作用」が存在することを示している。
 
その力は上半身側で働いており、その発生源が腕振りだ。
 
こうして、上半身+下半身トータルでの「総角運動量」はゼロリセットされている。
 
この仕組みの理解が基本。
その上で、それぞれの脚と腕の働きを、 もう少し細かくみてみよう。
Uedaj_y20163_7
 
右脚の最大パワーに対抗するのが、対角線の反対側(左腕)の腕引きだ。
 
上下左右なXの軸(点線)をイメージするとわかりやすい。
これにより、上下左右での物理的パワーをバランスさせることができる。
 
運動生理学的にも、腕引きは背筋側を使うので、未活用の筋力となる。
腕を押す側(右)だと腹筋側を使い、これは脚を振り戻すための動きと重なるので、そのために温存しておきたい。
 
(おそらくこれが、コーチの多くが「腕を引け」と指導する理由だ)
 
さらに下の画像。
振り戻し脚(左)の膝を曲げることで、重心を回転軸=股関節に近づけ、回転力を弱める。
この左ふりあげ脚に対抗する右腕も、やはりヒジを曲げて腕の重心を回転軸=「鎖骨&肩甲骨」の中央に近づけて、回転力を弱める。
Uedaj_y20163_8
 
ランニングとは、ようするに、体重の操作スキルを競うもの。だから「基本」としてまず理解すべきは、 ニュートン物理学の基本概念だと思っている。
 
ランニングのコーチ達は、それぞれの指導経験に即して、理想の腕振り方法をそれぞれに説明する。それは多数のランナーを指導する彼らの立場から得られた知識であって、プレイヤーの立場だけなら、もっとシンプルでいいとも思う。
その上で、個々人の走りに合うコーチの方法論を幸運にも見つけることができたのなら、それを参考にすればいい。この順序が大事。
 
 
<メンタル>
心理学も、ごくごくシンプルに説明されている。
不安を含めた「感情」とは、状況への反応として必ず生じるものだ、と説明される。
東洋系、禅的思想がいうような「無」ではありえない。
 
ある状況があり、そこに不安を感じる(「認知的不安」という)までは良い。
問題は、その不安に対する解釈。それをプラスに転じるか、マイナスに転じるかに、アスリートの力が現れる。
 
このレベルの大原則を知っておくことで、さらに詳しく知りたいなら、それ用の具体的な方法論を探ればいい。
 
・・・
 
このように、辞書的に、また第一歩めの道案内に、使えるのがこの本だ。
 
独特の高級っぽい質感は、書店で手にとってもらえればわかるだろう。こうゆうのはデジタル書籍にないもの。ゆえに、情報に対するコスパを求めてゆくと、いくらか落ちるであろう要素ともえいる。(欠品の多い『覚醒〜』のデジタル化も、そこは微妙に難がある)
 
昨今、スポーツに限らず情報過多な時代なんだけど、そんな時こそ、軸となるシンプルな知識体系の価値は逆に高いはずだ。
 
←ついでの読んだのが室伏広治さん『ゾーンの入り方』。すごい人だ。。

2017年12月24日 (日)

【図解物理学】 ランニングの上下動はパワー源 〜大迫傑ver.

手軽に計測できるようになったランニング上下動データだけど、少なければ良いってもんじゃないってことを、今回は奥井識仁医師の「重力の10%をランニングのものにせよ」  との12/12Facebook投稿をベースに、ハッタリくんクオリティで解説してみよう。

モデルはNIKE公式動画の大迫傑選手、3−5秒あたりだ。


一歩を4枚に(3つめを後から追加して補正してないので背景色が微妙に違う)
20171224_122815_2

パワポで一枚に纏めた:

20171224_155109

先に結論を書いておこう。

  1. 3つめまでは重力による「沈み込みのエネルギー」が効いている
  2. 上下動が一切ない走りは、このエネルギーを活かすことができない

この仕組みを解説するのが、2007年発表の元論文 "Runners do not push off the ground but fall forwards via a gravitational torque"

東大医学部出身の奥井医師が難しいという説明、文系人間の僕はしっかり読んでなくて、間違いあればご指摘いただきたい。以下は僕なりのざっくり理解だ。

 

<しくみ>

まず、「長さ165cm重さ62kgの丸太」をイメージしてみよう。数字は僕の身長体重なので、アナタので置き換えてね。これを、後ろから前に倒す時、何がおきるか?

その物理学的解説がこの図:20171224_134034(大迫写真とは左右逆)

  1. 母指球(ball of the foot)を回転軸(axis of rotation)として
  2. 身体の重心(centre of mass)に重力(gravitational force)がかかり
  3. 前転力(torque)として発揮される

脚とは支点であり支柱であるということ。その支柱の上を、重心が追い越してゆく。大迫写真では1-2枚目。

この追い越しの瞬間に、重心は下方向に向かう。沈み込みのエネルギーだ。このベクトルと、前方向への慣性力が合成されれば、前方向への力の総量は増える。これは蹴る直前のタイミングで、この時、重心位置は最低レベルだろう。
その力を活かしているのが、大迫2-3枚目。

そして4枚目でこれら力を受け止め、キック動作により、重心を再び上に投げ上げている。さすがは大迫選手、高い。この高さ=上下動の大きさが、次の一歩のエネルギー源となるわけだ。

言い換えれば、上下動ゼロのランニングフォームは、このパワーを使えていない非効率な走りというわけだ。

 

<ピッチとストライドの関係>

投擲競技では、遠くに飛ばそうとすれば、ある程度の角度をつけて高く飛ばす必要がある。「一歩」の原理は同じこと。

ただランニングでは、歩数を増やす、という手法が追加される。低く飛ぶことで、ストライドは減るが、上下動を減らす、というアプローチだ。これには一定の効果はあるのだが、ピッチを増やすとは、今度は「左右(水平方向)の回転動作の慣性力」がロスになってゆく。(これ説明必要?)そしてこの水平ロスは上下動と違ってパワーを産まない純粋なロスとなる。

結果、ほどほどな最適レベルに落ち着くというわけだ。


<上下動がロスになる場合>

念のため、ここでの説明は「上下動データとかに意味がない」とは一切言っていないので。当然ながら、推進力につながらない過剰な上下動はありうる。たとえば膝が曲がりすぎるなど。そこを突き止める目的なら活用余地があるだろう。

実際、それを活かしているよと言ってる方は豊富な知識と考察力をお持ちであって、データだけに頼った改善はしていない場合が多いと思う。

まず必要なのは、原理を理解すること。そして考える。データはその無数にある手がかりの1つだ。

 

<ちなみにフォアフット走法との関係>

大迫選手の4枚目は、フォアフット着地によるアキレス腱の反発力でジャンプしてゆくイメージだろう。
僕だとせいぜい1km3:35くらいがスイートスポット(トライアスロンのランパート10km36分ほどの場合)で、この走りだとジャンプ感はなく、ただ「振り子イメージ」の慣性力を連続させてると思う。

ちなみに上記1、「母指球(ball of the foot)を回転軸(axis of rotation)とする」との点は、フォアフット走法の物理学的な原理の1つを示してもいそうだ。回転軸上にダイレクト着地することは、たとえば自転車のタイヤでいえば、路面接地面積を減らす=路面摩擦抵抗を減らすような効果があるのかもしれない。(まあそれよりも生理学的な効果が良くも悪くも大きいのだろうけど)

 

<練習方法>

緩い下りを走ろう。沈み込みの力をより強く感じることができるから。

着地衝撃を和らげるために、芝生がベスト。まさに砧公園。

 

ランニングとは結局、「着地点と重心」との相互作用。

 

・・・

<おしらせ>
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2017年12月 8日 (金)

NIKE ズーム&ヴェイパーフライについての7つの仮説

話題の NIKE ヴェイパーフライ 4% & ズームフライ について、まずは過剰な反応を排し、このあたり意識して観察しとけばいいかな、という7つの「仮説」を書いておく。

  1. 福岡国際マラソン2017での上位独占はじめ、世界トップレベルの大会での好成績が目立つのは、NIKE社のマーケティング戦略による「見せ方」が効いている。五輪翌年の手薄なマラソンシーズン序盤に有力選手を集中してぶつける作戦
  2. とはいえ、BREAKING2.0、モーエンなどの新記録は大きく、「何か」はありそうだ
  3. 何か、とは? 世界トップレベルのランナーでは、中盤までの "省エネモード" でのエコ性能を上げているのかもしれない
  4. 高速&短め距離では、合いにくいかな?
  5. フルマラソン3時間前後レベルの市民ランナーでは、「目標レースペースから疲労で少し落ちた状態」と相性よさそう
  6. 長距離トライアスロンでは、トッププロ、一般市民、ともに不明
  7. 「シューズのドーピング」といえるほどの性能があるのか不明

なお僕は試着も実物を見たこともなく、ネット情報を僕なりに整理したに留まることをお断りしとく。その程度の文章なんだけどそれでよければ以下、仮説の背景(=根拠とまではいわない)を説明しよう。なにしろ僕は「ハッタリくん」の名で知られる者だ😁

 

1.上位独占

たとえば福岡国際マラソン2017で、NIKEスポンサー組と同等以上に実績ある有力ランナーどれだけいたっけ? (私ランニング無知なんですが) 普通に実力を出せばそうなる、という状況を作り、強烈な初期イメージを焼き付けるマネジメントの成功は大きいと思う。

 

2.新記録たち

とはいえ。

20170506_164142

Breaking2については、5月に僕のブログ 「キプチョゲ2時間切りまであと26秒! NIKE ”Breaking2” プロジェクト」 で書いた通り、閉鎖されたサーキット内で、空気抵抗を十分に削減した環境設定の要因が大きい可能性がある。自転車レースであれば、時速20kmであの位置のクルマ(と天井の計時ボード)は強力な速度アップ効果がある。大型トラックの後ろの、後方から渦の巻き込みに背中を押された状態だ。またクルマは同時に正確なペースメーカーの役割も果たす。これらあいまって、精神的な負荷も下げて、つまり脳側のエネルギーも削減している。

これは、他社シューズで同じサーキットで空気抵抗削減システムを組んで、世界トップランナーに実験してもらわないと、検証しようがない。

モーエンについては、2つ前に 「マラソン欧州記録更新、ソンドレ・モーエン選手(とカノーバ コーチ)トレーニング説明は金言の宝庫!」  で書いたように、トレーニング方針や環境の要因がまずもって大きいと思う。その上で、個性あるシューズの特徴を活かした走りを修得したのも事実だろう。

それは大迫傑も同じくだ。

 

3.省エネ性能?

ここが、よくわからない。

「ランニング効率を平均4%高める」というのがNIKEの能書きなのだが、この指標には定義が示されていない。速くなる、とは一言も言っていない。まあ自転車の場合ならば、「同じ速度を4%低いパワー(watt)で走れる」といった意味あいだろうとは思われるのだが、どう計測したのか?

こんなときには、日本語では無理で、英語で検索する。たとえば "vaporfly running economy " とグーグルさんに投げる。すると "CAN NIKE'S NEW MARATHON SHOES MAKE YOU FASTER? A NIKE-FUNDED STUDY SAYS YES"  など新しい記事が出てくれる。「ランニングエコノミー」、つまり同速度で走る場合の酸素摂取量が基準のようだ。だが、具体的な実験状況は不明。どんなランナーが、どの速さで走ったのか?

そもそもが”NIKE-FUNDED STUDY”だ。実験素材はNIKEからお金をもらったランナー。幾らもらってる人が、どこまで中立性を保ってトレッドミルを走ったのか?というツッコミも不可能ともいえない。(※同じことは自転車の空力測定でもいえる)

「このシューズのおかげで、レース中はすごく 余裕を持って力を貯められた。」という大迫傑選手のNIKEサイトでのコメントが、まあ唯一の手がかりといえる。「証言者の中立性が担保されない質的調査」ではあるが笑。「反発力」「軽い」などは、他社のシューズでもよく聞かれる常套句だ。

 

4.速さ?

自転車的にいえば、パワーをかければ速くなるが、脚を使う。シューズ側の反発力が強い、とNIKEはうたうが、その反発力は同時に脚にも来て、消耗させそうな気もする。

実際の声として、ランが超強いエリート・トライアスリート三須龍一郎選手(明治大)は、

「足がフワフワしちゃって空回りしてる感じ」

「トライアスロンになら薄底シューズの方がいいというのが自分の感想」

と10kmでのトライアスロンRunには合わない、という結論だ。

同じくラン強エリートのプロ・トライアスリート阿部有希選手は、10kmのラン大会での好感触を得て、

今までよりもスピードが上がる!! というよりも今までのスピードが楽に出る!!という感覚。

決して速くするシューズではなく 少しでも楽をさせるためのシューズ

と表現する。

阿部選手の現時点での結論:

「自分のような大型の選手(181cm 72kg)に向いている気がします。マラソン界では大型であるほどランニングエコノミーが低い(燃費が悪い)・・・ランニングエコノミーの向上という恩恵を1番受けられるのが、もともと低い大型な人間なのかなーと。」

そそられる?😁

 

5.市民ランナー

「ウルトラプロジェクト」主催の新澤さんは 「12/1  織田16000m   ナイキズームフライの履き心地」  で、

「多少重たいけど、今日の疲労感のある状態で、4’30/kmを切るくらいのペースならジョグのように楽に身体が進みました。」

と、むしろ反スピード、な状況において好意的。これ系のは他にも聞く。

 

6.トライアスロン

上記5.からは、わりと合うかも?というのがどちらかといえばな仮説。

この点には実績があり、"Newton"や"On"などテコ系の仕掛けをソールに施したシューズの人気は根強くて、実はそう新しい話でもない。

ちなみに、アイアンマン世界選手権での使用実績、2017年の1位は常識を越えた厚底のHOKAが18%、Onは7%に伸び7位、Newtonは一時10%を越えていたのがやや落ち着いて9位。ミズノはその下だ。

 

7.道具のドーピング?

基本懐疑的。ソールの仕掛けには、"Newton"や"On"など先行事例が多いから。

たとえば、アイアンマン世界選手権KONA、2016年にランパート新記録を作ったドイツのpatrik LangeはNewtonで2時間40分、2017年はNewblanceのオーソドックスなシューズに換えて記録ほぼ同じだ。シューズの個性は大きく変わったはずなのだが、そんなもんだろうと思う。

一方で、カーボン素材を本格的に使ってきたことは、これまでにない注目要素であるのは前に書いた通りでもある。そしてここに性能アップの未知の領域がある可能性も否定できない。

「厚底」はHOKAが先行し、「テコ的な原理」はNewtonやOnが先行する。「カーボンプレート」も短距離の決戦一発兵器としての例もある。ただし、全てを組み合わせ、調整を究めたことによって、カーボン性能を引き出したのかもしれない、ということだ。

他社が追従し、そしてランニング市場全体が動く可能性すら高いと思う。

競技自転車はカーボン化することで高価格化したが、多様性を拡げ、市場を拡大した。同じことがランニングでも起きると予想できるかもしれない。

以上が7つの仮説。

 

活かし方:ズームフライ編

阿部選手レビューで、「楽」を引き出すための走り方は:

  • 上半身と下半身を上手く連動させ
  • 腕振りではなく、「肩振り」イメージによる「骨盤との連動」
  • 着地とその連動のタイミングを合わせる
  • 蹴らずに、着地後ハムストリングと臀部を上手く使ってスライドさせるイメージ

新澤さんレビューでは

走り方はシンプルで上体の真下で接地したら、乗り込むだけ。爪先側が沈み踵が浮くのでスムーズな重心移動を勝手にしてくれます。

なお耐用距離150kmというヴェイパーフライでの知人(=競技力などが想像つく人)による使用実績はありませーん。

 

事例:福岡国際マラソン2017

福岡のモーエンのレース展開とは、30kmまではペースメーカーと集団とについての1km3:00ペースの省エネ走、そこまでで十分に脚を残し、ペースメーカーが離れた30kmから1km2:56ペースに切り替え、残していたパワーをつぎ込んでいる。
上記の仮説からは、前半30kmまでは(もしかしたら)シューズ性能も活かしながら省エネ走を徹底し、終盤のスピード走では(あまりシューズ効果に頼らない感じで)自力でがんばった、といったイメージ仮説になるかな。

それよりも、ケニアでのカノーバコーチの指導によるトレーニングが、こうした切り替えの成功要因としてより大きいとは思う。これらの話はまた改めて。

 

ついでに:「36km以降に落ちる説」について

ブログ「月間走行距離なんて知りません」の 「福岡国際マラソンで躍進したナイキとマラソンの未来」 (2017年12月3日)との記事で、「レース終盤、36km以降にスピードが大きく落ちる可能性がある」との見立てが示されている。

これも一つの見方ではあるけど、レース結果だけをみて、その因果関係を全てシューズのせいにしたロジックに陥ってもいるかな。具体的には、

  • 福岡国際マラソンでモーエンは成功した、という強力な反例が存在する
  • 失敗例では、4位カロキは1位モーエンに勝負をかけたから、3位大迫も一度勝負に乗ろうとしたから、とレース展開上の理由がある
  • BREAKING2.0は、2時間切り大前提でのペース設定が微妙に速かった、ペース配分の問題

と反証可能だ。

ランニングにかぎらず耐久レースの問題の多くは、結局のところは、ペース配分の問題に収まるものだ。

 

全ては仮説である 

これらが正しいか間違っているか、は問題ではない。全ては仮説であり、それによって考えを整理し、深めるための手がかりだ。もしもなにかにピンと来た方いたら各自検証いただければいい。結局は自分にとっての妥当解を探るしかないのがスポーツの器材であり各種手法であり。

・・・

市民ランナーレベルでなら、自分なりに考えて良質の練習をすることでしょうよ。

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こちらは2010年、トライアスロンデビューにあたり20年ぶりにランニングというものをしてみた時の練習シューズ、20年間実家の倉庫に眠っていた(よく残ってたな)ASICS。たしか翌年にソールがバラバラになって永眠された。僕はこれくらいのを砧公園のクロスカントリーコースで専用機にしとります。

とはいえ走ってる途中にソールが分解するのもなんなので、もっとマトモなのがいい方には、これ系のがいいんじゃないか、と前記事でなんとなく挙げてみたTeslaシューズ、実はコアなトレイル系ランナーの一部に強いファンがいると後で教えてもらった😁

 

サイバーマンデーで12/11まで1,980円❗ ←『ランニングサイエンス』は今読んでる良書。普通のランナーにとっては決定版に近い。値段は高いけど、その分所有欲が充たされ、インテリアにもGood!

2017年12月 6日 (水)

「つま先着地」という誤表現 ・・・わかりやすいもののリスクについて

福岡国際マラソン2017、世界の陸上史を刻むモーエン選手の大記録をまのあたりにした翌日の、主催の大手新聞社系列のスポーツ紙サイト陸上カテゴリ記事一覧がこちら:

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最優先は箱根スター組(代表が大迫)、カウンターの川内&一般参加の非箱根組、て構図。
視点を変えれば、 世 界 に は 一 切 興 味 な し 。
オリンピックの後だけ「世界で戦えない」とか騒いでみても、1年たてば平常運転、いつものニッポンに戻る笑。
 
その3つめ「陸王あらわる!」て記事(だいたいなんで陸王なんだよ笑)に、「アフリカ勢が主体の爪先から地面につく走法」なんて表現があった。
 
しかし、つま先で着地するランナーなんてインテリの妄想の中にしか存在しない。
 
新聞TVが「つま先着地」と表現するのは、好意的に解釈するならば、その方が素人にとってわかりやすい説明だから。かれらマス媒体の客は多数の素人層であって、少数奇行種であるアスリート側ではない。自分の商売をよくわかっている。
 
これは人と状況とによる話でもあり、たとえば「足には、カカト、土踏まず、つま先の3箇所しかない」と世界を認識してる人にとっては、それは現実を正解に伝える表現といえる。だが、ランナーはそうではない。

ランナー側にできることは、多数派に流されず、自分に必要な情報は自分で探りあてることだ。
 
 
<フォアフットの真実>
現実にランナーが着地している「フォアフット」とは
  • 前後位置: 足底アーチ前側=拇指球のライン上の
  • 左右位置: 外側=小指側のエッジ部
であって、「つま先」=Toeではありえない。「つま先寄り」なら間違いではないが、今度は意味不明になる。でもTV局にとっては、そんな説明ややこしくて使えないわけだ。
 
例えばパトリック・マカウ選手、右接地の瞬間
20171205_233744
左着地の直前
20171205_233940_2
(2012NHKスペシャルより)
 
動画スローみると、遊脚を前に伸ばしたあたりで、足の外側を伸ばすように、2枚目では足裏がこちら側から見えるような、外から内に巻いてくるような動作がある。
 
福岡2017では、朝日新聞のこの公式写真→  http://www.asahi.com/articles/photo/AS20171203001105.html の大迫(no27), カロキ(no21)がわかりやすい
彼らはアキレス腱を縮めて接地し、かかとに体重をかけないことでアキレス腱への荷重を強め、その反発を引き出して、筋消費を抑えるらしい。
 
と書けばわかるだろう。下手に真似すればアキレス腱や足底筋膜を傷めるリスクが高いことを。腱はトレーニングで大きく鍛えることはできず(※ある程度の強化効果はある)、できるのは、傷めないよう気を使うくらいだ。
 
さらに問題となりそうなのは、「つま先意識」で走ると、逆に内側エッジを接地させがちかもしれない。自然にその動作が引き出されたのでない限り、それはアタマで作った不自然なネジリ動作であるわけで、これでガチに練習して故障しない方がおかしい。
 
2つめの画像の通り、多くのケニア選手のふくらはぎは細く、特に下側からの腱が長くて、上側からの筋肉量が少ない。長い腱はそれだけ強い反発力を生むことができる。この身体的特徴を活かした走り方でもあるそうだ。
 
 
<大迫傑選手>
大迫で注目すべきは接地ではなくて、外エッジ意識によってひきおこされる 全 身 の 連 動 性 だと思う。これは2時間8分までの日本人選手には見られないものだ。
 
大迫選手自身が言っているのは、たとえば
 
「かかとをつくことはあまりない」
 
「接地のポイントを意識するよりも、上体を起こさないようにしています。前傾をかけるように意識すると、うまく足が回るかな、と感じていて。多分それで接地もうまくいっているのだと思います」 
 
 
ということ。
つまり、全体動作の結果として、末端が(たまたま)そう動いた、というだけだ。
 
 
<フォアフットは「唯一解」ではない>
モーエン(福岡のno5)は、伝統的な白人ランナーのフォームをそのまんま継承しているような印象も受ける。着地スタイルでいえば、ミッドフット型だろう。足のセンター=中指ラインに沿って遊脚をまっすぐ前に出し、その結果カカトから接地へ向かう雰囲気だ。
 
つまり、モーエンはケニア生活をしながらも、フォームをケニア流に変えたわけではなくて、適応させたのは 練 習 環 境 に対して、ということだ。
 
細い足首からの長い腱がない(=ケニア系のぞく普通の人間)ならばないなりに、そんな足を活かす走り方を探ればいいという見本だ。
 
どんなスポーツでも、フォームに正解はない。自由度が極めて高い水泳 (=体重を支える支点が存在しないから)の最速フォームがオリンピックの度に変わってゆくのは好例だ。長距離ランニングでも例外ではない、ということだろう。
 
ただ、ケニア系があまりにも速かったので、そしてのそのカカトを浮かせ気味なカタチという「見えやすいもの」があまりにも明確だったので、そこに目が集まったというだけで。
 
 
<結論>
ぱっと見わかりやすいものを盲信しないほうがいい。
最新理論、フォーム、計測数値やグラフ、そんな罠はいくらでも転がっている。
一方で、「環境や集団の作る効果」といった目には見えないものは、軽視されやすい。 そこに注目したのがカノーバコーチとモーエン選手。
真に信じられるものは、自分の感覚。
それを証明するのは、自分で感じた結果だ。
 
・・・
 
<宣伝>
『覚醒せよ、わが身体。トライアスリートのエスノグラフィー』 Amazonでは12/4頃から安定の欠品開始。紙の本なんてもう今のかれらの戦略上にないんだろう。本=アマゾンなんてイメージも、盲信しないほうがいいかもね。
丸善&ジュンク堂グループが確実→ https://honto.jp/netstore/pd-store_0628702228.html リアル店舗では、丸の内丸善本店、池袋ジュンク堂本店、新宿紀伊国屋本店、と主要店にて平積み販売中、関東では渋谷吉祥寺藤沢大宮松戸等等&地方拠点都市のお店の棚にもあります(11月末時点)
 
 
ちなみに最新シューズがどうのこうの考えるより、まずは超安いペラペラな靴とかで起伏あるオフロードを走るのが一番速くなると思う。
上のは、僕は使ってないけど、イメージそんな感じだなと載せてみたら、実はコアな裸足ランナー御用達らしい。
 
僕の専用シューズは、2010〜2011年購入のMIZUNO薄底軽量レース用の、廃棄レベルにボロボロになったの。激戦のJTUランキングレースから引退し余生をのどかな砧公園で過ごされておる😁

2017年12月 3日 (日)

マラソン欧州記録更新、ソンドレ・モーエン選手(とカノーバ コーチ)トレーニング説明は金言の宝庫!

福岡国際マラソン2017、リオ五輪から1年経ち、TOKYO2020に向けた世界レベルでの変化の兆しが現れたかもしれない。

  1. 欧州選手によるケニア流への適応
  2. 市販シューズでのカーボン素材の使用本格化

の2点、とくに1つめは大注目だ。

優勝タイムは2:05:48、ノルウェーの26歳ソンドレ・モーエン (Sondre Nordstad Moen ←wikiノルウェー版のGoogle英訳)。欧州記録のみならず、アフリカ生まれ以外で史上初の2時間5分台の公認記録。歴史を刻む偉業だ。

wikiによれば178cm62kg、ノルウェーでは低いほうかもだけど日本人比では長身。胴体をロックさせて長い脚&腕を機能させる走法は、ジョーゲンセンやフロデノ(←トライアスロン選手です)とも通じる。上体の前傾も大きめかな。腹筋&背筋をかなり鍛えているのかなと思った。ただし器具を使うタイプの筋トレは行っていない。(後述)
 
 
<欧州選手によるケニア流への適応>
リオ五輪マラソンで19位になった後で担当コーチが廃業し、2016年10月以降ケニア在住イタリア人コーチ、レナート・カノーバの指導を受け急成長、2017/10/22バレンシアハーフで欧州歴代2位の59:48を出し、6週後に福岡でこの記録だ。
 
ケニアの高地で安宿で自炊しながら長期合宿を繰り返しているようだ。 インスタ https://www.instagram.com/sondrenmoen/ に赤茶けた大地を走る動画など載ってる。

 
練習内容について、アメリカ "LetsRun.com" 掲示板にカノーバコーチが10月末から幾つか書いている。http://www.letsrun.com/forum/flat_read.php?thread=8495930&page=4 から3ページくらい。その要約が日本版の "LETSRUN.COM JAPAN" ブログに掲載。
 
 
これが金言の宝庫なのだ。
以下、八田なりに少々整理して紹介しよう。
 
 
<カノーバコーチの基本思想>
  1. アフリカ選手の優位性は遺伝ではなく、練習の雰囲気やトレーニング条件の違い。高地、大きなトレーニング集団、精神的限界を作らない、身体の感覚を重視する
  2. トレーニングとは、刺激に対する身体の反応
  3. 刺激とは、量と強度の2方向だけ
  4. 選手のキャリアを通して、高い質で量を増やす=つまり両方必要
  5. こうして徐々に段階を踏めば、これまで不可能だった事を当たり前にすることができる
  6. マラソン選手にウエイトトレーニング(器具〜おそらくバーベル・ダンベル含めて〜を使って収縮性繊維を鍛えるもの)はしない。コアと反応性を鍛えるためのバウンディングなど弾性繊維を鍛えるトレーニングはしてる模様
  7. フラットな場所だけで練習するなら、それ以上のトレーニングが別に必要 (ケニアは起伏豊富なので他人事として言っているっぽい)
  8. 可動域を拡げる動的ストレッチはするが、静的ストレッチは反応性を低下させるので時間を使わない
  9. サプリメント使わない、例外はエネルギー補給用のマルトデキストリン
 
<モーエン選手への指導方針>
  1. 基本目標は中距離のスピード改善。トップレベルのマラソン選手として育成することを視野には入れつつも
  2. この1年間で高地トレーニングが累計217日間。血液値がケニア人ランナーに近づいてきた (※たぶんヘモグロビンなど増加している)
  3. 80~100m×10の上り坂のスプリントトレーニングは週1〜2回
  4. 食生活: 主にパスタや米、野菜や果物をたくさん。肉や卵の動物性たんぱく質はあまり摂らず、牛乳だけはよく飲んでいる
  5. 睡眠: 毎日8~9時間の睡眠をとり、昼食後、午後練前に1時間の休憩も
 
八田の私見として、基本思想4.は「選手のキャリアを通して」という点が重要。トップレベルでは質と量は両方必要だが、それはキャリアを通じて=年単位で実現すればよいこと。同時に両方を追求するわけではないということ。
 
指導方針1.について、上記「②練習メニュー詳細」をみると、数百m〜3kmくらいでのインターバル、変化走、ファルトレクなどが多い。これらは、「月間走行距離」やらいわゆるTSS=Total Stress Scoreやらの数値には表れないタイプの負荷を重視するものだ。
(ちなみに八田もファルトレク的な起伏走は結構やってきて、かつ月間走行距離を信用してません)
 
それでも、フルマラソンで成功できた、という事実に注目する。
 
※追記※
2017年12月4日
 
上記ブログの続報、レース後にカノーバが早速語っている。(相手がブロガーというのがおもしろい) 僕の注目は最後の、
 
「この1年間 ・・・ これまでのマラソンより1kmあたり10〜15秒ほど余裕を持てるようになった」 
 
との点。これが「マラソンを視野に入れた中距離重視トレーニング」の狙いであり成果だろう。短い距離が速くなれば、長距離の余裕になるのだ。
 
 
<ドーピングについて>
残念ながら1年で急に強くなる系の選手に付き纏うドーピング疑惑、カノーバ氏ははっきり書いていて興味深い。
  • ケニアでは、国内無名選手ならドーピング検査がマトモに実行されていなかった(だから摘発事例が最近多い)
  • ケニア選手でも、世界トップ選手では、IOCが入念にチェックする
  • 欧州では国内機関がちゃんとテストしており、特にノルウェーは反ドーピング機関が最も進歩している国の一つ
八田から注記しておくと、禁止リストにないグレーゾーンなクスリは当然存在し、その使用実態、そしてその効果は、謎だ。だが少なくとも、禁止リストの薬を使える立場にはないことを主張しており、それは実際その通りだと思う。
 
 
<大迫傑選手>
大迫選手も、今後の可能性も感じさせる良い結果。
(※あくまでも3位、なんらかの記録も更新しておらず、脇役レベルでの好活躍ではあるが)
そのフォームは、尻・骨盤・背中が柔らかく連動して大きく動いていると思う。体幹部は部位サイズが大きいから、一見して小さな動きでも、現実のパワーとしては「大きい」のだ。
このためのトレーニングとは、世間でよくあるタイプの「体幹を固める筋トレ」とは違う。
 
 
<川内優輝選手
川内は、途中で遅れて上げてくの定番の展開で、遅れるとTVに映り、上がるとまた映って二度美味しい。普通は先頭から遅れたらそれまでだけど川内はどこまであがれるか?と新たな興味を発生させる。
 
 
<中継が残念
ついでに書いとくと、テレ朝の中継、モーエンの5分台という記録の意味を全く解説できていない。単に大会記録との比較のみだ。レース後インタビューも日本人1位の2時間7分台の選手。モーエンはケニアで合宿までするノルウェー人、英語も話せんてことはないだろう。世界レベルでの偉業に対して、残念なことだ。
 
 
<NIKE Vaporfly 4%
もう1つの主役が、上位3名独占のシューズ、NIKEヴェイパーフライ。
カーボン素材は世のスポーツ用品にことごとく使われていながら、ランニングシューズ分野は、トラック短距離の超エリート向け特殊一発兵器を除いて、遅れてきた。ただ逆にいえば、採用は時間の問題でもあっただろう。その実現性は、カーボン繊維の性質・積載法・形状の調整の問題で、厚底化したのもその結果かもしれない。これらは微調整の連続的なことで、おそらくは特許とか取りにくいと思われ、今後主要メーカーが追従してゆく可能性は高い。
 
すると、Vaporflyでフルマラソン2-3回分の耐久性という一発価格が問題になりそうだけど、トライアスロン&自転車の決戦レースタイヤのような器材スポーツでの予算感を考えれば、実は、とんでもない価格感ではないともいえる。
 
耐久性の強いズームフライ含めて、しばらく品薄に拍車がかかりそうだ。
 
 
<フォアフット走法
Vapor & Zoom-flyでは、大迫のような「フォアフット着地」がとりわけ目立つ。大迫も他のアフリカ選手も、土踏まずよりは前&指より後ろの、外側サイドが先に接地している。だから「つま先着地」ではありえない。
 
こちら朝日新聞公式フォトがよくわかる→ http://www.asahi.com/articles/photo/AS20171203001105.html
 
先に接地、というだけで、最も重要な荷重ポイントでは、どのフォームでも基本は同じだ。
ただ、荷重ポイントの直前にアキレス腱あたりを縮めることで、その後の腱の反発を引き出す効果があるとの最新論文がある。腱をより使うわけで、大人が鍛えることは(ほぼ)できない部位なので、イキナリ真似をするのはリスクある。もちろん適応出来る人もいる。
 
モーエンは(ソール形状によるけど)基本ミッドフット着地。
20171203_220444(インスタより)
 
普通の大人ランナーにとって、基本は体重を使うこと、全身を使うこと。末端の動きは、試してみるのはよいことだが、こだわるものではない。このあたり考え方は、
に書いてるので、ご一読どうぞ。リアル書店では、丸善&ジュンク堂グループのサイト→ https://honto.jp/netstore/pd-store_0628702228.html から在庫検索が便利。11月末時点で、丸の内丸善本店、池袋ジュンク堂本店、新宿紀伊国屋本店、と主要グループ本店にて平台に積んで販売していただいております。
 
(体重活用の技法、もっと詳しい原稿も準備してみたいけどまだ先です) 

2017年11月12日 (日)

初のラン大会は世田谷ハーフ、高岡寿成さんに4km並走しゴールスプリントに敗れるの記録

ランニングと比較してみよう。走るとは、簡素さのなかに奥深さを見出してゆく、求心的、求道的な競技だと私の目には映る。それは人のもっとも基本的な、誰でも本能的にできる動作を、長時間継続するものだ。日々の練習では、仕事や家庭のバランスをとり、練習時間の確保さえできれば(それが大変なのだが)、その枠中でどのような練習をするのかについては、比較的容易に決められる。またそのレース会場はトラックや舗装路など工業的に整備されアクシデントを排した場であり、また目標タイム何時間だから目標ペース一㎞何分何秒、といった明確な目標設定がしやすく、環境要因に左右されずに自分自身を向き合うことができる。だからこそ、ランニングは多忙な現代人を捉えているように思われる。
こうした競技形態の違いによって、トライアスロンでは複雑性・無限性が、ランニングでは簡素さ・有限性が、特徴となっているのではないだろうか。
 
では、そんな市民アスリートたちが、その実践を通じて確かに得ているものとは、何か。・・・
 
 
なんて天下に書き散らかした以上はランニング大会てものにも出ざるを得ない。安くて近い世田谷ハーフへ申込んでみたら当たってしまい、マジで出ざるをえなくなった。
 
なんだけど、さあこれから練習を、という大会2月前に本ができあがり、宣伝販売に熱中してて(おかげで出版社の最速増刷記録を更新してレース優勝てかんじだったのだが)、走るのは日常生活でのジョグ程度、最高で1日5kmを平均5分台というくらい。あとクロスバイクを週2くらい1〜3時間とか乗ることもある。そこで、レースの目標は身体が壊れないこと、ランニング大会の雰囲気を知ること、と現実的に再設定、タイム度外視で迎えた。
その要点をまとめると:
 
感想: 世田谷ハーフは、ハワイ島コナの再現だ。
 
結果: 高岡寿成さんに4km並走しゴールスプリントで敗北。
 
成果: 覚醒した。
 
 
・・・ スタートまで・・・
 
前夜に準備を始め、そういえば封筒きてたな、どこだっけ、と探しながら部屋を掃除し始めながら、無事見つかり(←アタリマエだ)、開封して詳細を確認(←前夜に開けるな)、鶏胸肉トマトカレーを特急で作り(皮むきが面倒でたまねぎとか抜き)、駒澤公園への道順を確認して、12時過ぎ無事に就寝できた。やれやれ。レース前の1日くらい睡眠時間短めでも問題はない。普段寝れている限りは。
 
5時半過ぎ起床、いつもの珈琲でなくカフェインが柔らかな緑茶を飲み、2合の米と昨夜の残りカレーを食べる。ハーフで2合も米は要らんと思うが、美味しく食べられる限りは食べる。食べすぎて困ることはない胃腸なので。
7時10分に家を出て、クロスバイクで6kmちょいの駒澤公園へ。ギアは超軽いのを高回転、心拍は120くらい、二箇所の軽い登りを使い150と140にまで上げてみる。この20分ちょっとの自転車を以てアップ完了とする。走るアップはレース開始後だ。
人生初の市民ランニング大会、まわりを観察しながら、受付、ゼッケン付け(トライアスロン用のゼッケンベルト使ったが周りに誰も見なかった)、荷物預け。合間に動的ストレッチで身体をほぐす。
 
これがレースだなあ、と思い出す。
トライアスロンほど色々ややこしくはないけど、大人が真剣に取り組んでいるって点でレースはレース、同じものだ。
 
スタートのトラックに移動。申込時点では超やる気があったので(←市民アスリートあるある)、速すぎる予想タイムを申告してしまい、スタートはBブロック。周りがみんな速そうであるのみならず、後方Cブロックのランナーも明らかに僕より速い。ブロックほぼ最後尾(その後ろには僕よりもっと遅そうな方)の大外に位置し、全身あちこちほぐしながらスタートを待つ。
 
 
・・・ スタート〜序盤 ・・・
 
スイムと違って、ランニングのスタートは平和だ。激しく抜かれることもなく、淡々と進む。逆に、ランニングからトライアスロンに移った方はスイムの「お化け屋敷感」(覚醒〜p20)にびっくりするんだろうな。
公園内ではゲストの大島めぐみ、川嶋伸次、と往年の著名ランナーとしばらく一緒に走る。いきなり楽しい。
はじめ2kmウォーミングアップを兼ねて、ペース4:17-18/km, HR150台で抑える。Cブロックのランナーが次々抜いてゆくけど、実力相応、気にしない。KONAのバイク序盤みたいだ。
246号の高架下に入り、下り基調へ。重たい僕は下りが得意。脚にとって無理のないペースを選ぶと、自ずと前に出てゆく。平坦に入ると位置は変わらず、また下り始めると前へと出てゆく。抜かれたランナーが(もしも)見ていたら、ペースの不安定なヤツだなあと思ったことだろう。ま実際そうなんだけど。
3-5kmのSUUNTO表示ペースは3:46-46-33, ただしGPS軌跡には高架とビルの影響かやや蛇行があり、実際はもう少しだけ遅いとは思う。無理のないペース、といっても身体活動レベルは上がるので、HRは170前後へ。以降このペース感が残り16kmまで続くこととなる。
 
世田谷の台地から多摩川沿いの低地へと降りる坂で、高架下を外れると、視界が開ける。
思った。
ここはKONAだ。
見通しの良い幅広で緩やかに上下するこの高速道路的なものはハイウェイQUEEN-Kだ。(実態は国道246)
てことは4km地点の表示は、残り17km=25km地点のナチュラルエナジー・ラボってことだ。
ふたたび、あの場所へと、僕は戻ってきたんだ。
 
5km通過20:23(正式計時、NetTimeはマイナス11秒)
 
5km過ぎて、多摩川沿いの平坦へ。ここで「1:30ペース」と記されたゼッケンと風船を付けたペーサーさんに追いつく。スタートを抑え、ペースを上げたことで、フルマラソンのサブスリーぎりぎり、1km4:16ペースにまで戻ったということか。ここから4:16を保てばサブスリーペースでゴールできるんだ。ちょっと安心。タイム度外視とはいえ、できればこれくらいは、て数字もあるのでね。。
数名のパックが10mおきくらいに続く位置関係、向かい風では後ろに回って体力セーブ。
 
このペーサーさん、目印の金色の風船は帽子につけてるのだが、二度に渡り帽子が強風に飛ばされ、戻って拾って、ペーサーさん大変だ。。まあ走力的にこれくらい平気な雰囲気だったけど。
 
 
・・・ ウォークブレイクは胃腸に優しい ・・・
 
喉の渇きを感じる。朝のカレーの塩分に対して、緑茶の量が少なかったか。
6kmの第一給水ではスピードを緩めてコップ2つを確実に取り、エイドのテーブルが終わった後で道路端に寄せて、歩き、確実に飲んだら、また走り始める。「ウォークブレイク」だ。
もともと筋肉の緊張をほぐすことを目的にした手法だが、今回気付いたのは、とても飲みやすいということ。喉や胃がリラックスした状態で水分を受け入れてくれる感覚だ。
この目的だと、飲み終われば即走り出すので、歩く時間は短くて済む。歩き始めた時に横にいた相手との距離をチェックしてみれば、実際たいした差はつかず、少しだけリフレッシュさせた脚ですぐに無理なく追いつくことができる。
 
※「ウォークブレイク」については、僕の2016年2月ブログ
 
 
など参照いただきたい。(どうやら僕のこの記事が、国内普及にいくらか貢献しているらしい)
レースで実際どこまでできるかはコース状況によるが、今回のエイドでは、テーブル前での急減速はランナーの流れを妨げるので避けるべきだが、最後のテーブルを過ぎてから端に寄るなら、いくら歩いても流れには全く問題ない。
 
・・・ 中盤以降、もしくは本当のレースのはじまり ・・・
 
7−8kmを過ぎて、いつもの練習コースの多摩川サイクリングロードの土手の、その下側の一般道へ。見上げる土手では、ほどなく先導自転車が登場し、青学など大学生を中心にした先頭集団が通過してゆく。これもKONAアイアンマン世界選手権みたいだ。
9km過ぎ、砧浄水場で折り返し、今度はいつもの練習コースがそのままレースコースになる。ペースは1km4分ちょっと。4年前、本に書いた9月のラン練習はこんな感じだったかな。また戻ってきたのかな。
残り12kmてことは、KONA30km地点のQUEEN-K復路、でも足が路面に吸い寄せられるかのように動かなかったあの時よりもはるかに楽だ。
ただ、序盤下りをぶっ飛ばした影響で、太もも前側に疲労感が強くなってゆく。明日の筋肉痛は予想されるものの、まあゴールまで持たないほどじゃあない。少し慎重に、1km4:10前後までペースを落とす。
 
10km通過、5kmラップ20:59
 
11kmを過ぎ、残り10km、これは最後までいけるな、と1km4:00ちょいへ少しペースを上げる。いつもの二子玉川の公園内へ。第二給水では少し暑くなっていたので、コップを3つ取り、道路端で歩きながら、飲んだ残りを頭と首に少しかける。あいた差はほどなく埋まる。ウォークブレイクは楽だ。
公園を抜け、楽天ビルの前に出て、こんどはバイクの定番コース多摩堤通りへ。本当になじみの場所が連続するコース設定だなあ。
残り7kmとなり、本ではあの決め台詞が登場する場面だけど、なにしろ練習不足で無茶しちゃあいけません。本レースでは僕は覚醒しないのだ。腕振りだけ強化、脚筋の負担を抑えて、終盤のペースアップに(もしできたなら)備えるとする。
15kmの第三給水でもウォークブレイク。スポーツドリンクも気合い入れの目的で少し飲んだ。
 
15km通過、5kmラップ20:36
 
多摩川を離れ、パラニ・ロード(p214-215)のような急な登り。負荷の高いランを一切していない今の僕の脚が耐えられるものではない。骨盤を大きく回転させ、モモの動きを最小限に抑える走法で、筋肉への負担感を上げないようにする。16km区間4:46までペースを落とし、少し抜かれ離されてゆくが、気にしない。
登りきり、目黒通りへ入ると、緩い下り。さあ、ここからハッタリくんタイム。
 
ペースを上げると、ゲストランナー高岡寿成さんが音もなくすっと抜いてゆく。ちょいとキツいが、できる限りついてみたい。
無敵の日本記録を誇った彼がこの位置ってことは、練習してないんだろうけど、ランニング技術は身体に染み付いているはずだ。脚の運び、骨盤と背中の動き、観察しながら追う。淡々とスムーズに運ばれる脚は、力が明らかに入っていない。そのユニットを駆動するのは骨盤から上。この走りで、世界トップまであと少しまで迫ったんだなあと考えると興奮する。
 
ヤバい、覚醒した!
 
モモの酷使感は強まっているけど、そんなの問題ではない。モモが終われば全身を使え。未稼働の筋肉オール・イン体制に入る。心拍数は180前後にまで上がり、ペースは1km4分を切ってゆく。沿道からは「たかおかさーーん」という(主に同世代女性と思われる)声援。明らかに真剣でない相手とはいえw背中を追い続ける。力の差は明らかだし、彼に勝つ必要はないなあとは思ったのだけど、姿が見えることろで、できれば一緒にゴールできれば最高だ。がんばってみよう。
 
そう、これだ、この感覚だ。
 
駒沢通りに戻る。駒澤公園が見える。敷地内に入る。ああ終わる。ここはアリイドライブに違いない。応援のガイジンのかわりに銀杏並木の黄色い葉っぱが応援してくれている。高岡さんも目の前だ。
 
20km地点は公園内。もう終わるようでなかなか終わらない。
 
20km通過、5kmラップ21:06
 
この区間は登りを抑えたことでタイムが膨らんでいる。
高岡さんとちょっと並走し、僕が強い腕振りで大きめのストライドで走ってるのを見て、「ピッチ上げた方が安定して速く走れるよ」的なアドバイスいただいた。うれしー! ありがとうございます、と調子にのってハイピッチ化して加速し、加速し過ぎて、少しペース修正。でも、こんな限界域での微調整こそがレースのおもしろさ。これだ。この感覚だ。
 
スタジアムへ。駒澤・日体・日大の応援団がいい。
ゴールスプリントをかけてきた高岡さんにばびゅーんと突き放され、10mくらい後でゴール。その場面だけ切り取れば日本トップ選手にぎりぎり負けた感あってSNS映えする。
 
FINISH 1:27:15 (1.1kmラップ4:11)

NetTime:1:27:04

 
総合順位:293位、40歳~59歳男子:32位、という順位は、アイアンマン世界選手権KONA2013とだいたい同じだ!
 
結論:やっぱり世田谷ハーフは、KONAだった!
 
 
・・・ 使用用具 ・・・
 
上は背中ポケットの付いた自転車用半袖ジャージ(タテトラ2014優勝賞品)、下はUNIQLO短パン、シューズBROOKSの厚くて柔らかいの、ソックスCEPハイソックス。防寒用にnewbalance長袖Tシャツを着てスタートし、暖まったら背中ポケットにしまう。
移動時は上は長袖ウインドブレーカー(10年くらい使ってる!)、下は長ジャージを重ねて、預け荷物に入れた。
これら、当日朝の温度感で適当に決めている。トライアスロンなら前日までにちゃんと考えておくのだが。
 
 
・・・ SUUNTOデータ ・・・
タイム度外視のレースだけど一応: 
20171112_141358
 
レースとはいいものだ。
マラソンちょっと練習してみようかなと思った。
 
なおレース後、ジャージはくときにフクラハギが強烈に攣って困ったのと、自転車をどこに置いたのかわからなくなって広大な駒沢公園をウロウロした。迷子になったのは僕じゃなくて自転車のほうなので僕は悪くないです。

2017年5月 6日 (土)

キプチョゲ2時間切りまであと26秒! NIKE ”Breaking2” プロジェクト

構想4年、僕の初の書店刊行本、『覚醒する身体 ー トライアスリートのエスノグラフィー』(仮題)夏に東京ハーベスト社より発行決まりました。待ってろ世界。
 
さてさて、本日昼にネット中継されたNIKEのフルマラソン2時間切りプロジェクト ”Breaking2” 、ほぼフル視聴。いきなりキプチョゲが2:00:25、2時間切りまで、あと1マイルあたり1秒をきってきた! もうあとは、時間の問題だろう。
 
<シューズ>
ランニング・クリール誌が現地取材している。その情報では、シューズ ”Vaperfry Elite” は「驚くほど軽く、手で曲げたくらいでは曲がらないほど、カーボンファイバーのプレートが硬い構造」だそう。
トップ選手には、アディダスの反発素材よりも、この剛性で攻めるほうが向いてると思う。そして、世の市民ランナーの99%以上は使いこなせないだろう。
 
またアーチ型のソール形状は、典型的なフォアフット走法での、前側一箇所の反発力で、シュ、と鋭く進ませる。トライアスリート人気の高いNewtonと形状的には似てるようでもあるけど、原理、想定するフォームは違いそうだ。
 
<エアロ効果>
もう一つの秘密兵器が、空力の最大活用。平均時速が20kmを超えるので明らかな効果があるはずだ。
 
ペース設定は電動のテスラ、ルーフに必要以上に巨大なタイム表示板を載せることで、中型トラック並の大きな空気の渦を作る。後方から大きく巻き込む流れに、背中から押されるようなポイントがあるはず。(おそらく、先導車との位置関係は、国際陸連が今後ルールを作ってくると思う。ちなみに自転車レースではたしか35m?とか空けるルール)
 
さらにペースメークのランナーが6人、「1-2-3」のフォーメーションでクサビを作り、空気を切り裂く。何人いるのかなとゼッケンNoを見ると、全員1−3、色だけ違う。色別に3人チームを作っての交代制だ。
チャレンジャーは3人、常にイン側を走るのは一人だけ赤ウェアのキプチョゲ、エース設定だ。大きなフォームが特徴のデシーサが背後につき、さらなるエアロ効果を狙う。(たしか、自転車では後ろについてもらったほうが、抵抗が減る)
結局、ランナーは「1-2-3-2-1」の流線型フォーメーションを作り、エースのキプチョゲを、空力的に最大アシストする。この人的アシストなら公認レースでも可能だ。
 
1つおもいついた、常時追い風のコースを選定する! ハワイ島北西岸の貿易風を受け続けるとか!笑
20170506_164142
 
<閉鎖コースでのメンタル>
またクルマは同時に正確無比なペースメーカーの役割も果たす。この後ろを走ってる限り何も心配がいらない。
これらあいまって、精神的な負荷も下げる、つまり脳側のエネルギーも削減しているのかもしれない。メンタルの安定性は耐久レースに大事。
 
<キプチョゲ>
2016リオ王者、キプチョゲの安定感はハンパなく、前半は風のごとくスムーズ。負荷感がまったくみえない。
 
彼の走りは、前後軸でみた時に、後方への動作が大きく力強いと感じた。
上体をすこしだけ前に傾けて、前に倒れこむ位置エネルギーを常備させ、後方への腕振りで制御しながら、脚を大きく後方に投げ出してゆく。
上下動も活かしていて、体重が落ちる位置エネルギーを接地&キックと同期させ、推進力に活かしている。(※上下動がないのが理想の走りではない)
25kmまではマイナス1秒。
25km〜35kmにかけ、5kmあたり4秒落ち。やはり90分を過ぎるあたりから、運動の質が変わってゆくのだろう。
35−40kmでさらに10秒ほど。ペースカーとの差も開き、アシストランナーも心配そうに後ろを振り返り声をかけて、苦しそうな現場感が映像からも見える。集音マイクで中継してほしかった!
最後は、軽やかさが失われ、重力に抗いながらもペースを保って、2:00:25。
あと1マイルあたり1秒を切ってきた(マラソンは26.2マイル)わけで、初チャレンジにしてこれだけ迫るのは、キプチョゲほぼ最高の結果といえるだろう。世界記録も2分以上を上回り(公認記録ではないが)、みんな嬉しそうだ。
 
<大きな一歩>
これで、みんな、いける!と確信を持ったはずだ。
キプチョゲ級の世界トップを3人揃えれば、次のチャレンジにでも2時間突破するだろう。
高速コースでのマラソンでも、できる、と自信を持って突っ込んでくる選手も出てくるはずだ。
 
運動生理学者が主導し、シューズもそれに合わせて用意されたようだけど、環境をコントロールしきった実験室のようなF1サーキットで実施したのも、このプロジェクトの大きな成功要因だろう。環境って大事だ。
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・・・ おしらせ ・・・
 
『渥美半島の風』第二号も発売開始。
昨年の創刊号が増刷&2,000部が売れた好評の地域誌です。今号は僕は書いてませんが、エッセイ集『潮の騒ぐを聴け』が出久根達郎氏に激賞 された小川雅魚編集長登場、しかも二本!!
日本の地方の魅力を感じたい方、そして伝える側の方も、ぜひお読みください。
こちら公式ショップより→ https://spike.cc/shop/user_3986276548 ←各号1,100円、1-2号セット2,000円(送料無料)。
 
『覚醒する身体 ー トライアスリートのエスノグラフィー』共著者、法政の田中研之輔准教授の最新刊先生は教えてくれない大学のトリセツ』
は手軽な新書、大学生&親なみなさま是非一読を

2017年2月 5日 (日)

マラソンでは堂々と歩け! 〜ウォークブレイク vol.3

こちら人気ランニング雑誌の最新号特集: "フルマラソンは「最後まで歩かない」がホントの完走!"

「フルマラソンは歩いたら負け、痛みに耐えて走りきれ!」

てトーンの内容だ。

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だがこれは、リスクをはらむのみならず、(日本以外の)世界では普通な技法「ラン&ウォーク」もしくは「ウォークブレイク」を、人気競技誌の編集部が知らないってことだろうか? 

 
<レース中でも歩くといい> ※ただし日本以外では 
レース途中で歩くのは、名著『ギャロウェイのランニングブック』で、英語圏では1984年から説かれ、2002年の改訂版ではさらに重視されて、その日本語訳も2015年5月に出版された。日本人コーチが同様のことを書いた本も幾つもある。
 
トライアスロンでも、大御所Joe Friel先生もTwitterやブログで推奨しているし、他の記事でもよく見かける。少なくとも英語圏では常識といっていい。アイアンマン世界選手権KONA2015でも、圧勝したフロデノはランのエイドで歩いていた。フロデノはハワイの酷暑下で確実に身体を冷やしたいという理由で、毎回歩いているわけではないようだが、この根拠があったから歩けたといえる。
 
途中で歩くことのメリットは、こちら過去記事2つご参照:
エイドだけでも歩いて確実に補給しながら、筋肉をリラックス&リセットするのは、完走目的の初心者にこそ試してほしい方法だ。同時に、エイドの方にお礼を言うことも(やろうと思えば)でき、励ましの言葉も頂けたりもする。こうすることで精神的にもリラックスし、エネルギーをもらうことができる。
 
こうして心身と対話しながら余裕を持って進むことで、故障リスクを減らしながら、身体のポテンシャルを最大限に引き出すことができるだろう。
 
 
<知ってて選んだのか、ただ知らないだけのか> 
念のため、個々人がこうした情報を踏まえつつも、「自分は最後まで歩かない」と決意し、レースで実行するのは、立派なことだ。自分自身で目標を決めて、達成することで、自分だけの勝利を得ることができる。それが市民耐久スポーツの魅力。
 
あるいは、一定スピードを維持した方が楽だという場合もある。特に2時間台のどこかで勝負しているレベルではこのタイプが多いだろう。たしか宮古島トライアスロン2016で二連覇の戸原選手は、蒸し暑さの中で確実にエイドを取ることを重視して歩きを入れていたけど、ちょっとリズムが崩れがちになると言っていた。こうゆうのは個々の、場面ごとの選択だ。
 
でもこっちは、不特定多数に向けた人気メディアでの特集だ。主要な選択肢は提示した上で、「それでも歩かないと、楽しみが深まるよ」という提案なら構わない。しかしこの特集は、「他に選択肢のない絶対正義」という前提で書かれている。無知と精神論の融合であるのなら、なおさらタチが悪い。
 
この雑誌は、もっぱらカジュアル&ファンランナーが読者層かと思う。より速さを求め始めると、より理論を重視した別の人気雑誌などに行くと思う。こうした分担は良いことで、入門層に対して適切なガイドをするメディアの役割は大事だ。ここに優劣はない。
 
問題は、特にこれら初中級者層がこの根性我慢系アプローチをとると、故障確率が確実に上がることだ。頭で考えたことに身体の感覚を服従させるということであり、いわば "現場を無視した会議室の決定" になりかねない。
 
 
<ランニングの精神論> 
「キツい努力が報われることが多い」のは、耐久スポーツの1つの真実であり、また魅力でもある。なんらか精神的なものをそこに求めること自体は、よいことだ。正しい情報の中から選択されたものであるかぎりは。
 
ただし、「キツくすることで(安易に)達成感も高めることができる」という側面もあり、そこにハマると、怪我故障のリスクを大幅に高める。そのリスクが現実化するまでアクセルを踏みがちなので、発生確率はかなり高いのではないだろうか。もしくは精神的バーンアウトだ。
 
伝統ランニング界は、こうした競技自体と関係ない部分での「こうあるべきだ」という教条的な縛りが強いように感じる。それは箱根駅伝にも表れていて、水の補給は1997年、スポーツドリンクは2016年にようやく提供が認められた。水からスポーツドリンクまで20年を要する謎の組織文化。年長世代の価値観を継承することを目的とした、ある種の宗教的情熱の産物だろうか?
 
同じランニングでも、新興のウルトラやトレイルはより自由だ。トライアスロンも同じく。これらは1970年代の自由な雰囲気の中で生まれ育った競技。コース設定がキツいこともあり、レース途中で歩くのも当然の戦術だ。なぜ42kmレースではそうではないのか? という説明は、歩かないことを呼びかける以上は必要だと思うのだが。その検討をしなくて済むほど、フルマラソン界の教条は強いということだろうか。
 
マラソン中心のランナー達にも、歩くという方法論を知った上で、それでも 「意地でも歩かない」という方は多いようだ。それは個々の自由なのは、先に書いた通りなんだけど。ただ、「ウォークブレイク党員」が「絶対歩かない党員」たちを後半に抜いてくことは、しばしばfacebookで報告いただいている。
 
例: 歩く勇気。ハーフマラソンで5回歩いたけれど、自己ベストを出した話  ("情報活用・プログラミング教育研究所"ブログ, 2016.04)
 
この時、歩かない党の方々は「歩かなければ彼らもっと速いのに」くらいに誤解してるのではないだろうか? 知らないことには、何も始まらない。
 
僕にとって耐久スポーツにおける努力とは、「あらゆる手を尽くして、最も速くゴールすること」に尽きる。歩かないのも、歩くのも、幾つでもある勝利のための選択肢の1つにすぎない。それがトライアスロンの複雑性。
 
 
<悪例> 
こちら、せっかくスタッフさんが用意してくれた紙コップをなぎ倒す2012蒲郡大会のワタシ。。
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まあエイジ優勝をかけた(失敗したけど)ショートの10kmのランパートなんで、そうそう歩くわけにもいかないのだけど、すこし緩めるだけでも、こうした悪行は防げるのだ。
 
これはこれで、みんなが走っている中で一人だけ歩くわけにはいかない問題もあり、特に人数の多いマラソン大会では、みんなで一斉にでないと、逆に混乱を招いてしまう。そこで、エイドを通過した後で脇に寄り、歩きながら落ち着いて飲んだり掛けたりするといい。
 
 
<良例>
僕のウォークブレイク事例を書くと、2016伊良湖トライアスロン、20kmランのうち平坦区間9kmの平均が1km4:30。途中4回のエイドを全て歩いて確実に身体を冷やした。黄色ラインが落ちてる部分だ。その部分を含む1kmラップの落ちは各回ともせいぜい数秒以内。
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それよりも、折り返し地点を間違えてもう一度戻ったことによるタイムロスが推定10秒〜15秒で大きかった。泣。全体ではかなり余裕あったので、ロングのランパートでのサブスリーにも十分対応するという印象だった。
 
 
<最後に>
日本のランナー達には広く知ってほしい。世界のランニング界では、途中で歩くことのほうが普通だということを。
それを踏まえつつも、歩かないことを選択し、実行しきるのは自分に勝つということ、素晴らしいことだ。自分の身体を痛めない範囲で、かつ他人にその価値観を押し付けるのでもなく、自分だけの勝利を目指してほしいと願う。
 

2016年7月24日 (日)

トライアスロン用ランの「腕振り」とは骨盤起点の「振り子」 〜上田藍&ジョーゲンセン選手フォーム分析

トライアスロン用のランニングでは、「腕振り」が3つの意味で重要。
  1. もともとスイムで鍛えている上に、
  2. レースでは、バイクパートで脚筋を消耗し、
  3. かつスイムでの上体疲労がバイク中に抜ける
から。こうゆう身体感覚は自分なりに掴んでいただくほかないのだが、それ言っちゃあオシマイなんで、今回はITU公式Youtubeサイトの動画「2016 ITU World Triathlon Yokohama - Elite Women's Highlights」より、今春横浜の上田藍&ジョーゲンセン先生にお出ましいただこう。
ランは1:26から。
 
なお上田藍選手が真っ先にランコースに出ているのは、バイクを先頭位置で終えたから。これは集団内でのアイ・ウエダ個人に対する信頼がないと実現しない。ホームゲームなことも影響してるかな。以前、 「NHK「アスリートの魂〜佐藤優香」 Bikeの描き方には大きな問題がある」  で指摘させていただいた話ね。そして、この差を守ることで表彰台に上がった。エリート・ショートでのバイクは、マネジメント要素が強い。
 
その上でランニングフォームを見ると、
  1. 肩の回転量が大きい
  2. 上下動はけっこうある (GarminやJinsのデータを気にし過ぎないようにね)
という印象をうける。これは追撃の巨人ジョーゲンセン選手も同じだ。
 
こちら1:28〜からのキャプチャー、巨人の捕食から逃れる我らが藍選手にMacプレビュー機能で補助線を引いてみた。迫るジョーゲンセン選手も、まったく同じ線で理解することができる(けどハイレグウェアを強調してしまうので、、)
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腕振りの「動作原理」について、僕の理解は、
  • 大目的は、骨盤を回転させること
  • そこで骨盤の中心を起点に「逆の振り子」をイメージし、
  • その中間点が肩で
  • 腕は、一度、まっすぐ上に(逆三角形に)上げたあとで、折りたたむイメージで理解する (ヒジでさらに折り畳むと、腕振りの形になる)
ここで「振り子」とは、背骨中心の「回転型の振り子」運動であり、骨盤を中心とした「ねじれ動作」(のように表面的に見えるもの)を通じて、「モモの振り子」へと受け継がれるものだ。
 
こう理解すれば、腕の動きはどうでもいい。そこじゃない。動画を見れば一目瞭然で、上田選手は、とにかく肩のローリング量=回転移動の距離が大きい。巨人ジョーゲンセンも実は同じで、長身なので目立たないが、肩の移動距離はかなり大きい。
 
つまり、腕振りの目的は、まず「中間目標」として、肩を移動させること、と考えられる。これにより、胸郭(=肩甲骨+鎖骨)が大きく動かされ、骨盤に回転力を与えることが「ほぼ最終目標」だ。ほぼ最終、とは、本当の目標は「足のキック」であり、その手前の「モモの前後運動」であるわけだが、それらは、骨盤回転の結果として自ずと導き出されるものだから。
 
以上を言い換えれば、ランでは脚筋は(ほぼ)使わない、ということ。
 
これにより、バイクで疲労した脚筋でも、回転を落とすことなく、高速ランニングを実現することができる。
 
そして上田選手は、小さな身体のハンデを、この大きな肩移動(=腕振り)によって克服し、高回転かつ身長の割には大きなストライドを実現している。それを支えるのは、この上側の大きな動きを受け止め、制御する腹筋・背筋のパワーと調整能力だ。
 
ジョーゲンセンはといえば、肩の前後の移動距離は、実は同じくらい大きい。身長が高いのでバランス的に「ねじれ」が見えにくいだけ。それから、これは僕の想像だが、背筋系がとても強く、小さな動きでも大きな力を引き出すことができている。
背中全体が、剛性の高いカーボン製の1枚の板バネ的な働きのイメージだ。前半で、骨盤を中心とした「ねじれ動作」(のように表面的に見えるもの)、と書いたのはそうゆうこと。ネジる意識ではなくて、結果的にネジられる。
20160722_131014_2_2拡大コピーか笑
 
こうして、腕振りの「役割」とは、以下2点に集約される。
  1. 「ピッチを作る」ことが第一だが
  2. 「ストライドを作る」こともできる
「腕振りは、ヒジを引け」とよく言われるようだけど、こうした動きを引き出すための「1つのトリガー」にすぎないと僕は理解している。経験あるコーチがいろいろ指導する中で、引くことで改善した事例が多い、ということ。だから、それはそれで試してみればいい。
 
ここで書いているのは、では、なぜそうなるのか? という根本。
 
ランニング単体の世界では、「青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ」などで、(体幹コアを安定させた上で)肩甲骨を動かすことの重要性は言われている。
ただトライアスロンの場合、より大胆な補助線を引いて、より大きく動かしてみるといいと思う。まずは大き過ぎるくらいの動きで、過去の運動感覚をリセットしてみる。そこから適正動作に戻していくイメージで。
 
その上で、脚の動きは、前後での振り子運動。これは時計の振り子と同じ。引き上げではヒザ曲げるけど蹴りではヒザ伸ばすから、蹴る時だけ地面に接地する。
ここで「蹴る」という表現を便宜上使っているけど、実際には蹴らない。地面に接地するだけ。上体からのパワーが伝わっていれば、それで十分。
 
足の着地は、上田選手がカカト、ジョーゲンセンはフォア気味かな。そんなのは、どっちでもいい。末端は気にしたらダメ。(まあ、そうゆうのをキッカケに中心側の動作を改善できるケースもあり、気になれば、やってみればいいとは思うけど)
 
・・・
 
腕振りについて、過去ブログでは、 
 
〜 遠心力を高め その波動を、肩&肩甲骨を経由し骨盤に伝える
 
〜 その原点はたしか、1-2年目かのどこかのレース中、終盤でギリギリ粘るために編み出した苦肉の策にある。その活用技術は、細かな起伏のあるオフロード中心にラン練習するようになってから、さらに上がった。
 
〜 腕振りがピッチを作り、それにより速度を上げる (長距離トライアスロンでストライド走法は無理)
 
〜 重量を活かした大きめの振り子運動をさせている。僕はお腹も太いので大きな動きに耐えやすいのと、腕振りも多用することで振り子運動をサポートしている。
 
など書いている。お時間あればご参考に。
 
 
<おしらせ:「渥美半島の風」>
僕のランニング技術と、それを支える哲学について、しっかり書いてます。こちら販売サイトから購入いただけます:
 

読者さん感想は、例えばこちらブログなどご参照  
 
八田哲学に触れよ!「渥美半島の風」面白い!!!  「オカン、アスリート始めました」
 
渥美半島の風、宮崎に届く 「完熟マンゴーの、トライアスロン奮闘記」
 

2016年3月 1日 (火)

「ウォークブレイク」Vol.2 〜東京マラソン成果と、ラン技術向上について

ゆっくり歩きをランにはさむ「ウォークブレイク」を紹介したのは、先週末の東京マラソン2016の前日。もう少し前に紹介できればよかったけど、まあ、選択肢は多いに越したことはないよね。

<報告いただいた成果>

自信を持って臨めたのなら練習どおりに走るべきで、実際やってみた友人&読者さんは皆、練習不足などそうせざるをえない事情がある方。それでも一定の成果を報告いただいた:

  • エイドでは早くからゆっくり歩いて補給し、大崩れなく無事に完走できた
  • レース直後も、翌日も、ダメージが激減した
  • 3度、10秒歩くだけ大幅タイム向上し、いつもの痙攣も起きなかった(※42kmペース走の事例)

    東京が勝負レースならなんてこともないだろうけど、トライアスリートにとっては、ダメージの残らないフルマラソン完走法を獲得できるだけでも十分な成果だ。その走法は、そのままロングレースでのRun技術となるだろうから。マラソンとトライアスロンを両立させるためにも使えそうだ。

    ただ、いつも一定ペースでの距離走だけしてる方には「練習でやっていない動作」となり、リズムに乗りにくかったようだ。分かれ目となったのは、 「レースは練習のように」という基本中の基本のように思う。この手法で得られる技術向上効果は大きいと思うから、練習からの活用を強く推奨したい。

    <ラン技術は「変化」で上がる>

    この、「歩いて脚を緩め、もう一度再加速」という過程は、「動作の変化」を含んでいる。

    変化を感じ、考える繰り返しが、技術を向上させる。

    ペース走的な「◯◯km1本」という練習が中心の市民ランナー&トライアスリートは多い。ただ、これを「動作の変動幅」という視点から見れば、「変動幅ゼロ」の練習だ。上げてゆくビルドアップ走なら「変動はさせるが、抑える」練習といえる。これらは「十分に上がった技術を定着させる局面」で最も有効だと思う。基本動作の改善余地は改善し尽くして、あとはレースペースでの動作をわずかでも磨き上げ、そしてフィジカルを極限まで上げるための練習。つまり上級者向けだ。

    だが「これから技術を上げる局面」なら、大きな動作変化を繰り返した方が、体内センサーの性能を高められるだろう。ペース走偏重によって技術向上チャンスを逃していないか、考えた方がいい。

    初心者の場合、始めの1年くらい(=期間は人による)は何をどうやっても速くなるだろう。周りがペース走ぽいことををしてるのを真似しても速くなるだろう。でも、初心者ほど、途中で歩きを混ぜるべきだと思う。(詳しくは 「ギャロウェイのランニングブック」 読もう)

    そこで起きうる問題は、そこでの動作に安住しはじめてしまう「ペース走の罠」だ。ここからの脱皮には、スピードが必要だと思う。これはSwim、Bikeも同じく。

    僕は練習ではいつもゆっくり歩きを入れてきたので、その効果はよくわかる。インターバル的な練習では、僕はつなぎをゆっくり歩くことが多い。川内優輝選手などのメニューでは、つなぎはkm5分台で200mなど、早め短めで行う。でも僕のレベルでそれをやると、身体を追い込み過ぎ、技術向上にエネルギーを向けられなくなってしまう。(同じことを、ショート主体の強豪エイジ選手も言っていた)

    Img_0598(IM Kona'13 Run41km)

    <速度と距離を変える効果>

    「動作変化」とは、「技術向上の出発点」なのだ。そこでまず行うべきは「ペースを変える」こと。耐久系の場合、「スピードを上げる」ことになるだろう。すると距離は当然に短縮=小分けすることになる。

    先日、Facebookで紹介したアメリカの強豪エイジ女性の1時間未満メニュー→ https://www.facebook.com/Masuyuki.HATTA/posts/10205636665891631 は好例。短距離インターバルっぽい構成だが、個々のスピードは必ずしも限界域ではなく、レースペースに合わせて抑制されている(インターバル=無酸素領域ハアハア、的な思い込みがもしあれば今ここで捨てましょう)。具体的には、10km-1kmでの最高速ペースを、10-12分の1に分割した距離で、各6−3本、合計距離が7.5km=75%になる量。レースペースでも1割弱の距離でなら、十分に身体をコントロールできる。

    欧米にかぎらず、国内でも強豪エイジはこうしたレースペースを上回るスピード練習を、週1くらいはやっていることが多い印象。ロング専門でも、やってる人はやっている。

    こうした「細切れメニュー」を採り入れたら、感覚が変わった!という実践事例を「おかん」氏が書いている: その初回 → 2回め 成績急上昇中の彼女も、先の「ペース走の罠」からの脱却にまずSwimで成功し、同様のブレイクをRunで狙い始めた。

    まずはやってみて、違いを感じることから始まる。

    <短時間高負荷

    ここからは、個々人の諸々の「スタイルの選択」の問題。

    このように細切れ化してゆくと、「短時間高負荷」型にシフトしてゆく場合が多いと思う。

    東京マラソンでは、30分以上短縮してサブスリー達成、というトライアスリートからの報告もあった。1kmあたり50秒近い大ジャンプ、聞くだけで嬉しい。この1年間、短時間に集中し、「5kmインターバルと10㎞ペース走中心、 20km以上は練習せず、直前月100km未満」という練習だそう。

    高負荷走に慣れていると、長距離化は、アクセルを少し緩めるだけで、あるところまで高速巡航しやすい(今回事例では30kmあたりまで)。距離走を増やせば、その先が少し楽になるだろうけど、するとバイク・スイム錬との兼ね合いが出てくる。長い練習時間を確保できるなら、バイクを優先させた方がいいと思う。

    もちろんこれらは、本人の集中力と自己管理の成果。方法論とは、せいぜい助走路の一部に過ぎない。

    ただ、高負荷錬ほど集中力を要するもの。迷いが混ざらない方がいい。その際に、 「これでいい」と確信できる材料を提供できたのなら、その範囲内では貢献できているかな。モチベーションも時間も、有限な資源だ。

    こうゆう練習が成果をだしてゆく過程では、技術を向上させやすいと思っている。というか、僕はそうゆう経験をしてきた。そしてこれらスピード系の負荷は、加齢と共に重要度を増すはずだ。

    ・・・

    詳しくは「ギャロウェイのランニングブック」2002年改訂版、それを受けた(と思われる)英語のJoe Friel “Going Long”(2009)あたりをどうぞ。基本、ロング走の手法なので、51.5レースでの10㎞ランでは不要だと思うけど(40分未満の場合)、急坂、エイド、Uターンで使う手もある。その生理学的な仕組みは次回にでも。

    フォト

    『覚醒せよ、わが身体。〜トライアスリートのエスノグラフィー』

    • 初著作 2017年9月発売

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